もっと効果的な研修を行うために、バズワードに惑わされずに本質を考える

Written by 山田 竜也 on 2019-12-30

もっと効果的な研修を行うためには?

結論から言えば、組織の戦略に必要な人材像を定義し、その人達がパフォーマンスを発揮するために取るべき行動を定義し、その行動を行うために必要な知識やスキルを習得する機会と環境としての研修を提供すれば良い。

研修としてはここまでかもしれないが、習得後に取るべき行動を取り、実際にパフォーマンスが上がったかを評価し、学習プロセスを改善していく必要もある。また、そもそも知識やスキルの習得が先か、先ずは行動の実践が先か、泳ぎ方を教えるか、プールに投げ込むか(適切な安全管理の下で)のアプローチの違いもある。

そもそも研修とは?という所から整理して、もっとも普及している研修の評価方法や最近のトレンドから、より効果的な研修を行う方法を考えてみたい。

 

そもそも研修とは?

”研修”という言葉から何を想起するかは様々だ。いわゆる座学のザ・トラディショナルな研修もあれば、グループワーク中心で進めていくもの、オンラインとオフラインを混ぜたもの、プロジェクトベースで進めるもの、そして、最近では脳科学、ビッグデータ、AIと手段の側からもバズワードが飛び交い、より全体像を分かりにくくしている。

そもそも研修という言葉の語源は、研究と修養から来ている。らしい。
・研究とは「物事を学問的に深く考え、調べ、明らかにすること。」
・修養とは「徳性をみがき、人格を高めること。」

こうして見ると、研修という言葉そのものには「誰かが何かを教える」という要素は含まれていない。むしろ「自分が主体となって自らを磨いていく」というニュアンスが強い。

一方、研修を英語に訳すとトレーニングとなるが、上記の日本語の定義とは違和感がある。トレーニングには冒頭の写真の様に、「誰かに、鍛えられる、仕込まれる」というニュアンスが強く、こうしたトレーニングの場に飛び込むのは自分の意思かもしれないが、その場で行なっている事は自発的には見えない。

 

トレーニング vs ラーニング

トレーニングと対比される言葉としてラーニングがある。
・トレーニングは誰かに指導されるもの
・ラーニングは自らが考え主体となって行うもの

言葉の定義としてはラーニングの方が研修にあっている気がするが、ラーニングは学習と訳される。学習の定義はというと、「知識、行動、スキル(能力)、価値観、選考(好き嫌い)を、新しく獲得したり、修正することである。生理学や心理学においては、経験によって動物(人間を含め)の行動が変容することを指す。繰り返し行う学習を練習(れんしゅう)という。」Wikipedia

 

ここで、やっと”行動が変容する”という所に辿り着く。研修を企画する際に、言葉の定義から始めていては中身に辿り着かないので、先人達の知恵を借りることにする。

 

カークパトリックの4レベル

1959年にアメリカの経営学者のカークパトリック博士が提案した教育の評価法のモデルで、カークパトリックの4段階評価法として世界的に定着している。

・レベル1:Reaction(反応)
アンケート調査などによる学習者の研修に対する満足度の評価

・レベル2:Learning(学習)
筆記試験やレポート等による学習者の学習到達度の評価

・レベル3:Behavior(行動)
学習者自身へのインタビューや他者評価による行動変容の評価

・レベル4:Results(業績)
研修受講による学習者や職場の業績向上度合いの評価

 

この4段階は個人的にも納得感があるが、レベル4を実現できている企業にはほとんど出会った事がない。また、この評価方法および実態としてレベル4までを評価できていない事が、”研修は研修に過ぎない、業績には役立たない”という印象を生んでいる気もする。

自分自身、単なる研修と言われない研修を目指して、参加者の実務と直結させる子を心掛けているが、実務をテーマにプロジェクトベースの建てつけで行なっても、依頼主や参加者のレベル1:Reaction(反応)を最大化する事には繋がるが、レベル2,3,4までを事前にデザインできたケースは少ない。
研修実施後に機会を得て、数年経っても実践し続けていたり、プロセスとして組織に定着しているのを見るのはとても嬉しい瞬間だ。

