イノベーションを生み出す組織の構成要素

Written by 星野 雄一 on 2021-05-11

INDEE Japanはイノベーションを支援しているのですが、このイノベーションという言葉を使った会話する時に少し気持ち悪さを感じることがあります。色々な方がイノベーションという言葉を使うのですが、人によってまあ意味合いが違うので、色々な方と交流する場合に使い分けないと会話が噛み合わないということが起きがちなのです。

スタートアップしかり大企業しかり、事業開発を行われている方にとってのイノベーションは事業を立ち上げ、グロースして世の中が実際に変わると言う意味合いで使われていることが多いです。一方で人事・人材系をはじめとした側方支援をなされている方がイノベーションに込めているのは創造性、場合によっては人生が豊かになるという意味合いが強いと感じます。大きく捉えれば、創造性が豊かになることによって、結果的に事業創出に繋がってはいくので、まあ同じようなところを目指しているのだとは思うのですが、各担当者のイノベーションという言葉に込めるゴールや願いは明らかに違うと感じます。ジョブ理論をご存知の方からすると、各自のジョブが違うということです。

だから会社の中でイノベーションを興そう!とみんなが思うのですが、どうもアプローチがチグハグな感じがしてしまうことがままあります。もし、イノベーションカンファレンスなんて言うものを実施した場合はあらゆるものが含まれて実態が全くわからないものになりそうです。

とは言え、大きな願いは同じですから、そもそも両者が融合した状態というのはどんなものかを整理してみました。

これはイノベーション実現に向けて必要な要素を書き記しています。個人が持っていると良い要素、会社が持っていると良い要素で分け、それぞれ目標軸、能力軸、土壌軸で示しています。緑色は人にオレンジ色は事業に関連する要素です。

 

まずは人に関連する要素を見ていきましょう。

 

  • 自分の興味・関心とつながる(目標×個人)
    内発的なモチベーションという観点で言えば、自分の興味や関心と連動している方が駆動力が高まります。また自分や家族に特定の問題があり、その解決策を生み出すような事業開発であれば個人的なメリットも享受できるという視点もあります。やはり原体験が自分のジョブというのは強いです。

 

  • 自分の成長やキャリアにつながる(目標×個人)
    個々人がキャリアを意識する時代ですし、この事業開発を成功させることで次のキャリアの道が開かれるのであれば積極的に取り組みますね。また経営者や起業家になりたいのであれば、社内で近い体験をできるのは大きなメリットです。人によっては出世や高い報酬につながることが大きな駆動力になり得ますが、もはや金銭的報酬というこの考え方自体に世代差はあるかもしれません。

 

  • 自己効力感を持っている(土壌×個人)
    目標に対して、自分ならやれると思っている程度が強ければ、もちろん実現可能性が高まります。人は想像できることは実現できるとも言いますし、何より新規事業において全能感は結構大事だと感じます。

 

  • 心理的安全性を担保している(土壌×会社)
    言わずもがなですが、意見やアイデアの出しやすさはイノベーションにとって大事なポイントです。一見馬鹿げたアイデアから大きなイノベーションは生まれます。もちろんアイデアを磨くためにディスカッションも忘れずに。最初のアイデアを起点にどんどん磨かれますので。

 

  • 信頼できる仲間がいる(土壌×会社)
    一人で全ての能力を持っている人はいないでしょう。やはり補完しあえる仲間の存在は重要です。そのためには金太郎飴の量産ではなく個の能力を磨き上げる組織能力は必要です。またスキルが補完できれば良いのではなく、お互いの尊敬と信頼を持ち続けられるかが大事です。

 

人事・組織開発系のレポートだとこの辺りの文脈が強く主張されている感覚を受けます。どちらかと言うと良い職場・良い会社ということなのかもしれません。

その上で事業を立ち上げる、グロースさせるという結果につなげる上で大事な要素を見てみます。

 

