もっと効果的な研修を行うために、バズワードに惑わされずに本質を考える

Written by 山田 竜也 on 2019-12-30

もっと効果的な研修を行うためには?

結論から言えば、組織の戦略に必要な人材像を定義し、その人達がパフォーマンスを発揮するために取るべき行動を定義し、その行動を行うために必要な知識やスキルを習得する機会と環境としての研修を提供すれば良い。

研修としてはここまでかもしれないが、習得後に取るべき行動を取り、実際にパフォーマンスが上がったかを評価し、学習プロセスを改善していく必要もある。また、そもそも知識やスキルの習得が先か、先ずは行動の実践が先か、泳ぎ方を教えるか、プールに投げ込むか(適切な安全管理の下で)のアプローチの違いもある。

そもそも研修とは?という所から整理して、もっとも普及している研修の評価方法や最近のトレンドから、より効果的な研修を行う方法を考えてみたい。

 

そもそも研修とは?

”研修”という言葉から何を想起するかは様々だ。いわゆる座学のザ・トラディショナルな研修もあれば、グループワーク中心で進めていくもの、オンラインとオフラインを混ぜたもの、プロジェクトベースで進めるもの、そして、最近では脳科学、ビッグデータ、AIと手段の側からもバズワードが飛び交い、より全体像を分かりにくくしている。

そもそも研修という言葉の語源は、研究と修養から来ている。らしい。
・研究とは「物事を学問的に深く考え、調べ、明らかにすること。」
・修養とは「徳性をみがき、人格を高めること。」

こうして見ると、研修という言葉そのものには「誰かが何かを教える」という要素は含まれていない。むしろ「自分が主体となって自らを磨いていく」というニュアンスが強い。

一方、研修を英語に訳すとトレーニングとなるが、上記の日本語の定義とは違和感がある。トレーニングには冒頭の写真の様に、「誰かに、鍛えられる、仕込まれる」というニュアンスが強く、こうしたトレーニングの場に飛び込むのは自分の意思かもしれないが、その場で行なっている事は自発的には見えない。

 

トレーニング vs ラーニング

トレーニングと対比される言葉としてラーニングがある。
・トレーニングは誰かに指導されるもの
・ラーニングは自らが考え主体となって行うもの

言葉の定義としてはラーニングの方が研修にあっている気がするが、ラーニングは学習と訳される。学習の定義はというと、「知識、行動、スキル(能力)、価値観、選考(好き嫌い)を、新しく獲得したり、修正することである。生理学や心理学においては、経験によって動物(人間を含め)の行動が変容することを指す。繰り返し行う学習を練習(れんしゅう)という。」Wikipedia

 

ここで、やっと”行動が変容する”という所に辿り着く。研修を企画する際に、言葉の定義から始めていては中身に辿り着かないので、先人達の知恵を借りることにする。

 

カークパトリックの4レベル

1959年にアメリカの経営学者のカークパトリック博士が提案した教育の評価法のモデルで、カークパトリックの4段階評価法として世界的に定着している。

・レベル1:Reaction(反応)
アンケート調査などによる学習者の研修に対する満足度の評価

・レベル2:Learning(学習)
筆記試験やレポート等による学習者の学習到達度の評価

・レベル3:Behavior(行動)
学習者自身へのインタビューや他者評価による行動変容の評価

・レベル4:Results(業績)
研修受講による学習者や職場の業績向上度合いの評価

 

この4段階は個人的にも納得感があるが、レベル4を実現できている企業にはほとんど出会った事がない。また、この評価方法および実態としてレベル4までを評価できていない事が、”研修は研修に過ぎない、業績には役立たない”という印象を生んでいる気もする。