 

HRBPという追い風

HRBP(HRビジネスパートナー)という言葉もだいぶ浸透して来た気がする。今年参加したSHRM2019でも、How to Be a Better Business Partner “You are a business professional who have expertise in HR.”と言ったメッセージが実践のためのガイドラインと共に打ち出されていた。

研修の効果が業績向上に繋がるようにするには、そもそも研修をその様に設計しておく必要がある。これをやるにはビジネスに求められる要件を人材要件に変換する事ができるプロフェッショナルが必要になる。

日本の人事担当者は他部門も経験している人が多い、人事専門家が育ち難いというマイナス面もあるが、事業に貢献できる人材を定義するには都合が良い。何れにせよ、研修企画者が全てを行う事は出来ないので、事業部の適切な巻き込みが鍵となる。

 

テクノロジーによる追い風

カークパトリックのレベル3,4は測定の手間が問題だった。しかし、レベル4から逆算してKPI(Key Performance Indicator)をブレイクダウンしていけば目標値の設定は可能だし、それに必要な行動指標も定義できる。行動の測定も主観的な自己申告から客観的な行動実績に変える事ができる。日々の報告から解放される被測定者に取っても朗報になり得る。

また、その手前のレベル2の学習到達度に関しても、エビングハウスの忘却曲線を逆手に取って、効果的なタイミングでリマインドを促したり、AIボットで実践結果に応じた取るべき行動のリコメンド等も可能になる。

測定と強化の両方でテクノロジーは大きな可能性を秘めている。全員に人間のコーチを雇う事は出来なくても、ロボットコーチなら全員に平等に提供可能かもしれない。参加者を増やしたいが費用が足りないという問題からも解放される。

 

カークパトリックの新4レベル

全ての動きは繋がっている。2016年にはカークパトリックの「新4レベル」を解説したKirkpatrick’s Four Levels of Training Evaluation (2016)が出版された。
HRBPの流れと呼応し「レベル1,2を中心としたこれまでの研修効果測定をやめ、新しい4レベルのプロセスで結果を出し、戦略実行に貢献するビジネスパートナーを目指そう」というメッセージが打ち出された。
具体的には、「レベル4→レベル3→レベル2→レベル1」という順番で設計する重要性を強調している。経営者から見れば当たり前の事かもしれないが、この順番の変更には大きな意味があるし、実現には様々なハードルがある。

 

それでも、流れは変わりつつある!?

人材を人財として活かしたいという要求が高まり、研修を単なるきっかけに終わらせないためのテクノロジーによる支援が可能になって来ている。
マスマーケット向けに大量の商品を均一に送り出すためのトレーニングが工場を中心に成果をあげたが、大量生産消費の世界から持続可能性とバランスを考える時代に求められるトレーニングは当然変わっていく必要がある。テクノロジーを前提とする時代には、研修自体もテクノロジーを取り込んでいく必要がある。

研修の目的を明確に定め、レベル4から設計し、批判を恐れずに、従来の枠から出て色々試していけば、かなり面白い事ができるはず!

折れないメンタルの作り方 テクノロジーと共存する未来に備えるために

Written by 津嶋 辰郎 on 2019-12-16

WHOが発表している報告によると、


うつ病の人は2015年時点の世界総数推計で3億2,200万人に達し、05年比で18%以上増加した。


との事である。恐らくこういう統計データの数字以上に、昨今メンタルの不具合を訴える人を身近に感じているのではないだろうか。


私は現在、企業の経営者、新規事業立ち上げのコンサルタント、研究開発型スタートアップの支援者、エンジェル投資家、プロトライアスリートの支援者、全国トップを目指す人力飛行機クラブの創設OB、全国トップを目指す少年剣道の指導者補佐?!として、日常生活の中で普通以上にストレスを感じているであろう老若男女と過ごしている。

自分自身としても過去に異なる3種目において日本一を目指して戦い、運が良いことに達成することができた。ただ思い返すとどのチャレンジにおいてもメンバーのメンタルという側面では、改善の余地が多いにあると反省しつつ現在の取り組みに活かしている

