創発によって姿勢を生む

Written by 津田 真吾 on 2013-06-12

5月15日、16日とInnosight社COOケビン・ボーレン氏を招いたワークショップを開催しましたので、開催報告を兼ねて、実際の様子をご紹介したいと思います。

ワークショップではクリステンセン氏の理論を少しでも身近なものに感じて頂けるよう、参加者同士で議論する機会を設けました。例えば、「あなたのメイン事業と、それを脅かす可能性のある破壊的な事業のタネをシェアしてください」といったテーマを3~4人の小グループで議論します。このディスカッションでは、現在の事業を初対面の人たちに一言で説明するとともに、新規参入によって今のやっていることが駆逐されるかもしれない可能性を発見することが求められます。そして、場合によっては隣の人から正直なフィードバック、つまりどの位迫っている脅威なのかを聞くことができます。INDEE Japanが開催するワークショップはこのようなグループワークを多く行いますが、今回の開催も単に知識を得た以上の成果を得た方が多くいらしたように感じます。

まず、ワークで問われたこと以上の深い議論が行われたことは特筆すべきでしょう。自社の経営課題を極力わかりやすく説明し、他社のビジネス課題を真剣に聞いていたグループが数多くありました。どのようなことに悩んでいるのか、なぜなのか、といったことをグループ内で質問し合いながら共有していました。このように異なる立場や経験を持つ人同士で対話することは、イノベーションの必要条件とも言われますが、まさにイノベーティブな創発が所々で起きていました。その価値を感じて、連絡先を交換し合っている方々もいたようです。

そして、このような創発の場をきっかけに、知識ではなく、意識を獲得できていたように見受けられました。例えば、とある参加者は「弊社はECサイトとして、店舗型の小売業をイノベーションで破壊しましたが、私たちも安住できません。新たなビジネスモデルで参入してくるIT業者が沢山います。」つまり、イノベーターですらも他のイノベーターに駆逐される危機感を共有してくれました。確かに「イノベーションのジレンマ」を超えることは一度成功すれば良いようなものではなく、継続的な経営課題として取り組み続けるべきことだと考えています。

同様に、「イノベーション」というテーマは講演を一方的に聞いて終わりということはありません。むしろ、最近「イノベーション」というのは成果というより姿勢のようなものと私も捉えています。“未来の当たり前”を創造することは、一つの作業というよりは、継続的な活動だからです。参加者の皆さんにもその姿勢が表れていたよう感じ、数多くの仲間の発見に喜んだ二日間でした。

当日のワークショップに関連した記事をあわせてご紹介します。
「フューチャーバック」による戦略策定
イノベーションのDNAを組織に根付かせる
イノベーションに潜む「不確実性とリスク」
『イノベーションへの解 実践編』等の翻訳を手がけた栗原さんによるレポート
Innosight社とINDEEの接点

あなたにとって、望ましいイノベーションとは?

