日本企業におけるイノベーションの特殊事情

Innosight社ワークショップを前に、いくつか「イノベーションのジレンマ」に関する振り返りと復習をしてきました。今回は日本の特殊事情に着目してみたいと思います。

「イノジレ」で取り上げれられている企業はアメリカの企業ばかりです。しかし日本では、イノベーションのジレンマを上手に回避したような事例がいくつか見受けられます。
例えば、富士通。富士電機から独立してコンピューター事業を立ち上げ、さらにはファナックのような優良企業を生んでいます。また、富士フイルムはフィルム会社からコピーやデジタルイメージングあるいは医療にまでの事業を創っています。しかし、大半の日系エレクトロニクス企業はジレンマに呪われているようにも見えます。シャープ、パナソニック、ソニーのような世界的に著名な企業が成長戦略を描けず、コモディティ化に苦心しています。
日本にはイノベーションに有利な点と不利な点の両面がありそうですが、日本の特殊事情にはどのようなものがあるのでしょうか。

  • 顧客:日本が高度成長を果たし、総中流と言われるほど豊かになった国をメイン市場としている企業にとっては、既存顧客を重視する傾向が強くなってしまいがちだろう。世界的に見れば、日本人は皆教育レベルが高く、非常に均質である。勤勉さと高品質というのは国民性とまで称されている。よっぽど意識しないと(むしろ顧客を無視しないと)、「普通」を目指した商品・サービスが出来上がってしまう。最初から日本市場から無視したものやサービス作りに着手するのも一手だ。
  • 投資家:日本企業の株主は海外の株主と比べるとおとなしい。そのため、短期的なリターンを求めるようなイノベーション阻害は比較的少ないと思われる反面、成長性に対しての要求も厳しくない。つまり、本業が順調なうちに着手するイノベーションには水を差さないが、本業の成長が鈍化した時にもあまり成長を要求しない。富士フイルムも、デジカメ普及によってフィルム事業が危機的になる前から複写機等の新事業に取り組んでいる。
  • 経営者:生え抜き経営者が日本には多い。このように既存の論理で選ばれた経営者は新しい論理を創造することが得意だとは限らない。しかし、子会社として成功しているイノベーションが多いことを鑑みると、これらの新社長はきっと「異端」だったのではないかと想像がつく。「主流派」経営層は本業のポジションを占め、異端な経営層が新規事業を行うという選抜が行われるのは、イノベーションにとって都合がいい。もちろん、必要以上にこれらの子会社や異端リーダーたちの足を引っ張ってはならないことが条件になる。
  • 従業員:就職というより「就社」で選んだ企業に入った従業員は、組織の既存ルールや過去の価値観に従いやすい。目立たないとクビになってしまう外資と比べると、「普通」に目立たないサラリーマン戦略がもっとも合理的な働き方となる。いわゆる「空気を読む」のが王道である。「変わったこと」に取り組むように会社が仕向けたり、評価しなければ、安定した既存事業を無難にこなす能力だけが発揮されることになる。また、本業に偏った経験や知識を持っているため、違う業界へと進める際の能力が不足しがちだ。一方で、海外企業には珍しいジョブローテーションが行われているため、新しい事業に取り組むとなれば、多彩で多能工な人材がいるというメリットもある。

この分析を通じて、イノベーションのジレンマが日本企業にとって特に起きやすいことが、理解いただけたでしょうか。個人的にも、再確認するポイントがいくつもありました。
同時に、この確認作業を通じて、富士通や富士フイルムを筆頭に、企業内ベンチャーが成功する事例が日本に多いのも納得できました。いざジレンマを打開するとすると、追い風となることも沢山あります。

成り行きに任せると企業は高齢化しやすい環境かもしれません。同時に、高い若返り力も秘めているのです。その力を開花するためには、4つのポイントを意識してはどうでしょうか。

  •  本業以外の視点を持つ人材を入れる
  •  会社が順調なうちに始める
  •  異端リーダーの足を引っ張らない
  •  会社としてイノベーションを評価する
Written by Shingo Tsuda on 2013-04-22