イノジレのインパクト

Written by 津田 真吾 on 2013-04-16

lnnosightのワークショツプを開催する前に「イノベーションのジレンマ」(長いのでイノジレと呼んでいます)について復習しておきたいと思います。

内容に入る前に、まずAMAZONの書評が強烈ですので、簡単に紹介させてください。5点満点中、平均評価は4.6、111件中89件が星5つという評価になっています(2013年4月15日現在)。そもそもこの様なビジネス書に111件ものレビューが存在すること事体が驚異的です。これらの投稿者からは、皆にも本を読んでもらい、警鐘を鳴らしたいという気持ちが伝わってきます。徹底的に正しいと言われ続けた習慣つまり、顧客の声をしっかり聞いて対応する優秀な企業ほど、ヤバイと言っているのですから。
レビューの内容も「ビジネスマン必読書」と薦めているものが多く、今の日本経済の低迷を表いているという意見も見受けられます。

このジレンマから脱却したいというのが私たち共通の願いなのではないでしょうか。願いをかなえるためのヒントをクリステンセンは伝えてくれています。イノベーションのジレンマは驕りからだけではなく優秀な企業もヤバイという事実。つまり、優秀に合理的な判断をしているだけでは成功は一時的な現象で終ってしまうという事、謙虚でい続けるといった精神論だけではなく、一見正しいことが危険だという事です。
ちょうど今、日本のエレクトロニクス産業はその結果を体験しています。何とかしたいものですね。

次回はもう少し本の内容に触れます。

外からの視点

Written by 津田 真吾 on 2013-03-10

ワールドベースボールクラシックはいつも私たち日本人の自信を回復させてくれる。
これまで2回の大会を両方とも劇的な優勝で飾り、歴史上唯一のチャンピオンとなっている。
今回の大会でも台湾相手に敗戦濃厚な9回土壇場で追いつき、勝利するなど、日本人の集中力、粘り強さと組織力を発揮している。

出張のため、そんなWBC2次ラウンドを日本で見られないかと残念に思っていたら、こちらでもテレビでやっているというのでテレビ観戦の機を得た。
こちらの大リーグ解説者による解説が新鮮だったのでぜひご紹介したい。
(ちなみに、筆者は日本応援視点もないとさみしいので twitter も同時に開いて盛り上がってました。)

  • 日本の投手交代の慣習は面白い。ピッチングコーチがまず出てきて、前座のように時間稼ぎをする。
    大リーグでは、ピッチャー交代にコーチが関わることはあまりない。
  • イチローの広告が東京ドームにあるのは野球人としての功績を表している.
    イチローの広告に価値があるのは、イチローがそもそも野球における継続的なパフォーマンスを発揮しているからだということを忘れてしまいがち。
  • 福岡の王貞治ミュージアムは素晴らしい。(投手にしか与えられない)沢村賞以外の賞をすべて取っている。
    いまだに世界記録を樹立した王貞治の外人認知度は高い。また、世界的な名選手のミュージアムの存在を知らなかった。
  • まだ2試合残っているがイバタはMVP。
    井端のような活躍は万国共通で評価される。
  • 阿部は毎年安定して5億前後の年俸を稼いでいる日本を代表する選手。
    日本人ならもっと定性的に”ムードメーカー”として評価されているが、その価値を一言で言うと年俸になる。

中でも、解説者が繰り返し日本の野球について強調していたのが応援スタイルである。
大リーグを見ていると感じる違和感でもあるが、日本の応援歌というのは独自の文化であり、この5年~10年で応援パフォーマンスは大きく前進している。
(斬新な応援の多くは日本を代表する球団である広島カープの応援団から生まれているが、これはチームが低迷の中、工夫して応援し続けるファンの涙ぐましい努力だと思っている)

  • イバタの応援歌は14年のキャリアを持つベテランの風格が込められている。
  • イナバシェイクは最高!
  • みんなで歌うのはカラオケ文化につながるのかもしれない