Written by 山田 竜也 on 2013-05-21
 先週5月16日、ハーバード大学のクリステンセン教授が設立したINNOSIGHT社のCOOであるKevin Bolen氏を招き、日本初のワークショップを開催した。我々INDEE Japanにとって、イノベーションへの感度の高いイノベーション・イノベーターの皆さんにとって、記念すべきチーム結成の日となったと確信しています。
 数時間のワークショップの中ではとても伝えきれない内容を盛込み、消化しきれない部分もあったかもしれませんが、その分考えるべき事の全体像を体系的に掴むことが出来たのではないかと思います。本コラムでは今後数回にわたり、ワークショップで得られた内容を改めて共有していきます。それでも伝えきれない部分の共有や、皆さん自身の課題への適用に関しても今後考えて行く予定です。楽しみにしていてください。
 一言で言うとこのセミナーの価値は、イノベーションという漠然としてとらえ難いものに対して、程良い粒度で科学的かつ実践的な考え方を提供していることにある。もちろん、INNOSIGHT社自身も含めた実践知に基づく考え方であるというのも大きな価値だが、事実に基づく科学的アプローチがある事で更に納得感の高いものになっている。
 先ずは第1弾として”望ましいイノベーション”というテーマで皆さんと考えてみたい。Kevin氏が直接この言葉を言った訳では無いが、日本におけるイノベーション、新規事業開発の現状も踏まえ、敢えて”望ましい”を枕に付けた。
 ”望ましいイノベーション”と聞いて、皆さんはどんな印象を受けるであろうか?
恐らく何らかの違和感を感じるのでは無いだろうか。それは”望ましい”という枕にあると思われる。イノベーションは良いモノ、求めているモノなんだから、それにわざわざ”望ましい”と付けるのはおかしい?!そう感じるのではないだろうか?
 だが、ここに一つ注意すべき事がある。それが今回お伝えしたい事だ。
というのも、最近、イノベーションという言葉が氾濫し過ぎていないだろうか?イノベーションの考え方が広まるのは嬉しい事だが、流行言葉の様になってしまうのは寂しい。そういう意味でも先ずはイノベーションの定義を明確にしておきたい。定義はいろいろあるが、ここではもちろんINNOSIGHT社の定義でいこう。
 INNOVATION = NEW × IMPACT
 単にNEWなだけでは足りない、それが世の中に広まり、IMPACTを与えてこそ、INNOVATIONと呼べる。この定義は素晴らしい。普及するだけでなく、その先でどれだけ影響を与えられるかまでが含まれている。このIMPACTを含んだINNOVATIONこそが私たちが広めたい考え方だ。
 現実的にはIMPACTを与えるまでには時間がかかる。多くの場合は何らかの新しい種は生み出せても、キャズムを超えられずに消えてしまう事が多い。せっかくの投資を何らかの形で残して次につなげるには、どのレベルのNEWで、どのレベルのIMPACTを狙うかを考えておく事が必要だ。イノベーションを興そう!と進めていたのに、いつのまにか小さくまとまってしまう。全く狙っていなかったものが大きく化けた。予測する事は出来ないが狙いは持っておきたい。
 ”あなたにとって、望ましいイノベーションとは?”
 ここから始めてみてはいかがでしょうか。
 INNOSIGHT社はここでも示唆を与えてくれています。彼らが提唱する進め方は戦略立案、組織能力開発、実行の3つのステップです。”望ましいイノベーション”の定義は、戦略立案の一項目です。イノベーションに戦略?!そんなもの立てられるか!実践者に近い方ほどそう思われるかもしれません。しかし、一方で長期的、戦略的活動が必要なのも事実です。
 戦略無くしては、ダヴィンチのように芸術作品を生み出せても、エジソンのように電気による光を社会に広めることはできません。多くの人を巻き込み事をなすには、やはり戦略的なアプローチは欠かせません。特に大企業においては世に出す前に、社内という大きな壁があります。
 ”望ましいイノベーション”を拡めるために、戦略的に突撃して行きましょう!

日本企業におけるイノベーションの特殊事情

Written by 津田 真吾 on 2013-04-22

Innosight社ワークショップを前に、いくつか「イノベーションのジレンマ」に関する振り返りと復習をしてきました。今回は日本の特殊事情に着目してみたいと思います。

「イノジレ」で取り上げれられている企業はアメリカの企業ばかりです。しかし日本では、イノベーションのジレンマを上手に回避したような事例がいくつか見受けられます。
例えば、富士通。富士電機から独立してコンピューター事業を立ち上げ、さらにはファナックのような優良企業を生んでいます。また、富士フイルムはフィルム会社からコピーやデジタルイメージングあるいは医療にまでの事業を創っています。しかし、大半の日系エレクトロニクス企業はジレンマに呪われているようにも見えます。シャープ、パナソニック、ソニーのような世界的に著名な企業が成長戦略を描けず、コモディティ化に苦心しています。
日本にはイノベーションに有利な点と不利な点の両面がありそうですが、日本の特殊事情にはどのようなものがあるのでしょうか。