 

本ブログでは、その取り組みにの中で今感じている最も重要な事をシンプルな図式で表現してみようと思う。


今回取り上げたメンタルの不具合という問題は、心が折れるとか心が病むとか表現されるように、定量的な状態量の計測が難ししく、かつ外部から観察が難しい”心”という存在に起因している。さらに、その不具合の原因も”ストレス”というというこれまた定量的な計測や絶対値の定義が難しいものによることが、問題をよりいっそう複雑にしている。


しかし、現実に目を向けると客観的に見ても明らかに、毎日非常に高いストレスにさらされながらも、高い目標に取り組み結果それを達成している人々も数多く存在すのではないだろうか。こういう現実からは、そうしたチャレンジに取り組むことができる先天的に、または後天的に身につけた、ストレスを回避できる特殊な能力でもあるのだろうか?またはどんなストレスにも耐えられる強い心というものがあるのだろうか?と考えたくなる。


先に自分の考えを述べると、これは特殊な能力でも心そのものの力によるものではなく、


社会と自分を繋ぐ関係性の違いである

そのことを極めてシンプルな不等号の図式で示すと下記である。


自分自身が心から望んでいるありたい姿 > 社会や周囲からの期待


この関係性が成り立っている元での仕事、スポーツ、その他日常生活におけるチャレンジは、ストレスで潰れたり、心が折れたりすることはない。

逆に、

自分自身が心から望んでいるありたい姿 < 社会や周囲からの期待


この関係性になっている取り組みは、どんなに一般的にレベルが低いチャレンジと考えられる取り組みであっても、いとも簡単にストレスは我々の心を蝕んでいく・・・。こう考えると心に起こっている現象は、非常にシンプルである。


この話を前述した日本を初めとする先進国におけるメンタルヘルスの問題原因の考察に当てはめて考えると、現状はこう表現できる。

多くの企業の置かれた競争環境が厳しくなる影響で、経営者そして管理職が社員に、より高い期待を要求せざるを得なくなった。さらに業績向上のために効率化、定型化された業務環境によって、多くの社員が自分自身としてのありたい姿を描けなくなってしまった。その結果、伝統的な企業に属する会社員はストレスを感じ続けながら業務に向き合う事になっている。

一方、自分も含めたオジサン世代が、今考えるブラック企業の環境でも潰れずやってこれた理由は、世代総じて心が強いわけでは無く、この不等号が左に開いていた環境下で仕事に取り組む事ができていたからだと考えるとシンプルに理解できるのではないだろうか。


そして人生経験として成功体験の積み上げは、結果的に左辺のありたい姿をどんどん高いレベルに押し上げてくれる。


自分自身が心から望んでいるありたい姿 >> 社会や周囲からの期待


だからこそ難題に取り組める起業家やトップアスリートなどは、一般人からしたら全く考えられないような、チャレンジをしていたとしても、本人はそれほどまで、いわゆるストレスは感じていないのである。


ここから学ぶべき最も重要な教訓は、この図式のバランスを崩さない限り、人間は誰しも前向きにチャレンジをすることができる能力を持っているということである。

もしあなたが現在の取り組みに何か継続的にストレスを感じているならば、このバランスが崩れていると考えて、現状を見つめ直してみてはどうだろか?

その状況を冷静に把握することができれば、修正は可能である。私の経験上、多くの場合は自分が望んでいるありたい姿を背伸びしているか、本当はそこまで本気でやりたいと思っていないということが原因であることが多い。この事実は、自分のプライドさえ邪魔しなければ、自分自身で修正することができる問題である。


こう考えると我々自身がプロアクティブにこれからくるであろう未来社会において、ストレス無く過ごすために取れる選択肢は2つしかない。それは、


 ・社会や周囲が求める以上のあるべき姿を描いて取り組むこと


 ・社会や周囲からの期待が自分のあるべき姿より低い場所で過ごすこと


前者は勿論のこと、後者も一見非常に難しいようにも思われる。ただ今世の中を騒がせている、グローバル化、ダイバーシティー、ITテクノロジー・・・の流れは、先進国に暮らす人々にとっては新たなライフスタイルの選択肢を与えてくれつつある。自分が求める要件を満たしてくれる、国や地域などの生活する場所、そして仕事や趣味のコミュニティーを見つけ出し、そこに移ることが容易になっていく。


