企業のイノベーション戦略に人事はどう貢献できるのか(SHRM2019 2万人超が集まるHR PROのカンファレンスより)

Written by 山田 竜也 on 2019-07-08
#SHRM19 Creating Better Workplaces

SHRM(Society for Human Resource Management)をご存知ですか?
SHRMは企業の人事担当者が集まる団体で恐らく最大級のものです。日本では人材開発に関わる団体であるatd(Association for Talent Development)の方が認知度、関心度ともに高い印象がありますが、人材開発より広い、人事や働く場所に関する世界最大の学びの場がSHRMです。

 

誰が参加しているのか?

それぞれの世界大会の参加人数でいうと、今年5月にワシントンDCで開催されたatd2019ICEの参加者数はトータルで13,500人、内海外からは2,300人、88ヶ国。6月にラスベガスで開催されたSHRM2019はトータルで20,000人超、内海外からは1,200人。トータルの人数はSHRMの方が1.5倍でしたが、一方でSHRMの海外からの参加者はatd2019ICEの17%に対して6%とアメリカからの参加者が大半を占めていました。また、女性の参加者が70%程度と多く、ほぼ半々の印象だったatd2019ICEと比べるとジェンダーでの差もありました。

 

何が話されているのか?

巨大なカンファレンスの全貌を一参加者の視点から語るには限界があるのですが、昨年参加したatd2018ICEとの比較も交えながらお伝えしたいと思います。

そもそもの参加の動機は「企業のイノベーション戦略に人事はどう貢献できるのか?」「世界の最先端の事例ではどんな取り組みがなされているのか?/もしくはなされていないのか」を実感値として得たい!という所にありました。

昨年のatdはイノベーターやスタートアップに役立つストーリーテリングの手法にフォーカスしてセッションを選びながら、ITの活用や脳科学を使ってのラーニングの手法やトレンドを学びました(atd2018ICEで感じた3つのこと)セッションを絞った影響もあるのですが、atdの中では、社会やテクノロジーの変化に対応しなければいけないという文脈は感じられたものの、それに対応した企業のイノベーション戦略において人事が何をなすべきかは語られていませんでした。

一方で今年のSHRMでは、イノベーション、ストラテジーというキーワードでセッションを絞り込んだ影響はあるのですが、より不確実になる世界の中で、企業経営における人の要素はより大きくなり、人をマネジメントするHR PROの役割はより大きくなる。HRの人間は、自分たちの役割と可能性を認識し行動を変えなければならないというHR PROを鼓舞する強いメッセージを感じました。

 

HR PROへ、どんなメッセージが発信されたのか?

個人的に最も印象に残ったメッセージはJoe Rotella(SHRM-SCP, Chief marketing officer, Delphia Consulting, LLC)氏がMEGA SESSION How to Be a Better Business Partnerの中で繰り返し強調していたものです。

You are a business professional who have expertise in HR.

シンプルで分かり易いと思いませんか?
言われてみれば当たり前のことかもしれませんが、視座を変える(物事を見る立場を変える)ということの大事さを改めて実感しました。英語表現の特性なのかもしれませんが、この辺りのメッセージの出し方は学ぶ必要があると思います。

言っている事は分かるけど、これだけでは、スローガン倒れになってしまうのでは・・・、と物足りなさを感じていた所にいくつかガイドラインも示されました。何かを変えるには行動を変えるしかないですよね。ここまで定義して初めてメソッドとして使えるものになります。


 

以下は最刺激的なタイトルだったJennifer McClure(President, Unbridled Talent, LLC)のMEGA SESSION Disrupt HR: It’s Time to Disrupt HR and Approach It in a Whole New Wayからの引用です。

HR PROのあなたは、
・HR以外カンファレンスや学習イベントに参加しなさい
・HR以外の専門団体やHRの外のグループとのネットワーキングに入りなさい
・様々なテーマの本を読みなさい
・HR以外の人たちの友達を作りなさい
こうしたメッセージは参加者にどれぐらい伝わっているのか?残念ながら参加者の表情からは感じ取られませんでしたが、SHRMとしてHR PROに外の世界に視野を広げ、一段高い視座で考えることを促しているのは間違い無い様です。

 

