オープンイノベーションが上手くいかない理由をジョブ理論で考えてみる

Written by 津嶋 辰郎 on 2019-07-01

「オープンイノベーション」という言葉については今更その内容を説明する必要がないくらいに、日本においても普及しきった印象である。一方、実際の取り組み現場においては、成功事例を探すことが難しいほど問題が多いといえる。まだまだ取り組みとして、黎明期であるから今後は成功したと言える事例も出てくる可能性もあるが、正直今のまま進めても殆どの活動が成果に繋がるとは言いがたい・・・と現場で感じる問題点についてコンパクトに整理してみたい。


オープンイノベーションの難しさの原因は、多様なステークホルダーが存在するということに尽きると考えている。勿論それぞれの組織に所属する担当者によっては考え方やスタンスは異なるが、今回の記事ではジョブ理論を用いて私の経験を交えた日本の組織おける典型的なパターンをモデルとして考えたいと思う。分かり易くするために敢えて多少極端な表現にしている点はご了承いただきたい。 ジョブ理論について復習が必要な方はこちらの記事も参考まで。


今回考察する事例としては、大学と企業(大手、ベンチャー双方に関係するが特に大企業を意識している)の連携でのオープンイノベーションを想定し、シーズ発明者、大学関係者、企業連携担当者、経営者という4種類のジョブが異なるスレークホルダーの場合で考えてみたい。

それぞれのステークホルダーが抱えるジョブとその背景を示すとこういう感じではないだろうか。


シーズ発明者のジョブ:自分の研究テーマを理解した上で、できるかぎり自分が考えてきた用途で実用化して欲しい。一方、事業化への関与にはあまり興味ない。

→ 日本における研究者は、もちろん自分の発明を実用化することには思いがあるが、基本それを事業化する取り組みに興味がある方は少ない。そのため事業化における自分の関与は最小限に留め、発明の価値とその本来の活用方法を理解できる人物は上で、進めて欲しいと考えていることが多い。


大学契約関係者のジョブ:発明者、企業側がそれぞれから多くの要望があったとしても、できる限り大学の制度に則った契約の中に納めたい。基本的に前例のないことはやりたくない。

→ 大学職員もしくは、産業界からの転入だとしても日本の大学という環境で働きたいと考えている方は、前例主義でコンサバティブな方が多い。そのためイノベータータイプの上司がいないかぎり、如何に既存の仕組みの枠を外すことなく、物事を進めたいという考えるのは責めることができない必然のジョブである。


オープンイノベーション担当者のジョブ:短期的な成果が期待できない状況においても、社内に価値を上手く発信して自分達の取り組みを評価されたい。

→ 上層部の期待や既存事業の成果に比べて明らかに時間を要するのが、オープンイノベーションを通した新規事業立ち上げの取り組みである。一方、会社の中の仕組みは既存事業を運営する時定数で回っている。そのために如何に成果を見える化し、その進捗と価値をその分野に土地勘のない社内メンバーに上手く伝えていくかということが苦悩している作業である。


サラリーマン経営者のジョブ:既存事業だけでは存続が難しい事は理解しており、新しい事業の立ち上げが必要だと考える中、株主および社内のステークホルダーから失敗だと思われるような取り組みはしたくない。取り組むなら売上としての成果に繋げたい。

→ 新規事業の立ち上げの必要性について社内外に発信していたとしても、既存事業以外の領域に土地勘のないこと、短期的に収益を生まないテーマについて費やす時間を確保できない。またその自分自身が土地勘のない領域において、担当者を信用してリスクをとる決断をするハードルは日本の組織体制と社内のステークホルダーに対しても非常に高い。


どうだろうか?これらのジョブとその背景については、恐らくそれぞれの立場の方と仕事をしたことがあれば、それほど違和感のない内容だとご理解頂けると思うし、とりわけ特殊なことを言っているわけでない。と考えても、そもそもこれだけ複雑なステークホルダーのジョブを満たしていかなければならないのがオープンイノベーション・・・の課題であれば、それを成果に結びつけることがどれほど難易度が非常に高いか。なかなか成功事例に出会えないのも必然なのである。

ではこの複雑な状況の中でもなんとかプロジェクトを進めるための処方箋は次の3つであると考えている。


・プロジェクトにおける共通の目標を言語化し、ステークホルダー間でしっかりと合意する


・目標達成までの期限とそこに到達するまでの中期的なマイルストーンを決める
(撤退の条件もこのマイルストーンに含める)