これも20世紀の様々なテクノロジーの進歩は多くの人々から衣食住の不安から解消してくれた。一方、それによって日常生活の活動において、前述の図式のバランスを崩し、我々は”心”という新しい課題に直面している。

この心の問題は、テクノロジーと共存していく未来社会にとって・・・特に今の子供達の備えとして、幼少期の過ごし方から準備を進めておいても遅くない要素だと考えている。 ブログ故にかなりざっくりとした内容であるが、何かの切っ掛けにしてただければ幸いある。

「直感」と「思いつき」は似てるけど結構違うっていう話

Written by 津田 真吾 on 2019-12-01

ファスト&スローという話を聞いたことがあるでしょうか?

ノーベル経済学賞を受賞したカーネマンによると、人間には「早い思考」(システム1)と「遅い思考」(システム2)の2つの考えるプロセスがあるといいます。システム1は日常的に私たちが意識せずに使っている思考プロセスです。考えるエネルギーをかけずに、反射的に、効率的に判断を次々と行うことができる仕組みであり、ヒューリスティックスともいいます。あまり普段は意識することがありませんが、過去の経験から学んだことを「感覚的に考えている」のがシステム1です。そのため、バイアスを孕んでいて間違うことも多いし、テレビコマーシャルなどはこの効果を悪用利用して必要のないモノを売りつけようと絶えずしています。

「遅い思考」であるシステム2は論理的で定量的です。ただし欠点は、「遅い」ということと「疲れる」ということです。人間の脳は大量のエネルギーを消費し、やっと考えることができる臓器であるため、滅多なことでは起動せず、バックアップシステムとして控えているのがシステム2です。

システム1とシステム2についてはこちらのサイトが分かりやすく解説しています。

私たちは、ビジネスの現場でシステム1とシステム2のどちらをメインに使っているでしょうか?

仕事は「考えて」やるものだから、システム2を主に使っていると思いがちですが、実はシステム1で処理していることが大半です。仕事を始めたころは不慣れで、一つ一つ手順を考えながら進めることが多いものですが、慣れてくると「考えずに」できるようになりませんか?それはまさに経験が手順化され、反射的に効率的に仕事ができるようになっているのです。

アイデア着想はどっちのシステムを使うのか?

新規事業に取り組む際には、ビジネスアイデアそのものはもちろんのこと、仮説検証の方法や、顧客の探し方や、プロモーションの仕方など、数多くの優れたアイデアが必要になります。このような決まった法則など少ないアイデアを出すときには、じっくり考えることも難しく、システム1を多用することになります。ましては、時間を競い、情報や資源が足りないなかで、走りながら考えるとなると、ファストなシステム1が重要になります。

一般にもアイデアとは「ひらめき」という一瞬の電気信号であると思われています。そのためアイデアにひらめくときというのはシステム1と認識されているのではないでしょうか。そもそもじっくり考えるほどの時間的な猶予がなかったり、データもないまま決める必要があります。既存事業であれば、戦略を決めるために調査を行って、分析を行って…といったシステム2に頼ることも可能ですが、新規事業においてはそんな贅沢は許されません。

要するに、走りながら考えないといけない新規事業を進めていくにあたって、

“システム1の精度、つまり直感を磨くことはイノベーションの成否に大きく関与するのでは?”

との考えに至りました。

では、「直感を磨く」ということはどういうことでしょう?