  • 具体的な分野を示している(目標×会社)
    よく、どんな分野でも良いから新たなアイデアを!という企業もいますが、実際にはこの分野でイノベーションを起こしたいというのがあります。個人の能力が極めて高く、個の突破力を軸にビジネス展開するような集団である場合を除き、会社組織であれば最初に大枠は示した方が有効だと感じます。なんでもよい!と言われて行動に移りやすくなる人もいますが、実際は大枠を示された方が動きやすい人は多いからです。

 

  • 目指す目標値が明確である(目標×会社)
    事業化と呼ぶにはどのくらいの規模を求めるのかを示すことも欠かせません。シーズやアイデアの段階から数字に拘り過ぎるのは避けた方が良いですが、最終的にはどのくらいの規模を求めるのかは欲しいところです。それを意識してグロースプランを描くからです。もちろん全てが大きな成長につながるアイデアになるわけではないので、個別事業の目標だけではなく、新規事業全体としての目標があると凸凹も含めて投資対効果も見やすいでしょう。目標を具体化することは事業の生存率も含めてどの程度のアイデアを走らせるべきかの目安にもなります。

 

  • 事業を起こすためのスキルを持っている(能力×個人)
    既存事業で結果を出すためのスキルと新規事業を推進するために必要なスキルは違います。やはり失敗確率を下げるためにも新規事業開発に必要な知識やスキルを身につけておくことが必要です。研修などを行うのも一つの手ですが、人間は新しい知識をどうしても自分の枠で捉えがちなので、分かった気で終わらず、アンラーニング&インストールするために、一定期間の経験学習は欠かせないでしょう。

 

  • 事業を潰さないスキルを持っている(能力×会社)
    現在、企業でマネジメントをしている方の多くは既存事業の維持・成長・発展に関わっていることでしょう。既存事業の良し悪しを見立てるには知識・経験を多く積んできていますが、新規事業をレビュー・評価する立場になった際には指針となるものがなく困惑したり、良かれと思ったアドバイスで潰したりするケースが散見されます。事業未満の新規事業には特定のコメントを言うべきタイミング、控えた方が良いタイミングがあります。両利きの経営とも言われている通り、今の時代は二刀流でのマネジメントスキルが必要です。

 

  • 事例を共有している(能力×会社)
    これは組織変革的な視点ではありますが、自社で行われた事例というのは次に挑戦する人への希望の光と道標になります。事例は成功のポイントだけ示しても片手落ちで、失敗例も分析をして伝えることも大事でしょう。意図的に社内広報する設計が必要ですね。今の事業を高い精度でレビュー・マネジメントできていたり、社員がそれなりに活動できているのは、公式なナレッジか伝え聞いた噂か問わず、様々な事例の蓄積によるものですから、将来そうなるように。

 

  • 新規事業開発のプロセスがある(土壌×会社)
    これも組織にとっては成功の再現性を高めるという意味合いでとても重要です。事業開発のプロセスについては様々な書籍でも語られはじめましたし、形式知が進んでいると感じます。この知識を経験と共に自社流のプロセスにしていきます。ここで注意しなければいけないのが、元からある自社カルチャーに合わせるのではなく、一般化されたプロセスに自社を合わせるスタンスで臨む方が当面は良いということです。個人と同じでアンラーニング&インストールですね。

 

この要素が揃った時に事業開発と組織開発の両輪が噛み合った状態なのだと考えられます。(こんなのものあるんじゃない?といったコメント大歓迎です!)

 

では、どのようにこの状態まで持っていけばよいか?

ビジョナリーで現場まで浸透させる能力を持つ経営と、各項目を積み上げる現場リーダー陣が揃っていれば、一気にビックバン的(古い・・笑)にこの状態を目指せるのかもしれませんが、そういう変革アプローチはあまり日本企業的ではない感じもありますので、どのように目指していくかは今後また書いてみたいと思います。