この球場全体で応援するのは、まさに日本人の組織力を体現しているわけで、ここが特異に映るのも納得感が高い。

このように、内側だけから見ていると見落としていることがあるということを改めて感じさせてくれました。野球以外にも、日本の良いところが世界的に認められないとすれば、きっと外からの視点で再評価すべきなのではないでしょうか。

良いものをつくる≠良くないものをつくらない

Written by 津田 真吾 on 2013-03-05
良いものづくり

ものづくり企業には「良いものづくりをしたい」というDNAが染みついている。

良いクルマ、良いカメラ、良い機械、よいアプリ。DNAと呼ぶしかない、根っからの動機である。

毎年、前年より良く吸う掃除機、良く剃れる電動ヒゲソリ、壊れにくい電動工具、等々。さらなる高みを目指して頑張っている。

このように毎年改善を重ねている技術者たちに困っていることを尋ねると、「設計以外の業務に時間をとられて忙しい」という答えが返ってくる。少なくともトップスリーには入ってくる。現場の人たちの感覚同様、この「設計以外の業務」が、革新的なものづくりを阻害していると言ったら、読者の皆さまはどう思うだろうか。

設計に関係のないこととは?

課内会議、営業会議、品質会議、生産会議、デザインレビュー、後輩の育成、低価格な仕入先の評価、このような業務は決して無駄ではないはずだ。特に、一定の品質を保つためにはとても重要なタスクになる。既存の事業を安定して継続させるには、組織のルールに従い、前例を尊重した行動が求められる。組織に存在する成功例を普く使うことが、経営資源を最大限に活かす方法になる。官僚的な組織というのは言葉のニュアンスとは逆に、うまく行った事例と歴史のある「勝ち組」の組織と言っても過言ではない。

にもかかわらず、なぜこのような官僚主義はここまで嫌われているのだろうか?先ほど例として挙げた新製品開発の現場では特に嫌われている。また、嫌われる真っ当な理由もあると考えている。

その理由というのは、

良いものを創る≠良くないものを作らない

という不等式で表される。

社内のさまざまなプロセスを経たものづくりは、非の打ち所の少ない、オールラウンドな結果となる可能性が高い。色々な人の視点が加わり、網羅的に考えられたものは欠点の少ないものになる。
レビューや多くの人によるチェックは、悪いところ(特に以前クレームや問題となったこと)に対して行われる。どうやれば、より尖ったものになるか、というレビューはまず行われないのが一般的だ。
それだけに、インパクトの少ない、その割には高価な商品となってしまうのだ。

これがいわゆる「ガラパゴス化」のシナリオになる。
全く魅力の分かりにくい、売れない製品が残る。。。

実は、私はこのガラパゴス化について、かなり長い間悲観していた。
ところが、最近ではガラパゴスな製品も「生きる」ところがあるということに気づき、見直しているところがある。
それは、一部のB2B市場である。
つまりは、欠点が少なく、色々な視点で作られたオールラウンドなものが求められる市場ということになるが、要するに意思決定プロセスが複雑な商品である。
また、製品寿命が長く、買い替えの少ないものであれば、購入時に検討することは増える。
このような商品群であれば、オールラウンド化は悪くない。
ただし、インパクトを伝える際のメッセージだけは尖って欲しい。無料でお試ししてもらうのもとても効果的だ。(なので、せめてマーケティング手法については、レビューを減らそう)

相手に欲しくさせなければ、何もはじまらない。
それからレビューを始めても遅くはないと思うのだが。

NHKドラマ"メイドインジャパン"から感じた違和感

Written by 津嶋 辰郎 on 2013-02-28

2月初旬にNHK土曜ドラマでテレビ60周年記念として放映された”メイドインジャパン”が身近な会話でも話題になっている。人数的な賛否のバランスという意味では、否に軍配が上がるように思えるが、そういう私も未だステレオタイプな”ものづくり神話”がメインメッセージになっている内容に、残念ながら共感することができなかった。

