イノベーションをつかさどる8つの原則

Written by 津田 真吾 on 2021-03-23

イノベーションは革新的なこと。
だから、法則や公式、プロセスとは縁遠いと考えがちですが、イノベーションの性質から考えるといくつかの法則は導けることも知られています。
CB Insightsでは、成功するスタートアップを理解する8つの法則を発表しています。どれも興味深い内容ですので、ここでご紹介したいと思います。

1.ムーアの法則
1965年にインテルの共同創業者ゴードン・ムーアがこの有名な法則を予言しました。1つの半導体チップ上のトランジスタ数は18カ月ごとに倍増することをムーアは予測し、そのトレンドは概ね持続していることが知られています。つまり、計算速度は今後も増え、計算に必要なコストは下がり続ける前提が必要ということです。

2.メトカーフの法則
ネットワーク通信の価値は、接続されているシステムのユーザ数の2乗に比例する、という法則。裏を返すと、ある一定の規模を超えないとネットワークにはほぼ価値がない、ということです。この原則を知らないと、プラットフォーム戦略は成功しません。プラットフォームは作るだけでなく「クリティカルマス」とも言われる規模を超えるような規模まで成長させなくてはいけないということです。

3.ゴールの法則
“正常に動作する複雑なシステムは、例外なく正常に動作する単純なシステムから発展したものである。逆もまた真であり、ゼロから作り出された複雑なシステムが正常に動作することはなく、またそれを修正して動作させるようにもできない。正常に動作する単純なシステムから構築を始めなければならない。”
MVPを設計するのもこういう発想ですが、複雑な製品もシンプルな機能に還元して作り始めなくてはいけません。そのシンプルな機能は取りも直さず顧客ジョブを解決するものです。

4.2枚のピザの法則
アマゾンのベゾスが発見したと言われるのがこのピザ2枚ルールです。スタートアップのチームは、ピザ2枚でお腹がいっぱいになる人数を超えてはならない、という法則です。多くの仮説検証を行い続けるチームにとって、密なコミュニケーションと意思や価値観の共有が大切です。6~8人を上限にチーム作りを考えるのがいいでしょう。

5.コンウェイの法則
製品は組織に従う、という法則をソフトウェアエンジニアだったコンウェイが1968年に発表しました。製品構造は無意識的に、組織構造に倣ってしまうということです。アップルのような強いデザイナー兼アーキテクトがいる場合には、非常に統合的で強く閉鎖的な製品構造に、GITHUBはフラットでオープンな組織が自律的に多元的に開発しています。

6.”クソ”クリックスルーの法則
アンドリーセン・ホロウィッツのパートナーであるチェン氏が名付けたこの法則は、どんなマーケティング手法も次第に効果がなくなるというもの。例えば、バナー広告が初登場した1994年には70%以上の効果があったものの、現在は0.05%程度。。。つまり、マーケティング手法は、前に倣えではなく新しい手法を常に試し続ける必要があるということです。

7.ジマーマンの法則
暗号技術で有名なフィル・ジマーマンによる予言。「コンピュータ技術は、人の監視が容易になる方向に発展する」というものです。個人情報などの情報提供に人は不安を感じ、抵抗を感じるものの、結局は便利さと引き換えに個人は情報提供を行っていて、人の行動がより監視しやすくなっていますね。人の自由が増すようにテクノロジーは発展していますが、その自由な行動への監視も高まっているということになります。

8.パレートの法則
売上の8割は全顧客の2割が生み出していたり、一部の社員が大半の売上を立てていたり、ごく一部の部品にコストの大半がかかってしまったり、ということは経験されているのではないでしょうか?
投資の失敗を恐れず、大きな利胆を生むベンチャー投資もパレートの法則に則った投資戦略ですね。


ストーリーテリングとは?

Written by 津田 真吾 on 2021-03-09
(長文ですが、文末にピッチ作成ツールと、ストーリーのフレームワークを公開しています)
目次:
 ストーリーテリングとは何か?
  ビジネスでの活用
 優れたストーリーの作り方
  ピッチ設計表
  ヒーローズ・ジャーニー
 参考書籍

ストーリーテリングとは何か?