SHRM2019の統一テーマ「Creating Better Workplaces」

今年のSHRMの統一テーマは「Creating Better Workplaces」。日曜日のオープニングは、Jenn Lim(Creator of the Zappos Culture Book)氏によるCHANGE-MAKERS SERIES Delivering Happinessでした。
ワークプレイスという言葉を”働く場所”ととらえるなら、それは会社の中だけとは限らず、家庭やコーワーキングスペース、近所の公園と幅広く、人生を過ごすほぼ全ての場所が該当する世界にと変わりつつある。
今年から新たに加わったセッションカテゴリー、CHANGE-MAKERS SERIESの最初のセッションは、人生の目的である幸せを実現するために、個人が企業が何をすべきかが語られました。

Jenn Lim, Delivering Happiness

そして、仕事と人生のバランスの問題ではなく、個人としての幸せを実現するためにも、企業がビジネスで成功するためにも、意味のある目的が必要であることが、HAPPINESS FRAMEWORKとして提示された。

Jenn Lim, Delivering Happiness
HAPPINESS FRAMEWORK3
PARALLELS OF A GREAT BUSINESS AND HAPPINESS

非常に大きなテーマとしての”働く場所”が、意味のある目的を接点として、個人の人生の幸せと企業のビジネスの成功を繋ぐものとなる。そんな”働く場所”を作っていくという「Creating Better Workplaces」が本大会のテーマとしてセットされるセッションでした。

クロージングセッションは、オープニングのザッポスと対をなす感じでの、Blake Mycoskie(Founder and Chief Shoe Giver, TOMS)氏によるThe Power of Giving: Conscious Capitalism and the Future of Businessで、靴の通信販売に始まり、靴メーカーに終わるという上手なサンドイッチでした。

Blake Mycoskie, Wear your beliefs

Blake Mycoskie氏は起業家であり、フィランソロフィスト。4度目の企業の最中に仕事に疲れ訪れたアルゼンチンで、子供達の靴不足を知り、1足売れたら1足寄付するというone for oneの仕組みで先進国の社会的ジョブと途上国の機能的ジョブを結びつけたビジネスモデルでの成功の話から、そこでまた仕事に追われる状態の自分に気づき、自分を顧客として現代人の課題に取り組むためのmade forというサービスを始めるまでのストーリーが語られました。made forは完全アナログでの小さな行動習慣を日常生活に取り込むという日本の道の精神に近いものを感じました。

 

世界をより良くするために働く、働く自分も幸せになる。
両立してこそ本当に”良い働く場”を生み出すことができる。
SHRM2019のテーマは、まさに現代の課題をとらえたものでした。

 

企業のイノベーション戦略、世界をより良くする仕事、仕事を通しての幸せ、幸せをプロデュースするHR PRO、これらを繋ぐことができれば、Better Workplacesを生み出すことができると思いませんか (^ ^)

オープンイノベーションが上手くいかない理由をジョブ理論で考えてみる

Written by 津嶋 辰郎 on 2019-07-01

「オープンイノベーション」という言葉については今更その内容を説明する必要がないくらいに、日本においても普及しきった印象である。一方、実際の取り組み現場においては、成功事例を探すことが難しいほど問題が多いといえる。まだまだ取り組みとして、黎明期であるから今後は成功したと言える事例も出てくる可能性もあるが、正直今のまま進めても殆どの活動が成果に繋がるとは言いがたい・・・と現場で感じる問題点についてコンパクトに整理してみたい。


オープンイノベーションの難しさの原因は、多様なステークホルダーが存在するということに尽きると考えている。勿論それぞれの組織に所属する担当者によっては考え方やスタンスは異なるが、今回の記事ではジョブ理論を用いて私の経験を交えた日本の組織おける典型的なパターンをモデルとして考えたいと思う。分かり易くするために敢えて多少極端な表現にしている点はご了承いただきたい。 ジョブ理論について復習が必要な方はこちらの記事も参考まで。


今回考察する事例としては、大学と企業(大手、ベンチャー双方に関係するが特に大企業を意識している)の連携でのオープンイノベーションを想定し、シーズ発明者、大学関係者、企業連携担当者、経営者という4種類のジョブが異なるスレークホルダーの場合で考えてみたい。

それぞれのステークホルダーが抱えるジョブとその背景を示すとこういう感じではないだろうか。


シーズ発明者のジョブ:自分の研究テーマを理解した上で、できるかぎり自分が考えてきた用途で実用化して欲しい。一方、事業化への関与にはあまり興味ない。

→ 日本における研究者は、もちろん自分の発明を実用化することには思いがあるが、基本それを事業化する取り組みに興味がある方は少ない。そのため事業化における自分の関与は最小限に留め、発明の価値とその本来の活用方法を理解できる人物は上で、進めて欲しいと考えていることが多い。