50代以上の日本人をターゲットにした20年前のドラマならまだしも、我々でも違和感を感じているなら、これからの未来の主役である20代にこの作品がどのように映ったか非常に気になるところである。

では何に違和感を感じたか?について考えてみたが、そもそもの作品の中の要所要所のやりとりがナンセンスであったため一言では言えないが、自分にとっての最大の違和感を表現すると

制作者が”ものづくり”の実体を正しく認識していない

という点にある気がしている。近年は、”日本の強さはものづくり”だとか”ものづくり立国日本”という感じでだれもがものづくりという言葉を使うようになった。しかし、私が感じる”ものづくり”という言葉は大きく異なる2つの意味で使われていると感じている。そのズレを模式的に図1に示してみた。この図は”ものづくり”を構成する要素である研究から生産までのプロセスを4つの箱で示している。

スクリーンショット 2013-02-28 11.31.03.pngまず第一にこの4つの箱の違いを明確に説明できる人が少ないように思う。特に開発と設計(量産設計)の境界は、製品特性によっても役割が曖昧であるため、実務者にとってもはっきり区別できない人も多いのではないか(話がややこしくなるので、今回はこの違いには深く触れない)。しかし、私はこの境界の曖昧さが高度成長期の製品開発を支えてきた”すり合わせ”を生み、日本の強さになったと考えている。そして逆に現在の多くのメーカーが課題を正確に捉えられず変われないでいる原因だと考えている(この点も次回以降に)。

話を元の論点に戻すと私の認識では、ものづくりという言葉から多くの人は、赤枠で示している設計から生産のエリアを連想していると考えている。つまり、このエリアはどういう製品を作るかを決定した後の大量にものを生産するプロセスを示す。まさに”ものを作る”作業であり、高度成長期には極めて重要なプロセスだったと言える。そしてこの力は現在に至っても日本は世界最強を維持しているのは間違いない。(ただこの領域こそが、中国が競争力を高めているのも事実である。)

一方、最近のニュースや新聞記事においてメーカーの課題として取り上げられるときの”ものづくり”は、私は青で示すこの4つの箱すべてを指していると感じている。つまり、基礎研究からそれを世の中の何にどうやって応用するかかという開発まで含む広義のものづくりである。このようにものづくりに研究と開発を加えると、そもそも自前主義を貫いてきた日本のメーカーの多くは歴史的にも得意としていない。特に研究領域において効率的な投資を行うためには、すべて企業内で完結するのは難しく、大学や研究機関とのコラボレーションや基礎技術を持つベンチャーの買収など先行的な投資が重要になってくる。

今、日本の多くのメーカーが直面している課題は、長期的な視野で何を研究しそれをどうやってビジネスにつなげていくか?という領域への取り組み方を抜本的に変えていく必要がある。

改めてメイドインジャパンの話題に戻ると、ドラマの中のキーワードが”ものづくり”であったために、この言葉から想起される領域の違いにより受け手の印象が大きく異なってしまう。日本が得意とした赤枠のものづくり領域は、未だ衰えていない。それは自信を持つことだと思う。しかし、外部環境の変化によってその領域で競争力を保てる”ビジネスカテゴリー”は徐々に先進国から、新興国にシフトしつつある。先進国において多くの雇用を生むためには、もっと長期的な取り組み(難易度の高いチャレンジ)に投資をしていかなければならないことをメディアももっともっと言語化して欲しい。そうでなければ間違いなく、特定のビジネスカテゴリーに属する多くの日本企業は一度沈まざるを得ない。

研究開発を伴う”ものづくり”を通したイノベーションには10年スパンの時間が必要だという事実を認めることが始めないと

玄人ウケする玄人

Written by 津田 真吾 on 2013-01-22
図1 発明の目的


日本の研究開発の集中度はOECD参加国の中で最も高く、GDPの3.2%を占めています。1その活発な研究開発成果である発明の多くは既存事業のために使われています。一般的に日本企業は諸外国と比べると小幅で着実な製品の改善改良が得意だという認識がされているように、3分の2は既存事業のために発明が行われているというデータもあります。2
それ自体はそれほど悪いことではありません。今やっている事業をさらに強化するための研究課題を見つけ、そして成果をあげていくことは正に日本のお家芸ですし、80年代までの自動車産業が成功した大きな要因はこれを実直に実行できたことにあります。