  • 顧客:日本が高度成長を果たし、総中流と言われるほど豊かになった国をメイン市場としている企業にとっては、既存顧客を重視する傾向が強くなってしまいがちだろう。世界的に見れば、日本人は皆教育レベルが高く、非常に均質である。勤勉さと高品質というのは国民性とまで称されている。よっぽど意識しないと(むしろ顧客を無視しないと)、「普通」を目指した商品・サービスが出来上がってしまう。最初から日本市場から無視したものやサービス作りに着手するのも一手だ。
  • 投資家:日本企業の株主は海外の株主と比べるとおとなしい。そのため、短期的なリターンを求めるようなイノベーション阻害は比較的少ないと思われる反面、成長性に対しての要求も厳しくない。つまり、本業が順調なうちに着手するイノベーションには水を差さないが、本業の成長が鈍化した時にもあまり成長を要求しない。富士フイルムも、デジカメ普及によってフィルム事業が危機的になる前から複写機等の新事業に取り組んでいる。
  • 経営者:生え抜き経営者が日本には多い。このように既存の論理で選ばれた経営者は新しい論理を創造することが得意だとは限らない。しかし、子会社として成功しているイノベーションが多いことを鑑みると、これらの新社長はきっと「異端」だったのではないかと想像がつく。「主流派」経営層は本業のポジションを占め、異端な経営層が新規事業を行うという選抜が行われるのは、イノベーションにとって都合がいい。もちろん、必要以上にこれらの子会社や異端リーダーたちの足を引っ張ってはならないことが条件になる。
  • 従業員:就職というより「就社」で選んだ企業に入った従業員は、組織の既存ルールや過去の価値観に従いやすい。目立たないとクビになってしまう外資と比べると、「普通」に目立たないサラリーマン戦略がもっとも合理的な働き方となる。いわゆる「空気を読む」のが王道である。「変わったこと」に取り組むように会社が仕向けたり、評価しなければ、安定した既存事業を無難にこなす能力だけが発揮されることになる。また、本業に偏った経験や知識を持っているため、違う業界へと進める際の能力が不足しがちだ。一方で、海外企業には珍しいジョブローテーションが行われているため、新しい事業に取り組むとなれば、多彩で多能工な人材がいるというメリットもある。

この分析を通じて、イノベーションのジレンマが日本企業にとって特に起きやすいことが、理解いただけたでしょうか。個人的にも、再確認するポイントがいくつもありました。
同時に、この確認作業を通じて、富士通や富士フイルムを筆頭に、企業内ベンチャーが成功する事例が日本に多いのも納得できました。いざジレンマを打開するとすると、追い風となることも沢山あります。

成り行きに任せると企業は高齢化しやすい環境かもしれません。同時に、高い若返り力も秘めているのです。その力を開花するためには、4つのポイントを意識してはどうでしょうか。

  •  本業以外の視点を持つ人材を入れる
  •  会社が順調なうちに始める
  •  異端リーダーの足を引っ張らない
  •  会社としてイノベーションを評価する

イノベーションのジレンマ 《要約》

Written by 津田 真吾 on 2013-04-19

「イノベーションのジレンマ」には「技術革新が巨大企業を滅ぼすとき」という副題がついています。
つまり、技術が大きく進展することで巨大企業の地位が危なくなるという現象を紐解いているわけです。しかし、大きな企業ほど技術革新に費やすことのできる資源も多く、大きな企業ほど安泰なはずなのに、なぜ危うい地位になっていくのでしょうか。クリステンセンはこのパラドックスを深く理解するためにいくつかの業界に注目します。
 

ハードディスクドライブや油圧掘削機の事例から、その理由を紐解く。

当初考えられていたのは、企業は成功し、巨大化すると怠けてしまうというありがちな論理です。しかし、この仮説は見事に裏切られてしまいます。実はこうして衰退するトップを走る企業はしっかりとした合理的な運営がされており、「正しい」ことを行っていたのです。しかし、ここからが「ジレンマ」たる所以なのですが、正しいことをきちんと行っていたからこそ、破壊的な技術革新の波を逃してしまうという共通した過去を持っていました。大企業は油断や怠慢といった精神論ではなく、合理的に破壊されてしまう性質を持つという発見は多くの企業人の注目の的になりました。超ベストセラーになり、度々引用されるのも、企業が持つ本質的なジレンマに触れているからではないでしょうか。
ではジレンマ脱却の答えを知りたくなりますが、そのためにはジレンマのメカニズムを理解しなくてはいけません。クリステンセンが説く5つの原則は以下の通りです。

原則1:企業は顧客と投資家に資源を依存している

要するに、お金を出してくれる人に企業の戦略は影響されるということです。なので、実績のある既存事業に偏ってしまうのは当たり前と言えます。お客さんと株主を無視できる会社は、ほとんどないですよね?