自分自身、単なる研修と言われない研修を目指して、参加者の実務と直結させる子を心掛けているが、実務をテーマにプロジェクトベースの建てつけで行なっても、依頼主や参加者のレベル1:Reaction(反応)を最大化する事には繋がるが、レベル2,3,4までを事前にデザインできたケースは少ない。
研修実施後に機会を得て、数年経っても実践し続けていたり、プロセスとして組織に定着しているのを見るのはとても嬉しい瞬間だ。

 

HRBPという追い風

HRBP(HRビジネスパートナー)という言葉もだいぶ浸透して来た気がする。今年参加したSHRM2019でも、How to Be a Better Business Partner “You are a business professional who have expertise in HR.”と言ったメッセージが実践のためのガイドラインと共に打ち出されていた。

研修の効果が業績向上に繋がるようにするには、そもそも研修をその様に設計しておく必要がある。これをやるにはビジネスに求められる要件を人材要件に変換する事ができるプロフェッショナルが必要になる。

日本の人事担当者は他部門も経験している人が多い、人事専門家が育ち難いというマイナス面もあるが、事業に貢献できる人材を定義するには都合が良い。何れにせよ、研修企画者が全てを行う事は出来ないので、事業部の適切な巻き込みが鍵となる。

 

テクノロジーによる追い風

カークパトリックのレベル3,4は測定の手間が問題だった。しかし、レベル4から逆算してKPI(Key Performance Indicator)をブレイクダウンしていけば目標値の設定は可能だし、それに必要な行動指標も定義できる。行動の測定も主観的な自己申告から客観的な行動実績に変える事ができる。日々の報告から解放される被測定者に取っても朗報になり得る。

また、その手前のレベル2の学習到達度に関しても、エビングハウスの忘却曲線を逆手に取って、効果的なタイミングでリマインドを促したり、AIボットで実践結果に応じた取るべき行動のリコメンド等も可能になる。

測定と強化の両方でテクノロジーは大きな可能性を秘めている。全員に人間のコーチを雇う事は出来なくても、ロボットコーチなら全員に平等に提供可能かもしれない。参加者を増やしたいが費用が足りないという問題からも解放される。

 

カークパトリックの新4レベル

全ての動きは繋がっている。2016年にはカークパトリックの「新4レベル」を解説したKirkpatrick’s Four Levels of Training Evaluation (2016)が出版された。
HRBPの流れと呼応し「レベル1,2を中心としたこれまでの研修効果測定をやめ、新しい4レベルのプロセスで結果を出し、戦略実行に貢献するビジネスパートナーを目指そう」というメッセージが打ち出された。
具体的には、「レベル4→レベル3→レベル2→レベル1」という順番で設計する重要性を強調している。経営者から見れば当たり前の事かもしれないが、この順番の変更には大きな意味があるし、実現には様々なハードルがある。

 

それでも、流れは変わりつつある!?

人材を人財として活かしたいという要求が高まり、研修を単なるきっかけに終わらせないためのテクノロジーによる支援が可能になって来ている。
マスマーケット向けに大量の商品を均一に送り出すためのトレーニングが工場を中心に成果をあげたが、大量生産消費の世界から持続可能性とバランスを考える時代に求められるトレーニングは当然変わっていく必要がある。テクノロジーを前提とする時代には、研修自体もテクノロジーを取り込んでいく必要がある。

研修の目的を明確に定め、レベル4から設計し、批判を恐れずに、従来の枠から出て色々試していけば、かなり面白い事ができるはず!

人材育成に悩めるマネージャーのために。「どうして成長しないんだ」というフラストレーションから解放される方法

Written by 星野 雄一 on 2019-12-23

長年、人に関わる支援をやる中で、人材育成に悩める多くのマネージャーにお会いする。 私も実務としても人材育成には長年携わってきたので、お気持ちはとてもわかる。

 

先日、研究畑で今は事業開発に取り組んでいるマネージャーの方とお話をした。

その方は事業がだんだん成長し、部下も増えてくる中で人材育成が自身の課題になっていた。 「本も色々と読み、部下のモチベーションを上げたり、フォローをしたりしているんですけどね。なかなか思うように伸びないです」と仰っていた。