簡単にいうと、システム1の思考が未熟なときは、着想は単なる「思いつき」でしかありません。 最も代表的なのは、「それまでのやり方をそのまんま踏襲する」ものです。もちろん、意識的に着想しているわけではありませんが、新しい課題に対してシステム1に委ねるというのは、デフォルトの着想として効率的なやり方になります。しかし、それまで取り組んだことのない新しい課題であるにも関わらず、古い課題と同じように(例えば綿密に計画を立てようとしたり、PDCAを回そうとしたり)取り組むことは致命的になることになるでしょう。他には、その日たまたま見たニュース番組で紹介されていたブームに乗っかったビジネスを考えるといったものも「思いつき」です。

磨かれた直感は「思いつき」を超え、ロジックを伴います。直感とロジックは一見矛盾しますが、システム1は経験でできているので、関連する経験が豊富であれば咄嗟に引き出せる引き出しも増え、直観的に出した結論も論理的に説明が可能になるのです。

例えば、Amazonの創業者であるベゾスは、インターネット利用が年率2300%と桁違いであることを知り、インターネット通販会社を起業することを決めました。そもそも、他のさまざまなものの成長率を見ていなければ、この2300%という数字がどれだけ凄いのかを判断することはできません。ヘッジファンドに勤めていたベゾスには、きちんと直感的に判断する素地があったのです。そのような素地がなければ、2300%を見たとしても素通りさせてしまったりするかもしれませんね。

自分の経験からも、ひらめきの質を高めたり、直観を磨く上で、訓練は役に立つのではないかと思います。しかもその訓練は、アイデアを沢山「思いつく」訓練よりも、周辺の事実や状況を沢山観察したり体験することの方が役に立つはずです。

ベテラン看護師は、なぜ気が利くのか?

Written by 山田 竜也 on 2019-10-21

気が利く人、気が利かない人

 

気が利く人、気が利かない人、いますよね。
では、”気が利く”って何なのでしょうか?

普段この言葉を使うシーンとしては、仕事の場面での顧客や上司への対応、パーティーでの振る舞い、日頃のちょっとした気遣いが浮かぶと思います。これだけだと何だかホスピタリティ、お・も・て・な・し、と同じにも捉えられるのですが、もう少し違う要素が含まれているのではないでしょうか。

最近、思いがけず、入院病棟での看護師さんの振舞いを長く観察する機会を得ました。そこで、新人からベテランまでの看護師さんを見て、お話を聞いて、見えてきた”気が利く”を自分なりに言葉に落としてみたいと思います。

”気が利く”の一つの要素は、目の前の相手への配慮にあると思います。ググるとこんな言葉が出てきました。
「気が利く人」に共通する7つの特徴
   1.挨拶・感謝・お礼を大切にする。
  2.場を読み、全体を見渡す。
  3.人が嫌がりそうなことを率先してやる。
  4.思い込みで行動しない。
  5.「お先にどうぞ」。人に譲れる。
  6.「気配り」を相手に気付かせない。
  7.「あえて何もせず、見守る」ができる。
  (https://tabi-labo.com/220714/sensible-ppl-chara)

”目の前の相手への配慮”と言う言葉では、確かにこうした要素で言い表せているかもしれません。
でも、これだけでは何か足りない気がします。

 

目の前の人への配慮だけでは何が足りないか?

 

例えば、仕事帰り、軽い気持ちで検査結果を聞きに病院に行ったら、
「即入院してください、手術します。」
とお医者さんに真顔できっぱり言われました。
どんな気持ちがすると思いますか?

明日の仕事の予定、家族の事、会社の同僚の事、しばらく会っていない両親、誰に何を伝えよう?そもそも直ぐ手術って?と頭の中は混乱し不安が駆け巡ります。

こんな時、目の前の相手へ寄り添ってあげるだけで不安は解消されるでしょうか?
どうしたら、この不安から救い出し、導いてあげることが出来るでしょうか?

 

ベテランの看護師さんの対応に、すごく感動したことがあったので、思わず、「どうして、そんなに気の利いた対応ができるのですか?」と聞いた時、その答えを得た気がしました。彼女の言葉はこうでした。

 

「私たちは、今の患者さんがどういう状態にあるかを、しっかり申し送りして共有して理解します。身体の状態はもちろん、どんな気持ちか、何を言っていたか、ご家族はお見舞いに来ていたか、仕事の復帰を焦っていたか、等。そして、もう一つ、これからどんな治療が行われるのか、先生がどんな方針を立てているのか、退院までの計画はどうなっているのか。今の状態、今後の方針の2つから、今日は何をどんな順番で行えば一番いいかを考えているんです。」

