人間の寿命が延び、ビジネスの寿命が縮む

Written by 津田 真吾 on 2019-06-27

人間の寿命が延びている。

私が就職した90年代の男性の平均寿命は76年生きていた。私が生まれた60年代はたった65年。それが今は23%も伸び、ほぼ80年となった。20で成人し、勤めるとして33%も長く生きることになる。

逆に、企業の寿命は縮んでいる。Innosightが発表したこちらのデータによると、60年代に30年間、世界トップ企業にランクインできていた企業は半分の約15年で退出させられている。

人の寿命が延び、企業の寿命が短くなると何が問題なのか?

所属している組織が、キャリアの途中で衰退し後輩が全然入らない。
就職したときに活況だった業界が、斜陽産業になる。
憧れの職業の待遇が悪くなる。

ここ数年の変化を感じることは難しいけれど、20年前ほど遡ると違いは歴然としている。当時日本が世界中から求められたエレクトロニクスや、精密部品の需要は軒並み低下し、工場もずいぶんと減った。立場上、組織の衰退を「ビジネス上の失敗」としてとらえるケースも多いが、私たち個人の生き方にも大きな影響があると言わざるを得ない。なぜなら、職業や所属する組織は私たちのアイデンティティーの重要な部分を占めているからだ。「インディージャパンの津田です。」「エンジニアです。」「研究者です。」「営業やってます。」「個人事業主として、デザインをやっています。」などなど、私たちは自分を説明するための「職業」や「所属」が必要だったりする。必要、というのは生物として生きるためというよりも、社会的に生きるために必要にという意味で。

アドラー心理学で有名な岸見一郎さんは、「仕事とは人の役に立ったと感じる時に訪れる」と言う。仕事を通じて、同僚や顧客、会社に貢献できた、と感じることが大事だというのは、私自身、日々実感する。その貢献していたはずの会社が傾いたら?役に立っていると思っていたのに、そうでもないということに気づいたら?ずっと続けてきた職業の需要がなくなってきたと感じたら?所属して頑張ってきた組織がなくなってしまったら?

短命化しているのは組織ではない

ここまで書いておきながら実は、短命化しているのは企業ではないことに注意したい。実際に、バブル崩壊を経ても多くの金融機関は(合併は著しいが)生き延びている。私がかつて所属していたIBMは3分の1ほどに縮小したものの、存命している。一方でスタートアップの大半は数年で消滅する。なので、大企業はスタートアップと比べて「安定している」というのは真理と言わざるを得ない。

しかし、IBMの例のように、その看板の下で働く人たちは減っている。勤めている人たちもずいぶん入れ替わっている。一方の株価は安定はしていることを考えると、安定しているのは株主なのかもしれない。では、何が短命化しているかというと、「ビジネスモデル」である。稼ぎ方が変わってきているのだ。

ハードウェア販売中心のビジネスモデルからソフトウェア販売、さらにはビジネスサービス、ついにはビジネスサービスを自動化したSAASサービスへと転換したとする。会社は残ったとしても、ハードウェアの技術職の必要性は減り、つぎにセールスマンの必要性は減り、と職種に対する需要は大きく変動する。価値の源泉がシフトすれば、企業はビジネスモデルをシフトさせることになる。必要とされるスキルもシフトしていく。

スキルをシフトするスキル

ビジネスモデルが短命化すると、このシフトが発生する回数が増える。寿命も延びているので、会社を転職する「転社」も増えるが、同じ会社内で求められる業務が変わる「転職」ももちろん増える。

そうなってくると、ある特定のスキルを身につけるというよりも、「スキルを身につけるスキル」みたいなものが必要になってくる。 急な変化のただ中にいて、混乱を目の当たりにすると、私たちは何か強い北極星となるような「答え」を求めてしまう。だが、過去に成功した「答え」であるビジネスモデルはすでに古びてしまっている可能性も高くやっかいだ。なにせ、終身雇用が崩れた今、会社勤めしていたとしても、労働の対価として給料をもらっている「事業」だからだ。

実はこのように、会社員も、まるで個人事業主として「会社に雇われている」という見方が大事だ。そして、「ジョブ理論」が身近にならないだろうか?ジョブ理論以外にも、イノベーションの文脈で語られるリーンスタートアップ、デザイン思考、ビジネスモデルキャンバスは会社レベルだけでなく、スキルをシフトしていくときにとても役立つ。