これは、私もかつて思っていた考え方だ。

 

「人は努力すれば成長できる」と思う人は多いだろう。ましてやマネージャーになるような方、また起業家として困難を超え続けている方はその経験の裏付けもあり、信じて疑わない。だから、社員の育成でも「きっと努力をすれば自分のようなスキルまでたどり着ける。目標設定が低いからダメなんだ。モチベーションが上がってないから全力を尽くさないんだ、フォロー・指導すれば成長の速度が速くなるはずだ。」という意識の元で育成を始めてしまう。

もちろん、そのアプローチで伸びる人もいるだろう。一方で目論見通りに成長しない人も多い。いや、どちらかと言うと、かなりの確率で目論見通りに成長しないのではないだろうか。

この状況を図に示すと、こんな葛藤だろうか。

この概念で捉えているマネージャーは、人は誰もが同じような成長直線の傾きを持っており、ただ適切な指導がされてないから加速していないと考えているように見える。

 

本当にそうなのだろうか?

 

むしろそう思っているから指導はうまくいかないのではないだろうかと感じる。人には何か固定された成長直線というものがあるのではなく、その人それぞれの成長の仕方があるという立ち位置に立つと、こんな景色が見えてくる。

ある社員の能力1に関して持っている成長直線の傾きは上記の通り。マネージャーの期待値には達していないが、本人の伸び代からすれば適切に頑張っている。ちなみに縦軸はスキルで見れば、企画力、発想力、論理的思考力など。Excel使いこなし力といった形で噛み砕いても良いだろう。もう少し総合的に職種目線で置くのもよい。研究能力、事業開発能力、総務能力などが挙げられる。

一方で同じ社員の能力2はマネージャーの期待よりもはるかに高い。伸び代はもっとあるが、現在の職場・仕事で期待値以上に伸ばす機会がなく、発揮されていない。

 

このように、人、さらに能力の種類によって、持っている成長直線の傾きが違うと考える方が現実的ではないだろうか。向いている仕事というのは傾きが急だし、向いてない仕事は傾きが緩やかである。もともとの成長の傾きが緩やかなら、もしモチベーションを上げる関わりをしても、効果的な指導をしても、緩やかな坂を加速して進むだけで、いつまで経っても期待値には到達しないし、本人も辛い。逆に傾きが急な能力においては、こちらの指導が想像以上に効く。一方、今の仕事でその能力がそれほど必要なければ、本来の能力向上のスピードよりも鈍化した状態になっている。これは勿体ないことである。

 

これはマネージャー自身も同じことが言える。たまたまその会社・組織で求められている能力に関する自身の成長直線の傾きが期待通りかそれ以上だったと。

 

もし、自部門で求めている能力に対して、その人の傾きが緩やかであれば、本人の希望はあるにしても早いうちに部署異動した方が良いだろう。また、自社で求めている能力に対してその傾きであれば、残念かもしれないが、お互い別れた方が賢明だろうし。その方がお互い良い人生を歩めるだろう。

 

この見極めと、見極めた上での支援こそがマネージャーが本当にやるべきであろう。マネージャーは人材育成をするのではなく、人材成長をプロデュースするのだ。

 

そのためには、社員の考えを把握するためにコミュニケーションを取ったり、適切なテーマを与えてその時の反応や行動、アウトプットなどを細かく見ておく必要がある。その際に重要なことは「この人の輝く場所はどこだろうか?」という目線で見ることである。その上でうちの会社や部署で活躍できるのか?という見極めになる。順番は重要である。順番を間違えると最初の図表と一緒になる。

現在の悩みから解放されたい方は是非目線を変えた上で社員の発言や行動を観察していただきたい。

 

最後に、INDEE Japanでは、事業開発部門やスタートアップの人材成長や組織成長をプロデュースする取り組みも行っているので、もし解決が難しそうであれば、一度お問い合わせを。

マシュマロチャレンジ、幼稚園を卒業したばかりの子供は本当に高いタワーを作れるのか?