論語と算盤とジョブ理論

Written by 山田 竜也 on 2021-04-02
常盤橋のたもとの青淵 渋澤栄一の像 筆者撮影
常盤橋のたもとの青淵 渋澤栄一翁の像 筆者撮影

INDEE Japanの創業の地、日本橋本石町近く、常盤橋のたもとには青淵 渋澤栄一の像があります。新一万円札、大河ドラマで一躍、渋澤栄一本人の認知度が上がっていますが、それ以前から、渋澤翁の残したものは、多くの人が見知っているはずです。第一国立銀行(現:みずほ銀行)、日本鉄道(現:JR東日本)、東京瓦斯会社(現:東京ガス)等知らない人はいないでしょう。こうした誰もが知っている企業を含め、500社以上の企業の創設に関わった稀代の起業家、実業家である渋澤翁です。

渋澤翁は、その著書「論語と算盤」の中で、人間性(論語)とビジネスでの損得勘定(算盤)は両立させられる事を説き、「武士は食わねど高楊枝」の人間性、高潔性だけの世界から、人間性とビジネスでの金儲けを両立させる世界へと、幕末から明治への転換を推し進めました。

我々INDEE Japanも社名のINDEEに、Inspire, Innovate, Design, Developmentのビジネスでの革新に必要な行動と、Ecological, Ethicalの革新の方向性をガイドする言葉を込めています。渋澤翁の功績には遠く及びませんが、イノベーティブなやり方でより良い世界を作るために日々活動しています。

 

そんな渋澤翁の残した考え方、「論語と算盤」一節に、次の様なものがあります。

『孔夫子の論語に説かれた人物観察法は、まず第一にその人の外部に顕われた行為の善悪正邪を相し、それよりその人の行為は何を動機にしているものなるやを篤と観、さらに一歩を進めて、その人の安心はいずれにあるや、その人は何に満足して暮らしてるや等を知ることにすれば、必ずその人の真人物が明瞭になる』

『その人の外部に顕われた行為』を視て、
『その人の行為の動機』を観察し、
『その人の安心(目的)』を推察する。

この視・観・察は「論語と算盤」の中では”人物の見極め方”として挙げられていますが、この見立て方は、ジョブ理論の”人の消費行動の理解の仕方”とピッタリ符合します。この視・観・察をジョブ理論の文脈で語ると以下の様になります。

『消費者が実際に行なっている行動 Solutions、そこでの障害 Barries』を観察・インタビューする
『消費者が本当にやりたい事、その行動により解決したい事 Job』を発見する
『消費者が解決する事で何を達成したいのか Objective』を推察する
模式的に表すと以下の図になります。

JOBSメソッド®︎ JOBSフレームの概念図
JOBSメソッド®︎ JOBSフレームの概念図

 

改めて、本質的な物の考え方は普遍的だという事を思います。渋澤翁は幕末の人々に「論語」を引用し、そこに「算盤」という概念を重ね合わせて、双方のバランスを取ることの大切さ、有用さを伝えました。

我々は、クリステンセン氏の「ジョブ理論」を引用し、そこに新規事業開発に必要な要素を盛り込んだJOBSメソッド®︎を開発し、実践的なイノベーションの起こし方、新規事業開発の進め方をお伝えしています。

最後は宣伝の様になってしまいましたが、今後も、普遍的な考え方を大事にしつつ、時代にあったアレンジで実践的で役立つ手法をお伝えしていきます。INDEE Japanからの発信にご期待ください!

Unlearn to Learn

Written by 津田 真吾 on 2020-11-16

The Backwards Brain Bicycle – Smarter Every Day 133

Get your own here ⇒ http://bit.ly/BuyBackwardsBike ⇐ Shirt: https://goo.gl/doOG3G I give talks: http://www.smartereveryday.com/appearances Patreon Support Li…

まずはこの動画を見てください。

私も驚きました。自転車に代表されるような「スキル」というのは、シンプルなスキルであっても実に複雑に身に付いているんだな、と。脳の学習はソフト的な面もあれば、ハード的に固定配線(ハードワイヤ)されるものもあることの証左として本当に興味深く見入ってしまいました。この実験を身をもってやり遂げたDestin Sandlinは凄いとしか言いようがありません。