  • 会社に雇われているのはなぜか? (ジョブ)
  • 転職できるとしたら、どんな価値を提供することができるだろうか? (ジョブ、ビジネスモデルキャンバス)
  • 身につけたいスキルを(転職や学校に行き直さずに)使った最小限の仕事はないだろうか? (MVP)
  • 独立する前に副業で試せないだろうか?(リーンスタートアップ、デザイン思考)
  • 転職に成功したとしたら、どのようなリソースやパートナーが増えるだろうか?(ビジネスモデルキャンバス)
  • 転職に失敗したとしたら、どのようなピボットが考えられるだろうか?(リーンスタートアップ)

これらの問いを考えることは、最新のツールを使ってみたり、スタートアップ風のオフィスに模様替えしたりするよりもきっと多くの気づきがあると思う。こういう取り組みもやっているので、スキルをシフトするスキルにご興味のある方は覗いてみてはどうでしょう?

世界の人材開発担当にイノベーションはどう捉えられているか(ATD2019ICEより)

Written by 星野 雄一 on 2019-05-27

5月19日から22日にかけて、世界最大の人材開発のカンファレンスである ATD2019ICEがワシントンDCで開催された。米国で毎年行われているカンファレンスであり、今年は世界で13,500人、日本からも227人参加した。4日間掛けて300を超えるセッションがあり、多くは企業人事やトレー二ングに関わるような方々が参加している。今回はこのカンファレンスを通して、イノベーションという文脈で印象に残ったことを記載したい。(ATD2019ICEの全般的な考察は他社がアップすると思うので、そこはお任せする)

まず、3日目の基調講演に登場したセス・ゴーディン氏。マーケティングに関する著作を多数出版している氏は、新興企業の台頭により入れ替わりの激しい現在において、従来のマスを狙った平均値的なプロダクトではなく、オンリーワンを目指さなければ勝ち残れない、“どうしてもそれが欲しい人”に向けた商品開発をすることが重要である。そしてそのような観点でビジネスに取り組める人材が必要だと説いた。まさにジョブを捉えて事業開発をできる人材こそが今、求められているのだとの見解を示していた。そしてそれを阻むのは「誰が責任を取るのだ問題」。この議論が始まると失敗できずイノベーションは起きないとも合わせて伝えている。また、イノベーションを起こすリーダーシップはアートであるとも続ける。ややもするとリーダーに様々なスキルを求めようとするが、原点は"自分がどうしたいか”であり、人としてもオンリーワンであることの重要性を説いている。また行動を起こすための準備を躍起になってやるのではなく、自分がいくところにいく。そのようなマインドセットが人を動かすのだとの熱く説いていた。大変共感できる内容であった一方で、様々な内容を織り交ぜてスピーチしていたため、メッセージの拾い方は人それぞれかもしれない。

 

また数は少ないが、起業家精神やイノベーションのセッションも幾つかあった。その中で、イノベーションDNAの5つのスキルの話が複数のセッションで引用されていたのも印象深い。イノベーターの必要スキルという中で引用先が同じものであるということは標準的に受け入れられる考え方であることの証明であろう。ちなみにど真ん中のタイトルであった「起業家の才能開発」というセッションは日本人が私以外いなかったことが残念である


その他、ラーニングとラーニング技術の展望について語っていたセッションでは、ラーニングやテクノロジーの展望に着目するのではなく、人のLIVEに着目するのだということが主張されていた。ここでもジョブを捉えるというニュアンスが語られており、個々の技術(AI,VR,etc)に関しても、個々の技術が持つ本質的な価値について主張していた。テクノロジーに関しては数年前からも語られているが、参加者同士での会話を鑑みると、まだまだ導入には抵抗感はありそうだ。リテラシーの強化が必要と感じる。

 

なお、カンファレンスに参加する人は企業人事やトレーナーの方が大半であるが、その中で事業開発の分野での人材開発コンサルタントという明らかに異質な私は、名刺交換の際に仕事の話をすると面白がって頂けたようだ。何をしているのか興味深く聞いて頂けるのはありがたいが、企業の中でイノベーションというのはアイデア発想や意識づけといった要素が強く、イントラプレナーの輩出という部分にはまだまだ軸足を置けてないのだろうということでもあり、今後もイントラプレナー輩出に向けた活動を取り組み、企業人事の方が力を入れて取り組めるように尽力していきたいと改めて感じた。

