エスキモーに冷蔵庫を売る?! ~仮説検証~

いつもお読みいただき有難うございます!

皆さまにとって2012年はどのような1年でしたか?
震災からもうすぐ2年が経とうとしています。
また、ノーベル賞の受賞という嬉しいニュースもありました。
私にとっては様々な事業開発に関わらせて頂き、力を総動員した一年であったとともに、縁に恵まれた感謝の深い一年でした。

良い年であったと感じた方は来年は次への躍進に向けた動きを、そうでなかった方も転換に向けた動きをとれるよう、お祈り申し上げます。

それでは、今年最後の記事です。

前回、事業開発には仮説検証サイクルが重要であることを説明した。
仮説を立て、その仮説を一つ一つ確認していくことが事業開発に重要なプロセスである。最初からすべてが分かっている訳ではないので、仮説検証の過程で観察と学習を続けることが事業開発の成否を決める。実際に、成功した企業の93%は創業当初に立てた戦略と異なった戦略を取っていることが、ハーバード大ビーディー教授(Amar Bhide)の研究を通じて知られている。また、「イノベーションのジレンマ」で有名なクリステンセン教授はこのデータを基に、企業が成功するのは最初の戦略が正しいからではなく、むしろ最初の戦略を取った後に方向性を変えるほどダメージを受けていないためだと、「イノベーション・オブ・ライフ」に記している。冷静に考えて、何もやる前に立てた戦略がうまく運ぶほど、人生は甘くはない。

では、どうやって行けば良いのか、この仮説検証プロセスを具体的に見ていきたいと思う。

エスキモー向けに冷蔵庫ビジネスを始めたとしよう。
冷蔵庫は一家に一台はある家電なのにも関わらず、エスキモーが住む村には普及していない。そこで、エスキモー集落向けに冷蔵庫を販売するビジネスは成功するのではないかとあなたは考えた。
「冷蔵庫を買いませんか?」このような売り込みに対して、エスキモーはまったく反応しない。食材を 保管するための倉庫、つまり天然の冷蔵庫はほどんどすべての家にすでにあったのです。気温も低いため、わざわざ冷やすような冷蔵庫には興味がなかった。エスキモーは「冷蔵庫」を必要としているのではないか、という仮説は間違っていることに気づく。

事業に必要な2つの視点

ここで、「事業とは」に立ち返ってみよう。すると、”価値”の提供側と需要側のどちらが欠けているのか、分析することが可能になる。この場合、売れなかった理由として大きく分けて二つの可能性が考えられる。一つは、冷蔵庫の性能が悪く、天然の冷蔵庫に負けていたという技術的な問題、つまり提供側の問題。もう一つは、冷やして保管したいというニーズがなかったという需要側の問題である。冷蔵庫の機能を満たしているとすると、今回仮説として立てた「冷やして保管する」という”価値”はエスキモーにとって需要のないものだったことがわかるだろう。

このような分析なしには、より冷える冷蔵庫や、より大きな冷蔵庫、より安い冷蔵庫、といった技術的な解決方法に走ってしまうことが多い。私自身もエンジニアとしてやっていた経験を踏まえると、この「スペック競争」はチャレンジングだし、「技術で勝ちたい」という思いも満たされる。だが、もちろん、このケースでは天然の冷蔵庫に適うわけはなく、”価値”そのものを見直すことをしないと、金の続く限り売れない冷蔵庫の改良を続けることになる。

もう一度確認したい。「冷やして保管する」という”価値”はエスキモー、つまり顧客にとって全く魅力的ではないということだ。では、何が魅力的なのだろうか?

これには、前述した「観察」がカギになってくると筆者は思う。
ここは実際に寒いエスキモーの土地で売り歩いてみないと分からないことが多い。例えば、この営業活動を通じて、エスキモーたちは食材が凍ってしまうことに困っていることをきっと発見することになるだろう。

ここまで読んで頂いた読者の中には、この逸話に似たような話を聞いたことがあるかも知れない。また、極寒の地でエスキモーが買うとしたら「冷やさない」冷蔵庫しか常識的に考えられない、と思うのも無理はない。しかし、現場に行くことなく、「常識的」に”価値”の仮説を高められると考えるのは93%の場合、後知恵でしかないことが前述したとおり証明されている。
ただ、この「観察」の質を高めるためのにはいくつかのポイントを挙げておきたい。

  • 視点を広げるため、多様性の高いメンバーで現場に行く(男女・国籍・老若・部門・趣味等)
  • 技術ではなく価値に着目する
  • インタビューなど顧客の言語だけでなく、行動に着目する
    (より「観察」スキルを高めたい場合はエスノグラフィー ethnography 関連の書籍などを参照されたい)

しっかりと観察ができれば、「食物が凍らない貯蔵庫」として同じ冷蔵庫を売り出すのだ。これをUSP(Unique Selling Proposition)の見直しと呼んだりもするが、いわゆる「提供する価値」の見直しである。最近の電気自動車はいい例だ。電力価格の高騰と、「自動車」としてのスペックがガソリン車と比べると劣るためか、「家庭用に安い電力を貯める」価値を訴求して普及を図っている。

ここで、顧客の反応が好転したとすると、USPが検証されたということである。

USPの検証ができると、宣伝材料を修正したり、セールス・マーケティングを改良していくことになる。製品の方では、USP以外に顧客が希望する「ウォンツ」に徐々に目を向けた開発に着手することになるだろう。

ここまで読んで頂けると、「なぁんだ。それってマーケティングじゃないか」と思った方もいるのではないかと思います。製品と市場のマッチングですから、まさにマーケティングそのものなのですが、通常のマーケティングと異なる点が一つだけあります。それは、実際に売れてみるまでは市場がないということです。なので、あくまでも「仮説」として検証していく必要があるのです。

Written by Shingo Tsuda on 2012-12-26