ですが、この実直に改善し続けることの弊害もあります。一見好ましいこの習性が必ずしも好ましくなく、足を引っ張るケースがあるということを発見したのが、ハーバード大のクリステンセン教授です。この現象を「イノベーションのジレンマ」と呼びました。
これは、一言で言うと、プロの仕事を突き詰めれば突き詰めるほど、玄人にしかウケなくなるということです。

『イノベーションのジレンマ』がここまで評価されている理由の一つは、一般に優秀な企業が行う妥当な判断がイノベーションを阻害していることを解明したことです。自社の得意な領域で確実な性能向上を繰り返すトップ企業が、そこまで性能の高くないが、価格は手ごろだという製品に市場を奪われる現象を「破壊的イノベーション」と呼び、世の中のリーダー企業に警鐘を鳴らしました。その時に示されたグラフを少し日本の製造業の立場から見直したものを紹介しましょう。

新しい技術やアイデアが登場すると、まず「オタク」と呼ばれるような人たちが使います。彼らは目も肥えていて、最新のものが大好きです。そして、忘れてはならないのは、作り手であるエンジニアも「オタク」なのです。例えば、私の周りのHDD開発者はHDDがまだまだ高価な時代にあっても、HDDの記憶容量だけでなく、性能などにもにこだわってましたし、クルマの開発者だと、自社のみならず競合製品の型式を記号で知っているのは常識レベルです。

やがて、技術の発展とともに、一般消費者にも受け入れられるようになります。
ここでも、ポイントは先ほど申し上げた「技術者もオタクである」という点です。製品の企画開発を行っている人は仮にオタクでなかったとしても、最新情報に日ごろから接しているため、目が肥えており、判断基準はオタクレベルになっています。「消費者目線」ということをどれだけ意識していたとしても、社内では「そんなことも知らないのか?」という白い眼で見られること間違いなしです。そんなプレッシャーに負けてどんどん製品の企画はオタク化してしまうようになります。

技術が進化すると、性能が劣るが一般大衆には十分な製品が現れ、さらには新興国の低所得者層にすら求めやすい製品が現れるようになってきます。

玄人ウケの構図

時計を例に考えてみると、

・ 一日に1分の誤差: BOPでも十分
・ 1カ月に1秒の誤差: 普通の人なら十分
・ 1年に1 秒の誤差: 精密に測る必要のある一部の科学者・エンジニアや、時計マニアが欲しい
・ 100年に1秒の誤差: 時計職人や天文学者
・ 1000万年に1秒の誤差: 先端研究機関の原器として

と、精度を上げることで、技術的には「良い」製品になる一方で、それだけの価値を求める人も減っていく様子がわかるでしょうか。
このような精度が出せるようなフラグシップモデルはブランド戦略として有益ですが、台数としてはあまり望めません。

社内で技術が高まると、より多くの人に売り、使ってもらいたいと思うのが人情です。ところが、作り手の技量が上がれば上がるほど、知らないうちに目はどんどん肥えていっているということです。マスを狙っていると思っていても徐々に気づかぬうちに、上位のユーザーが望むものに対する基準にズレていってしまいます。

もちろん、技術が普及するにつれてユーザーも目が肥えます。目が肥えていくスピードは、日々それを仕事にしている人たちのほうが、買うときにしか検討しない消費者と比べるとはるかに速いということも忘れてはいけません。

このようなレベルにまで組織の技量が高まってきたら、新たな課題解決にとりくみましょう。


1 OECD Science, Technology and Industry Outlook 2006

2「日米のイノベーション過程:日米発明者サーベイからの知見」長岡貞男著 独立行政法人経済産業研究所(2010.10)