さて、これを一度身に付いた動作は、なかなか忘れることができないことが改めて確認されたわけです。習慣の力は偉大過ぎます。なので良い習慣を身につけるように教育というのが存在するんですが、時代にそぐわない習慣というものもあって、特にビジネスの世界では環境の変化が早いので。ビジネスモデルは移り変わり、それぞれのビジネスの急速な習慣化が求められる一方で「変革」も同時に求められています。

既存事業で付いた癖は、新規事業に取り組もうとしても、なかなか抜けません。計画の精度にこだわったり、会議室にこもったり、顧客ではなく上司への体裁を気にしたり…

新規事業を立ち上げるための「リーンスタートアップ」や「ファーストマイル・ツールキット」など、さまざまな手法は、頭で理解するのはさほど難しくありません。不確実性の高い事業仮説を検証しながら前に進めるのですから、既存事業の数々のお作法と比べたら単純な法則で成り立っています。しかし、実行するのは難しいかもしれません。それは、自転車の操作は単純なものであるにも関わらず、実際に乗れるようになるのには練習が必要なのと似ています。

しかも一度、既存事業の「クセ」が付くと、なかなかそのクセが取れないのです。消費者としての感覚は自然に身に付いているはずなのに、提供側のややこしい論理に縛られている人も同じです。「顧客視点」「顧客中心」というのは実は単純だけれど、変な売り手の論理やクセから抜けられないだけではないでしょうか?

実際、学生と社会人と、双方にイノベーションのトレーニングを施すと、明らかに学生チームの方が学びが早いです。学生に経験がないことがプラスに働き、社会人には会社生活で身に付いてしまった「業務上のクセ」が邪魔になるからです。

動画にもありましたが、脳が若いときは学び直しが効きやすい。でも、歳を取っていたとしても、毎日のトレーニングを大切にすれば、学び直しが可能です。根気強く訓練すれば乗り越えられます。しかも心強いのは、学び直しそのものを体験すると、次の学び直しがよりスムーズにできる上に、学んだもの切り替えもより容易くなるということです。複数の言語を操る人や、複数のプログラミング言語を操る人に尋ねると、3つ目、4つ目の言語を学ぶハードルはどんどん短くなるそうです。もしかしたら「Unlearning」、つまり自分のクセからの「解放」が最も重要な生きるスキルかもしれません。

ひとりでできるジョブ調査

Written by 加藤 寛士 on 2020-07-10

近年、マーケティングや新規事業開発の場面で「大事だ、大事だ」といわれるようになってきたジョブ理論ですが、正直なところなんだか「わかったようでわからないモノ」であると感じていませんか?

弊社のクライアント様も「ジョブ理論は、実際に現場で使いこなせるようになるまでに大変な修養が必要」と誤解されていることがよくあります。 (ジョブ理論は、応用の幅や可能性が非常に大きいものではありますが、どんな規模・どんな段階にあるビジネスに於いても気軽に使い始めることができるものです。)

そこで本記事では、ジョブ理論を初めて知った人でも消費者からジョブを聞き取ることができる方法をSTEP BY STEPでご紹介したいと思います。


売れてる商品には必ずジョブがある

復習になりますが、ジョブというのは「顧客が片付けようとしている用事」のことです。( ジョブの考え方にあまり馴染みがない方は、こちらで概要を解説していますので確認してから読み進めてください。) これは別の視点から捉えると、「人はいくら良いモノだからといっても、理由もないのに買い物しない」ということでもあります。

そして、クリステンセン教授がジョブ理論で示したのは「売上をあげるために、まず顧客が購買に至る理由を分析してみるべし」ということでした。日々消費者としても買い物をされている、皆さんからしたら「それはそう」と感じたのではないでしょうか?