原則2:小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない

まだ可能性も小さく、成長過程にある市場を大企業は軽視します。1億円のマーケットがあれば、中小企業にとってはデカいが、大企業にとってみればゴミに映るのと同じです。自社にとって十分に大きいと思えるビジネスにしか企業は投資しないですよね?

原則3:存在しない市場は分析できない

文字通り。分析というのは過去のものしかできません。未来の市場は分析できないので、過去データがあるような古い事業に投資が偏ります。これまで毎年10億円あった市場と、もしかしたら20億円になるかもしれないが、今0円の市場は比べることができませんよね?しかも会社組織というのは分析が好きです。様々な観点で分析をして説明責任を果たす必要があるからです。

原則4:組織の能力は無能力の決定的要因になる

いわゆる成功体験。クルマをつくることが得意になればなるほど、機織り機をつくるのは苦手になります。部署単位でも例外的な仕事が来たら混乱するはずです。経理部門に人事研修を頼むと何が起きるでしょうか。つまり、どんな組織も能力は専門化されていく傾向にあり、新しいことに取り組みにくい体質になります。

原則5:技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない

イノジレ図

これが有名なイノジレ図です。もっと精度の高い腕時計を作ることができたとしても、皆が欲しがるとは思えないですよね?もっと極端に言えば、イグ・ノーベル賞のように、技術的にはスゴイが、そんな技術必要??というような技術も山ほどあります。性能はいつしか、顧客の要望を超えてしまう「オーバーシュート現象」が発生するまで進化します。

これらの原則を理解することで、ジレンマ脱却の道筋が見えてきます。
例えば、原則1を弱体化するために、イノベーション予算はまとめて確保したり、原則2や3を弱体化するために新規事業の開発プロセスに対して違う基準で規模を追求したり、原則5に対処するために顧客のジョブを軸に新規事業をスタートさせるなどです。


これらを会社経営に組み込むことが「イノベーションマネジメント」です。

「マネジメント」という言葉には、管理やコントロールという響きを持ってしまう印象があるかもしれません。しかし決して各プロジェクトを細かく管理することではありませんので注意が必要です。前述したように「合理的」に進めることでイノベーションが阻まれるわけですから、そのような一見合理的な仕組みを解除していくことが大事になるのです。

ドラッカーとクリステンセンの共通点 《顧客の創造》

Written by 津田 真吾 on 2013-04-17

昨日に引き続き、Innosightワークショップに関連して書きます。

クリステンセンが命名した「破壊的イノベーション」というのはドラッカーが定義した企業の目的と非常に深い関係があります。
ドラッカーは企業の目的は「顧客の創造」しかない、と断言しました。
このことをつい、私たちは忘れてしまいます。なぜなら、一般の企業活動は「顧客の維持」に向けられていることが多いからです。それは、既存顧客に対する営業が新規顧客に対する営業と比べるとはるかにコストが掛からないためであり、顧客を創造しなければ、維持する顧客がいないことを忘れてしまうからでもあります。

既存の顧客の中でも要求が厳しい顧客を維持するために、オーバースペックな製品やサービスになってしまう場合、破壊的イノベーションが生じると、クリステンセンは説いています。要求がさほど厳しくない新しい顧客が、スペックでは劣るが十分な機能の製品に出会うと、一気にこの安い製品が普及します。

映画製作用ビデオカメラが家庭用ビデオカメラに駆逐される経緯を例に考えてみます。従来のスペックとして劣るビデオカメラであっても、顧客を創造することができる様子を簡単に示しました。

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この経緯をグラフにすると、有名なイノジレのグラフになります。