起業家の前職は何をしてたのか?

Written by 津田 真吾 on 2018-12-10

ZENTECH DOJOというシードアクセラレーターを始めて、2年以上が過ぎました。振り返ると、10人以上の色々な起業家や起業予備軍とご縁を頂いたなぁと思います。
また、先日採択チームが発表されたKawasaki ZENTECH Accelerator では10社の若きハードウェアスタートアップの創業者をサポートしています。
こうした起業家って、一般には学生が多いというイメージかもしれませんが、案外、社会経験を経てから起業する割合はかなり多く、8割以上の方が何らかの社会経験をお持ちです。
だからと言って、社会人起業が良いと言いたいわけではありません。むしろ、起業は「資格」や「経歴」から一番遠い仕事です。
学生時代に起業して大成功した人の方が印象的かもしれません。例えば、マイクロソフトのビル・ゲーツは在学中に起業しましたし、ザッカーバーグも在学中にフェイスブックを作りました。
しかし一方で、アップルのスティーブ・ジョブズ(アタリ)、スティーブ・ウォズニアック(HP)は一度エンジニアとして就職しています。アマゾンのジェフ・ベゾスは投資銀行で30歳まで働き、かなり出世していました。さらにウォルマートを創業したウォルトンは40を過ぎて起業しています。
このような例からも、学生起業が良いのか?社会人経験があった方が良いのか?という議論は不毛だということはご理解頂けたと思います。
 
企業で勤めたことがマイナスに働くこともあります。(例:「営業」は営業担当者の仕事だと思ってしまうなど、変な癖がつく)。
一方で、会社での経験が役立っているケースもたくさんあります。
前職の経歴として多いものから順に、その経験のどういった部分が起業後も活かせているのか、述べてみたいと思います。
 
エンジニア

エンジニア出身の起業家が多いのは、誰もが認めるところだと思います。それは技術を扱いなれていて、ゼロから何かを作る感覚を持っているからだと思います。

対象がプロダクトであろうが、ビジネス全般であろうが、実験や試行錯誤から学び、修正していくプロセスは、さほど変わらないのではないかと感じます。もちろん、対象領域に対する知識も必要ですが、不確実性の高いスタートアップにおいては、事前の知識よりも学ぶスピード(ラーニングカーブ)が遥かに効いてきます。

例外:「エンジニア」という肩書きはついていても仕様書や設計書を書くばかりの仕事もあります。(エンジニアを採用するスタートアップもこういうエンジニアには注意しましょう。有名なプロダクトに関わっていたというエンジニアも要注意です。売れている製品にはリソースが沢山割り当てられるため、一人の業務範囲は小さくなりがちです。)

 
研究職

意外に思われるかもしれませんが、エンジニアと同じ理由で研究職も向いています。実験と試行錯誤を信条とする研究者は仮説を立てて、検証することにあまり抵抗がないようです。

一方で「専門領域」や象牙の塔のヒエラルキーに慣れ親しんでしまっていると、チャレンジをする力が削がれてしまうかもしれません。

研究者も、ある研究領域における知識を重視しているような方はあまり向きませんが、そういう方はあまり起業しないので問題ないと思います。

 
コンサルタント

DeNAの南部さんのように、M社やB社出身のコンサルタントが起業するのもよく見かけます。ある程度コンサルをやってしまうと、起業するのが割に合わなく感じられるようですが、そんなこと考えずにやっちゃう人は向いていると思います。

特にB2B系のビジネスであれば、色々な企業の組織力学を知っていることは固有知識としても役立ちます。文書作成能力が高いと提案書は通りやすくなりますし、ビジネス上の振る舞いが板についていると、他の企業と付き合いやすいはずです。基本的な取引を成立させ、ビジネスを軌道に載せる上でCOO的なスキルをコンサルタント時代に身につけているのだと思います。

 
マーケター

企業のマーケティングを経験してから起業される方もいます。このような方は、サービスの見せ方から入るので、とにかくキャッチーです。「つかみ」が上手でコミュニケーションに長けているので、スタートアップ初期のスピード感をどんどん出せるのではないでしょうか。

