Airbnb とDOORDASH のわかりにくい話を敢えてしよう

Written by 津田 真吾 on 2020-12-11

AirbnbとDOORDASHが上場した。
それぞれ初値ベースで$101B(10兆円以上)と$66B(6兆円以上)の時価総額とされていて、これはさすがに驚愕する。ちなみに“ユニコーン”の定義は$1Bなので、この2社はユニコーンの定義を凌駕し、$10B以上のバリュエーションを持つ企業につけられる“デカコーン”ということになる。
どちらもYCOMBINATOR発のシリコンバレーIT系スタートアップという括りで語られる。

また、Airbnbは部屋の貸し手と借り手を繋ぐ“プラットフォーム型”ビジネスであり、DOORDASHは配達をしたいレストランと届けてほしい消費者を同じようにつなぐ。

不動産や物流資源共有する“シェアリングエコノミー”というラベルも共有し、似た用語で職業や会社、場所に縛られない“ギグエコノミー”だと称されたりもする。

ユニコーン、デカコーン、シリコンバレー、プラットフォーム、シェアリングエコノミー、ここまで挙げてきただけでも数多くの「キーワード」があるが、これらのキーワードでこの2社を理解することはできない。しかもこうしたキーワードで、新しい事業を起こそうとすると痛い目に合うだろう。なぜならこうしたキーワードは事業の一面、しかも学術的な視点から見た特徴や、従来ビジネスと比べると変則的な点を取り上げたものだからだ。

例えば、「ユニコーン」は元々、伝説上の一角馬のように「きっと未上場のまま$1Bのバリュエーションには到達できないだろう。できたらカッコいいけど。」というネーミングが発端とされる。しかし現実には、予想を上回りユニコーンは次々と登場していて、幻想で終わると思われていた評価額の10倍を付ける企業も現れたため新しくデカコーンという造語が必要となった。

AirbnbもDOORDASHもITスタートアップというカテゴリに置かれるのが一般だが、Airbnbにとっては貸し手物件が借り手の期待に沿うように管理し、体験を想像させる情報発信、人々が旅に求めることが何かを把握していないと成立しない。つまり不動産業や観光業という側面は無視できない。DOORDASHは実際の物流を行っている。配達員を安定して確保することも必須であり、プラットフォームとは言うものの、リアルビジネスにかなり近い。

シェアリングエコノミーというのも、後付けの名前なので注意が必要だ。日本では昔から、醤油などの調味料を近所で共有していたように、急に必要になったものや、一定期間しか使わないもの、非常に高価なものの貸し借りは経済的に合理的だというのは誰もが知っていた。これを今の時代に合わせた形で体現しているのが“シェアリングエコノミー”の他ならない。また、企業から見たらフリーランスやアルバイトを中心に業務を回すことは固定費や福利厚生費を抑えるメリットがあり、働く側はややこしい上司やルールに縛られずに生活できるメリットがあるので、ギグエコノミーは職人やクリエイティブな職業を中心にラベルが付けられる前から存在していた。インターネットを活用できる企業によって発掘が進んだという方が正確だろう。

新規事業を起こしたい、スタートアップして成功したい、という方はわかりやすいラベルやキーワードを超えてこの2つの会社を知ってみたらどうだろうか?日本にはユニコーンが足りない、とか経済が低迷しているとか、危機感を持っている読者もぜひ、とお誘いしたい。

キーワードを超えて、と言ってもAirbnbに泊まってみるということを言っているのではない。もちろん楽しめる体験ではあるし、百聞は一見に如かずではあるが消費者としての体験とは異なり、事業を起こすプレイヤーとしての体験が大切だ。これを追体験することは決して容易ではないが、そのチャレンジの歴史と泥臭い試行錯誤の人間模様を知ることで、決して「普通の」スタートアップなどないことはきっと理解できるはずだ。普通のキーワードを追っかけた「置きに行った」新規事業が失敗し、キーワードを学者たちに作らせたチャレンジが成功するということも。