Storytelling (ストーリーテリング)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

ストーリーテリングとは、文字通りストーリー(物語) +テリング(語り)という意味で、聴衆に伝わり、動かす物語を語る行為や能力を指します。

近年、ビジネスの文脈でもこの言葉を見聞きすることも増えてきたこともあり、最新手法だと思われるかもしれません。しかし実は、ストーリーテリングはヒトのコミュニケーションとして比較的原始的なものなのです。文字を発明する前の人類は、言葉とジェスチャーだけで「希望」「危険」「妄想」「計画」「友情」「愛」などの抽象的な思いを伝えあっていたのです。脳科学的にも、同じ情報をストーリーの形で受け取るほうが、印象に残り、行動に移しやすいことが分かっています。

現在もストーリーテリングが有効なのは、目に見えない事柄に対して共通理解をしたいときです。ビジネスのスピードが高まり、不十分な情報やあいまいな状況で決断をする必要性も高まっています。確実なのはデータに基づいた判断を行うことですが、タイムリーにデータを収集できるとは限りません。データを集めているうちにタイミングを逃しかねません。そもそも将来に関するデータは存在せず、目に見えない将来の機会や脅威への対応も必要です。ことビジネスの文脈では、社外コミュニケーションではマーケティング・セールス、社内では「機会」と「脅威」を共有する際に最も効果を発揮します。

マーケティング・セールス

まだ購入していない商品を買うことによって、どのように世界が変わるのか?あるいは、まだ姿形もない未来の商品のニーズを把握したり、形のないサービスを売り込むには、ストーリーテリングが重要になります。成功している営業担当者はストーリーテリングと知らずに、顧客を主人公とし、商品購入から顧客が成功する(カスタマーサクセスの)物語を語っているいると言っても過言ではありません。

脅威

脅威を伝える際、例えば小売業にとって「Amazonを筆頭とするインターネット通販業者によって、売り上げは減少する脅威が迫っている」という状況を想像してみましょう。この場合、本当に減少するかどうかを含め、いつ、どのくらい売上が減少するのか、予測するのは不可能です。「データで示せ!」とか「真実を語ろう!」と言っても掛け声で終わります。このように、不確実なことを共有するためには、“そこ”に迫る(であろう)敵や、市場の変化に巻き込まれる前から、切迫した危機感を仲間と共有することが不可欠です。その際、もしそのような敵が登場した際に、どのような未来が想像されるのかを目に見えるように語る必要が出てきます。まるで同じものが目に見えるように語ることで、初めて、不確実な未来に対して確実な戦略を描くことができるのです。

機会

機会についてのストーリーは、難しいことであっても「できそうだ」と、仲間を奮い立たせる力を持ちます。“そこ”に、捕らえるべきチャンスがあり、成功しそうだと皆で思えるような何かを共有できるようになるのがストーリーです。機会の最たるものが、「新規事業」になります。従来の会社の枠を拡げ、新たな事業へと進出したり、会社を興そうとする際にはピッチという形でストーリーを語ることになるでしょう。


優れたストーリーの作り方

効果の高いストーリーのひな形として「ヒーローズ・ジャーニー」と呼ばれているものがあります。世界の神話を研究していたジョセフ・キャンベルは、その研究の結果、語り継がれるストーリーには共通するパターンをあることを発見し、そのパターンを「ヒーローズ・ジャーニー」と呼びます。今では、ハリウッドを目指す脚本家も学ぶほどの一つの体系となっており、大衆に支持される多くの小説や映画は同様のプロットが用いられているのです。ビジネスの文脈では、ピッチのバイブルと呼ばれている『巻き込む力』にも紹介されているように、事業を始めることになった経緯や、顧客の困り、事業成長の道筋などを効果的に伝えるには非常に大きな効果を発揮します。

ヒーローズ・ジャーニーは起承転結や演劇の3幕構成を補完する12のステップで構成されています。聞き手が共感しやすく、応援したくなる物語ですので使わない手はありません。要約すると、普通の日常を暮らす主人公が、目標に出会い、仲間を得ながら成長し、試練を乗り越え帰還する流れとなっています。これはビジネスを語る上でも万能なシナリオです。

