無事機体設計を終え、大会に向けて作業を進める毎日をすごしていた3月、突然その日がやってきた。
工房に到着すると作業テーブルとして使っていた畳一畳サイズのベニヤ板の上に一枚の葉書が届いていた。先に到着していた中尾に何かと聞くまでも無く、それが今年の大会出場の可否を決める書類審査の結果であることはすぐに分かった。自転車から飛び降りてダッシュでその文面を見ると、

専門家による厳選なる審査の結果、落選と判断させていただきました
が〜ん・・・ し〜ん・・・ ち〜ん
自分の中で完全に時間が止まった。可能性はゼロではないとは思っていたとはいえ、想定という意味では、ほぼゼロでだったためバックアッププランなんて全く考えていなかった。
まず何より思いついたのは、チームリーダーとしての責任感からか

今年一年どうしよう・・・何をしてすごそうか・・・
である。悔しいとかそんなんじゃ無く感情としてはニュートラル、頭の中が真っ白とはまさにこういう状況をさしていうのではないだろうか。
そこにもう一人のメンバーの健ちゃんがやってきた。自分達の雰囲気を見て事を察したようだ。そこには言葉は殆どなかった。三人が放心状態で作業台を囲んでいるときに、おっちゃん代表の中野さんがやってきた。
 中野:「どないしたんや?人生終わったような顔して?」
 津嶋:「いや・・・書類審査に落ちました」

 (少し沈黙)

 中野:「ほ〜ん、それで理由は聞いたんか?」

 津嶋:「理由を聞く?? 理由を聞くって言ったって、葉書での通知ですよ。」

 中野:「それやったらなおさらやろ。そんな紙っぺらでおまえらは納得するんか?おまえらの思いはそんなもんなんか?」

 津嶋:「・・・納得って言われても、どうすることもできないじゃないですか??」

 (ちょっと興奮ぎみ)


 中野:「葉書には普通連絡先が書いとるもんやろ、事務局とかなんとか・・・納得できんのんやったら電話して理由を聞いたらええやろ。」

 (確かに・・・)

 津嶋:「でもこういうのって誰に聞いたら・・・」
 中野:「そりゃぁ審査した責任者と話したいってゆ〜たらええやろ。それかプロデューサーとかなんとかいうのがおるやろが。」
 
 津嶋:「中野さんもしかしてプロデューサー知ってたりするんですか?」
 中野:「俺が知るわけないやろ」

 (沈黙)

 津嶋:「つながりますかねぇ」
 中野:「そんなん知らんわ、俺には関係ない話やからな・・・おまえらの好きにせぇ〜や。わっはっぁ〜」
この会話を通してまず自分の中で雷が落ちた・・・葉書を見たときに事務局に電話してみるなんて思いつきもしなかった。

その一方、中野さんにも試されてる・・・とも感じた。ここは引き下がるわけには行かない、「では準備してから・・・」なんて言ったらまた一蹴されるに決まっている。一度深呼吸して、工房横の中野さんの奥さんが働く事務所の電話を借りて電話してみることにした。

プルプルプル・・・
 事務局:「はい・・・読売テレビ鳥人間事務局です」

 津嶋:「あ・・・はい。え〜・・・鳥人間コンテストの書類審査に申し込んだ堺・風車の会の者ですけれども」

 事務局:「はい。いかがいたしましたでしょうか?」

 津嶋:「あ・・・本日、審査結果が届いたのですが、結果は落選ということでした。でも自分達は本気でがんばっておりまして、今年は絶対飛べるって思ってるんです。落選の理由を聞きたいと思っておりまして・・・え〜そこで審査の関係者にお繋ぎ頂きたいと思っておりまして・・・」

 事務局:「少々お待ちください」

 (少し沈黙)

 事務局:「今回の結果は大変残念なのですが、そういうお問い合わせに対しては個別に対応はしないことになっておりまして、申し訳ありませんがお引き取りいただければと思います。」

 津嶋:「え〜、そこをなんとかお願い出来ませんか?一言でもお話が聞ければ自分達も納得できると思うんです・・・お願いします。」
 
(うん?何を言っているんだか分からないがとにかく必死に食らいつくしかない)
 
 事務局:「申し訳ありません」
ガチャン・・・プー、プー、プー

 中野さん:「ど〜やった?納得できる話は聞けたんか?」

 津嶋:「いや・・・個別には対応できないということで断られました。」

 中野さん:「わっはっは〜そうか。事務局もつめたいよなぁ〜。」
 
 (そんな笑われても・・・そもそも繋がると思ってなかったんじゃぁ??)
 
 津嶋:「普通こういうのって繋がるもんなんですか?」

 中野さん:普通??・・・そんなん普通なんかあるわけないやろ。あの手この手で繋げるんや。」

 津嶋:「・・・」
(まぁ言いたいことは分かりますが・・・そんなに手の内ないし・・・)
 
 (沈黙)
 
 中野さん:「で??もう諦めたんか?」

 津嶋:「え??・・・もう1回電話しても、同じことになりそうなので・・・」
 
中野さん:「はぁ?これやからおまえらはダメなんや。プロデューサーはどこに出社しとるんや?」

 津嶋:「まぁそりゃぁテレビ局じゃないですかね。」
 
 中野さん:「せやろ・・・テレビ局にはどうやって入るんや?」
 
 津嶋:「そりゃぁ入り口からですよね・・・(なんでこんなことを聞く??・・・もしや)」

 中野さん:行ったらええやん?その入り口に。毎日待っとったら会えるやろ。おまえら学生やし、大阪に住んどるんやからそれを活かさない手はないやろ。頭は使うためにあるんや、飾りやないで」