Written by 山田 竜也 on 2019-11-25

先日、公立小学校1年生のクラスで1,2校時の90分間をもらいマシュマロチャレンジを行う機会を得ました。以前見た TOM WUJEC のTED TALKSの中で、「MBAの卒業生より幼稚園の卒業生の方が高いタワーを作る」と言う話があったので一度試して見たいと思っていたことが、やっと実現しました。ちなみに、MBAの卒業生向けは未だ実施していません。

 

マシュマロチャレンジは、20本のスパゲティ、90cmのマスキングテープ、90cmの紐、ハサミ1個、そして、マシュマロ1個を材料とし、4人1組で18分間で、マシュマロを一番上に乗せた自立したタワーを作り、机からマシュマロまでの高さを競うゲームです。

世界記録は99cmと言われています。自分が見たことがあるのは90cmぐらいまでです。大人から子供まで様々なシーンで活用されていて、実験し、試行錯誤することの大切さに気付くと共に、イノベーティブなチームビルディングを行うアクティビティとしても効果があります。

 

さて、当日の様子はというと、小学校1年生の段階で想像以上に知識も落ち着き度合もバラバラで、18分間のチャレンジタイムに辿り着くまでが一苦労でした。近所の子供たちの様子や公開授業で外から見ていたのでは分からなかった多様性(というかバラバラ感)にビックリし、落ち着かせようと用意してきた新ネタにもすぐに飽きられて焦り、子供たちを集中させる教育コンテンツの開発は大変だろうな〜と、喉を枯らしながら担任の先生の苦労を思いました。

そこで頭に浮かんだのが最近のトレンドの一つである学習者中心というコンセプトでした。

 

学習者中心

過去のブログ「人材育成4.0」で学習者中心と言うトレンドを紹介しました。「人材育成1.0は徒弟制度、2.0は階層別研修、3.0はアクションラーニング、4.0は学習者中心」と提供手段の視点でトレンドの変化を整理したものです。

お仕着せではなく学習者が主体的に選ぶと言う考え方に共感する人は多いと思うのですが、実現手段には課題があります。実際にバランバランな生徒たちの前に立つと、さて、どうしたものかと、この実現を求められる先生側の苦労への共感度が上がります。

学習者中心を実現するための課題は以下の3つと考えています。

・学習者への動機付け
学習者を主体とするには学習者に主体性が無いと成立しません。学習者に主体性を持たせること自体が最初の課題となります。主体性の無いままの学習者を自由にするよりは型稽古を強制した方が残るものは多いかもしれません。

・学習者の得意分野に応じた教え方
ハワード・ガードナー博士により1983年に発表されたマルチプル ・インテリジェンス理論では、知性には8つの種類があり、人は、そのうちの複数の知性を備えていて、どれが強いか弱いかという「程度」と「組み合わせ」がその人の個性になると考えられています。得意な知性を伸ばしたり、得意な知性を通して苦手な知性を学んだりという工夫がされています。

・学習者の発達段階に応じた教え方
ここでは科目や知性毎の進度に合わせるだけでなく、人間としての発達段階に合わせた自己理解や他者理解に関してもフォローが必要になってくるでしょう。専門教育に進む前の社会人としての義務教育を含む小学校ではより重要な課題かもしれません。

 

モチベーション、得意な知性、発達段階、当然これらは個人によりバラつき、組合せも様々です。生徒を中心に考えれば、こうした課題に対して応えていく事が必要なのかもしれません。一方でこれに応えるには先生側に本当にマルチな能力が要求されます。図工や音楽という水平的な成長のためのスキルには既に教科担当という形で手が打たれていますし、 社会性のある人間としての垂直的な発達段階という点でも個別の補習等で対策が取られている様です。さらに、知的、身体的という多様性もクラスを作っている学校は、近い将来の社会を感じることが出来る場所かもしれません。