・リーダーまたはそれに変わる人物が各組織間のジョブの隙間(グレーゾーン)を埋めることをコミットする


完全な取り組みとはいえないですが、参考になる具体的な事例として、シンガポールにおけるEDB(経済開発庁)が行っているグラントスキームに見ることができる。シンガポールという国家は日本同様の高齢化社会であり、単純労働者に対する移民受け入れを制限する政策を進めているため、先端的なライフサイエンス技術の導入およびロボットによる単純労働の自動化が世界で最も推進されていると言って間違いない。しかも、国内のシンガポール大学が近年アジアナンバーワンの評価を得ているとは言え、研究開発は一日にしてならず・・・のためそう簡単には国内から新たなシーズが生まれることが容易でないと理解していることもあり、海外企業の受け入れ体制が非常に整っている。その中でも前述の2領域においては日本企業に対する期待値が極めて高いのである。


話を戻すとEDBが主導する開発型スキームは新しい技術を基にしたソリューションを導入したい事業者が起点となり、それ実現にコミットできる企業を公募する(この時点でステークホルダー間の目標が合意されている)。そして、そのグレーゾーンのマネジメントをEDBの担当役人(立場的にも幅広い裁量権がある)がコミットする(実際の解決に必要な人を集めて議論する場をセットする等を行う)。技術シーズとして必要なものを提供できる研究機関がシンガポール国内にあれば共同開発のアレンジを行う(大学担当者のジョブを捉えている)。そして、最も日本のグラントに抜け落ちている要素としては、参加する開発企業に対しては、EDBがソリューション実現後は政府のお墨付きで国内外のターゲット施設等に事業展開の支援まで約束してくれる(オープンイノベーション担当者および経営者のジョブを満たしてくれる)というものである。


我々もこうしたシンガポールにおけるスキームを活用して、大手企業内での新規技術開発プロジェクトや日本において特に資金調達や実証環境の確保が困難なハードウェア系の事業展開するモデル事例の構築を進めている。その過程でシンガポール政府を始め、様々な現地パートナーとのネットワーク構築が実現してきたためINDEE Singaporeを立ち上げ、より多くの機会を提供していこうと考えている。無論、こうした機会を活用するために日本の大手企業およびスタートアップが十分満たせないジョブをサポートするのが我々の役目である。


こうした機会に少しでもご興味を持っていただけたら、お気軽にこちらにでも問い合わせいただければと思う。

スタートアップと禅の意外なつながり

Written by 津嶋 辰郎 on 2019-05-22

失われた時代と揶揄されてきた平成の30年。残念ながら日本は経済として主要先進国の中で、唯一GDPの成長を実現することができなかった。


その間、学ぶべき対象としてまたはグローバル経済への適応を目的として、数多くのアメリカ的経営手法を大企業を中心として輸入してきた。その結果として、導入初期は学習という意味で盛り上がったとしても、その後事業の成果として現れないだけでなく、うまく適応できなかったりむしろ以前より疲弊している現場を数多く見てきた。


ここ数年は、急速な市場の変化への対応や新しい事業の創出が急務の中、スタートアップ(いわゆるベンチャー起業)の領域においても、アメリカのシリコンバレーを起源とする方法論やそのエコシステムを輸入する形で浸透しつつある。もちろんそこから学ぶべき側面はあるものの、日本が戦後積み上げてきた、独特の事業環境と組織体制との大きなギャップに起因する、ミスマッチを感じ始めている方も多いのではないかと思う。


INDEE Japanも設立から8年、国内外でイノベーションを実践する特殊部隊として大手企業およびスタートアップと様々な事業立ち上げに取り組んできている。昨今、変革への渇望からようやく日本でもクリステンセン教授が提唱した破壊的イノベーションという言葉が普及した一方、伝統という言葉に対して、”古くさい”とか”変えるべきもの”という悪いイメージが先行してしまっていることを危惧している。そもそも伝統というものは長い時間の淘汰のサイクルを乗り越え生き残ってきたという実績を持ち、歴史を紐解かない限りその本質が見えない非常に貴重なものとも言える。


話を戻すと新事業のスタートアップという最近の潮流と、日本の伝統的な文化のその根底にある禅の思想に着目するとまた違って景色が見えてくる。

 