 津嶋:「(きた〜この突っ込み)・・・ですね。ちょっと作戦考えてみます」
再び自分の中に雷が落ちた・・・。自分の枠がこの瞬間一気に吹き飛んだ。これかぁ・・・自分がずっと違和感を感じていた・・・そしてなんか重いと感じていた枠、壁、錨・・・の存在に気づいた。
会いたい人に会うための手段・・・これを外せば選択肢はいくらでも考えられるじゃないか・・・しかし、こんなん本当にうまくいくんやろか??ありなんかなぁ??不安と疑問で一杯の中、プロデューサーにどうやって会うか?それを考えることにした。
その翌日、いろいろ考えたが結果的に正面突破以外の妙案が見つからず、早朝に社員用の通用口前にでも会えるまで毎日通うしかない・・・という覚悟で、テレビ局近くに住んでいた中尾とスケジュールを考え始めていた。
その時、中野さんから奥さんから、
「津嶋くん・・・なんか今日読売テレビから電話があってね、このプロデューサー宛に電話して欲しいという事みたいよ。なんやろね?」
あらら・・・どうやら会いたかったプロデューサー宛てに電話して欲しいとのことらしい。こっちの思いが伝わったのかな??よく分からないけど、とりあえず電話してみることにした。
わぉ!どういう事の変化か分からないが、どうやら会うだけは会ってくれるらしい・・・指定された日時に中尾と二人でテレビ局に訪問することを約束することができた。
そしてその日がやってきた。二人は当時まだ18歳、有名企業の・・・しかもテレビ局で打ち合わせをするというだけでも心臓バクバクのシチュエーション。しかも自分が挑戦しようとしている番組のプロデューサーに書類審査落選の撤回交渉をする?!という極めてチャレンジングな場に臨むことになったわけである。
 二人:「こんにちは」
 プロデューサー(P):「いやぁ、よく来たね。」

(あら・・・色黒の少し強面の方ですが、想像以上にフレンドリー)

 津嶋:「今日はお時間を頂きましてありがとうございます。」
 P:「要件は分かってるよ。ただ審査は専門家の評価を元に平等に実施されているからね。その結果として、君たちの機体は不完全という判断が下されていたんだよね・・・。」

 津嶋:「どの辺りが不十分でした??図面だけでは伝えられない事が沢山あると思うので、今日は他の資料や写真も多数持参しました。これらを見て頂ければ、飛ぶ機体だということを理解頂けると思っています。」

 P:「う〜ん・・・気持ちは分かるけどね、審査は基本図面だけで行われてるんだよね。補足資料があったとしても君たちだけ例外というわけには・・・」

 津嶋:「それは分かっておりますが、よろしくお願いします(とにかく思いを伝えるしかない・・・)」

 (沈黙)

 P:「まぁね。君たちの思いは分かった。ただ同じような理由で落選しているチームは沢山あるんだよね。君たちは、たまたま大阪にいたからこうしてここに来れているけど、そう簡単にこれないチームも一杯あるんだよね・・・ただ確約はできないけど、今考えていることをすべて図面上に描いてみて。一応、内部で再検討することだけは約束するよ」

 二人:「ありがとうございます。必ず納得していただく図面に仕上げます」
お〜!!!いけるかもしれない。帰りはこれを期におっちゃんに任せっきりだった図面を自分達でやろう。短期間にCADのオペレーションをマスターしてプロデューサーをうならせる図面を描くぞ!と心に決めて、二人で大興奮で帰路についたのである。
ここからはプラント設計をしていたおっちゃんメンバーの会社に通い、CADの使い方を教わりながら、以前はA3だった図面を大型プロッターを活用してA0サイズ(841mm×1189mmの大判)の図面の中にとにかく様々な情報を盛り込んだ図面を形にしていった。この辺り目標ができたら強いのが若い力である。おっちゃんメンバーにも協力してもらいながら毎晩夜遅くまでの作業を繰り返し、期限までに自分達としても納得のいく図面に仕上げることができた。
EgretDrawing.gif
そして約束の日時に大きな図面を抱えて自信をもって再びテレビ局に伺うことになった。
プロデューサーからは、なんと!
「思いと図面は受け取りました。君たちを応援したいと思います。」
その一言の後、社会を知るための尺度の持ち方についての考えを時間を掛けてお話いただき、ご自身が担当している他の番組の見学も約束してくれた。
落選の葉書を受け取ってたどん底からの怒濤の2週間・・・正直何が起こったのか、正直自分の中でもうまく整理がつかないでいた。
ただ・・・この2週間の自分達の行動で、我々の未来が180度変わった事だけは真実である。
笑顔一杯で工房に帰った。まず何より中野さんにその結果を伝えたかった。
 津嶋:「中野さん 今年出場できるようになりました!信じられません。奇跡ですよこれ。」

 中野:「何が奇跡や?!おまえ全然わかってへんなぁ。世の中は何でも自分達と同じ人間が決めとるんや。神様が決めてとるわけやないんや。おまえらがつかんだ結果やないか・・・奇跡なわけないやろ。分かったか?」

 中野:「・・・でも良かったな。」「プロデューサーは応援するっていうてくれたんやろ。今度はおまえらがその期待に応える番やぞ。約束は守るもんやで」
この一連の出来事は津嶋自身にとって人生への向き合い方のパラダイムを大きく変えることになった。
そしてこれをきっかけにしてWindMill Clubの活動は大きく加速して行くことになる。
そして何よりこの出来事の裏には、1年半後に初めて分かった真実のサイドストーリーがある。
気になるかと思うが、それはまだまだ先の回にとっておこうと思う。 

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