「これからの時代には金太郎飴の集団よりも一人一人の個性を活かせる集団が求められている」という方向性があって、「子供の得意分野や発達のスピードは一人一人異なる」という理解が進む中で、学習者中心に対応するには、限りある先生側のリソースを何に投入して、どこをテクノロジーで補うかの議論が必要です。

学習者中心というコンセプトは、まだまだ絵に描いた餅です。テクノロジーの活用だけではなく、教育の目的から考えさなければならないし、それが多様化するということは、個々の学習者(学習者が子供であれば親に)に大きな責任がのしかかってきます。
現時点では、どこから手を付けたら良いのか、悩ましい課題ですが、先進国とされている国々の状況から個別解を探り、そこから自身の環境での個別解を探るというのが現状では無いでしょうか。個別解ばかりなので公立校への展開の難しさをより感じます。

 

ちなみに今回のクラスでの最高記録は75cmでした(拍手!)
当初のクラスの様子からは記録ゼロが続出ではないかと心配していましたが、最高記録の作品はヤジロベエの様にバランスを取る部分があって、構造的にも試行錯誤から自立させるための学習の後が見られるものでした。
サンプル数は少ないですが、小学校1年生は、上手くその気にさせられれば、少なくとも大人同等、それ以上のパフォーマンスを出せそうです。

人材育成4.0

Written by 山田 竜也 on 2019-11-25

 人材育成という、誰もが語るけど、誰も語り尽くせないテーマを少しでも捉えやすくするために整理してみました(だいぶ私見が混じっていますので、複雑なテーマを整理する叩き台として、読んでくださいね)
 人材育成に関する世界最大のコミュニティは atd(元ASTD)ですが、2017年5月に開催されるカンファレンスのコンテンツトラックには、キャリア開発、グローバル人材開発、人財、インストラクショナルデザイン(教育工学)、リーダーシップ開発、ラーニングテクノロジー、学習の測定と分析、マネジメントとのエンゲージメント、トレーニングデリバリー、学びの科学といった内容が並びます。あふれる情報は専門家としては知っておくべきことかもしれませんが、逆にこれら全てを押さえたからといって、効果的・効率的で、経営者・管理職・社員の要望を満足する育成が行えるわけではありません。
 人材育成に限らず、情報収集の前に、そもそも何のために?という目的を設定することが大切です。やっかいなのは、この目的が時代とともに移り変わること、業界や環境において異なることです。そこで、人材育成の変化を4つの段階に見ることで、目的と手段の組み合わせを考えてみたいと思います。ちなみに、古いものは不要ということではありません。むしろ、やり方が増えているという理解をした方が、ステレオタイプなバズワードに踊らされずに済みます。
 暗黙の前提として、企業内の人材育成を想定していますが、「働き方改革」が叫ばれる昨今、企業という枠の捉え方が変わってきています。企業という虚構が崩れようとしている?のかもしれません。 枠が外されて自由になった時、改めて、過去に主流だった手段(の現代版)も含めて様々な人材育成の選択肢が活用されます。人材育成に関わる方にとっては腕をふるうチャンス、企業研修に関わる企業にとってはビジネスチャンスです!

 