一方で、スタートアップの内部はさほどシンプルなコミュニケーションだけでは済まず、エンジニアとのコミュニケーションや様々な試行錯誤にフラストレーションを感じるようです。

 
セールス

わずかですが、営業マンから起業された方もいます。営業現場で顧客の状況を深く知り、深いインサイトと原体験をお持ちです。原体験がきっかけとなり、営業を超えて製品開発や研究へと守備範囲を広げる情熱は、周囲を巻き込みます。また、エンジニアと比べ、「個」で動くことに慣れているように感じます。つまり、一人で色々な問題解決をしながら事業を立ち上げるときのパワーが出やすいように見受けられ、「営業」というイメージに合わず万能な仕事ぶりを感じさせます。

 
色々と職種別にスタートアップで役立つスキルを挙げましたが、企業でどんな経験するかはその人次第なところ相当あるので、あてはまらない人も多いかもしれません。ですが一つ共通して言えるのは、「濃い」経験をして、会社での一つの職種を務めるだけでは解決できない問題に出会っているということくらいです。
解決したい問題を目の当たりにし、取り組んでみるものの会社や事業の限界を感じ、会社を起こす、という流れは一つのステレオタイプなパターンなのかもしれません。さらに、上手くいっている起業家はその「職種」ではなく、「課題領域」においての専門家となっている、というパターンがあるのも必然なのだと思います。

EdTechがスキル習得を超速化した世界で

Written by 加藤 寛士 on 2018-08-23
トーマス・アンダーソンは、大手ソフトウェア会社のメタ・コーテックスに勤めるプログラマである。しかし、トーマスにはあらゆるコンピュータ犯罪を起こす天才ハッカーネオという、もう1つの顔があった。平凡な日々を送っていたトーマスは、ここ最近、起きているのに夢を見ているような感覚に悩まされ「今生きているこの世界は、もしかしたら夢なのではないか」という、漠然とした違和感を抱いていたが、それを裏付ける確証も得られず毎日を過ごしていた。(Wikipedia – マトリックス(映画))
20年前に公開されたSF映画「マトリックス」の冒頭のシーンです。

 

マトリックスの世界では、何かを習得するために学習や鍛錬は行わず脳への直接の ”インストール” が常識となっています。武道の心得はなかったネオも、カンフーの極意を”インストール”することで長い修練を省略して非常にハイレベルな体術を一瞬で身につけています。

 

似たコンセプトを実現するSFの道具としては、ドラえもんの暗記パンもよく知られていますね。私も22世紀を待たずして、マトリックスやドラえもんの世界が早く実現すると良いなぁと本当に思います…

 

22世紀をうらやむ一方で2018年の現代においても、スキルの習得に必要な時間・コストを(一瞬でとは行かなくても) 半減させるためのイノベーティブなサービスが次々登場しています。

 

EdTech – 人間の進化を加速するテクノロジー –

 EdTechという言葉が登場する前(2005年頃でしょうか)”教育とテクノロジー”というキーワードからは、以下のようなソリューションが連想されていました。
  • オンライン授業
  • 電子黒板
  • 電子教科書
どちらかと言えば「効率的に教えたい」「楽に教えたい」という教える側のJジョブにフォーカスしたソリューションが多いですね。今ほど、テクノロジーがパーソナルに活用されていなかった当時は、テクノロジー導入の主体が学校や企業であっためでしょう。

 

一方で現在は、情報技術をパーソナルに活用できるインフラが整備されたこともあり「楽に知りたい」「効率的に身につけたい」という学ぶ側のジョブに応えるソリューションが教育領域におけるイノベーションの主役となっているようです。

 

例えば、世界に名だたる有名大学の講義のオープン化し推し進めるコーセラ、アジア発のユニコーン企業として知れるオンライン英会話サービスのvipabc、予備校ビジネスの黒船的存在として勢力を拡大するスタディサプリのようなサービスを利用することは、学ぶ側にとっての当たり前の選択肢の1つとなりつつあります。

 

ジョブ理論を用いてこれらのサービスを分析すると、金銭・アクセス・時間・学習の管理などのBを著しく低下させることによるイノベーションが進んでいると状況を捉えることができます。

 

【余談】

こうした教育領域におけるイノベーションは、EdTechというキーワードでまとめられて盛り上がりを見せています。しかし、”学ぶ側のJOB”にフォーカスしたこれらのイノベーションは、”学習領域におけるイノベーション”という表現をとって、Learn-Tech(?)のほうがその本質を捉えている…と、私は感じるのですが皆さんはいかがでしょうか?