新たなビジネス機会を伝えるためのピッチには、10枚構成のスライドもお勧めです。新たな事業の魅力を伝えるストーリーづくりに迷ったなら、『巻き込む力』に紹介されている10枚構成を参考にしてみてください。資金調達に成功した多くのスタートアップもこのスライド構成を用いています。

ストーリーテリングをするうえで、実はパワーポイントによるプレゼンテーションとは大きく異なる点がいくつかあります。プレゼン慣れした人ほど、ストーリーの魅力を下げてしまう可能性があるので、以下の点には注意するとよいでしょう。

  • 主人公を人間として描く  企業内のプレゼンの多くの主語は「企業」や「部署」「ブランド」など、人格を持たないため、共感するのが難しくなります。なるべくあなた自身や、消費者など、顔の見える主語で語ることが大切です。
  • スライド間の流れをつくる  網羅的に事実を述べようとすると、並列的な情報を列挙する傾向になります。短時間で聞き手から関心を勝ち取るには、時間的な流れを語るようにします。
  • マイナスもプラスになる  製品の特長を述べるように、いいことづくめのプレゼンは退屈にもなります。ところが過去の欠点をどのように乗り越えたのか、など「成長」を要素にストーリーに織り込みます。

ヒーローズ・ジャーニーの12のステップをご紹介する前に、プレゼンテーションのストーリー性を高める簡単なツールをご紹介します。スライドを書き始める前に、このピッチ設計表を埋めることで、ストーリーラインを検証し、補強できる情報を整理することができます。どうしてもスライドは情報過多になりがちで、ストーリー性が低下してしまう傾向にあるため、ストーリーを改めて検証することが大事になります。さらに、「1スライド1メッセージの原則」にも注意し、シンプルなメッセージを繋げることで、印象に残る、インパクトのあるピッチをすることができます。

ピッチ作成上の注意点なども記載されたスプレッドシートも公開していますので、ぜひご活用ください。

ヒーローズ・ジャーニーの12ステップもこちらにご紹介しておきます。

ヒーローズ・ジャーニー
出典:『巻き込む力』

参考書籍

『巻き込む力 支援を勝ち取る起業ストーリー』(エヴァン・ベアー 、 エヴァン・ルーミス)
『神話の力』(ジョーゼフ・キャンベル)

スティーブ・ジョブズの伝説的スピーチはストーリーテリングの代表的な事例ですので、最後にご紹介します。

ストーリーから始める新規事業開発

Written by 山田 竜也 on 2021-02-22
 
 
  • 「自身の思い、その基となった原体験」
  • 「新しい事業を起こして自分が助けたい人、その人たちがどの様に困っているか、その窮状」
  • 「そして、その窮状を発生させる環境要因となっている、会社や業界、そして社会の不の部分」
先ずは、この3つを描いてみよう。そして、自分の言葉で語れるストーリーを作る事で、聞き手を動かす熱量が生まれる。

新規事業のアイデアを経営層や投資家に伝えるためのピッチづくりを支援していて、改めて思った事がある。ピッチの型として書籍「巻き込む力」で示している10枚のスライド構成は、聞き手にとって非常に分かり易く必要十分なポイントが網羅されている。

この同じフォーマットを使っていても、話し手によって大きく印象は異なる。もちろん、話し手たる起業家自身の熱量による部分が大きいのだが、その熱量を上手く載せられている場合とそうでない場合がある。

それはストーリーが語られているかどうかだ。
  • 既存事業の説明では、データや事実に基づく、正確さが重視される。
  • 新規事業の提案では、尤もらしい仮説や背景情報に基づく納得感が重視される。

こうしたことは既に言われている事だが、特に企業内で新規事業に取り組む人にとっては、普段の業務と思考を変える必要、周囲の反応とのギャップもあり、納得感を出すことに苦労している様に見える。
ここではもう少し、納得感の元について考えてみたい。

聞き手の期待に応えようとし過ぎると、会社の次の柱に育ちそうか?、有望な投資機会になりそうか?といった視点に気を取られてしまうが、これには新規事業開発のステージをある程度進んだ上でないと答えられない。