私自身は禅の学者でなければ禅僧でもない。ただ子供のころからお寺の中にある道場で剣道を習い、住職や師範から毎日のように”剣”と”道”にまつわる話を、当時は馬の耳に念仏のように聞かされる日々を送っていた。そしてその後、技術者としてそして起業家として様々な事業開発に向き合い経験を繰り返す中で、ようやく当時の”念仏”の意味を、自分の言葉で現代社会に翻訳できるようになってきた。

その剣と道の話は別の機会に取り上げられるとして、今回の本題であるスタートアップと禅の思想としての意外な繋がりをお伝えした。それは共に、

 

実践を通してしか真理を追究できないという作法に基づく

 

ということである。

禅という世界観を体現する代表的な特徴として、その教えは不流文字・教外別伝として表現されているとおり、人から人への口頭での伝承(口伝)を基本とし、書物として文章化されていない。いわゆる師匠と弟子が繰り返して交わす禅問答の修業がそれにあたる。

また座禅に代表されるように、掃除や食事など日常生活における身体を通した実践を通して修業するというプロセスを正としている。そして、前述の自分の子供時代に剣道の道場で経験したことも、実はこの思想に基づいていたことにようやく気づくことができた。

 

これらは明らかに現代社会が追究している一般的な学習方法からすると真逆に位置する非効率な手段である。つまり拡大生産性やさまざまな効率化を追求するために、我々が身につけているスキルセットや正しいとされるマインドセットとは大きく異なることを大切にするという思想である。

ここまでくれば、貴方が起業家かもしくは新規事業担当者であれば気づいたはずである。これは新規事業立ち上げの特にゼロからイチを生み出す初期のフェーズにおいて最も大切にされる作法と全く同じである。

ごちゃごちゃ言わずにやってみろ・・・答えが見えてくるまでやれってやつである。

 

“読書百辺読書百遍義自ずからあらわる”とはよく言ったものである。

 

実はこの話はクリステンセン教授も代表的な著書の一つでもある「イノベーションのDNA」の中で、イノベーターが共通に持つ代表的な5つの特徴の一つとして実験力としてこの”実践を通して学び続ける”という行動特性を挙げている。

 

昨今、組織の閉塞感の中で悶々とするエリート層に会う度に、その根本的な原因は、知識ばかり増やして頭でっかちになり、評論してばかりで結局は実行に移さない、移そうとしないところにあるのは間違いない。

 

国家としての戦場、ビジネスとしての戦場となる外部環境は、大きくそして急速に変化していることを否定する人は誰もいないはずである

 

前述の通りそもそも我々一人一人のDNAの中には、間違いなく椅子に座って考えるだけでなく、実際に体を使って実践を通して道を切り開いていく事を是とする思想が宿っている。そろそろその我々の中に眠る本来の強さを呼び覚まそうではないか。

今回を第一回目として、引き続きこの我々の伝統や文化の中から様々な現代を生きるためのヒントを紐解いていきたいと考えている。こうしたアプローチに興味を持ってくださった方は、こうしたイベントでお会いできればと思います。

スピンアウト、カーブアウトのススメ

Written by 津嶋 辰郎 on 2019-03-11

8年前の今日、起業の気持ちを固めるきっかけになった大地震を当時のクライアント先で共同創業者と経験し、それによる首都圏の交通機関の壊滅的な麻痺を通して忘れられない数時間を過ごしました。そして同年INDEE Japanがスタートすることになります。

現在は首都圏を中心として学生や20代を中心に起業が一つのブームとなり、日本においても起業≒若者というイメージが徐々に定着しつつある気がします。しかし、我々もZENTECH DOJO Nihonbashiをスタートしてから約3年に渡り、多くの若手起業家予備軍のよろず相談にのってきた中、世の中を変えたいとかより良くしたいという強い思いがある一方、圧倒的なほどの社会経験不足と知識の少なさに対して課題を感じざるを得ないという状況を多く目の当たりにしてきました。実際そう感じる人達には、現在も正直に一度就職した方が良いとアドバイスしています。

これだけ世の中には情報が溢れており、特に首都圏では会いたい人や話を聞きたい人にもアクセスしやすい環境が整ってきたとはいえ、実際20歳で一人の人間が身につけられることは20年以上前の我々世代とさほど変わっていないというのが実感でもあります。若者発として世界に発信できる事業が生まれるには、まだまだ時間を要するというのが現場での実感です。

 