 

自分がうまくいった生き方が、子供の時代でも通用するとは限らない

…ということがいつの時代も言われるものですが、EdTechによって徐々にスキルの習得が容易となっていく世界では、この言葉の重みはより増していくものと思います。

 

例えば、EdTechの進化によってマトリックスの世界のように歯医者にでも行くような感覚でベテラン弁護士並みの法律に関する知識・経験をインストールできる世界に到達してしまえば、弁護士は職業として成立しなくなるでしょう。

 

そこまでの変化はすぐには起こらないとしても、学びが効率的に行える環境が整うということは、マトリックスのような世界に近づいていくということでもあります。つまり、EdTechの進化によって「しっかりと勉強した」「長い経験を積んできた」ということを基盤としたスキルや技能のコモディティ化も進んでいくということです。

 

資本主義の世界で「価値の源泉」となるのは、希少性 (需要に対する供給の不足) が見られるモノやコトです。したがって、単にスキルがあるとか知識や技能があるというだけでは、価値ある人材とは見なされなくなっていくはずです。

 

これまでの世界では、真面目にコツコツと努力や訓練をして価値ある知識や経験を蓄積できた人間が価値ある人材でした。しかし、進化したEdTechが前提にある世界ではそのようなロジックは通用しません。これはまさに…

 

自分がうまくいった生き方が、子供の時代でも通用するとは限らない

 

いうことに他ならないでしょう。それではこれからの世界において、どのような仕事が価値をもたらすようになるのでしょうか? 1つ、仮説と実例を示すことはできます。

 

マトリックスの先を行くイノベーター

その仮説とは…

 

進化したEdTechが前提の世界で活躍するのは、以下の4つのタイプの人々ではないか?

 

というものです。

  • アーティスト
    • 「自身が意味を感じる」ということをコアにして活動する
  • ビジョナリー
    • 未来志向で進むべき方向を柔軟にかつ構造的に示す
  • イノベーター
    • 前人未到を実現普及させるために奮闘する
  • コーチ・ファン
    • イノベーター・ビジョナリー・アーティストの信念を理解しサポートする

アーティスト・ビジョナリー・イノベーターは既存の価値体系にとらわれない原理に基づいて行動します。その姿はいわば「火がついた(そして狂った)人」とでも表現することができそうです。

 

そうした人々の活動は既存の価値体系から外れたものですが、人間の能力開発にまで合理化が進んだ世界においては、むしろ既存の価値体系から外れているが故に希少性を帯びることになり、価値の源泉となりうるのではないか?

 

というのが私の仮説です。仮説ではあるのですが、これを裏付ける日本人にとってはあまりに有名すぎる実例もあります。あえて詳しくは書きませんが、200X年にとある少年の人生に火をつけたのビジョナリーはエフゲニー・プルシェンコ氏でした。約10年を経た現在、少年はアーティストとして成長しいくつもの前人未到を達成するイノベーターとして活躍し数億人の心を勇気づけるという巨大な価値をもたらし続けています。

 

彼のように火がついた人間を支えるのは、(説教臭い表現になってしまい嫌なのですけど) 個人の精神性、感受性、想像力、情熱、モチベーション、フィジカルといった力、さらにはコーチのサポートやファンの共感といった社会的な力ではないでしょうか。

 

「簡単にインストールすることができる力を身につけて、時間を切り売りする」人生のほうが合理性がありますが、そのような労働力はコモディティ化してしまいます。したがって、大きな価値を生み出そうとするのであれば、とある少年のような火がついた人生を生きるしかないということになります。そして、スタートアップの世界におけるそうした人たちに世界最高のサポートを提供し、誰よりも大きな声で応援するのがINDEE Japanの役割だと考えています。

 


どうすれば誰もが人生に火がつくきっかけに出会い、火がついた人生を生きる事ができるのか? 応援する仲間を増やすことができるのか? 私達もまだ構造化してお伝えすることができませんが、そこにアプローチする活動は既に初めています。

 

以下のイベントもその一環です。
イノベーションの源泉となる人の持つ力のような、イノベーションの“上辺だけの体裁”ではないディープなテーマにもご興味をお持ちの皆様に、ぜひご参加をいただければと思います。

なぜハードウェアスタートアップは“ハード”なのか?