大学契約関係者のジョブ:発明者、企業側がそれぞれから多くの要望があったとしても、できる限り大学の制度に則った契約の中に納めたい。基本的に前例のないことはやりたくない。

→ 大学職員もしくは、産業界からの転入だとしても日本の大学という環境で働きたいと考えている方は、前例主義でコンサバティブな方が多い。そのためイノベータータイプの上司がいないかぎり、如何に既存の仕組みの枠を外すことなく、物事を進めたいという考えるのは責めることができない必然のジョブである。


オープンイノベーション担当者のジョブ:短期的な成果が期待できない状況においても、社内に価値を上手く発信して自分達の取り組みを評価されたい。

→ 上層部の期待や既存事業の成果に比べて明らかに時間を要するのが、オープンイノベーションを通した新規事業立ち上げの取り組みである。一方、会社の中の仕組みは既存事業を運営する時定数で回っている。そのために如何に成果を見える化し、その進捗と価値をその分野に土地勘のない社内メンバーに上手く伝えていくかということが苦悩している作業である。


サラリーマン経営者のジョブ:既存事業だけでは存続が難しい事は理解しており、新しい事業の立ち上げが必要だと考える中、株主および社内のステークホルダーから失敗だと思われるような取り組みはしたくない。取り組むなら売上としての成果に繋げたい。

→ 新規事業の立ち上げの必要性について社内外に発信していたとしても、既存事業以外の領域に土地勘のないこと、短期的に収益を生まないテーマについて費やす時間を確保できない。またその自分自身が土地勘のない領域において、担当者を信用してリスクをとる決断をするハードルは日本の組織体制と社内のステークホルダーに対しても非常に高い。


どうだろうか?これらのジョブとその背景については、恐らくそれぞれの立場の方と仕事をしたことがあれば、それほど違和感のない内容だとご理解頂けると思うし、とりわけ特殊なことを言っているわけでない。と考えても、そもそもこれだけ複雑なステークホルダーのジョブを満たしていかなければならないのがオープンイノベーション・・・の課題であれば、それを成果に結びつけることがどれほど難易度が非常に高いか。なかなか成功事例に出会えないのも必然なのである。

ではこの複雑な状況の中でもなんとかプロジェクトを進めるための処方箋は次の3つであると考えている。


・プロジェクトにおける共通の目標を言語化し、ステークホルダー間でしっかりと合意する


・目標達成までの期限とそこに到達するまでの中期的なマイルストーンを決める
(撤退の条件もこのマイルストーンに含める)


・リーダーまたはそれに変わる人物が各組織間のジョブの隙間(グレーゾーン)を埋めることをコミットする


完全な取り組みとはいえないですが、参考になる具体的な事例として、シンガポールにおけるEDB(経済開発庁)が行っているグラントスキームに見ることができる。シンガポールという国家は日本同様の高齢化社会であり、単純労働者に対する移民受け入れを制限する政策を進めているため、先端的なライフサイエンス技術の導入およびロボットによる単純労働の自動化が世界で最も推進されていると言って間違いない。しかも、国内のシンガポール大学が近年アジアナンバーワンの評価を得ているとは言え、研究開発は一日にしてならず・・・のためそう簡単には国内から新たなシーズが生まれることが容易でないと理解していることもあり、海外企業の受け入れ体制が非常に整っている。その中でも前述の2領域においては日本企業に対する期待値が極めて高いのである。


話を戻すとEDBが主導する開発型スキームは新しい技術を基にしたソリューションを導入したい事業者が起点となり、それ実現にコミットできる企業を公募する(この時点でステークホルダー間の目標が合意されている)。そして、そのグレーゾーンのマネジメントをEDBの担当役人(立場的にも幅広い裁量権がある)がコミットする(実際の解決に必要な人を集めて議論する場をセットする等を行う)。技術シーズとして必要なものを提供できる研究機関がシンガポール国内にあれば共同開発のアレンジを行う(大学担当者のジョブを捉えている)。そして、最も日本のグラントに抜け落ちている要素としては、参加する開発企業に対しては、EDBがソリューション実現後は政府のお墨付きで国内外のターゲット施設等に事業展開の支援まで約束してくれる(オープンイノベーション担当者および経営者のジョブを満たしてくれる)というものである。