日本の新規事業担当者に最も必要なこと

Written by 津嶋 辰郎 on 2019-04-15


日本の大企業内での新規事業担当者と一緒に仕事をするようになって我々ももう10年以上になる。その業務としての難しさの原因は数多くあるが、特に担当者自身にとって取り組みが必要な最も必要な課題は、


知識や情報のインプット量を圧倒的に増やす

事にあると確信している。実際こう確信する背景としては、

  • 新卒から1社のみにどっぷり浸かっているため、複数事業や他の産業の経験が少ない
  • 社会人になった後の既存事業領域以外の学習の機会が少ない
  • 展示会参加など、新しいトレンドを把握する機会が少ない
  • 社外との交流の機会が少ない

などの日本特有の労働環境や既存事業の業務環境に原因がある。

  

ここでご存じの方も多いかと思うが、敢えてアイデア発想の古典を紹介したい。


アイデアのつくり方:ジェームズ・W・ヤング

この中でも語られているように、アイデアの源泉はインプットの量であり、ゼロから何かを生み出すと言っても、真っ白なキャンパスに自由に何かを書いていいよと言われても、その元となる情報が自分の中に無ければ新しいものは生み出せないというのが真実ということである。



では特にどんな情報をインプット(または整理)すれば良いか?そのポイントを5つほど紹介したいと思う。

 

既存の自社事業のビジネスモデル(特に自社がユーザーに選ばれている本当の理由)
 長い間関われば関わるほど、実は複雑で分かり憎くなってしまうが自社のビジネスモデルというものである。ビジネスモデルキャンバスのフレームワークを学んだら、まずは自社のビジネスに対して記述してみることをオススメしている。特に比較対象として国内外の同業他社について描いてみると、同じ商品・サービスを提供している中でも、実はそれぞれ異なるビジネスモデルや価値提案で成り立っていることに多く気づくはずである。

 

技術領域以外の自社の強み
 特に研究開発機能を持つメーカーは”技術力=競争力”、”技術力=差別化要因”という枠にはまっている。しかしマチュアな事業であればあるほど実際はそうでないことの方が多い。自社のビジネスモデルを改めて分析することで、間違いなく大手企業には技術力以外に他社(破壊的なアプローチを掛けてきているスタートアップ含)にない強みが見つかるはずである。

 

注目されているビジネスモデル
 特にスタートアップや他の産業が採用している、新しいビジネスモデルは単なるアイデアから生み出されたものではなく、新しい技術(主にインターネットテクノロジー)や商習慣、規制の変化等の外部環境の変化・進化を活用して成立している。結果としてのモデルではなく、その生まれた背景を理解する事が重要である。

 

スタートアップが解決しようとしている課題(とその所在)
 特に短時間で高い成長を目指しているスタートアップが解決しようとしてる課題は、すでに顕在化している重要な課題であることが多い。特に日本にいると実感しにくい、海外先進国や新興国における課題情報から得られるインスピレーションは大きい。

 

世の中で注目されている技術分野
 技術開発の投資額が大きい領域を中心に進化していくことが考えられる。自社の既存技術を活かすに当たっても、こうした新しいトレンドの組み合わせで今まで解決が難しかったことを解決できるようになる可能性が高い。単なるトレンド情報の収集ではなく、組み合わせとしての活用方法という視点を持つだけでも見え方が変わるはず。

一方、今回はその詳細には触れないが、下記のような情報は実際は”社内説明向け”やエンタメ以外の目的ではあまり重要でない。これらの情報収集に偏りがちな方は是非時間の使い方を見直していただきたい。

  • 他社のイノベーション事例
  • 有名な企業家、学者の講演
  • 大学や研究機関のイノベーション講座  
  • 具体的な実事業ではなく”イノベーション”に関連するイベント

イノベーターは育てられるのか?