徒弟制度

人材育成1.0 徒弟制度
 1.0は徒弟制度です。いわゆる現在の企業内における人材育成から見ると、育成とは言えないという意見もあるかもしれませんが、実は現在も続いて行われている最も基本的な人材育成です。 多くの技術(工芸、工学の分野だけでなく、コミュニケーション、営業術等のソフトスキルも含めて)が、現在もOJTという名の徒弟制度で伝達されています。 徒弟制度だけでは一度に大勢を育成することはできないので、多くの技術が書籍やトレーニングプログラムとして安価に広く提供されています。しかし、現場の実践者(上司も部下も)から、「こうしたパッケージ化された育成は現場で使えない!現場での実践こそが大事だ!」という声を聞きます。少しでも実践的になるようにとカスタマイズで対応しますが、限界があります。 こうなってしまうのは、目的と手段が合っていないからです。左の写真のように、一人の弟子を一人の親方が時間をかけて、仕事の最初から最後までを教えていくことができれば、少年はやがて立派な親方へと育っていくでしょう。その代わりこのやり方は多くの弟子を一度に抱えることはできないですし、親方が十分に優秀で、教えられることが少年の時代にも通用することが前提になっています。守破離の守の段階を伝達するためのやり方です。 現代ではこの様に少人数でじっくり基本を叩き込むといった育成機会は、非常に貴重なものです。仕事の最初から最後までのどの部分で活用するか?残りの部分をどうやって補完するか?目的に応じた人材育成の全体設計を工夫すれば、徒弟制度は有効な武器になります。

 

階層別研修

人材育成2.0 階層別研修
 2.0は階層別研修です。ここからがいわゆる企業でイメージする研修です。社員が増え、OJTだけではまわらなくなり(上司や部下のバラツキが大きくなりすぎ上手く育成できなくなり)、職種や階層に合わせて一定レベルの人材を育成するための手段として必要になってきました。 企業がオペレーショナルな業務を抱え、それを回すために均質な人材を必要としていることが前提になります。工場の操業の様な常に安定した品質が求められる職場には必須のものですが、組織の維持・管理という観点で、主任・係長・課長・部長、更には役員まで、ピラミッド型の階層を維持するために広まっていきました。テーマ的にも時間管理やマネジメントの基本的なものからリーダーシップ等へと広がっており、研修全体のボリュームとしては未だに多くをしめるでしょう。 この手段はどの会社でも必要となる様な汎用的な内容で、どちらかというと組織の維持に重点がおかれていますが、問題解決、課題形成、戦略策定といった各企業・職場ごとの特性に合わせた(いわゆる実務により直接的に結びつく)テーマが研修の場で取り上げられる様になってから、少し様相が変わってきました。 親方の技を伝えるでもなく、組織を維持する均質なスキルを広めるでもなく、自分たちが今抱えるテーマに取り組みながら、学習とそれによる効果を一度に得ようというやり方です。答えを学ぶのではなく、答えの出し方を学ぶ必要性が出てきました。全ての階層がより多くのスキルを身につけなければならなくなってきています。

 

アクションラーニング

人材育成3.0 アクションラーニング
 3.0はいわゆるアクションラーニングです。この言葉自体、いろいろな解釈をする方がいますが、ここでの定義としては、「業務上の重要な課題を扱う」「異なる専門分野の関係者が知恵を出し合う」「講師ではなくファシリテーターが学習プロセスを導く」ととらえてください。 徒弟制度は、あるギルドの中に閉じこもっている。階層別研修は均質な知識の伝達に止まってしまう(問題解決のスキルを全員に伝えたとしても、問題解決への行動は担保されない)。もっと短期に成果のでる研修を行え!という要求から生まれてきたものがアクションラーニングの様な実際の課題を扱った手段です。 時代背景としては、企業が直面する問題が複雑になり、複数のステークホルダーが絡み、特定のやり方や特定のメンバーだけでは対処できなくなってきた。より短期の業績が重視され、将来につながる人材育成(このやり方が将来につながらない訳ではないですが)よりも、直接の問題解決の方が重要になってきた。といったことが挙げられます。 アクションラーニングで押さえておきたいポイントは、コンテンツをいかに上手く伝えるかという講師の腕から、学習者がいかに本当の問題を見つけそれに対してアクションを起こせる様になるかという、ファシリテーターの導きや、学習プロセスの設計が重要になってきたということです。伝達するから気づきの機会をつくりゴールに導く!へ、手段としては大きく変化しました。

 