我々もこうしたシンガポールにおけるスキームを活用して、大手企業内での新規技術開発プロジェクトや日本において特に資金調達や実証環境の確保が困難なハードウェア系の事業展開するモデル事例の構築を進めている。その過程でシンガポール政府を始め、様々な現地パートナーとのネットワーク構築が実現してきたためINDEE Singaporeを立ち上げ、より多くの機会を提供していこうと考えている。無論、こうした機会を活用するために日本の大手企業およびスタートアップが十分満たせないジョブをサポートするのが我々の役目である。


こうした機会に少しでもご興味を持っていただけたら、お気軽にこちらにでも問い合わせいただければと思う。

人間の寿命が延び、ビジネスの寿命が縮む

Written by 津田 真吾 on 2019-06-27

人間の寿命が延びている。

私が就職した90年代の男性の平均寿命は76年生きていた。私が生まれた60年代はたった65年。それが今は23%も伸び、ほぼ80年となった。20で成人し、勤めるとして33%も長く生きることになる。

逆に、企業の寿命は縮んでいる。Innosightが発表したこちらのデータによると、60年代に30年間、世界トップ企業にランクインできていた企業は半分の約15年で退出させられている。

人の寿命が延び、企業の寿命が短くなると何が問題なのか?

所属している組織が、キャリアの途中で衰退し後輩が全然入らない。
就職したときに活況だった業界が、斜陽産業になる。
憧れの職業の待遇が悪くなる。

ここ数年の変化を感じることは難しいけれど、20年前ほど遡ると違いは歴然としている。当時日本が世界中から求められたエレクトロニクスや、精密部品の需要は軒並み低下し、工場もずいぶんと減った。立場上、組織の衰退を「ビジネス上の失敗」としてとらえるケースも多いが、私たち個人の生き方にも大きな影響があると言わざるを得ない。なぜなら、職業や所属する組織は私たちのアイデンティティーの重要な部分を占めているからだ。「インディージャパンの津田です。」「エンジニアです。」「研究者です。」「営業やってます。」「個人事業主として、デザインをやっています。」などなど、私たちは自分を説明するための「職業」や「所属」が必要だったりする。必要、というのは生物として生きるためというよりも、社会的に生きるために必要にという意味で。

アドラー心理学で有名な岸見一郎さんは、「仕事とは人の役に立ったと感じる時に訪れる」と言う。仕事を通じて、同僚や顧客、会社に貢献できた、と感じることが大事だというのは、私自身、日々実感する。その貢献していたはずの会社が傾いたら?役に立っていると思っていたのに、そうでもないということに気づいたら?ずっと続けてきた職業の需要がなくなってきたと感じたら?所属して頑張ってきた組織がなくなってしまったら?

短命化しているのは組織ではない

ここまで書いておきながら実は、短命化しているのは企業ではないことに注意したい。実際に、バブル崩壊を経ても多くの金融機関は(合併は著しいが)生き延びている。私がかつて所属していたIBMは3分の1ほどに縮小したものの、存命している。一方でスタートアップの大半は数年で消滅する。なので、大企業はスタートアップと比べて「安定している」というのは真理と言わざるを得ない。

しかし、IBMの例のように、その看板の下で働く人たちは減っている。勤めている人たちもずいぶん入れ替わっている。一方の株価は安定はしていることを考えると、安定しているのは株主なのかもしれない。では、何が短命化しているかというと、「ビジネスモデル」である。稼ぎ方が変わってきているのだ。

ハードウェア販売中心のビジネスモデルからソフトウェア販売、さらにはビジネスサービス、ついにはビジネスサービスを自動化したSAASサービスへと転換したとする。会社は残ったとしても、ハードウェアの技術職の必要性は減り、つぎにセールスマンの必要性は減り、と職種に対する需要は大きく変動する。価値の源泉がシフトすれば、企業はビジネスモデルをシフトさせることになる。必要とされるスキルもシフトしていく。

スキルをシフトするスキル

ビジネスモデルが短命化すると、このシフトが発生する回数が増える。寿命も延びているので、会社を転職する「転社」も増えるが、同じ会社内で求められる業務が変わる「転職」ももちろん増える。

そうなってくると、ある特定のスキルを身につけるというよりも、「スキルを身につけるスキル」みたいなものが必要になってくる。 急な変化のただ中にいて、混乱を目の当たりにすると、私たちは何か強い北極星となるような「答え」を求めてしまう。だが、過去に成功した「答え」であるビジネスモデルはすでに古びてしまっている可能性も高くやっかいだ。なにせ、終身雇用が崩れた今、会社勤めしていたとしても、労働の対価として給料をもらっている「事業」だからだ。

