問いが変わると、製品が変わる

 ダイソンの掃除機、iRobot社のルンバ、掃除機というコモディティ化した製品にイノベーションを起こした好例です。どちらもテクノロジーベースのイノベーションですが、実際の製品は大きく異なります。この違いは何処から来るのでしょうか。
この2社の製品を例に今回は「問い」と「結果」の関係を考えて見たいと思います。
もしあなたが掃除機の開発者だとしたら、どう考えますか?
  掃除機に必要なものは何だろう?
  ユーザーが求めているものは?
  軽くて、持ち易くて、小回りが利いて、丈夫で、安くて・・・
  そうだ!掃除機で一番大事なのは吸い込む力だ!
  簡単な拭き掃除だったら、雑巾系の方が手軽だし、
  カーペットに粉系のものをこぼしてしまった時は、掃除機が無いと大変だ。
  吸引力、正にこれが掃除機の本質だ。
  この本質的な部分を何か新しいものに変えられないか・・・
こうしてサイクロン式の掃除機が生まれた・・・かどうかは分かりませんが、ここで着目したいのは問いの立て方です。「より良い掃除機を作りたい、掃除という作業をもっと楽にしたい」という問いから、より良い掃除機が生まれました。もちろん実現するための苦労はありますが、ある意味、当たり前の結果です。
では、ルンバの場合はどうでしょうか?
  どんな問いを立てたらルンバが生まれるか?
  そもそもルンバは掃除機なのか?
ルンバを生みだすには、掃除機の開発者という立場を変える必要があります。そして、自分の愛する製品が要らなくなる様な事を考えなければなりません。「掃除機なんていらない、そもそも掃除なんて面倒くさい、掃除をしないで済むようにしたい」という問いからならば、自働化、ロボット化というアイデアに進む事が出来ます。
でも、この問いを立てるのは難しい事です。だって、自分の愛する製品が無くなってしまうのですから。ここには2つの障壁があります。一つは思考の枠。掃除機をつくるという枠に嵌っていては、より良い掃除機しか生みだせません。もう一つは感情です。誰だって自分の手がけているものが無くなる様な事はしたくないですよね。セオドア・レビット氏の「マーケティング近視眼」の中では自らの立場を変えられずに衰退してしまった例が挙げられています。「アメリカの鉄道会社は、自動車や航空機が普及してくる中、車両を動かす事こそが自分達の提供価値と定めたために、衰退してしまった。」、より上流の提供価値を常に考えておく必要があるという教訓です。
実際にルンバを開発したのはロボットの開発者です。思考の枠、感情の障壁を乗り越えるには、アウトサイダーが必要、少なくともその意見を取り込んでいく事が重要なのです。
 ダイソンの掃除機は掃除機のSカーブを延長しました。価格競争に陥ってしまうSカーブの後半にサイクロン式という新しいカテゴリーを作り機能改善の時代を伸ばした。でも、やがてまたSカーブの後半へと成長は鈍化していきます。Sカーブの呪縛から逃れる事は出来ません。
 では、ルンバも掃除機のSカーブを延長したのでしょうか?いいえ、ルンバは「人間の仕事を肩代わりする家庭用ロボット」という新しいSカーブを描いたのです。それまでロボットは人間が出来ない事をする極限状況下で使うものや、生産ラインの様な巨大なシステムの中で使うもの、もしくはペットロボットの様な愛玩用に限られていました。「普通の人間の普通の作業を肩代わりする」、そのためにわざわざロボットなんて大げさだという思考の枠、感情を飛び越えた事がルンバのヒットを生んだ秘訣だったのです。
 「普通の人間の普通の作業を肩代わりするロボット」というSカーブの第2弾がルンバの開発者が手掛けるバクスターです。ロボットでしか出来ない様な作業では無く、普通の作業を人間と一緒にこなしていく、しかも人間の様に仕事を覚えて行く、こうした機能の一つ一つが「普通の人間の普通の作業を肩代わりするロボット」というコンセプトに整合している所に製品としての美しさを感じます。興味のある方は是非検索してみてください。
 問いが変わると、製品が変わる。
 新しい製品・サービスを生みだすには、問いを変える必要があります。
 そして、その問いを生みだすにはアウトサイダーの存在が重要です。
 新たな問いに対する答えは、新しいSカーブを描けるかもしれません。
 もう一度、問いから見直してみてはいかがでしょうか?
Written by Tatsuya Yamada on 2012-12-14