ジョブが「わかったようでわからないモノ」に感じられてしまう理由

自分が消費者のときはしっくりときていたはずのジョブが、売る側に立ったとたんに「なんだかわからない」と感じてしまうのはよくあることです。私は、主な理由は2つあると考えています。

まず、人がモノを買うからにはジョブは確実に存在するのですが、一般に消費者は購買の理由を描写できるほどの「明確なジョブの自覚」を持っていないということがあります。濃い霧の中で自分の手のひらを見るときのように、近くに存在することは確かでも、よく見えてはいない状況にあることが多いということです。

つぎに、「ジョブのようだけどジョブではないもの」の存在があります。このことについては今回は深入りしませんが、要は「ジョブとジョブでないもの」を区別する必要があり、それがややこしいことがあるということがあります。


誰でも使える! ジョブを聞き出す6つの質問

そこで、そうしたジョブ理論にまつわるややこしい話やトリビアル理屈をいったんわきに置いて、ジョブ理論の現場での活用をはじめることが出来ないか?という狙いで、消費者からジョブを聞き出すことができる究極の6問をまとめてみました。

今日ジョブ理論を知った人でも使いこなすことができるように。そして、ジョブにまとわりつく霧を払うことができるように構成しています。

なお、調査対象となる商品をitemと記載していますので、調査したい商品に書き換えて使ってください。( 究極の6問は、ゲーム機、コーヒー、通勤電車、どらやき、ファミリーレストラン、旅行予約サイト など toCの商品やサービスを想定しています )


究極の6問

  1. itemに1年でいくらぐらいお金を使いますか? 概算で教えて下さい
    • —– 円
  2. 普段itemを使って何をしていますか?思いつく限り(できれば3つ以上)箇条書きで列挙してください。列挙が終わったら、列挙した中で、自身にとって最も重要なものに◎、次に重要なものに◯をつけてください
  3. itemを◎をつけた目的で使うときに、何をしていることが多いですか?思いつく限り箇条書きで列挙してください
  4. 普段itemを◎をつけた目的で使うときに、気分や心理状態にどのような変化がありますか? 複数ある場合は最もよくある変化について教えて下さい
  5. もし、itemを◎つけた目的で使うことができないとすれば、あなたの生活はどのような変化がありそうですか?最も気になる変化を一つだけ教えて下さい
  6. もし自分がitemを開発・販売する立場になるとしたら、◎つけた目的で使うために、どんな点を改善・改良しますか? 一つだけ教えて下さい

※こちらから6つの質問を使った調査を行うための調査票をダウンロードできるようにしてあります。必要な方は、編集・印刷してご自由にお使いください


究極の6問の使い方

1問目について、商品の性質上1年という期間設定がふさわしくない場合は適当に書き換えて使ってください。(例えば、調査テーマが自家用車などの場合は、5年程度にしたほうがよいでしょう)

調査票を消費者に渡して記入してもらうか、本記事を見ながら聞き取りを行ってください。消費者がつかまらない場合は、まず上司・同僚・部下・知人・家族・自分などで試してみても発見はあると思います。より確かな回答を得たいと感じたら、消費者へのインタビューをセットアップしてくれる調査会社を探してみましょう。

調査票が集まったら「結果の読み解き方」を参照しながら、読み解きをしてください。itemはどのようなジョブに基づいて購入されていて、どのような改善が推奨さそうか、ジョブ理論を用いてたくさんのヒントが得られるはずです。