学習者中心
Turun normaalikoulu – Turku University Teacher Training School

人材育成4.0 学習者中心
 4.0は(ここが一番知りたいところだと思いますが)学習者中心です(なんだ、それだけか・・・とがっかりされた方、もう少しだけお付き合いください)。 左の写真を見てください。子供ですよね。この子たちを安定しているかもしれないが、画一的なレールに乗せて育てたいと思いますか?安定の保証ができなくなっている昨今、Yesという方は少数派ではないでしょうか。 人生において学ぶべきことは不変なのかもしれませんが、そこから先に必要なことは、学ぶべきことを学習者自身が探していく必要があると考えています。学習者中心のポイントはまさに学習者を中心とすることにあります。 組織があって、その組織を維持するためではない。 個人がいて、その個人が世界により大きな影響を与えていくために学ぶ。 この手段の前提は、既存の組織よりも、これから作られる組織が目的となっていることです。企業が新しい事業(将来の企業)を必要とし、従来の会社の枠が外れ新しい働き方が必要とされる今、学習者中心の手段はより重要になってくるはずです。企業内の人材育成において活用していくには、会社の色やルールに染めるのではなく、会社を変えていくような人材をどう育てるかという視点に立つのが有効です。
 学習者中心の手段を導入するには、そこで育った人材をどう活用するか?を決めておく必要があります。 これは、社内でイノベーターをどう活用するか?という問いに答えるのと同じです。
 イノベーション、新規事業を起こしたいという企業はたくさんありますが、そのために既存の社内のリソースやプロセスや価値観をどこまで変える気があるか、全ステークホルダーで合意が取れている企業はほとんどありません。企業内でイノベーション人材を育成していくには、様々なステークホルダーと対峙していく必要があります。人材育成が先か、イノベーション・新規事業開発が先か、ニワトリ玉子の課題に取り組むには、いずれにせよ覚悟が必要です。

ベテラン看護師は、なぜ気が利くのか?

Written by 山田 竜也 on 2019-10-21

気が利く人、気が利かない人

 

気が利く人、気が利かない人、いますよね。
では、”気が利く”って何なのでしょうか?

普段この言葉を使うシーンとしては、仕事の場面での顧客や上司への対応、パーティーでの振る舞い、日頃のちょっとした気遣いが浮かぶと思います。これだけだと何だかホスピタリティ、お・も・て・な・し、と同じにも捉えられるのですが、もう少し違う要素が含まれているのではないでしょうか。

最近、思いがけず、入院病棟での看護師さんの振舞いを長く観察する機会を得ました。そこで、新人からベテランまでの看護師さんを見て、お話を聞いて、見えてきた”気が利く”を自分なりに言葉に落としてみたいと思います。

”気が利く”の一つの要素は、目の前の相手への配慮にあると思います。ググるとこんな言葉が出てきました。
「気が利く人」に共通する7つの特徴
   1.挨拶・感謝・お礼を大切にする。
  2.場を読み、全体を見渡す。
  3.人が嫌がりそうなことを率先してやる。
  4.思い込みで行動しない。
  5.「お先にどうぞ」。人に譲れる。
  6.「気配り」を相手に気付かせない。
  7.「あえて何もせず、見守る」ができる。
  (https://tabi-labo.com/220714/sensible-ppl-chara)

”目の前の相手への配慮”と言う言葉では、確かにこうした要素で言い表せているかもしれません。
でも、これだけでは何か足りない気がします。

 

目の前の人への配慮だけでは何が足りないか?

 

例えば、仕事帰り、軽い気持ちで検査結果を聞きに病院に行ったら、
「即入院してください、手術します。」
とお医者さんに真顔できっぱり言われました。
どんな気持ちがすると思いますか?

明日の仕事の予定、家族の事、会社の同僚の事、しばらく会っていない両親、誰に何を伝えよう?そもそも直ぐ手術って?と頭の中は混乱し不安が駆け巡ります。

こんな時、目の前の相手へ寄り添ってあげるだけで不安は解消されるでしょうか?
どうしたら、この不安から救い出し、導いてあげることが出来るでしょうか?

