Professional Facilitator’s Dilemma ~ファシリテーターの中立性~

 先週、日本で初めてのIAFアジア大会が開催された。IAF(International Association of Facilitators)は世界のプロフェッショナル・ファシリテーターによるメソッドの共有を目的とした団体だ。CPF(Certified Professional Facilitator)のアセスメント、プレカンファレンス(プレゼンターによる1日セッション)、カンファレンス(本大会)と正にファシリテーター漬けの週だった。
 私はCPFの候補者、プレカンファレンスの受講者、本大会の運営リーダーと3つの立場で参加した。どっぷりつかった中で感じたファシリテーターとしてのジレンマ、特に外部からプロとして雇われた場合のファシリテーターのジレンマと解消のためのヒントを共有したい。ちなみにこのヒントはプレカンファレンスのプレゼンターの1人であるLarry Dresslerのセッションで得たものた。数日間の間にジレンマに直面しヒントも得られた。改めて非常に有意義なカンファレンスだったと思う。
 では、先ずジレンマの説明から入ろう。IAFのCPFで定義されているコンピテンシーでも重要な要素になっているが、外部からのプロのファシリテーターとして参加する場合、インターフェイスとなるクライアント担当者とのコミュニケーションが非常に重要になる。多くの場合クライアント担当者はスポンサーであり、意思決定者であり、こうしたい!という成功のイメージを持っている。ファシリテーターはこの成功イメージを一つのゴールイメージとして受け取り、プロセスをデザインしていく。もちろん、組織の置かれた状況、参加者の事情等も合せてヒアリングするが伝聞による2次情報でしかない。
 ファシリテーターは「クライアント担当者の成功イメージ」と「組織の置かれた情報、参加者の事情等」を基に成果を出すためのプロセスを作り込んでいく。
 理想は良いプロセスを持って、良い成果を生み出していく事だ。
図1 プロセス-成果.png
 これが美しいストーリーなのだが、実際にはこうは行かないケースもある。
 理由は成果を上げる要因がプロセスだけではないからだ。
 ここで言うプロセスには、ゴール設定の仕方、議論や対話の進め方、参加者の巻込み方等、いろいろなものを含んでいるが、成果に対して必要なものが揃っているかは、神様にしか分からない。ここで神様ならぬ一人のファシリテーターはジレンマに陥る。
 クライアント担当者の成功イメージに繋げたい。
 限られた時間で成功イメージに繋げるにはプロセス主導では限界がある。
 ファシリテーターとしてプロセスに集中しなければ・・・。
 しかし、議論が発散しただけでは参加者も満足しないだろう・・・。
 少しだけ、議論が収束する様に導いたらどうだろうか・・・。
 これがジレンマに陥っている状態だ。クライアント担当者、参加者の皆が満足し、かつ意義のある場にしたい。しかし、そのためには、間接的なプロセス主導だけでは限界がある。しかし、直接コンテンツに介入する(議論の中身にファシリテーターも意見して行く)とファシリテーターとしての中立性が失われてしまう。
 ファシリテーターの中立性は、ファシリテーションを実践している人が悩む大きなポイントだ。特に社内でファシリテーター役を担う場合、自分が一番良い答えを持っている場合もあり得る。その時にどう振る舞えば良いのか?
 自分の答えはこうだった。
 「一人の人間が帽子を取り替える様に自在に立場を代えられれば良いです。組織として持てる知見は活かしましょう!そのために頭を切り替えるスキルを磨いていきましょう!」
 しかし、実際にはこれはハードルが高い。自分も今回のCPFのアセスメントでは実践できていなかった事をアセッサーから厳しく指摘された。参加者からも議論を誘導された感じがしたというフィードバックをもらった。何とかPASSはしたが、改めてファシリテーションの基本を強く意識させられた。”ファシリテーターが取るべき行動を正しく理解する”というのが合否の基準だったのかもしれない。理解者から実践者、そして常に実践できている体現者へのスタートラインに立ったという事だ。
 さて、では、このジレンマにどう立ち向かうか?
 今回得た結論はクライアント担当者と Co-facilitation する事だ。
  内部ファシリテーター   ×  外部ファシリテーター
 (環境・事情に通じている)   (中立な視点を持ち易い)
 内部の視点で参加者・環境をより良く把握し、外部のプロフェッショナルの経験でより適合度が高いプロセスをデザインして行く。これが出来れば確実に成果を上げる事が出来る。
図2 参加者ープロセス.png
 今回会ったファシリテーターの中には組織開発、トレーニングも同時に行っている方が多かった。最初は外部ファシリテーターとして入って、ファシリテーション・サービスを提供する。同時に参加者にトレーニングを行い内部ファシリテーターを育てて行く。こうしてCo-facilitationできる環境を造って行くのが王道なのかもしれない。
ポイントはファシリテーションの知識を学ばせるだけではなく、ファシリテーターという役割を組織の中に造って行く事にある。ここを間違えると骨抜きの活動になってしまうので注意して欲しい。
 ジレンマに陥ってしまうのは、内部と外部の視点を一人で同時に持たなければならないという前提の起き方にある気がする。効果を最大限発揮するには、使えるモノ・ヒトは何でも使う・巻込む。常にオープンマインドでいる。これもファシリテーターの重要なコンピテンシーの一つだ。
 しかし、時には一人で立ち向かわなければならない場面に遭遇する。
 ここで参考になる話が、冒頭で触れたLarryのセッションだ。
 その名もSTANDING IN THE FIRE、火の中に立つような厳しい場面での6つの心構え(意訳)の中で「自身の価値軸を明確に強く持つ」事に触れていた。神様ならぬファシリテーターだが、最後はやはり自分の中に拠り所となる価値基準を持っておくしかない。クライアント担当者の立場に立つ、参加者にフォーカスする、組織全体の事を考える、選択肢は様々だが、何をもって自分が判断をくだすか、この基準が明確にあるとStanding in the fireする事が出来る。
 Co-facilitationできる環境を造る
 
 自分の価値軸を明確に強く持つ
 これが出来ればジレンマから抜け出す糸口を見つけられるだろう。
 ※ コンピテンシー:高業績者の行動特性(企業などで人材の活用に用いられる手法)
Written by Tatsuya Yamada on 2013-09-25