一方、大企業での新規事業立ち上げプロジェクトや社内起業プログラム等での加速支援をしていると、入社して5年程度の若手から20年以上のベテランまで非常に高い技術力や巻き込み力、また特定の分野でのネットワーキング力を持ちつつ、自らのめり込む事業テーマを持っている企業内起業家に会うことがあります。もちろん会社の文化や成長ステージによって人数の大小はありますが、どんな企業でも必ず数名は存在します。そしてそういう人達は、既存事業の推進が花形である社内ではあまり高く評価されていないというのも別の共通点です。

多くのこうした企業内起業家と触れる中で、我々は下記の二種類のタイプがいることが分かりました。

 

・元来、思いが強く、自ら提案・チャレンジを積極的に行うタイプ

・仕事を進める中で、たまたま自分がのめり込むテーマに出会ったタイプ

 

今日のスピンアウト、カーブアウトというテーマの中で、注目したいのは後者のタイプです。どうしても”起業”という文脈で人を要件を考えると、前者のような外から見ても分かり易い特性を持ち、そうした経験を積み重ねてきた人物に注目されがちです。しかし、日本の社会的な環境で、特に大企業内や大学内で過ごしている研究者・エンジニアは、後者のタイプこそが、貴重な事業の機会を持っている人物ではないかと考えているのです。

ただこの後者のタイプが組織内で事業化に取り組む場合、大きな壁が立ちはだかります。まず個人としての社内の評価が高いわけではなく、社内に強力な人脈があるわけではないため、社内への発信力(特に上層部向け)や、巻き込み力(試作開発や顧客開発に関する協力体制の構築)の圧倒的な不足です(ただ一方、社内エースではないため個人として専任化という点ではやりやすかったりするのですが・・・)。

そういう状況下では、本人にとっても会社にとっても社内で事業化を進めるメリットは殆どないと言っていいでしょう。相当、強力な新規事業支援プロセスや社内体制があれば別ですが、正直そこまでの力を持つもの社内プロセスには我々も国内外共に未だ出会ったことがありません。

そこで我々がオススメしていきたい手段が、社外に別の会社を設立して事業立ち上げを行うスピンアウト・カーブアウトです。その具体的なメリットは、

 

・無条件で担当者の専任化が可能となる 

・固定費を最小化することでのローコストオペレーションが可能となる

・共同研究開発などのオープンイノベーションがやりやすくなる

・外部資金が調達しやすくなる(エクイティファイナンス)

・判断プロセスの簡素化されることで、事業化スピードが圧倒的に早くなる

 

実際、新規事業立ち上げを必要としている内需型日本企業の問題は、既存市場が縮小傾向にあることがほとんどです。そのため、社内新規事業として提案されている筋の良いテーマの多くは既存事業と直接的に関係ないものが多くなるのは必然の結果です。そのため社内リソースが実際あまり有効に活用できないことが多く、結局、提案者の思いや実行力が最も重要なリソースということになります。であるならば最大限それを発揮できるステージを用意する方が、会社側そしてプロジェクト側の双方にメリットがあることは間違いありません。

チームのスキルと知識が不足している領域は、我々のような外部のアクセラレーターを活用したり、相性の合うベテランを支援者として補う事も可能です。また昨今多くの企業では当たり前になっている早期退職制度の取り組みを前向きに発信でいる形での制度設計をする事もできるのです。

 

そこで挙がってくる懸念が送り出す企業側との契約関係になります。しかしここも事業化が成立した後、または新会社設立x年後のレベニューシェア、優先的販売権、事業または製品のまるごとのとしての買い戻し権など新会社が目指す事業の形体に応じてクリエイティブに設定することが可能になります。

そんなに価値があるものを気易く社外に出してもいいものだろうか??・・・いやいや、

 

日本の大手企業で働く会社員は例外なく、自分が所属する会社を愛しています

 

この世界的にも稀にみる自社に対するロイアリティーが、日本企業の強さであったことを日本の経営者は忘れてしまってはいないでしょうか?企業内起業家はたとえ外に出たとしても、中長期的に間違いなく未来の自社にとって多くのものをもたらしてくれます。

どうでしょうか?特に今の日本の大手企業に働く層こそが、日本の伝統的社会と文化としての良き面を理解し大切にしようとしている人達ではないでしょうか?