結果の読み解き

  1. itemに1年でいくらぐらいお金を使いますか? 概算で教えて下さい
    • 回答の金額の平均や最大値が大きければ大きいほど、市場やビジネスチャンスも大きいということです。得られた回答をもとに市場規模を推測してみましょう
    • なお、ヘビーユーザー(オタク)は一般の消費者とは全く異なる回答をする問いなので、調査対象者がヘビーユーザーであるかどうかは見極めてから結果を読み解くようにしましょう
  2. 普段itemを使って何をしていますか?思いつく限り(できれば3つ以上)箇条書きで列挙してください。列挙が終わったら列挙した中で、自身にとって最も重要なものに◎、次に重要なものに◯をつけてください
    • メインとなる質問です。この質問で列挙されたものがジョブとなります
    • ◎や◯がついたものは、回答者にとってとくに重要なジョブです
  3. itemを◎をつけた目的で使うときに、何をしていることが多いですか?思いつく限り箇条書きで列挙してください
    • 本問ではジョブに対応する「状況」がわかります
    • クリステンセン教授はその著書群の中で「ジョブは状況とセットにして考えなければいけない」と何度も言及しています (それだけ重要なものであるにもかかわらず、「状況」をおろそかにして考える人が多いということでしょう)
    • 状況」は、なぜ消費者がそのジョブを重要と考えてるのか?どうすれば消費者をもっとうまく助けることができるか?を考える有力なヒントになります
  4. 普段itemを◎をつけた目的で使うときに、気分や心理状態にどのような変化がありますか? 複数ある場合は最もよくある変化について教えて下さい
    • クリステンセン教授はジョブを網羅的に抽出するために、機能的ジョブ・社会的ジョブ・感情的なジョブの3つの視点を使う方法を紹介しています
    • 究極の6問の2問目に対する回答では、機能的ジョブや社会的なジョブが列挙されることが多いのですが、感情的なジョブは見逃されることが多いのでこの問題で改めて確認します
    • 感情的なジョブは「使いやすさ」や「体験」の観点から商品を改善する有力なヒントになります
  5. もし、itemを◎つけた目的で使うことができないとすれば、あなたの生活にどのような変化がありそうですか? 最も気になる変化を一つだけ教えて下さい
    • 本問では、消費者がジョブを重要だと思う「理由」を探ります
    • 「理由」が消えるとジョブは極めて弱くなり、商品が不要になることがありますので、理由を知っておくことは非常に大切です ( 例えば、学校を卒業すると「学校に学生として所属したい」というジョブのために購入された制服が不要になる )
  6. もし自分がitemを開発・販売する立場になるとしたら、◎つけた目的で使うためにどんな点を改善・改良しますか? 一つだけ教えて下さい
    • 本問では、itemのジョブに対する満足度と満足できてない点を確認します
    • 満足度を高めることができれば、類似商品から一歩抜きん出たステージで消費者の支持を集めることが出来ます

まとめ

「高度に習熟していないと使えない」と誤解されがちなジョブ理論ですが、本記事がきっかけとなって実際に現場で使える豊かな発想をもたらすジョブ理論の効用を体感していただければ幸いです。

究極の6問をご活用にいただくにあたって、理解しにくい部分や疑問などがあればぜひメッセージください。本記事に加筆・改定を加えつつお答えしていこうと思います。


プロユースのジョブ調査のご紹介

最後に少しだけ宣伝をさせてください 。

弊社では、本格的なジョブ調査をと分析行うサービス、ジョブセグメント市場分析とファーストサーチを提供しています。

  • ジョブセグメント市場分析 (通称:ジョブレビュー)
    • ョブレビューは定量調査型のジョブ調査です
    • 調査テーマとなった商品についてのネットリサーチを行い、市場をジョブベースのセグメントで切り分けて、セグメントごとの重要度・満足度・消費金額ベースのシェアを算出し、レポートを作成します
    • 市場に顕在化しているジョブを定量的に評価することができるので、最初に行うジョブ調査や定点での調査におすすめです
  • ファーストサーチ
    • ファーストサーチは定性調査型のジョブ調査です
    • 弊社に所属する各分野におけるジョブ調査のエキスパートがインタビュー形式で調査を行い、レポートを作成します
    • 究極の6問やジョブレビューでは不可能な、市場に顕在化していないジョブの探索も行うことが出来ます
    • 先行してジョブレビューを行い、次にファーストサーチを行うことで、より特定のジョブに対する理解の解像度を高めたり、特徴的な回答をした消費者にインタビューを行うこともできます

どちらも弊社が、大企業からスタートアップまで新規事業開発の支援の実際の場面で培ってきた、ありったけのノウハウを詰め込んだ分析を行うサービスです。


究極の6問よりも、広く深い系統的な調査を検討されている方は、ぜひ弊社担当( indee_web@indee-jp.com ) までご相談ください。

筆者もジョブレビューの開発には深く関わっています。手前味噌ではありますが、クオリティには正直自信があります。ジョブレビューを通じて、皆様のビジネスの発展に貢献できること楽しみにしております。