Written by 津田 真吾 on 2018-07-17

さまざまなスタートアップが存在してしかるべきなのですが、なぜかITスタートアップの方が「成功しそう」だという世間の評判があるようです。
ハードウェア系のスタートアップは文字通り「ハード」だという評価は軒並み共有されているので、特に反論はしませんが、なぜそういう評価なのか?そしてどうやったら「よりイージー」になるのか?考えてみたいと思います。
ちなみに知らない人もいるかもしれませんので、ハードウェア(Hardware) という言葉は難しいということではなく「硬い」、つまり変更が効かないということから生じた単語です。ソフトウェアは柔らかく変えやすいという意味になります。ハードウェアの制御ソフトウェアなど、その中間に位置するものを「ファームウェア」(firmware=しっかりとしていて変えにくいが変えられる)と呼ぶこともあります。
 
表面的な理由
ハードウェア開発を前提とするスタートアップが難しいとされる第一の原因は、資金調達が難しいからです。ハードウェアはソフトウェアよりも開発に時間もお金も掛かります。したがって、投資家にとって大きなコミットをしなくてはいけない案件になってしまいます。仮に大きなファンドを持つ投資家がいたとしても、数多く存在する他のIT/ソフトウェア系スタートアップに投資を分散させた方がポートフォリオが健全化します。少額しか投資できない投資家にとっても、他の投資家も投資してくれなければ開発が途中でストップしてしまう大きなリスクを抱えることになります。アーリーから投資するVCはリスクに対して極めて寛容であるにも関わらず、ハードウェアへの投資に距離を置く方も多いです。
その結果、ハードウェアスタートアップに投資するVCはIT系と比べると極端に少ないのが現状と言わざるを得ません。
 
なぜなのか?その1
では、なぜVCがハードウェアを避けるのかを観察してみました。すると、2つの理由がありそうです。
1つは、「技術がわからないから」というものです。確かに、ハードウェアスタートアップを始める起業家は技術的な特徴を軸にしているケースが多いです。そうした起業家に出資を検討するVC側はどうでしょう。一般に思われているように、多くのVCは「技術」の目利きをしているわけではありません。ベンチャーキャピタルは投資業ですので、投資に対するリターンの目利きをしているのです。そのため、テクノロジー企業に投資を行うVCは技術を一定レベルで理解できているものの、コードを書ける人は稀です。ただ、投資検討の対象となるIT系スタートアップの数が多いため、起業家と投資家のコミュニケーションに一定のパターンが出来上がっていて、こうしたスタートアップに対するVC側の理解力は優れています。つまり、共通言語も多く、成功事例も多いため、「わかりあえる」状態になりやすいということです。逆に、ハードウェア起業家が投資家と「わかりあえる」と思える経験が少ないと感じている状況は数多く見かけます。その結果、起業家は「わかってもらえない」と自信を失い、VC側もハードウェア系は「わかりにくい」と判断してしまいます。ハード系のスタートアップが支援者を得るには、コミュニケーションが大切なファクターになっているように見受けられます。
2つ目が、ハードは「成功しにくいから」というものです。「ハードである」ということを繰り返しているにすぎませんし、成功しにくいから投資をしないというは「予言の自己成就」のような状況ですね。これを乗り越えるためには「成功しそう!!」だということを感じてもらうしかありません。
 
なぜなのか?その2
上に挙げた2つの理由は、投資をする側の「評価」の問題です。したがって、仮にVCときちんとコミュニケーションを取って、信じてもらい、出資を得られたとしても、「ハードである」という評価に至るロジックを理解しておかないと、本当に成功することはできません。
それでは、ハードウェアを含むサービスを作ることがIT/ソフトウェア系サービスとと比べて大変なことを挙げてみたいと思います。

