社会的ジョブと物語的自己同一性と中二病①

 

ポール・リクールをご存知でしょうか?

リクールはフランスの哲学者で「物語的自己同一性」という概念を考案した人物として知られています。「物語的自己同一性」という言葉には、聞き馴染みのないかもしれませんが、マーケティングや製品開発の現場で広く応用できる基礎として、非常に有効な概念ですので今回取り上げてみたいと思います。

過去・現在・未来

リクールが対峙したのは、「自分は誰か?」「自分は何者なのか?」という問です。この手の問は「自分探し」の文脈の中で現れる現代を代表する問いの一つです。彼は哲学者として思弁的な方法でこの問に対峙し「物語的自己同一性」の概念に行き着きました。

具体的に彼が考察の対象としたのは「10年前の自分と、今朝の自分と、明日の自分が、なぜ同一と感じられるのか?」という問です。

 

そして彼は、人は人生という「物語」の中に自己同一性を見出すという概念に行き着きました。彼は物語が過去・現在・未来をつなぎ、同一性を感じさせることを発見したのでした。

 

もう少し踏み込んで解説を加えると、彼は「物語として破綻していないという認識」が自己の同一性を保証していると主張したということです。

物語としての人生

リクールの主張したモデルに従えば、人は自らの物語を生きる主人公でありながらも著者でもあるという特異な存在となります。

 

多くの人はこの自身の存在の特異性を自覚していませんが、自分が生きていく物語を自分で構築していかなければならない現実自体は変わることはありません。そうでなければ、人は自己同一性を失ってしまいます。

私たちは物理的な制約の中でどのような物語が実現できうるのか、無意識にであってもいつでも模範解答を求めています。私たちはなぜ、歴史上の出来事に共感の念を抱いたり、魅力的なフィクションの物語を見聞きして満たされた気持ちになったり、スポーツやビジネスのヒーローの人生に興味を持ったりするのか? その答えも「物語的自己同一性」の概念に求めることができます。

さらに誰もが、どこに住み、何をして、誰が登場することが自身の人生にとってふさわしいのかについて、強い関心を持つことにも納得感が出てきたのではないでしょうか?

自身の物語は、存在の保証の根幹にあるもので、自身の理想とする物語を描き続けることは、誰にとっても生涯突きつけ続けられる切実な問題であり続けるのです。

宿題

「物語的自己同一性」の概念を使いこなせるようになっていただくために、いくつかの宿題を用意しておきました。明確な答えがある問いではありませんが、良い思考のトレーニングとなるはずです。ぜひ考えてみてください。

 

  • 若者が老人よりもファッションを求める傾向にあるのは何故でしょうか?
  • 高級ブランドほど、ストーリーに訴えた広告展開を行うのは何故でしょうか?
  • 顧客を長期的に惹きつけ続けるために、どのようなことを大切にしたらいいでしょうか?
  • VRゴーグルはなぜ、多くの人にとって魅力的な商品となり得たのでしょうか?
  • 【上級】「乗るしかない。このビッグウェーブに。」という思考はどこから来るのでしょうか? 射幸心の本質を「物語敵自己同一性」から説明できるでしょうか?
  • 【上級】ライフログよりもマイクロブログが人々を惹きつけたのは何故でしょうか?
Written by Hiroshi Kato on 2017-05-16