本当に大切なものは目に見えない ”若者へのメッセージ”

今年も世間では就職難という言葉が氾濫していると思います。ご存じの通り雇用ニーズとシーズのミスマッチは先進国全体の社会問題にもなっています。私も2000年前後の就職氷河期を経験した世代です。ただ未だに一度も不幸な時代に社会人になったと感じた事はありません。それは、実際我々は右肩上がりの成長期そしてバブル期の生活を知らないことにもあるのかもしれません。給料が毎年増え、毎日が楽しい社会人生活を体験したことがない我々にとって、メディアや先輩から景気が悪い悪いと言われても比較対象がないのです。今思うとこのことはむしろ自分にとって強みになったのではないかと思っています(半分ひがみかもしれません・・・)。結局は何事の解釈も自分の意味づけ次第ですね。
私の大学時代は人力飛行機一色でした。現在も後輩のみんなが活動を続けてくれているクラブを立ち上げの初代リーダーを務めました。活動を開始して3年目、当時の3強であった日大、ヤマハ、トヨタを抜いて優勝いう結果を残すことができました。優勝のうれしさは当然でしたが、それ以上に私にとって忘れられない体験がありました。それは大会終了後、当時の常勝チームヤマハのみなさまがチームテントを訪ねて来てくれたことです。実はこの年の我々の機体は大きな二つのジンクスにチャレンジをしていました。一つは琵琶湖の天候下では記録が狙えないと言われていたプッシャー式のプロペラレイアウト。もう一つは当時の基準を越える高アスペクト比翼の採用。ヤマハのベテランのみなさまはこの2点にチャレンジしたいという我々の相談に対して否定的でした。この訪問はこれに対するお詫びと記録への激励だったのです。この経験は私にとって”ベテランエンジニアの方々にもまだまだ見えていない世界があるんじゃないか、そしてそこにチャレンジすることがブレークスルーのきっかけになるんじゃないか”という”大きな勘違い?!”に繋がってしまいました。この経験が新しいテーマにチャレンジする事に意義を見いだす自分の思考特性の原点になったのは間違いありません。
その後レーシングコンストラクターである”童夢”のメンバーに加わり、当時のNSX-GTの空力開発を一任いただく機会をいただきました。平日は車両開発、週末はレースおよびテストという年中休みのない環境の中、愚痴をこぼしながらもバテないタフで優秀なドM集団との共演?!。シリーズチャンピオンを経験することもでき、華やかに見える業界の裏が、どれだけ多くの人々の思いと地道な努力で成り立っているという現実を感じる貴重な経験でした。このような恵まれた環境に後ろ髪を引かれる中、半導体ベンチャーのスタートアップメンバーとして声を掛けていただくご縁に出会うことになります。
時はまだITバブルの余韻が残る中、3年後のIPOを目指す光学技術集団の中の最年少メンバー。バリューチェーンの上流から下流まで何でもこなさなければならない、また休みのないチャレンジの機会に巡り会ってしまったのです。ここでの2つの経験が自分にとっての転機になりました。1つ目は自動車から半導体露光装置というmm(ミリ)からμm(マイクロ)スケールへの思考の転換。そして2つ目は、レーシングカーのような一品一様のものづくりから24時間フル稼働する量産製品の品質づくりという発想の転換。自分の中の価値基準を転換しなければならいという経験は、”設計”の根底にある本質を理解するきっかけになりました。自分の中の当たり前を”変える”という経験は確実に大きな進歩に繋がります。この事業での短期的なIPOには断念したものの、まだまだ血気冷めやらぬ自分は社長にわがままをお伝えして研究開発部門のコンサルティング業界に転身しました。そこで現在の仕事に繋がる基となる様々な業界の日本メーカーが直面する課題解決のお手伝いをすることになります。企業を支える様々な経営層の苦悩に向き合い、各社が抱える組織、人、技術の課題に実感を持って理解し、現場のエンジニアの方々と一体となって仕事ができたのもそれまでの自分の経験があったからこそだと考えています。
今回まず私の経験をお話させていた理由は、お伝えしたいメッセージをご理解いただくための前提を共有させていただきたいという思いからです。私の経験は一見なんのつながりもないように思われるかもしれませんが、結果的にすべてが繋がっています。業界、分野は異なるが一つ一つの成功、失敗体験が必ず次の成果に繋がり、そしてより大きな事を成し遂げられる力となっている。今の自分が自信をもって企業経営と新規事業立ち上げに取り組めるのも今まで一つ一つの積み上げの結果です。昨日、今日身につけた、最新の手法や考え方ではありません。私がみなさまにお伝えしたいことは、
“焦らず一歩一歩努力をすることが王道”ということです。
近年のメディアは特に若手の成功者?!にスポットライトを当て、そこには何か世の中をショートカットできる秘訣があるように錯覚させるハウツー本も氾濫しています。しかし私自身の経験、そして多くのすばらしい方々と出会い学習する中で確信した原理原則は”Easy come easy go”。言い換えると”たやすく身につけた経験や技量の競争力は長くは続かない”ということです。つまり世の中の風潮に流されず、自分のやりたいことを焦らず見つけて、それに向かってコツコツ努力してくださいということです。
世間ではゆとり世代と揶揄され若者を批判する風潮がありますが、私自身は逆に非常に期待しています。我々の世代よりも何倍もグローバルな感覚を持っていますし、組織に依存しようとする意識も低い。専門特化してきたか、それとも幅広く物事を見てきたかという個人個人の傾向は異なるにしても処理してきた情報量も確実に多い。ただ繰り返しになりますが、何事も結果を急ぎ過ぎてコンテンツ重視の傾向にあるように思います。飛行機乗りとしても有名なサン=テグジュペリの有名な作品”星の王子様”の冒頭で引用した言葉「大切なものは、目に見えない」の意味を今一度考えて欲しいと思います。世の中には経験でしか学習できない真実が沢山あるということを知っておくことが大切です。本当に大切なものの多くは、その時が来て始めて分かるものです。
  真実に出会うためには何より自分自身の準備が必要なのです。
お互い頑張って世の中を盛り上げていきませんか!
Written by Tatsuro Tsushima on 2012-12-01