こうした成長ストーリーを語る前に語って欲しいのが、原体験ストーリー、顧客ストーリー、業界ストーリーの3つだ。

それぞれのストーリーは冒頭に載せた絵と対応している。

  • 原体験ストーリーとは、なぜ自分がこのテーマに本気で取り組んでいるかを示すもの
  • 顧客ストーリーとは、助けたい顧客の窮状を第三者が共感できるぐらいに語るもの
  • 業界ストーリーとは、その業界や社会における不の構造、変革する事により大きな改善が見込めることを示すもの

原体験ストーリーばかりを熱く語っても、そこに、助けたい顧客の姿や、顧客の負が生まれる背景が無いと青臭い理想論だけを唱えている様にしか聞こえない。社会課題の解決だけを唱えても、大きなビジョンは示せても、そこへの具体的な道や具体的なテーマが無ければ机上の空論にしか見えない。

個人の独立起業だけであれば、原体験ストーリーだけでも突破できるかもしてないが、事業を起こして、社会へのインパクトを出していくには、3つ揃う事が必須となる。

原体験ストーリーは、良いスターティングポイントとなる。そこには純粋な思いもあれば、もう少し利己的な野心もあるだろう、何れにせよ、熱量を生む動機をそこで示す事で聞き手に本気度合いが伝わる。

顧客ストーリーは、自分がどれだけターゲット顧客の事を直接知っているかを示すものだ。どれだけ多くの現場を訪れたか、インタビューを行ったか、そして、多くのターゲット顧客との出会いで自分がどう変わってきたか、どんな確信を持つに至ったか、何を使命として捉えているかを示すことにもなる。原体験ストーリーに顧客ストーリーが重なる事で、自分の原体験が多くの人にとっての共通体験であり、課題の重要性を示すことができる。

業界ストーリーは、自分の思いを遂げ、助けたい人の窮状を解決するために、どうアプローチすれば良いのか、窮状が発生する背景、そこで働いている力学、変えられるもの・変えられないもの等を理解している事を示すものだ。ここでは熱いハートだけでなく、クレバーでクールなブレインを示す必要がある。
特にB2Bに絡むビジネスではこの部分が非常に重要になる。個人の感情的な満足だけでは済まされない、業界や社会の合理的な判断、経済性に対して、受け入れられる解を示せるかが求められる。

この3つをストーリーとして繋ぐ事が出来れば、ファーストバージョンのピッチのプロットは完成だ。

次は、ストーリーのシーンとなる要素としてのスライドを1つのスライドに1つのメッセージを込めながら作る。

そして、もちろん、スライドのテクニカルな面も忘れずに、フォントは18pt以上、文字よりもビジュアルで訴えかける、・・・。ストーリーさえしっかりしていれば、その後のスライド作成のディレクションが定まり必要なビジュアルやキーワードも頭に浮かびやすくなる。

ついつい情報を用意してスライドを作ることに走ってしまいがちだが、急がば回れでストーリーから初めて欲しい。そうすれば、綺麗でよく整理されているけど、イマイチ響かない・・・という寂しい状況を減らせるだろう。

スタートアップにとって特許とは何か?

Written by 津田 真吾 on 2021-02-03

スタートアップには独自技術、特に特許になるような技術がないと勝負にならない、という説を唱える人は少なくありません。さらに、その優位性を守るための「特許による参入障壁構築」が不可欠だと考えられています。

現実問題としてリソースの少ないスタートアップには、念入りな特許戦略を実行するのは難しいです。知財管理のコスト負担が足かせとなって、「特許での参入障壁構築」が理想通り進まないフラストレーションをためている方も多く、「特許による参入障壁構築」を叫ぶ声が大きくなっているように感じます。

しかし一方で、スタートアップには特許など必要ない。という主張をするグループも存在します。その主な主張はビジネスモデルの検証、つまり顧客の獲得こそがスタートアップの役割であるというものです。リーンスタートアップで有名なスティーブ・ブランクによれば、スタートアップとは「再現性があり拡張性のあるビジネスモデルを探すために作られる一時的な組織」と定義されているように、市場の獲得がスタートアップの命題です。そう考えると「特許」にはそこまでの必然性がなさそうですが、この論争はどのように決着をつけられるのでしょうか?

一般論は成立しない

特許取得はスタートアップの成功になくてはならないものなのでしょうか?

