前回はSカーブから読み解く組織のあるべき姿として日本の製造業が必然的に陥ってしまった組織体制の課題とそれを克服している事例の一つをご紹介した。では今回はイノベーションを生み出す役割を担う、新規事業のスタートアップ部隊のあるべき姿について考えてみたい。

新規事業のスタートアップと言ってもすでにあるマーケットへの後発参入と、全く新しい価値を提供すると大きく2種類考えられる。今回のテーマは特に大企業内での新規事業に立ち上げにおいて様々なジレンマに陥る危険性の高い後者について考える。

新しい価値を世に出していく組織にとって最も重要な機能は、仮説検証サイクルを如何に早く回して提供価値とビジネスモデルを軌道に乗せるということついて以前ご紹介した。これらについては、日本ではほとんど注目されていないが米国の各種MBAでも教科書としても扱われている、スティーブン・G.ブランクの名著である「アントレプレナーの教科書」でも詳しく述べられているのでこちらも参考していただきたい。

この内容を要約して表現すると組織の初期の機能としては、下記の顧客開発プロセスを如何に素早く実行できるかにある。 

【顧客開発プロセス】 
  ①仮説構築:想定顧客の課題とそれを解決する提供価値・収益モデルを考える
  ②仮説試作:検証に必要なモノ・コトを形にする(資料、試作品など)
  ③仮説検証:想定顧客に仮説をぶつけ妥当性、実現性を評価する

Step①仮説構築 → Step② 仮説試作 → Step③仮説検証
  ↑                    ↓
 ← ← ← ← ← ← ← ← ← ←

まずStep①は、どこに課題を抱えている顧客がいて、何を提供すれば受け入れてもらえるかという仮説を構築する作業であり、技術シーズ、顧客ニーズの双方の専門情報が不可欠になる。既存事業を効率的にオペレーションすることを優先している既存企業の組織では、開発部門と営業部門に分かれて存在していることが多い。また担当者もそれは開発の仕事、これは営業の仕事と既存事業の枠組みの中で役割分担をするマインドセットが刷り込まれてしまっている。特に大企業内での新規事業部隊においては、この担当者の心の枠を越えられるかが実は最大の課題だと実感しています。

Step②は、仮説として構築した提供価値を顧客に理解してもらうために具体的に形にするプロセスである。ここでは品質重視の量産とは異なるスピード重視の試作・改良の作業が重要となる。ここでもそこそこの完成度に高めないと、お客様に見ていただくわけにはいかないという”プライド”が邪魔をして、不必要に完成度を高めてしまう。ここでの目的はあくまで仮説検証のための試作ということを忘れてはいけない。

そしてStep③は、直接顧客に仮説をぶつけその妥当性を評価し、精度を高めていく作業である。また単にユーザー候補といっても”誰に会うか”が重要になり、組織および個人のネットワークをフルに活用したKOL(Key Opinion Leader)の選定が重要になる。そこではユーザーとの直接的な接点が重要であり、単に接するだけではなくそのフィードバックから真のニーズを拾えるだけの専門知識も必要となる。

このようにスタートアップ組織の主要機能である、顧客開発プロセスは、

 ・営業・マーケ的な顧客の課題を抽出するコミュニケーション力と現場に足を運ぶ
  フットワーク  

 ・顧客の課題を解決するソリューションを構想できる専門知識と技術開発力

 ・KOLを発見できるネットワーク力と顧客に新たな気づきを与えられる(教育できる)
  ビジョナリーとしてのリーダーシップ(夢を共感させる力)

を複合した活動となる。このように書くと何でもできるスーパーマンが必要になるように思われる(実際ベンチャー企業では、一人のスーパーマンがこなしている場合も多いのでいるに越したことはないが)。なかなかこれを一人でこなせる人材を期待することは難しい。そうした理由で、企業内でに組織する場合は、図1に示す独立した専任部隊であり、かつ役割の壁を越えた部隊とするのが最も機能要件にマッチしている。さらにこのフェーズでは、ビジネスや提供価値の方向性に対して様々な判断・決断を適宜行っていかなければならない。その役割を担うリーダーの存在が重要になる。

スクリーンショット 2013-01-11 7.21.18.pngこのように新規事業スタートアップに必要なプロセスを明確にすることによって組織のあるべき姿が見えてくる。ただし前述のように”人の行動は組織に従う”と言っても、既存ビジネスを効率的にオペレーションさせる環境で育った人材のマインドセットには、その役割行動が深く刷り込まれてしまっている。これを取り除くためには、組織に染まっていない外部人材(特にベンチャー組織の経験者やアントレプレナーシップを持つ人材)の採用や外部組織とのコラボレーションが非常に有効になる。

今回は一般論としての話であるが、これをよりみなさまのプロジェクトの現在のフェーズおよび業界の特徴に当てはめてみていただければ、よりより組織の定義ができると確信している。


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