 

こうした様々な理由と現場経験を通して、スピンアウト・カーブアウトこそが、現在の日本の置かれた状況に適した起業の方法論であり、多くの社内プロジェクトや企業内企業家にとって有効な手段であることを確信しています。そして、我々もこうした取り組みにチャレンジされたい企業や企業内起業家は全力でサポートいたしますので、このブログ等にピンときましたらお気軽にお問い合わせください。 

 

またスピンアウト、カーブアウト支援に着目しているプログラムでもあるKawasaki ZENTECH Acceleratorにも注目ください。

ピッチとは異種格闘技戦

Written by 津田 真吾 on 2019-02-23

最近は「~ピッチ」といったイベントも多く、「ピッチ」という言葉が一般的になってきました。

でも、ピッチとプレゼンの差って????

はっきりと答えられる方はとっても少ないのではないでしょうか?

野球において、ピッチ (Pitch) とは、ピッチャー (Pitcher) がバッター (Batter) に投げる球、のことです。ピッチャーは三振を取りたい。バッターはホームランを打ちたい。そういう違う立場です。ピッチャーもバッターも存在しないと野球は始まりませんから、敵対しているわけではありませんが、立場は逆です。

ビジネスにおいても、「ピッチ」は異なる立場の人に投げる提案となります。「プレゼン」は事前にアジェンダがあり、組織内で頻繁に行われます。一方の「ピッチ」は仲間内ではなく異なる立場にいる人にしか使わない言葉です。日本ではスタートアップのピッチという文脈が強いですが、英語圏ではセールスピッチという言葉があるように、売り込みの時の方が「ピッチ」は行われています。

つまり、心がけとして3つ大事なことがあります。
(1)相手がわからなくて当たり前、見送って当たり前。相手は何も前提知識がないという想定をした方が良いです。言葉は易しく、新しい概念は簡単に説明できるように、一度に伝えるメッセージは少なめに、などとシンプルでイージーに仕立てる必要があります。難しいことをやっている、と自らのアイデアを難しく伝えたくなる欲望に駆られますが、グッとこらえましょう。
(2)相手との利害は一致していない。売り手と買い手のように、ピッチの受け手はあなたの味方ではありません。少なくとも最初は疑心暗鬼に聞いているはずです。買い手は、買うかどうかを見極めてから欲しくなったら交渉を始め、条件に合えば最後に買うのです。ピッチの目的は、相手に欲しいと思わせることです。相手が欲しいと感じてくれれば、“プレゼン”へと進み、条件の交渉や、細かい説明を求められることにもなるでしょう。
(3)売り込むのはアイデアだけではない。技術だけでもありません。自分が発見したマーケット、自分が考え出した解決策、そして自分自身を売り込み、今後応援するのに値する人だということを伝えることが大事です。

で、具体的にどうしたらいいの?ってことについては、『巻き込む力』のテンプレートに従っておいて問題ありません。特に基本の10スライドに敢えて自分のストーリーを当てはめてみることをお勧めします。たった10枚、各メッセージを1枚ずつに絞り込むプロセスによってスタートアップ創業者としての「捨てる力」が生まれるはずです。

つまり、「概要」「機会」「問題」「解決策」「トラクション」「顧客または市場」「競合」「ビジネスモデル」「チーム」「調達資金の用途」という10個の要素について簡潔に語れるように絞るのです。

巻き込む力

最後に注意したいのは、コンテストの「ピッチ」です。多くのピッチコンテストでは、その場のピッチパフォーマンスが評価されることになります。素晴らしいステージマンシップを発揮すること自体は悪いことではありません。ですが、ビジネスとして立ち上げていく能力とはあまり関係がないことに注意してください。コンテストで勝てなくても、スタートアップできないわけでも、調達ができないわけでも、顧客に愛されるプロダクトを作れないわけでもないのですから。

起業家の前職は何をしてたのか?

Written by 津田 真吾 on 2018-12-10

ZENTECH DOJOというシードアクセラレーターを始めて、2年以上が過ぎました。振り返ると、10人以上の色々な起業家や起業予備軍とご縁を頂いたなぁと思います。
また、先日採択チームが発表されたKawasaki ZENTECH Accelerator では10社の若きハードウェアスタートアップの創業者をサポートしています。
こうした起業家って、一般には学生が多いというイメージかもしれませんが、案外、社会経験を経てから起業する割合はかなり多く、8割以上の方が何らかの社会経験をお持ちです。
だからと言って、社会人起業が良いと言いたいわけではありません。むしろ、起業は「資格」や「経歴」から一番遠い仕事です。
学生時代に起業して大成功した人の方が印象的かもしれません。例えば、マイクロソフトのビル・ゲーツは在学中に起業しましたし、ザッカーバーグも在学中にフェイスブックを作りました。
しかし一方で、アップルのスティーブ・ジョブズ(アタリ)、スティーブ・ウォズニアック(HP)は一度エンジニアとして就職しています。アマゾンのジェフ・ベゾスは投資銀行で30歳まで働き、かなり出世していました。さらにウォルマートを創業したウォルトンは40を過ぎて起業しています。
このような例からも、学生起業が良いのか?社会人経験があった方が良いのか?という議論は不毛だということはご理解頂けたと思います。
 