この問いかけについて、すっきりと決着のついた議論を聞いたことはありません。色々な専門家や経験者の意見はあまりにも割れています。割れているといっても、一定のパターンがあるのも事実です。例えば、特許を非常に重視する種類の方は:

  • 弁理士・知財弁護士
  • 製薬もしくはバイオ業界
  • 化学・医学の研究者もしくは経験者
  • スタートアップの投資やM&Aを行っている事業会社の担当

他方の軽視する人たちは:

  • ソフトウェア関係者
  • 小売業・商社・エネルギーなどの業界

残りの以下のような人たちは、答えに悩んでいるか、確信を持てないか立場が曖昧です:

  • スタートアップ創業者
  • ベンチャーキャピタル

こういうパターンを並べていくと、特許を重視するのは(1)ノウハウを知財化するサービスを展開しているか(2)単一の特許が大きな価値を持つものとして取引を行っているか(3)スタートアップの技術的資源を手にしたい、人たちだと言えそうです。共通しているのは「特許を取引したい人」です。

知財の意義

さて、私はどちらの派閥に存在するか、明確なポジションをお示ししたいのですが、簡単ではありません。特許を複数出願し保有していますし、日本ライセンス協会という知財の有効活用を促進する団体で理事を務めています。こういう立場からすると、特許重視派に入ると思います。しかし、下記の理由から特許は最優先事項でもないと考えています。

  1. 特許は取得しただけでは価値がない
  2. 特許侵害は発見しにくい
  3. 特許侵害を発見しても、止めさせるのはもっと大変

裏を返せば、特許がとても重要になるのは、「特許を取得すること自体が重要である」「特許を侵害されたらすぐにわかる」「差し止めがしやすい」場合になるということです。

1.特許がそのまま単独で価値を持つ

ライセンス販売そのものがビジネスモデルであるケースなど、発明した知識自体をビジネスの対象とする場合は、特許は不可欠だと言わざるを得ません。極端な例では、技術を開発し、即会社ごと売却したいときなども特許は必要です。発明に関するノウハウが発明者の脳にしかなければ、買収しようにも発明者が辞めてしまえば使い物にならないからです。このような場合は、新規性がありつつも、転売可能な再現性を保有していることを権威づけるために特許取得は不可欠です。

ライセンシングやM&Aを目指していなくても、製薬・化学・素材など伝統的に特許を重視する業界とのビジネスが期待できる場合にも特許は有効に働きます。特許を直接売り買いしなくても「独自技術を持っている会社」として認知してもらうのに一役を買うでしょう。

2.発見しやすい特許

発明したアイデアを他社が使っていたとしても、マネされたかどうかを判別するのは案外難しいものです。すべての新商品をウォッチし続けることも、類似商品が存在したとして、明確に特許侵害の証拠をつかむことは容易ではありません。

もし発明が、外見からとりわけ明確に判別しやすいものであれば、その強制力は大きくなります。発明者の権利を主張しやすいものが特許出願の意味を持ってきます。

3.規制しやすい技術

他社の特許侵害を発見したとしても、その先も大変です。

当局に訴え、規制してもらわないといけません。もし、生産や販売が海外で行われたりすると、その手続きはやっかいです。特許侵害の裁判には多くの年月がかかり、その間にも競合は販売を続けるでしょう。勝訴したとしても、市場で負けていれば敵の得た利益の一部をランセンス費用としてもらえる程度。特許で勝ったとしてもビジネスでは負けと言わざるを得ません。

元々規制の多い医薬品業界であれば話は別です。特許侵害に対する制裁もはっきりしてくるでしょう。

知財は副産物

YCombinator のポール・グレアムは自身のエッセイにて、特許取得に対するアドバイスは難しい、と述べています。ソフトウェアエンジニアのカルチャーにはソフトウェア特許は「悪」だという評判がある一方で、M&Aを視野にいれると、買い手企業の目線から特許は大事だと説明しています。特許以前に、優れた商品を開発し、多くの顧客を作り出せれば、の話だと彼も断っていますが。

このように、特許の重要性は時と場合による、としか言えないかもしれませんが、一つ重要な問いがいつも抜けている気がします。

果たして、その発明は重大な意味を持つのだろうか?