シャープとユニクロのマスクに見る新規事業の醍醐味

Written by 津田 真吾 on 2020-06-23

コロナ禍で、シャープとユニクロがマスクを新発売しました。マスクの製造販売というのは世の中にとっては新しいビジネスではないですが、取り組んだ2社にとっては紛れもなく新規事業であったはずです。しかも、数カ月で立ち上げた新規事業として相当苦労された方も多いのではないかと思います。せっかくなので、これらの事例を見ていくことで新規事業の悲喜こもごもを想像してみます。

シャープの目の付けどころ

まずはシャープです。「目の付けどころがシャープ」で有名な家電メーカーですが、家電の前はシャープペンシルを発明し、製造販売していたことを考えると相当なトランスフォーメーションを経てきた会社です。さらに、その後世界初の電卓の開発にも成功し、液晶事業でも一時代を築きました。ところが、液晶事業への過大な投資などや強烈な価格競争によって経営が悪化し、2012年、鴻海に売却されたことも記憶に新しいです。現在は鴻海の傘下で再建を図っています。

新型コロナ肺炎の感染拡大によってマスクは品切れになり、特に医療機関でのマスク不足は深刻化しました。そのため、政府はマスク増産に対し補助金を出すことに。シャープはこの政府の「ニーズ」に応える形でマスクの製造販売に参入しました。政府の「ニーズ」もあり、余剰のクリーンルームや作業員を活用できるため新規事業としては成功する条件が整っていると判断したのだと思います。さらに、補助金が設備投資の一部をカバーできるメリットや、消耗品ビジネスに参入できることもメリットとして挙げられます。当時不足していた「国産」マスクであることや、防塵技術を活用した生産管理などのノウハウにも優位性を見ていいたと思われます。

「シャープマスク」ちっとも当たらない 倍率118倍、7回連続で当選確率1%未満

シャープがマスクを初めて販売してから、およそ2か月。今も人気は衰えない。第7回抽選販売が2020年6月10日に行われ、応募総数は824万1181件。7万人が当選したが、倍率はなんと118倍だ。 世の中、マスクが少しずつ購入しやすくなってきているが、シャープマスクは「別格」。当選を心待ちにしている人は大勢いる。いつまで抽選販売会を行う予定なのか、シャープ広報に取材した。 …

発売を開始すると、人気は上々で早速サーバーはダウンします。これまでに直販でそこまでのアクセスを経験したことがなかったのではないでしょうか。「ニーズ」の確認と生産面では抜かりなかったものの、直販でのウェブ販売は未知の領域だったことが明らかになりました。新規事業たるもの、この位でへこたれてはいけません。一方で、どれだけ想定をしても理論と実践にはギャップがあるものです。“想定外を想定する”ためのイノベーションマネジメントの大切さを感じました。

ユニクロの本業は服

ファーストリテイリングは ユニクロというブランドとして今や誰もが知り、誰もが着る普段着の会社として名を馳せています。このように期待されている会社は、顧客からの声に耳を傾けることなく、色々な要望が来ます。つまり顧客からの支持が多いと「指示」も多いわけです。報道によると、涼しいマスクへの要望は消費者からあったものの、柳井会長は「本業は服を作ること」として後ろ向きだったようです。

ユニクロが “エアリズムマスク” 販売へ⇒「需要しかない」の声

「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが、今夏にもマスクを売り出すことが分かった。 NHK など複数のメディアが報じた。 時事ドットコムによると、マスクには通気性や速乾性に優れた「エアリズム」の素材を使い、夏にも店舗や オンラインストア で販売を始めるという。 …

ユニクロと言えば、「普段から小奇麗な格好がしたい」「
手ごろで 時代に合った無難な服装がしたい」といった未解決ジョブに気づき世界にも2000店舗以上を展開する洋服のブランドとなりました。最近では洋服の「暑い」「寒い」「重い」「かさばる」「着心地が悪い」といった不満解消にも余念なく、新素材の開発から最終製品の衣服までを手掛けることで、消費者からは機能性も兼ね揃えているという評価を得ていたように思います。