YCOMBINATORからいくつか生い立ちを紹介しているので、代表的な例としてご紹介する。(日本語にさっそく訳してくれた方もいるようで、これもギグですね)
https://blog.ycombinator.com/the-airbnbs/
https://review.foundx.jp/entry/doordash-from-application-to-ipo

AirBNBとDOORDASHの上場をきっかけに、この2社のことを改めて読んだが、感じたことがある。それは、起業家は社長の形をしているがクリエイティブな実験家であり、スタートアップはビジネスの形をしたクリエイティブなチームであり、シードアクセラレーターは投資家の形をしたクリエイティブな塾なのだということを。

「1億人に歯磨き粉の常用を習慣化させた男」と 「1億人に日常的な運動を習慣化させようとしている男」

Written by 加藤 寛士 on 2020-07-06

今日多くのサービスがユーザーに継続して使ってもらって、初めて提供者に利益をもたらすビジネスモデルを採用するようになりました。

提供者側が対価を受け取る前にユーザーに使ってもらって、良さをわかってもらい、さらに習慣的に使ってもらう」というビジネスモデルです。横文字で”サブスクリプション”なんて言われて、最近もてはやされてもいるようですね。(S製薬のDリンクル方式(?)といえばイメージしやすいでしょうか。)

選択肢過剰社会でビジネスを行う場合、新規顧客獲得コストが最も高くつくためにこのようなビジネスモデルが流行しているのだと思います。


一方で、普通は新しい習慣を身につけることはユーザーに大きな負担を強いることも忘れてはいけないでしょう。習慣化を達成するためには、例えば以下のような問題がすべてクリアされている状況を維持する必要があるからです。


  • 時間問題
  • お金問題
  • 周囲の理解問題
  • 上手にできない問題
  • やめる言い訳が思いついてしまう問題
  • なんだかどうでも良くなってくる問題
  • どうしても飽きてくる問題
  • 気分が乗らなくなってくる問題
  • すぐに効果が得られない問題

そこで多くのサブスクリプション型のビジネスでは、ユーザーにそうした数多の困難を乗り越えてもらう対価として、(一般に膨大な手間をかけて) 毎日のようにリッチなコンテンツやインセンティブを提供し続けています。

しかし多くのサービスが、そうした実直で献身的な努力にもかかわらず確実にユーザーに習慣的に使ってもらうことができずに、苦戦を強いられているようです。


そこで今回は「プロダクトデザインにおける習慣の形成」をテーマに、わずか10年で1億人の習慣形成を達成した歴史的な成功事例を紹介し、その事例の観察から行動経済学が解明した「プロダクトデザインに応用可能な戦略」についてお伝えします。

さらに、その戦略を(自覚的にかはわかりませんが)上手に活用し、現在進行系で1億人の運動習慣の形成を目指しているスタートアップ企業をご紹介します。



3週間では足りない習慣形成

よく言われる習慣形成の知恵として、「まず3日、そして3週間続けることができれば、それは習慣になる」というようなことが言われています。その知恵に従って、習慣化が達成されるまでの間、一定のインセンティブを与える方法がビジネスの場面でもよく取られています。

ちょうど今(2020年7月)、国が電子決済の利用を促進するために最大5,000円分相当の「マイナポイント」の付与する施策をおこなっています。これも、インセンティブを使って、電子決済利用の習慣化を狙ったものと言えるでしょう。

また、ソーシャルゲーム業界では「初回登録から14日間ログインボーナス」のようなキャンペーンを行うことは、ほぼ全てゲーム運営のデフォルトとなっているようです。


また、モチベーション理論などの視点から提供される習慣化の戦略として「小さな達成を可視化せよ」みたいなこともよく言われています。


もちろんそうした戦略は、ある程度の有効性が確認されたものではありますが、これをお読みの方であれば、「インセンティブ」や「達成の可視化」をプロダクトデザインに組み込んで、ユーザーに先行して達成感や心地よさや便利さを体験させたはずなのに、それでも習慣が形成されない。という経験もしていることでしょう。