 

今の患者さんに寄り添う看護師さん、そして、患者さんを快方に向かわせるために方針を立てる医師、この2つが入院患者の不安を取り除いているのだな、と実感した瞬間でした。

 

敢えて言語化すると、突然、普段と違う環境に投げ込まれた人の不安を取り除くには2つの要素が必要と言えそうです。

今の目の前の相手に寄り添い理解する力 x 未来の相手の状態を示し希望を与える力

 

実はこの2つの要素は、企業で新規事業開発に放り込まれた人を導く時にも必要な視点です。緊急入院とは異なるかもしれませんが、普段と違う場所に放り込まれて、勝手も分からず不安という意味では、かなり似ている部分があると思います。

新規事業開発であれば、
 ・今のその会社の状況は?
 ・担当者の経験値や状況は?
 ・これまでに染み付いた習慣や文化は?
を理解しながら、
そこをスタート地点として、未来のありたい姿に持っていくには、
 ・どのぐらいストレッチさせられるのか?
 ・そもそも目標をどのぐらいに置くべきなのか?
こうした事を考えながら、ベストな着地点をクライアントと一緒に見つけていきます。

今のその会社に寄り添う、未来を指し示すという点では、まさに、看護師と医師の二役が必要を使い分けながらの仕事になります。

 

では、この”気が利く力”はどうすれば高められるのでしょうか?

 

看護師さんと言えども、流石に新人さんは自分のことに精一杯で、今の状態と今後の方針から、先回りして”気が利く力”を発揮するどころか、周りが見えていないこともありそうでした、
心も身体も病んでいる状態の人たちばかりの空間に社会人としていきなり立たされるのですから無理もないと思います。勤務中はいつ患者さんに呼び出されるかもしれません。不安な状態にある患者さんは、普段よりもセンシティブで我儘になっている。しっかりとした技術を求められる上に、接客業としてのヒューマンタッチな振る舞いも求められる職場です。日々現場でフィードバックが受けられる。大変ですが、”気が利く”力を鍛えるには、打って付けの職場だなと思いました。

 

日々リアルなフィードバックを受けられる場は本当に重要です。
このリアルなフィードバックサイクルを回し続けることが”気が利く力”を高める方法だと思います。

リアルな、対面での、直接の、明確な言葉と態度によるフィードバック
それはロジカルで腹落ちするもの、不条理で感情を伴うもの、両方必要です。

 

看護師さんの様に、日々、多様で、センシティブで、我儘な、生の人間に対応してフィードバックを強制的に受ける職場は別として、
我々の働く環境は、日々の業務はチャットの報連相で、ワンオンワンミーティングもオンラインで済ますことが多くなっています。直接の刺さるフィードバックを受ける機会は減っています。

  

敢えて、スローダウンして、深く対話する時間をとってみてはいかがですか。
一朝一夕では無理かもしれませんが、続けていけば、きっと、成長のきっかけを作り出すことができます。

時間と手間がかかることには、時間と手間をかけるしかない。
これも一つの真理です。

人材育成のジレンマ

Written by 津田 真吾 on 2019-09-24

先日、業界でも有名な人事の専門家に会った。物言いは端的で、一瞬造詣の深さだけでなくビジネスに対する情熱が感じられる。所属するのは世界的に名の通ったというより、皆が憧れるような企業で、業績も悪くない。

その方は、「イノベーションが足りない」と言い出した。社員は優秀だが、既存業務を遂行することにばかり意識が向かっていると言うのだ。

そして、社員のマインドセットを変えたい、と。

もっとオープンに発想アイデアを出し、工夫をして、会社を変えてほしいと。

私はそこで「もしかしたら社員は、わざわざアイデアを出さなくても仕事が回るんじゃないですか?」と尋ねた。

さすがに優秀な方で、ピンと来たようだ。

――――

高度にトレーニングを受け、業務効率の高い仕事を継続的にしてきた社員の多い会社では、トレーニングを受けたこと以外のことは「やるべきでない」「やると非効率だ」「やったら怪我をする」と現場は考えていることが多い。