そんなユニクロが、消費者に「需要しかない」と言わしめるほどのエアリズムマスクに躊躇するというのは意外でしかありません。

推測ですが、次のような考えがあったのだと思います。まず、マスクは服ではなく、医療もしくは衛生用品であるという考えです。このような考えは、企業が成長する際、社内の統率を取り、組織内の分業体制を作るためには大切な考え方ですが、自社のケーパビリティを限定してしまうという欠点もあります。もう一つ考えられるのは、現在は海外市場に照準を合わせていて、国内市場のニッチな要望に対しては優先順位を落としていたのではないかという点です。国内市場からの声は社員の耳に届きやすい反面、日本市場は全世界の代表ではなく、むしろ異例な市場であることが多いからです。国内の大きな声に影響され、海外市場における機会を見過ごしてきた他の日本企業を他山の石としてユニクロ経営陣は当初見ていいたのかもしれません。

しかし、涼しいマスクへの要望を聞くだけでなく、ジョブの観点で検討すれば、消費者は感染予防という機能性よりも「外出する際の身だしなみ」のためにマスクを利用していることに気づいたのだと推察されます。
日本の酷暑のもとで「身だしなみ」をするために、涼感の高い肌着が必要とされたように、涼しいマスクは多くの人に取って必需品になるはずだと考えられるのです。

マスクによって「飛沫を飛ばさない」という機能的なジョブだけでなく、「私は感染拡大対策をしています」「周囲に配慮できる人です」ということも同時に示したいという社会的ジョブを私たちは満たしています。現に、手作りマスクを作る人は多くいますし、こだわりの生地を使ったりするなど、形や柄で個性を出す人も少なくありません。考えてみれば、この構造は他の衣服もまったく同じです。単に暑さ寒さを凌ぐためや、体を隠すための機能的ジョブのためだけに服を着ているのではありません。 「身だしなみ」「自己表現」の道具だと思えば、マスクも立派なファッショングッズ。機能性も兼ね揃えたアパレルと見なせば、マスクこそユニクロが参画するべき事業とも言えるでしょう。

新規事業が面白い理由

シャープとユニクロの例を見ていると新規事業の非常に面白い面が浮かび上がってきました。

  1. 顧客ジョブによって事業領域を再定義することが大事。
     既存事業をスケールするには製品を軸に組織の統率が効率的ですが、新しい事業には顧客のジョブ視点でセグメンテーションすることが重要です。ユニクロではマスク事業を伸ばすためにも、マスクは洋服内のアイテムの一つとして位置付けることになると思います。そうなったら面白いですし、日本発ファッションアイテムとして文化的なアピールもできる可能性もあるのではないでしょうか。
  2. 「ニーズ」「ジョブ」の関係は、氷山の見えている部分と水面下の部分の関係。
     ニーズに応えるのもよいですが、ジョブに応えた方が大きなビジネスになりそうです。でも、目の前に潜在化したニーズがあったことで、多くのステークホルダーを巻き込んだ意思決定ができたのかもしれませんね。(ちなみにジョブとニーズの違いは以前こちらにも書きました
  3. どんなに新しくなくても新規事業のアイデアは仮説。
     液晶テレビや調理家電と比べると、ローテクだしシンプルな商品であるマスクも、いざ売ってみると想定外のトラフィックによるトラブルがありました。
  4. 成長。
     シャープはマスク事業をきっかけに、オンライン通販の新たな能力を獲得しました。今後は他の医療機器への進出も期待できます。ユニクロにとっては、マスクも海外へ提案するきっかけになることと思います。この過程で、海外諸国からのフィードバックもたくさん得て、機能性の高いアパレルとしての幅を広げるのではないでしょうか。

この2社以外にも「コロナのため」という目的ときっかけが明確になった新規事業は数多くありますが、いつか「コロナのお陰」と言われるような気がします。