習慣形成には、先程簡単に思いついただけでも9つもの問題がクリアされている状態を保たなくてはいけないのです。さらに強力な戦略の併用が必要な状況もあるということだと思います。



1億人に歯磨き粉の常用を習慣化させた男

ここでプロダクトデザインの妙に基づいて成された習慣形成について、歴史的に知られた成功例を一つ紹介しましょう。


成功例の舞台は1900年代の初頭のアメリカ。人口は1億人。ほとんど誰も「歯磨き粉」を使っていませんでした。この状況から初めて、1910年代までのわずか10年足らずで、ほとんどのアメリカへ国民に歯磨き粉を常用する習慣を作り出した男がいます。

その男は以下のように広告を使い歯磨き粉を改良することで、アメリカ人1億人に歯磨き粉を使う習慣を作り出しました。

  • 「歯を磨いてしばらくすると、歯や舌にぬめりを感じること」を自覚させる広告をする
  • 「歯のぬめりを感じたときには、歯磨き粉を使って歯を磨こう」と呼びかける広告をする
  • 歯磨き粉にミントの香料を仕込み「歯磨き粉を使うとミントの清涼感を感じることができる」と広告する

ちなみに、その男の名前はクロード・ホプキンスと言います。一部の人達にはおなじみの現代広告界のレジェンダリーの1人ですね。


行動経済学が解き明かしたホプキンスの魔法

アメリカ人の口腔衛生に大きな好影響をもたらした歯磨き粉ムーブメントですが、行動経済学の学者たちはこのムーブメントを観察し、マーケティング戦略として再現可能なテクニックに落とし込んでいます。

その戦略とは一言で言えば「習慣化にはキュー・リワードの組み合わせて習慣化することが有効」ということです。キューとは習慣を開始するきっかけ、リワードとは習慣を達成した時に得られる報酬のことです。


クロード・ホプキンスの事例ではキューは「歯や舌ににぬめりを感じること」、リワードは「ミントの清涼感」となります。「歯にぬめりを感じたら、歯磨き粉を使って歯を磨くと、ミントの清涼感を得られる」この3STEPを組み合わせた習慣化を目指したということです。


少し話がそれますが、広告を依頼されたクロード・ホプキンスが、「虫歯が原因で年間数万人が亡くなっています」「口がきれいであることはモテるための最低条件です」「歯がきれいだと、食事が3倍増しで美味しく感じるという分析結果が出ました」のような安直な広告を打つことをせずに、習慣化のムーブメントを設計した非凡さには、レジェンダリーと呼ばれるだけの手腕を感じざるをえませんね。


習慣の形成にはリワードだけでなく、キューが必要というのは言われてみれば、ごく当たり前のことのような気もしますが、たった10年で世界を全く新しいものに変えた実績を考えると、とても強力なテクニックと考えて良さそうです。



1億人に日常的な運動を習慣化させようとしている男

「習慣化を価値に変える」ことに取り組んでいる、現在進行系のスタートアップ企業も紹介しましょう。


LiveRunは、スマートフォーン活用して、毎日定時に10回程度バーチャルグループランニングを配信しているウェブサービスです。


LiveRun | ライブラン | ランニング | ウォーキング


LiveRunは「運動の習慣形成」に取り組むために設計されたアプリケーションですが、彼らにとってのキュー・リワードは何でしょうか?



彼らのキューは「ライブであること」です。 一瞬では理解しにくいですが、記念日と同じ仕組みだと考えてみるとわかりやすいかと思います。

世界中の多くの人々が「1月1日に新年を祝う習慣をもっていること」をキュー・リワードで説明すると、どういうことになるでしょうか?