優れた会社であればあるほど、業務の仕組みの完成度は高い。つまり、業務は細分化され、専門的な担当者が作業をすることでバケツリレーが完成し、高品質な製品やサービスが顧客に届く仕組みになっている。

バケツリレーでは、一人一人が持ち場を離れず、最少の動きで次の人にバケツを渡せるように淡々と動くと最も効率が良い。この動きが最適化されることが多くの事業の目的になっている。

「イノベーションのジレンマ第5原則」組織の能力は無能力の決定的要因になる と書かれているバケツリレーで火を消していた人たちは、ポンプとホースがあっても対応が遅れるし、「消火器を探して持ってくる」という優れたアイデアも黙殺されてしまうのがオチだ。

イノベーションの第一歩は消す火を探すこと

バケツリレーに喩えると、イノベーションとはまず消すべき新たな炎、つまり解決すべき新たな課題を見つけることから始まる。そして、その火は持ち場をある程度離れないと見つからないものだということに気づく必要がある。

クリステンセンらは、『イノベーションのDNA』という書籍で多くの起業家やイノベーターと呼ばれる人たちを研究した結果、彼らは「発見力」が著しく高いことを発見している。

「発見力」というのは単に物事を注意深く観察することを指しているのではない。新しい人と会い、新しい業界を眺め、新しい問いを立て、新しい実験をして見る必要がある。

もちろん、これらの行動は一人一人の個人が取るものだ。元々、これらの新しい行動を積極的に取る行動特性を持つ人間も存在する。(それを測るにはイノベーターDNA診断が有効)

しかし、この人事責任者がそれまで気づいていなかったように、「持ち場を離れにくい」仕組みが出来上がっている状態では、マインドセットを変えろと言っても掛け声で終わってしまうのも事実だ。だから、多くの発想力強化ワークショップはその場だけ盛り上がって失敗するし、アイデアコンテストもアイデアを集ったあと、行き場がなくなる。

持ち場を離れられるのか?それが許されるか?

大企業からイノベーションが生まれやすい風土を作る第一歩は、アイデア出しワークショップをやることでも、オフィスレイアウトを変えることでもない。シリコンバレーに行くことでももちろんない。

イノベーションを社内から起こしたくても苦労している企業は多い。ほとんどの企業ではすでにワークショップを複数回開催し、アイデアコンテストも開催している。それらの企業の共通している問題は、「持ち場を守りながら」やっていることにあるのだ。

バケツリレーの持ち場を守りながら発見できるような課題はほとんどないし、あっても小さなアイデアになりがちだ。しかも業務外で素晴らしいアイデア出す人にも時々出くわすが、アイデアの評価者は現状の持ち場を守りながらの評価をしてしまし、ボツ案として葬られる。

なので、こうした企業ではまず「持ち場を離れて」問題を発見することから始めることを勧める。Get out of the building! というわけだ。もちろん、ジョブ理論のような発見手法があると、はるかにチャンスは見つけやすくなる。

スキル獲得のジレンマ

話はそこで終わらない。
組織が、個人のタガを外したとしても、人は得意なことをしたいものだ。つまり、引き続きバケツを受け渡し続けることを選ぶ可能性が高い。スキルが高いことが、イノベーションを阻害することになる。“組織の能力は無能力の決定的要因”であったように、個人の能力も無能力の決定的な要因となり得ることに注意したい。

私たちも、つい「強みを活かす」ことを志向してしまいがちだ。いまの強みを最大限に利用することを目指してしまうが、強みを使っているだけでは、その領域のみで狭い能力が高まるだけで、他の能力については一切開発されない。

このジレンマにも処方箋はあると考えている。

破壊的イノベーションが未成熟な技術や市場から生まれるように、スキル獲得も未成熟な領域に注目し、踏み込んでみるのだ。先人がいない、または少ない領域ではすぐに一流のポジションを築くことが可能になるだけでない。ゼロから始めることで伸びしろも大きい。何よりも、先人がいなければ教えてもらうわけにいかない。つまり「教えてもらう」から「自ら学ぶ」マインドセットを醸成することができるのだ。