  • 物理法則に支配されている
    例えば、温度センサー一つとっても、質量を持ち、比熱があり、熱容量があるので、計測データにラグが発生します。ユーザーが落とせば壊れ、輸送中に破損したり、生産中にとんでもないミスが発生することもあり得ます。電子レンジの近くで変な動作をしてしまうのも物理法則であって、ビジネスのロジックではありません。ハードウェア開発をしていて、一番難しさを感じるのはこういう物理法則的な壁にぶち当たったときです。
    しかし反論すれば、どんなITサービスもハードウェアを必要としていて、物理法則を免れません。言い換えると、スマホやサーバーの所為にすることはできたとしても、無茶な運用を強いるようなITサービスは高くついたりUXが悪くなるので、お客さんは離れてしまいます。
  • ものづくりに時間がかかる
    一概に言えないかもしれませんが、時間が掛かるケースが多いです。プロトタイプまでは早くできても、量産金型を作ったり、数に対応するには時間がかかりますね。ソフトウェアであっても、AI系のサービスは本格的に開発しようとすれば結構時間が掛かりますし、人気のあるサービスを運用するならプロトタイプよりも堅牢な作り込みに時間が掛かるので、程度の差こそあれ、量産化に向けた時間はどちらもあるのではないでしょうか。
  • いずれ製造コストの安い競合に市場を奪われる
    これまでの日本のエレクトロニクスはそうでした。類似機能を持つパクリ製品が出回り、価格競争を強いられたり、価格を維持したままだと市場を奪われたりということが起きてきました。しかし、これはハードウェアに特異な問題ではないと思います。毎月リリースされるアプリの数を見ていると、類似品ばかりですし、顧客にお金を払ってダウンロードしてもらっているものも散見されます。問題はいかに顧客にとって必需品となっているかであり、それがハードウェアなのかソフトウェアなのかサービスなのか、ではありません。
  • スケールするための投資が必要
    ソフトウェアの最大の特長は「再生産に(ほとんど)コストがかからない」ことです。1人にアプリを配るのと、1万人にアプリを配るのと、文字通りコピペ同様の作業で済みます。しかし、ハードの場合は1人にデバイスを配るのと、1万人に配るのとではまったく世界が違います。もちろんそれだけの部材を手配しなくてはなりませんし、生産するための要員や生産設備を用意しなくてはなりません。ファブレスといくら言っても、工場を探し、図面のやりとりを行い、納品をしてもらわないといけません。このバリューチェーンをコントロールするのはやっかいなオペレーションを必要とします。
  • ピボットができない
    個人的にはこの理由がスタートアップにとって、もっとも難しいポイントだと思っています。リーンスタートアップを実践しようにも、仮説検証をするチャンスが少ないのがハードウェア系スタートアップの特徴です。MVPやプロトタイプだけを比べても、ハードウェアを開発するにはそれなりの時間とお金が掛かります。無事シードで資金を調達できたとしても、相対的にバーンレートの大きいハードウェアスタートアップは数少ないピボットでプロダクト・マーケット・フィット(PMF)を達成しないと成功できません。多くのハードウェアスタートアップを見ていると、ピボットはもちろんのこと、設計改良を1度もしない想定で資金計画をしています。ITスタートアップですら、1度の開発でPMFに到達するのは至難の技だというのにです。そんな至難のPMFをするためのシード期の調達となると、投資家が控えてしまうのもやむを得ないでしょう。シードやアーリーに出資するVCが投資するときに、起業家本人やチームを重視するのも、スタートアップには大なり小なりのピボットが不可欠だからです。

ではハードウェアスタートアップは難しいだけなのか?
こうやって書いていると、ハードなスタートアップはやるだけ無駄のような印象を与えてしまうかもしれませんが、一方で得られるメリットも大きいです。いくつか挙げましょう。