簡単ですね。


1月1日という日付を迎えることが、新年を祝うという習慣のキューになっているということです。 同様にLiveRunでは、カレンダーではなくて、時計がキューとして機能しています。「ライブであること」がキューとして機能しているというのは、例えば「6:30の時計を見ると、走り出さなくていけない感じがしてくる」ということです。


類似したコンセプトの運動支援アプリは、動画や音声コンテンツをいつでも利用できるようにしているものが多いですが、「習慣化」という側面から見ればライブランは他を圧倒していると感じます。実際に有料利用継続率93%という、この手のサービスを運用経験がある人からしたら、ちょっと意味がわからない数字が出ているようです。


キューが古典的であったのに比較して、リワードは極めて現代的です。LiveRunでは、「定期的に運動することの爽快さ」に加えて、「みんなでひとつのことに取り組んでいるという一体感」、「名前を呼んで、ほめたり、はげましたりしてもらえること」がリワードとして機能しています。


大の大人が「そんなこと」で? と感じられたかもしれませんが、ささやかなミントの清涼感ですら世界を一変させるきっかけになったのです。再び「ささやかなリワード」が1億人の生活習慣を変えるということも十分に起こり得るのではないでしょうか?

実際に「そんなこと」でも十分すぎるほどリワードとして機能しているようです。私もたまにグループランニングに参加させていただいているのですが、朝2回参加、夜2回参加するようなほぼLiveRunの中毒(笑)とも言える方も何人も見受けられます。デジタルテクノロジーを活用したつながりのなかにリアルなものを求めていく。とても現代的なリワードですね。



新規事業開発におけるキューとリワードの設計

LiveRunが、スマートフォン普及拡大を背景にキューとリワードを設計し挑戦を始めているように、新しいテクノロジーやビジネスモデルを駆使してこれまでになかったキューやリワードを作り出すことができるようになってきました。

弊社では「デジタルテクノロジーや心理学・行動経済学を活用した習慣形成」も視野に入れた、新規事業開発の総合的なコンサルティングサービスを展開しております。

お気軽にご相談ください。



行動経済学をプロダクトデザインに応用する

本記事は、『行動を変えるデザイン』を参照して執筆しました。情報は少し古いですが、心理学や行動経済学をに活用していくかを丁寧に解説したおすすめ本です!

生と死 Innovation for Life vol.1

Innovation for Lifeのテーマは人類にとっての永遠のテーマである死について取り上げてみました。

 

我々は死と向き合う事でより生きることの意味が見えてくるのではないでしょうか?

 

私自身は、日本人の伝統的な行事や風習、そして生活習慣に多くの影響を与えてきている禅をルーツとする武道の体験を通して、武士の人生哲学に興味を持つことになりました。

スティーブ・ジョブスや、ベン・ホロイッツなど海外の多くのイノベーターもこの禅や武士道に惹かれる事には何か本質的な共通点があると考えています。

 

江戸という、戦がない平安の時代を治める為政者となった武士が、自らを律して生きていくために定めた行動規範が武士道であり、そこに不確実性が高く、生きる目的を見失いつつある現代を生きる我々にとってのヒントがあると考えています。

 

もし明日死を迎えるとしても、悔いの無い毎日を過ごしていますか?

 

自信をもって”はい”と応えられなければ、是非これを機会にその理由を探ってみてはいかがでしょうか?

 

Innovation for Life vol.1 生と死

不確実性が益々高まる現代社会において、幸せな人生をおくるために大切なことを考える問いを発信することでみなさまとご一緒により良い未来そして社会を創っていくチャンネル Innovation for Life・・・第一話のテーマは生と死 何カ所かカットしたのですが・・・時間は約8:00と少し長めにになりましたm(__)…

Vol.1 生と死

本コンテンツもイノベーションの作法通りに実践を通して改善、改良していきます。

みなさまからもご感想やご要望をお待ちしております。


要素分解の力

Written by 津田 真吾 on 2020-06-09

先日書いた『「イノベーティブ」な5つ誤解』を、あるスタートアップ創業者に読んでもらった。イノベーションだけを行うスタートアップ組織の在り方としての納得感を知りたかったからだ。

彼の感想は、全般的に納得できる示唆だという点と、「要素分解」されていてわかりやすい、とのことだった。

  