知財戦略も、そこから生まれた特許、その権利など付随する諸々のものは、最初の発明を超えることはありません。もし優れた発明を持っているなら、そこから派生した知財戦略やライセンシングなど、打ち手が広がります。逆に言えば、特徴あるサービスを作り出せた企業には必ず偉大な工夫が含まれています。創業者が当然のように行った工夫を、話を聞く中で見出し、知財化したことも少なくありません。なので、特許はあくまでも副産物として、特許重視ではなく発明重視で考えてはいかがでしょうか。

NUS GRIP LIFT-OFF DAYに見た 展示会の未来

Written by 山田 竜也 on 2020-12-18

 

 

NUS(シンガポール国立大学)はアジアで最も高い評価を受けている大学です。NUS GRIP(NUS Graduate Research Innovation Programme)は2018年に開始され、NUS大学院の学生や研究者にステップバイステップの指導を提供し、大学の世界的な研究を自分たちのディープテクノロジーのスタートアップに変えるためのディープテック起業家を育成しているプログラムです。

2020年12月16日にそのショーケースとしてLIFT-PFF DAYが開催され18チームが1分間のピッチを行いました。ディープテック分野なので、どのチームも特徴的なテクノロジーをベースにしていますが、アプリケーションの分野は「SCPSCAN : 業務用空調システムの診断ソフトウェア」「FACI-FI : クリエイティブ・アニメーション・ビジネスの民主化」「hiomi : オンライン上の危険から幼い子供たちを守る」と様々でした。

こうした多様性がありながらも、どのピッチもとても分かり易いものでした。各チームのピッチは以下から見られます。
https://www.gripliftoff2020.sg/teams/index.html

ピッチの構成に統一感があるのは、勿論ですが、動画としても作り込まれていて、構成とストーリーテリングの両面で完成度が高いものでした。
当日は全チームがオンラインでのライブの1分ピッチを行ったのですが、その運営自体は動画の完成度と比べるとラフな印象で、音声が出ないといったトラブルも交えつつ、良い意味でライブ感を楽しめるものでした。

 

私自身の体験としてはこんな感じです。

  • ティーザー広告としての1分間ピッチでライブ感とプレゼンターの人柄を感じる。
  • そこから興味のあるチームの各ブースへ行くと、完成度の高い動画に出会う。
  • 動画を再生するとチャットが自動で立ち上がり、軽い挨拶からコミュニケーションを促される。
  • カジュアルな会話から、オンライン面談の予約となる。
  • 予約時間に改めて(ここで本当の意味での初対面)となり、既に前提も共有されている中で、改めてプレゼンターや共同創業メンバーの人柄を感じながら、少し突っ込んだ話をし、コンタクト情報を交換し、次のアクションを決める。

 

この一連の体験は、広い会場を足を棒にして周り、説明を聞こうと思ってブースに立ち寄ると説明員が不在で、代理の人の説明は不十分で・・・という展示会あるあるに比べると非常に心地良いものでした。

 

改めて心地良さの理由を考えると以下の3つが思い当たります。

  • 完成度の高い動画&ブース(webサイト)
  • 相手の人柄を感じられるライブでのピッチ
  • 周りに気を使わないクローズドな空間での面談(VIPの面談室?)

 

これまでの展示会は、ある意味、イベントとしての意味合いが強く、ともすると出展している側のお祭りであったような気がします。
毎年参加し続ける事で業界でのポジションを示すという目的もありますし、真剣な商談に繋げるべく努力はしているのですが、それ以上に、会場の設置やロジ周りに多大な労力を割いていたのではないでしょうか。そして、その割に、完成度の高いメッセージを伝える事も、名刺交換だけでない関係性を築く事も出来ていなかったのでは。

 

コロナ禍で、これまでとは違うやり方を強いられていますが、それによって初めて、これまでのやり方の非合理と、試していなかったやり方の良さに気付けました。これはまさに不幸中の幸いです。

ニューノーマルというと新しい何かに置き換わるようですが、実際はこれまでとこれからのハイブリッド化が進んで行くことが多そうです。リモートワーク で対面のありがたみ、対面でしか出来ないことが浮き彫りになった様に、会場の熱気を味わえる現地での展示会とオンラインでのスマートな展示会が入り混じった姿が数年後には当たり前の姿になっているでしょう。