  • 参入障壁を築きやすい
    上記のように取り組みにくいということは、参入したいと思う競合も少ないです。製品だけでなく、素材や加工工程など、バリューチェーンの色々なポイントで参入障壁を築くことができます。特許などの効果も期待できます。
  • ライフスパンが長い
    製品開発に時間が掛かるということは、一つの製品の寿命が長いということでもあります。開発時には足枷だった時間が、市場を築くことができれば有利に働きます。
  • 価格の妥当性を訴求しやすい
    アプリはタダとか100円といった染み付いた価格感を顧客に持たれています。一方でハードウェアはそれなりに費用を支払うものだと顧客は認識を持っていることが多いです。産業機器などの大型ハードウェアなら1台1億といった価格帯も可能になります。サブスクリプションで課金するにしても、SaaSなどの「使用料」よりもハードウェアの「レンタル」の方が、ユーザーにとって直感的です。
  • わかりやすく普及力が高い(タンジブルである)
    プロダクトに重さと形があるということは、売り物が明確だということです。つまり国や文化を超えて普及させやすいのではないでしょうか。母国語が英語ではない私たちにとって、「サービス」が国境を超えるには翻訳が必要ですが、かつての自動車産業が世界を席巻したように、ハードウェアにはあまり翻訳作業は必要ありません。タンジブルで雄弁なプロダクトがあるからです。
  • いずれはハード+ソフトの総合競技になる
    グーグルの検索はソフトウェアサービスですが、自前で堅牢かつ高速なハードウェアシステムを組み上げているからこそ保てているサービスレベルです。ドロップボックスもサービスとして普及したものの、AWS頼りでは採算性も独自性も保てないという懸念がありました。そこを自社システムを持つことで上場に至っています。インテルは半導体を売っていますが、チップセットを含めたOSの在り方に知見があるからこそできるビジネスです。最近の車は自動運転を視野に入れたソフトウェア開発に躍起になっているようですが、すでに社内エンタメやナビゲーションなど、ソフトウェアが顧客満足度に占める割合は高くなっています。これらの例のように、最終的にハード+ソフトの総合競技になっていきます。ならば、より顧客に認識されやすく、基盤となり得るハードウェアに遅かれ早かれ強みを持っていたいものです。

じゃあ、一体どうしたらよりイージーになるのか?

  • 技術の価値を顧客の目線でとらえる
    ハードウェアを利用する場面を顧客の目線で捉え直します。顧客にとって解決するのが難しいジョブなのでしょうか。そうでなければ、もっと難しいジョブがあるかどうか探すのも一手です。とっても重要で難しいジョブを片付けるには顧客は高いお金を払いますし、あまり重要でなく困っていないジョブについてはお金を払いません。
  • MVPの構想を慎重に行う
    アイデアの検証にいきなり製品を開発したくなるのですが、グッとこらえたいところです。スタートアップには「ビジネスモデルの実験」という要素がありますので、実験は実験らしく工夫が大切です。工夫というのは、MVPの仕様をダウングレードするだけではありません。既存プロダクトとのハイブリッドで価値が伝えられたり、一切モノを作らないで検証したりすることもできます。
  • プロダクトのソフトウェア部分等、切り出したビジネスモデルを視野に入れる
    前述したように、ハードウェアビジネスの方がバリューチェーンが長くなります。裏を返せば、切り売りできる部分もあるかもしれません。顧客のジョブによっては早期にマネタイズできる部分と、長期的にプラットフォーム化していく部分を分けて考えられるケースも多いです。こうしたオプションをなるべく早く(大きな投資をする前に)検討し、実現性を検証していくことが大事です。
  • (宣伝にもなりますが)アクセラレーションプログラムを活用する
    いろんなMVPやビジネスモデルの引き出しを持っている人たちと早くから話をするのは、特にハードウェア系スタートアップにとって重要なことだと思っています。なので、Kawasaki ZENTECH Accelerator ZENTECH DOJO Nihonbashiを始めたということもありますが。スタートアップは仮説検証が重要ですが、検証の機会が限られているなら、最初に立てる仮説の重要性がことさら高まることは理解できると思います。

 
ZENTECHってどんなことやってるの?って聞かれることも増えたので、少しハードな点を書かなきゃ…と書き始めたのはよかったのですが、だいぶん長くなりました。
ちょっと長くなりすぎましたが、皆さんの思うところも気になります。ご意見お待ちしています。