なるほど。
単にイノベーティブな組織にしよう!という声掛けよりも、分解されているとわかりやすいし、行動指針として示しやすいということだ。

もちろん、私自身もとても明確な指針だと思って、ピサノ氏の論文を紹介したわけだけれど、こちらもこうやってどこが良いのか要素分解して教えてくれると、嬉しい。

さらに、以下のようなフィードバックをもらった。
「2番の実験とやみくもなトライの違いがわかりにくい」

確かに。
この二つの違いはニュアンスで伝わるものではないかもしれない。

なので、この二つの違いを少し言語化して掘り下げてみた。

仮説検証を目的とした実験には、 「事前の狙い」「仮説」「実験コストを下げる工夫」があるものだ。つまり、何を成し遂げるための実験なのかがはっきりしているし、その目標に対する仮説がある。さらに、目標を達成するために工夫があると、リーンに仮説検証が行える。

スコット・アンソニーもイノベーションを実行するためのコツはHOPEだと『ザ・ファーストマイル』に要素を分解して書いている
H: Hypothesis 仮説
O: Objective 目的
P: Prediction 予測
E: Execution 実行

改めて要素分解の力を感じるとともに、「実験」と「試す」という言葉遣いの重みを感じた。

『ファーストマイル』は”アイデア実行”の地図 | Biz/Zine

[公開日]2014年12月05日  イノベーションは最初、「アイデア」から始まります。顧客のニーズに関すること、技術的なシーズなどの様々な「着想」から始まりますが、そこからが問題です。  飛行機であれば、離陸できる速度まで加速すれば自然に機体が浮き上がりますが、新規ビジネスではそうはいきません。実は私たちが受ける相談の多くが「いつ行動に移したらよいのか?」というものです。 …

アイデアをマネされたらどうするか?

Written by 津田 真吾 on 2020-02-10

自分が考えた新規事業のアイデアをパクられた!

まずは「おめでとう!」と言いたい。素直に。ほとんどのアイデアは誰からも見向きもされず、忘れ去られることを考えれば、素晴らしいアイデアを出したあなたは褒められるべきだ。

でも、褒められたところで釈然としない気持ちが残ることは経験上、よくわかる。一所懸命に考えて、準備したネタを、タダで盗まれるのは悔しいし、人間不信にもなるかもしれない。聞いたアイデアを実行してみたいほど気に入ったのなら、なぜ言ってくれなかったのか?なぜ誘ってくれなかったのか?と、寂しさと悲しさに覆われる。

しかし、優れたビジネスは模倣される運命にある。だからこそ、誰かにその新しいアイデアを相談すると必ず「競合優位性は?」「独自性は?」「模倣困難性は?」としつこく聞かれ、要するに「参入障壁を作らないと苦労するよ」と言うのである。シリコンバレーにも「アイデアには価値がない。実行にだけ価値がある。」という文化があるのも合理的だと思う。しかも、ビジネスのスピードが急速になっている現在、「障壁」を意味するBarrier よりも 、同じ城壁を守るが泳げば渡れる「掘」を意味する Moat が好まれている。模倣は可能だが、競合が追いつきにくくすることなら可能だという意味だ。

さて、今回三菱商事がsoucoのアイデアを完コピしたことや、Origamiが事業を畳んだり、PaypayやらLinePayやらD払いなど、QRコード決裁が死ぬほど増えている現状から、まずはこの参入障壁や競合優位性について書いてみたい。

パクられないアイデアとは?

「参入障壁」には数多くの種類がある。ピーター・ティールは

  • Proprietary Technology 独自技術
  • Network Effects ネットワーク効果
  • Economies of Scale 規模の経済 
  • Brands ブランド力

の4つを挙げている。またマイケル・ポーターは次の8項目を参入障壁だと定義している。

  • Trademarks consolidated in the market  市場における商標――ピーターティールのブランド力と同じ
  • Patents 特許 ―― 独自技術を公開し、国家権力で独占化する試み
  • Government Policies 政府の政策―― 国や政府が管理している医療、通信、交通、放送などの分野では新規参入者への認可や承認などのハードルがある
  • Mastering cutting-edge Technologies  先端技術の体得――ピーター・ティールと同じ
  • Economies of scale 規模の経済――ピーター・ティールと同じ
  • Learning Curve 学習曲線――技術体得や、ビジネスモデル体得までの時間的制約
  • High Capital Requirements 大きな資本の必要性――小さなオンラインストアなら数万円で開業できるが、石油採掘や宇宙事業は巨大な資金が必要
  • Access to Distribution Channels  代理販売業者へのアクセス――拡販する際の規模