Written by 星野 雄一 on 2019-03-18

よく「イノベーターは育てられるのか?」という質問を受けることがあります。

 

イノベーターに求められる能力が先天的か後天的かといった要因に着目して質問される方、逆に結果に着目し、本当に結果を出せる人材になるかどうかという意味で質問される方もいますが、質問に対しては次のようにお答えしています。

 

「行動がイノベーターになる」という状態は作り出せます。

 

少し話を変えてみましょう。多くの人は社会人になった頃、新人研修やOJTもしくはインターンなどを通して、名刺交換の仕方や電話の取り方、議事録の書き方などを習得してきました。習得するためには学生時代に身につけていなかった行動の取り方を教えてもらい、それに沿ってやってみて、様々なケースで実践を積み重ねて身につけてきたのではないでしょうか。(教えてもらえず見よう見まねでやった方も多いかもしれません)

これらの行動は、すでに出来ている人にとっては当たり前のことであっても、初めてやる人にとっては全く当たり前でない行動であったはずです。が、いつしか出来るようになりました。


日本では経済成長と共に事業がスケールし、似たようなことをやれる人を増やすため、暗黙知であった行動を言語化やマニュアル化、OJTを発展させてきました。その結果、従業員は既存事業を回すための様々な行動は上手になっていきました。すなわち、行動を規定でき、やれる人が多くいて、自ら熟練を重ねれば、新たな行動は身につくということです。

 

そして、今、どうやったらイノベーターやイントラプレナーを育てられるかという議論が熱を帯びています。 それは事業の陳腐化スピードが早い、今の時代に必要な行動がそれだからです。

 

ところが社内を見渡しても、過去にイノベーションと呼ばれるような新規事業を起こした人は役員クラスを見ても極僅か。周りには経験者がいないので困ったものですよね。また、かつてはイノベーターの行動に関するモデル化、言語化が進んでいなかったので、仮に経験者がいたとしても一部の凄い人(変人?)が取る行動とされていました。その背景もあり、「イノベーターは育成できるのか?」という問いに繋がっているのだと感じます。

 

しかしながら今は新規事業開発の分野でも、その行動の取り方や考え方が言語化されてきました。イノベーターDNAモデルでは、質問力、観察力、ネットワーク力、実験力、そして関連づける力が必要な力と定義づけられており、事業機会発見のJOBSフレームワークや仮説検証プロセスなどの行動も言語化されています。

 

ですので、これらの知識・型を正しく取得し、新しい行動を素直にやってみて、素直にわからないところは質問し、様々な場面で実践を積み重ねることをやれば、結果として「行動がイノベーターになる」のです。


ただ、一つ気をつけなければならない点があります。せっかく型を教えてもらったのに、まだ慣れないうちに「自己流で創意工夫し始める」ことです。これはコーチやメンターが伝えていることを正しく理解しようとせずに自分の中で過去の経験・知識に当て嵌め、「前に聞いたあれと同じ」とか「それと似たようなことをして、昔◯○さんが失敗した」と判断し、安易にやるべきことを除いたり、やり方を変えたりしてしまうことです。どうなってしまうかは大体想像できるかと思います。

この辺りは茶道や武道の世界で言われる、守破離とも通ずるものがありますね。まずは守である、と。行動変容の基本は昔と何も変わりません。コンテンツが変わっただけです。

 

これから人生100年時代では避けては通れない環境変化に対して、必要な行動を素早く身につけて、行動変容を遂げていく必要性は今後も絶えず発生するでしょう。AI時代を迎えたら・・・といった議論もありますが、時代の変化があれば、変化している環境に自ら身を置き、先人の活きた知恵を学び、実践を積み重ねながら習得していく姿勢、すなわち「知的な謙虚さ」を持っていれば、特に怖がることもないでしょう。

ディスラプトされる「管理」

Written by 津田 真吾 on 2019-01-20

AIに代表される新しい技術には、流行りも廃りもある。

AIがとりわけ流行っている(バズワード化していることも含め)背景には私たちの恐怖心がある。人間は未知のものを怖いと思うし、仕事を取られる、と報道されると私たちを不幸のどん底に陥れる見えない権化のように感じるかもしれない。しかも、このAIという化け物は「中間層」と呼ばれる普通の人たちに大きな影響を与えるという。