考える戦略と考えない戦略

Written by 津田 真吾 on 2018-02-13

「もうちょっと考えた方が良いんじゃないか?」
戦略上の失敗には、ちゃんと考えようよ。と誰もが思う場面がある一方で、
「考えすぎじゃない?余計なことを考えずに行動あるのみ」
考えずに動いた方が良いというアドバイスが適切な場面も存在します。
 
なぜかな〜と考えていたところ、実は、これら2つのアドバイスにはパターンがあることを発見したのです。
まず、前者のもっと考えた方がいいケースというのは、新しいことに“取り組もう”としているときや、“変わろう”と思っている時に起きるのです。「新しいことをやらなきゃ」「変わらなきゃ」というときに、あまり考えずに過去の「クセ」で行動してしまう。意識して変えることを忘れてしまったときに「考えようよ」ってなるんです。いつも行っていることは習慣化しているので、「自動操縦」モードで従来のやり方になってしまいます。新しいことにチャレンジしようとしているとき、古い習慣に抵抗するために「考え」が必要になりますね。
 
「考えすぎ」になるのは、もうチャレンジが始まっているにも関わらず、同じモードで「考え」ばかりが先行してしまうときです。動いてみないとわからないことを考えばかりが先行してしまって、余計に動けなくなる症状のことです。この症状は「何事も深く考えないと…」という思い込みがある場合に発症しやすいように見えます。考えた結果、覚悟を決めているにも関わらず、そのまま考えっぱなしというのはもったいない。「やるやる詐欺」に陥る前に動きたいところです。
とにかく一歩踏み込んでから考える習慣は大事かなと。

アジアから世界的なヘルスケア・スタートアップは誕生するか?

Written by 津田 真吾 on 2017-11-19

津田です。アジアでもヘルスケア系スタートアップが増えてきているという噂を聞きつけ、HEALTH TECH INVESTOR SUMMITとHEALTH TECH CEO SUMMITに行ってきました。
先日参加したアジア・アントレプレナーシップ・アワードでもヘルスケア系の参加が多かったので、きっと熱が高まってきているのではないかという期待と、絶賛応援中のUBIEと一緒にシンガポールまで飛びました。
 
イベントが始まってすぐにあったのは、アジアの投資環境の話です。
投資環境としては非常に伸びているとのこと。
昨年2016年は23億ドルがヘルスケアITに投資されいて、ミドルからレイターに投資できるスタートアップが増えてきている傾向に。

グローバルにも増加傾向にあり、1回あたりの調達額は米国に続いてアジアは第2位です。
このイベントは、よくあるピッチというものはなく、アジア各国からスタートアップと投資家が集まって、ビジネス環境について情報を共有したり、交流する会だったのでどんなスタートアップが参加しているのか、正直よく分かりません(笑)
ですが、ざっと見ると、遠隔治療や遠隔診断のスタートアップが発展途上の国も多く、医師の数が不足している国が多いように見えます。それは、発展途上の国も多く、医師の数が不足している国が多いためではないでしょうか。ちなみに世界の平均は国民1000人あたり1.655人、日本は1000人あたり2.297人の医師がいます。そんな中で、中国は1.456、東南アジア最大のインドネシアはたった0.204人しか医師はいません。
 
個人的な印象ではなく、どこに投資が回っているかというと、ほぼ上位4つのカテゴリーが大半を占めるとのこと。医療情報検索が1番多く、医療記録、遠隔治療・観察、医薬品販売のe-Commerceが続きます。
フィットネスや健康管理はまだまだですね。

一番役に立った情報は、各国の規制に関することでした。
諸外国は一旦規制に向けた動きを取ったものの、経済合理性に期待し、積極的にガイドラインを決める方針を取っているそうです。データの管理には注意が必要なものの、起業家が政府とも交渉しながら切り開いていくことができる環境にあると言っていいでしょう。日本について触れられていなかったのが少し悲しいですが、あまりに情報が不透明で傾向が読めないのではないでしょうか。

Galen Growth Asia以外にもヘルスケアに注目したアクセラレーション・プルグラムができていたり、これから目が離せなくなりそうです。でも、スタートアップにスポットライトを浴びせないイベントはあまり面白くないですね。