これらの参入障壁のうち、斜線のものは大企業でないと手に入れられない点が重要である。つまり、スタートアップにとっては、喉から手が出るほど欲しいのがこのような障壁となり得る強みなのだ。

残る「学習曲線」「独自技術」「特許」で守るしかない。だが、優れた技術であればあるほど研究に時間がかかるし、ある程度はそのアイデアを口外しないと必要なリソースが手に入らないのも事実である。そうなると、八方ふさがりのような気もするが、実は突破口はある。

Motivation ― 人がやりたくないことをやる

クリステンセンも、破壊的イノベーションは最初、非常に小さな市場や辺境から始まると言っている。それは大企業にとって「魅力が無い」市場に映るからだ。例えば「遊休倉庫の稼働率を上げたい」と願うのは、たくさんの倉庫を抱える大企業である可能性が高い。どうせ眠っている資産なら誰しもが有効利用したいだろう。とてもわかりやすく、魅力的なアイデアだったことが仇となった可能性が高い。

Amazonのベゾスは、自社の利益を極限まで絞って値付けした。儲かりすぎると、他社が追随すると思ったからだ。ギリギリで薄利ビジネスを営むことで、他社には消耗戦に参入したくないと思わせているうちに、「規模の経済」や「ネットワーク効果」を作り上げた。Eコマースが流行する前に、地味に始めたことで学習曲線も随分先に進んだ。ベゾスはかつて「iPhone唯一の失敗は価格を高く設定しすぎたこと」だと言ったそうだが、利益率が高く、魅力的なビジネスに見えたことで後発のAndroidにシェアを奪われたという見方はさすがだ。

要するに「良いアイデアだけど、ウチはやりたくない」と思わせるようなアイデアが一番良いと思っている。

三菱商事のケースでは、soucoのアイデアを真似したかどうかよりも、「真似したんじゃないか?」と思われるリスクや、今後スタートアップから信用されないかもしれないリスクを冒してまでも、やってみたいような良いアイデアだと感じたのだ。

―最後に―

マネをされると悔しいし、マネをされた人を恨みたくなる。スマートな戦い方じゃない、と批判したくもなる。何のクレジットもなく論文やアイデアを盗まれたこともあるので、その悔しさや痛みはわかるつもりだ。でも実は、日本という国が今、先進国と見なされ、おおむね豊かに暮らしていけるのは先人たちが「マネ」をしたからだと私は思っている。リバースエンジニアリングや産業スパイが行われていたのも事実だ。「これは必要だ」と感じれば躊躇なく行動することが大事なのである。スティーブ・ジョブズもピカソも、「優れた芸術家はまねる、偉大な芸術家は盗む」と言ってきている。

だからと言って、パクりやマネを奨励する気はないことは強く断っておきたい。

さすがにレジに並んだとき、決済手段があまりにも多すぎてうんざりするし、レジのバイトが可哀そうだ。毎月新しい決済サービスをシステムに導入しているSIerのエンジニアからも悲鳴が聞こえる。○○ペイ、SUICA / PASMO / Quickpay、各種クレジットカードとか…横並びでマネをして、そこに未来を見ているのだろうか?他社に勝ったり、既存の大手企業を潰すことを目標にしていないだろうか?

最終的には消費者の選択によって企業が淘汰されていくことになるだろう。そこには血みどろな戦いも予想される。そういう明確な戦いを好むビジネスマンも多いが、そのプロセスはあまり楽しくないのではないだろうか。マネも良いが、消費者から見てその選択肢が増えることが良いことなのか今一度考えたい。