企業で勤めたことがマイナスに働くこともあります。(例:「営業」は営業担当者の仕事だと思ってしまうなど、変な癖がつく)。
一方で、会社での経験が役立っているケースもたくさんあります。
前職の経歴として多いものから順に、その経験のどういった部分が起業後も活かせているのか、述べてみたいと思います。
 
エンジニア

エンジニア出身の起業家が多いのは、誰もが認めるところだと思います。それは技術を扱いなれていて、ゼロから何かを作る感覚を持っているからだと思います。

対象がプロダクトであろうが、ビジネス全般であろうが、実験や試行錯誤から学び、修正していくプロセスは、さほど変わらないのではないかと感じます。もちろん、対象領域に対する知識も必要ですが、不確実性の高いスタートアップにおいては、事前の知識よりも学ぶスピード(ラーニングカーブ)が遥かに効いてきます。

例外:「エンジニア」という肩書きはついていても仕様書や設計書を書くばかりの仕事もあります。(エンジニアを採用するスタートアップもこういうエンジニアには注意しましょう。有名なプロダクトに関わっていたというエンジニアも要注意です。売れている製品にはリソースが沢山割り当てられるため、一人の業務範囲は小さくなりがちです。)

 
研究職

意外に思われるかもしれませんが、エンジニアと同じ理由で研究職も向いています。実験と試行錯誤を信条とする研究者は仮説を立てて、検証することにあまり抵抗がないようです。

一方で「専門領域」や象牙の塔のヒエラルキーに慣れ親しんでしまっていると、チャレンジをする力が削がれてしまうかもしれません。

研究者も、ある研究領域における知識を重視しているような方はあまり向きませんが、そういう方はあまり起業しないので問題ないと思います。

 
コンサルタント

DeNAの南部さんのように、M社やB社出身のコンサルタントが起業するのもよく見かけます。ある程度コンサルをやってしまうと、起業するのが割に合わなく感じられるようですが、そんなこと考えずにやっちゃう人は向いていると思います。

特にB2B系のビジネスであれば、色々な企業の組織力学を知っていることは固有知識としても役立ちます。文書作成能力が高いと提案書は通りやすくなりますし、ビジネス上の振る舞いが板についていると、他の企業と付き合いやすいはずです。基本的な取引を成立させ、ビジネスを軌道に載せる上でCOO的なスキルをコンサルタント時代に身につけているのだと思います。

 
マーケター

企業のマーケティングを経験してから起業される方もいます。このような方は、サービスの見せ方から入るので、とにかくキャッチーです。「つかみ」が上手でコミュニケーションに長けているので、スタートアップ初期のスピード感をどんどん出せるのではないでしょうか。

一方で、スタートアップの内部はさほどシンプルなコミュニケーションだけでは済まず、エンジニアとのコミュニケーションや様々な試行錯誤にフラストレーションを感じるようです。

 
セールス

わずかですが、営業マンから起業された方もいます。営業現場で顧客の状況を深く知り、深いインサイトと原体験をお持ちです。原体験がきっかけとなり、営業を超えて製品開発や研究へと守備範囲を広げる情熱は、周囲を巻き込みます。また、エンジニアと比べ、「個」で動くことに慣れているように感じます。つまり、一人で色々な問題解決をしながら事業を立ち上げるときのパワーが出やすいように見受けられ、「営業」というイメージに合わず万能な仕事ぶりを感じさせます。

 
色々と職種別にスタートアップで役立つスキルを挙げましたが、企業でどんな経験するかはその人次第なところ相当あるので、あてはまらない人も多いかもしれません。ですが一つ共通して言えるのは、「濃い」経験をして、会社での一つの職種を務めるだけでは解決できない問題に出会っているということくらいです。
解決したい問題を目の当たりにし、取り組んでみるものの会社や事業の限界を感じ、会社を起こす、という流れは一つのステレオタイプなパターンなのかもしれません。さらに、上手くいっている起業家はその「職種」ではなく、「課題領域」においての専門家となっている、というパターンがあるのも必然なのだと思います。