実はこのように、会社員も、まるで個人事業主として「会社に雇われている」という見方が大事だ。そして、「ジョブ理論」が身近にならないだろうか?ジョブ理論以外にも、イノベーションの文脈で語られるリーンスタートアップ、デザイン思考、ビジネスモデルキャンバスは会社レベルだけでなく、スキルをシフトしていくときにとても役立つ。

  • 会社に雇われているのはなぜか? (ジョブ)
  • 転職できるとしたら、どんな価値を提供することができるだろうか? (ジョブ、ビジネスモデルキャンバス)
  • 身につけたいスキルを(転職や学校に行き直さずに)使った最小限の仕事はないだろうか? (MVP)
  • 独立する前に副業で試せないだろうか?(リーンスタートアップ、デザイン思考)
  • 転職に成功したとしたら、どのようなリソースやパートナーが増えるだろうか?(ビジネスモデルキャンバス)
  • 転職に失敗したとしたら、どのようなピボットが考えられるだろうか?(リーンスタートアップ)

これらの問いを考えることは、最新のツールを使ってみたり、スタートアップ風のオフィスに模様替えしたりするよりもきっと多くの気づきがあると思う。こういう取り組みもやっているので、スキルをシフトするスキルにご興味のある方は覗いてみてはどうでしょう?

貧困の撲滅では、繁栄は得られない

Written by 山田 竜也 on 2019-06-03

prosperity ! or poverty …

クリステンセン教授の最新刊「繁栄のパラドクス」が6月21日に出版される。 ビジネスの世界で培ってきたイノベーション理論を国家の繁栄に適用した期待の新刊だ。

ビジネスはもちろん、社会課題の解決に取り組む多くの方に読んでもらいたい。 なぜそう言い切れるか? 繁栄 prosperty と貧困 poverty 、この2つの言葉の捉え方について、少し考えてみたい。

繁栄とは?と改めて聞かれると言葉に窮する。一般的には、医療のレベル、治安の良さ、教育水準等で評価されるが、クリステンセン教授は、より重要な指標として、「そこに住む人たちが生計を立てられる雇用があること、そして、社会が上へと登っていける流動性があること」を加えている。

つまり、繁栄とは、「多くの地域住民が経済的、社会的、政治的な幸福度を向上させていくプロセス」である。

天然資源ばかりに依存して、自らが雇用されるというより外国資本に権利を売り渡して利益を得るのでは、持続可能な豊かさを得られない。住民が生計を立てられる雇用が確保されて初めて、依存から脱して上を目指すことができる。雇用が確保されても、カースト制度の様な人々の動きを固定化する様な慣習や世襲制の独裁政治の中では、社会的、政治的に変化していける流動性がないと、住民の生活は固定され、幸福度は上がらない。

貧困を撲滅して、繁栄を築くには、個別の問題を解決するのではなく、経済的、社会的、政治的な課題を解決するエコシステムを作る必要がある。貧困という問題にだけ着目すると経済的な課題ばかりにフォーカスしてしまう。そして、経済的な課題解決だけでは、繁栄による幸福は得られない。

 

貧困の撲滅 ≠ 繁栄による幸福

「貧困の撲滅?」「繁栄による幸福?」、何を問題と捉えるかによって、ソリューションの限界が自ずと設定されてしまうのだ。

 

この話はビジネスの世界にも当てはまる。多くの企業が自社の製品・サービスの枠の中で事業戦略を立てている。既存の製品・サービスの売上げを拡大するための”事業”戦略だから、ある意味仕方ないのかもしれない。ただし、新しいカテゴリーになりそうな可能性のある新製品・サービスや、全く新しい価値を提供するものまでも、この括りに入れて評価してしまうことには問題がある。

既存の評価指標では新製品・サービスを正しく評価することはできない。繁栄を目指している国への支援のレベルを経済的な指標だけで見てしまうことと同じだ。

 

見方を変えることは現実には意外と難しい。そこで、とても簡単だが有効な手法として、問題をFLIPしてみることをオススメする。FLIPはタフツ大学のポジティブ・デビアンス・イニシアティブ代表のジェリー・スターニン氏が、真に解決すべき問題は何か?を探すために使っていた考え方だ。