 

ベテランの看護師さんの対応に、すごく感動したことがあったので、思わず、「どうして、そんなに気の利いた対応ができるのですか?」と聞いた時、その答えを得た気がしました。彼女の言葉はこうでした。

 

「私たちは、今の患者さんがどういう状態にあるかを、しっかり申し送りして共有して理解します。身体の状態はもちろん、どんな気持ちか、何を言っていたか、ご家族はお見舞いに来ていたか、仕事の復帰を焦っていたか、等。そして、もう一つ、これからどんな治療が行われるのか、先生がどんな方針を立てているのか、退院までの計画はどうなっているのか。今の状態、今後の方針の2つから、今日は何をどんな順番で行えば一番いいかを考えているんです。」

 

今の患者さんに寄り添う看護師さん、そして、患者さんを快方に向かわせるために方針を立てる医師、この2つが入院患者の不安を取り除いているのだな、と実感した瞬間でした。

 

敢えて言語化すると、突然、普段と違う環境に投げ込まれた人の不安を取り除くには2つの要素が必要と言えそうです。

今の目の前の相手に寄り添い理解する力 x 未来の相手の状態を示し希望を与える力

 

実はこの2つの要素は、企業で新規事業開発に放り込まれた人を導く時にも必要な視点です。緊急入院とは異なるかもしれませんが、普段と違う場所に放り込まれて、勝手も分からず不安という意味では、かなり似ている部分があると思います。

新規事業開発であれば、
 ・今のその会社の状況は?
 ・担当者の経験値や状況は?
 ・これまでに染み付いた習慣や文化は?
を理解しながら、
そこをスタート地点として、未来のありたい姿に持っていくには、
 ・どのぐらいストレッチさせられるのか?
 ・そもそも目標をどのぐらいに置くべきなのか?
こうした事を考えながら、ベストな着地点をクライアントと一緒に見つけていきます。

今のその会社に寄り添う、未来を指し示すという点では、まさに、看護師と医師の二役が必要を使い分けながらの仕事になります。

 

では、この”気が利く力”はどうすれば高められるのでしょうか?

 

看護師さんと言えども、流石に新人さんは自分のことに精一杯で、今の状態と今後の方針から、先回りして”気が利く力”を発揮するどころか、周りが見えていないこともありそうでした、
心も身体も病んでいる状態の人たちばかりの空間に社会人としていきなり立たされるのですから無理もないと思います。勤務中はいつ患者さんに呼び出されるかもしれません。不安な状態にある患者さんは、普段よりもセンシティブで我儘になっている。しっかりとした技術を求められる上に、接客業としてのヒューマンタッチな振る舞いも求められる職場です。日々現場でフィードバックが受けられる。大変ですが、”気が利く”力を鍛えるには、打って付けの職場だなと思いました。

 

日々リアルなフィードバックを受けられる場は本当に重要です。
このリアルなフィードバックサイクルを回し続けることが”気が利く力”を高める方法だと思います。

リアルな、対面での、直接の、明確な言葉と態度によるフィードバック
それはロジカルで腹落ちするもの、不条理で感情を伴うもの、両方必要です。

 

看護師さんの様に、日々、多様で、センシティブで、我儘な、生の人間に対応してフィードバックを強制的に受ける職場は別として、
我々の働く環境は、日々の業務はチャットの報連相で、ワンオンワンミーティングもオンラインで済ますことが多くなっています。直接の刺さるフィードバックを受ける機会は減っています。

  

敢えて、スローダウンして、深く対話する時間をとってみてはいかがですか。
一朝一夕では無理かもしれませんが、続けていけば、きっと、成長のきっかけを作り出すことができます。

時間と手間がかかることには、時間と手間をかけるしかない。
これも一つの真理です。