もちろん、こうした漠然とした恐怖はあまりタメにならないので、しっかり理解して怖がらないことは精神衛生上、良いことだろう。しかし、大変なことに我々はコンピュータやインターネットをそこまで理解していないのだ。インターネットの黎明期にインターネットとは何かを説明する機会が何度もあったが、今から思うと拙いし、その可能性の100分の1も語っていなかったのではないだろうか。言い訳も兼ねて説明すると、インターネットという概念は、通信を行うためのプロトコルと、プロトコルを利用してつながっているネットワーク、そのネットワークでやり取りされる情報を含むので、果てしなく成長しているのだ。この類の技術をしっかりと理解して・・・と腰を据えてやろうとすると、キリがない。結局のところ、わからなくて怖くなってしまう人もいるだろう。

忘れてはいけないのは、私たちはわからないままインターネットを使っているということである。飛行機がなぜ飛ぶのかわからないまま乗るし、インターネットを理解した上で使っている人も、薬のことは理解せずに飲んでいるかもしれない。逆にスマホを分解して完全に理解してから使うのはナンセンスだと感じるはずだ。

流行り廃りについて話を戻そう。
これは単なる現象のようにも見えるが、恐怖を乗り越えて使っている人に注目したい(実際のところ、初期のユーザーは怖いどころか好奇心満々でワクワクしながら人柱になっているのだが、どうなるかわからないという意味では似たようなものかもしれない)。産業革命によって機械化が進み、筋肉を要する重労働がたくさんの機械によってなされるようになったように、AIを使用し始めているのは、脳を酷使するような労働のサポートに対してである。

さらに、「多くの人がやっていることをやってくれる」「比較的つくりやすい」アプリケーションは、作り手の論理としても取り組みやすい。なぜなら簡単に作れて、めっちゃ儲かるからだ。多くの人がやっていて、頭を使っている割に、それほど複雑ではないこと、にAIを応用すると儲かるはずだ、ということで投資家もここに重点的に投資する。投資が集まると、エンジニアもたくさん採用でき、技術の完成度も高まり、プレスリリースもたくさん打てる、ということで流行る。

多くの人がやっていて、頭を使っている割に、それほど複雑ではないこと」がAIがもっとも伸び伸びと仕事ができることなのだ。その標的は「管理」をする仕事にほかならない。大きな会社になればなるほど管理の仕事が増える。現場の管理をする管理者を、管理する事業部長が、取締役に管理され、株主に報告する形 (少なくとも建前上は) をとっているのが一般的な会社である。もっと卑近な例では、会議室の使用も管理されているし、複写機の使用頻度も管理されているし、顧客の来店も管理されている。こうした会議室の予約管理や顧客情報管理は、どの会社でもITシステムを使うのが常識になっているのは、どの会社にも必要でありながら、AIとは呼べないようなローテクなITシステムで作れるからだ。会議室よりかは随分と複雑な人材を管理するAIサービスも出つつように、より複雑な管理をやってくれるAIは順々に登場するだろう。

こうなると別の恐怖が生まれる。仕事がなくなるかもしれない、と。特に中間層の管理職が減るのではないかと、言うのである。そうした管理は自動化されポストは減る方向性にあると私も信じている。前述した作り手の経済的な論理からもきっと優れた管理AIが増えるだろうと予測するが、そこには恐怖は感じない。なぜなら、減っているのは「労働」であって、「仕事」ではないからだ。産業革命によってなくなった「労働」は、みんなやりたくなかったような3Kの仕事ばかりだ。トラクターを使わずに畑を耕すことを考えてほしい。あるいは人力車で移動するのではなく、人力車を引っ張ることを想像してみるといいだろう。農作物がたくさん出来ることの方が、耕す作業そのものよりも大事だ。補足すると、ジョブ理論の観点からも「管理したい」というジョブよりも成し遂げたい仕事=ジョブに注目するべきだ。

AIが伸び伸びと仕事がする領域、つまり「多くの人が携やっていて、頭を使っている割に、それほど複雑ではないこと」 は、「一般的な業務」「デスクワーク」「創造性が低い」ということになる。 実は、そんな「労働」に私たちは恐怖を感じているということはないだろうか? 考えてみると、どこにでもあるクリエイティブではないデスクワークをやり続けることの方が怖いのではないかと思えてくる。「みんながやっている、ちょっとしか頭使わないこと」を離れ、身体が動いてしまうこと、考えたくてしかたないこと、思い描くのが楽しくてやめられないこと、を始める。そういう仕事はディスラプトされないだけではない。