ジェリー・スターニン氏 Flipのジェスチャー
写真:デイビット・F・ガッサー

FLIPの例としてマザーテレサの逸話を紹介する。

反戦デモへの参加を求められたマザーテレサは、「それは反戦のためのデモなのですね?」と何度も確認したあとで、「それでは私は参加しません」と答えた。反戦のためなのになぜと不思議がる人々にマザーは答えた。「それが、戦争反対のためのデモならば、私は参加しません。もし、それが平和のための行進であれば、私は喜んで参加します」と。

戦争がないことをゴールにするのでは、外交手段としての”戦争”はなくなるかもしれないが、経済制裁や輸入規制等による国同士の争いは消えない。平和な繁栄を求めるのであれば、平和こそをストレートに願わなければいけないのだ。

社会課題を解くには、繁栄を考える時と同様に、多くのステークホルダーを考えなければいけない。誰かの目線だけでなく、社会全体で持続可能な解決策に繋がる様、FLIPによる問題の再定義が広まることを願う。

世界の人材開発担当にイノベーションはどう捉えられているか(ATD2019ICEより)

Written by 星野 雄一 on 2019-05-27

5月19日から22日にかけて、世界最大の人材開発のカンファレンスである ATD2019ICEがワシントンDCで開催された。米国で毎年行われているカンファレンスであり、今年は世界で13,500人、日本からも227人参加した。4日間掛けて300を超えるセッションがあり、多くは企業人事やトレー二ングに関わるような方々が参加している。今回はこのカンファレンスを通して、イノベーションという文脈で印象に残ったことを記載したい。(ATD2019ICEの全般的な考察は他社がアップすると思うので、そこはお任せする)

まず、3日目の基調講演に登場したセス・ゴーディン氏。マーケティングに関する著作を多数出版している氏は、新興企業の台頭により入れ替わりの激しい現在において、従来のマスを狙った平均値的なプロダクトではなく、オンリーワンを目指さなければ勝ち残れない、“どうしてもそれが欲しい人”に向けた商品開発をすることが重要である。そしてそのような観点でビジネスに取り組める人材が必要だと説いた。まさにジョブを捉えて事業開発をできる人材こそが今、求められているのだとの見解を示していた。そしてそれを阻むのは「誰が責任を取るのだ問題」。この議論が始まると失敗できずイノベーションは起きないとも合わせて伝えている。また、イノベーションを起こすリーダーシップはアートであるとも続ける。ややもするとリーダーに様々なスキルを求めようとするが、原点は"自分がどうしたいか”であり、人としてもオンリーワンであることの重要性を説いている。また行動を起こすための準備を躍起になってやるのではなく、自分がいくところにいく。そのようなマインドセットが人を動かすのだとの熱く説いていた。大変共感できる内容であった一方で、様々な内容を織り交ぜてスピーチしていたため、メッセージの拾い方は人それぞれかもしれない。

 

また数は少ないが、起業家精神やイノベーションのセッションも幾つかあった。その中で、イノベーションDNAの5つのスキルの話が複数のセッションで引用されていたのも印象深い。イノベーターの必要スキルという中で引用先が同じものであるということは標準的に受け入れられる考え方であることの証明であろう。ちなみにど真ん中のタイトルであった「起業家の才能開発」というセッションは日本人が私以外いなかったことが残念である


その他、ラーニングとラーニング技術の展望について語っていたセッションでは、ラーニングやテクノロジーの展望に着目するのではなく、人のLIVEに着目するのだということが主張されていた。ここでもジョブを捉えるというニュアンスが語られており、個々の技術(AI,VR,etc)に関しても、個々の技術が持つ本質的な価値について主張していた。テクノロジーに関しては数年前からも語られているが、参加者同士での会話を鑑みると、まだまだ導入には抵抗感はありそうだ。リテラシーの強化が必要と感じる。

 

なお、カンファレンスに参加する人は企業人事やトレーナーの方が大半であるが、その中で事業開発の分野での人材開発コンサルタントという明らかに異質な私は、名刺交換の際に仕事の話をすると面白がって頂けたようだ。何をしているのか興味深く聞いて頂けるのはありがたいが、企業の中でイノベーションというのはアイデア発想や意識づけといった要素が強く、イントラプレナーの輩出という部分にはまだまだ軸足を置けてないのだろうということでもあり、今後もイントラプレナー輩出に向けた活動を取り組み、企業人事の方が力を入れて取り組めるように尽力していきたいと改めて感じた。