”イノベーティブな”アイデアが出ないと嘆きたい時には

Written by 星野 雄一 on 2019-10-15

事業変化のスピードが早くなり、既存事業の次の一手を常に考えておく必要がある現代、各社様々なイノベーション創出に向けた取り組みに取り組んでいる。ワークショップをやったり、研修をやったり、提案制度を整えたり。ただ、様々な取り組みを行うものの、なかなか期待するような”イノベーティブな”アイデアが出てこないという声も耳にする。

これには様々な要因がある。そもそも今まで既存事業にしか取り組んでいないので社員のスキルが不足しているケース。こういった場合はトレーニングも効果的であろう。また、パッションの有無が論点になるケースもある。当面順調なビジネス環境にいたり、過去の成功体験が強い組織では新しいことを生み出すパッションの源泉が薄くなるのはある意味必然とも言える。

また社員が忙しすぎて…と嘆く人事担当者の声も聞く。これは本業がある中で片手間でもいいからとアサインされていて、当たり前だがイノベーション創出に時間を掛けることができないということだ(まあ、パッションがあればやれるという考え方もあるが)。

 

ただ、パッションもあってスキルも勉強し、時間も作るが、”イノベーティブな”アイデアが出ないケースも目にする。

 

この原因として強く感じるのが、各社員の体験の幅の狭さだ。いくら思いがあって、優秀で、スキルを身につけても、いつもと同じメンバー、いつもと同じ顧客、いつもと同じ仲間、そして同じ通勤経路という環境の中で生活していたら、発想の転換は難しい。新結合の結合ネタがないのだから。

 

会社を愛していたり、自社商品を愛している人はある意味危険だ。愛しているがゆえ、そのコミュニティの中は居心地がよく外に出ず、そのプロダクト周辺の情報だけを自然と収集してしまう。

 

では、どうすれば良いだろうか?

 

 

イノベーションDNAモデルに拠れば、イノベーターの行動特性の一つとしてネットワーク力というものがある。これは人脈を広げるといった実行志向型の考えではなく、発見志向型のネットワーキング行動だ。自分とは違う人がいるコミュニティに向かって、いつもと違うものを発見する。

また実験力も欠かせない。気になったら、いや、気にならなくても気になったことをやってみる・体験してみることが後になって利いてくる。

 

百聞は一見にしかずとはよく言ったもので、自ら体験したものから得ることは多い。

 

 普段会わない人達と会う
 行ったことない場所に行ってみる
 今までと違う仕事をやってみる
 違うカルチャーの会社で働いてみる
 違う成長ステージの会社で働いてみる

 

これらがあとで繋がる。

スティーブ・ジョブズが「将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできない。できるのは、後からつなぎ合わせることだけだ」と言ったように、その時というよりも、後になって繋がっていたり、活きてくるものだ。

ネットで何でも検索できる時代だからこそ、他者と異なるイノベーティブなアイデアを創出するためには体験することだけが唯一の武器となりうる。だからこそ企業はイノベーション人材を育成するため、人事制度として、今まで取り組んだことのないことをやるための休暇制度や補助金制度に着手するのも良いのではないか。残業削減ではなく、社員の時間の使い方を変える機会を作り、イノベーション文化を育むことこそ働き方改革なのではないだろうか。

 

また子育ての目線でも取り組めることがあるはずだ。子を持つ親の皆さんは、我が子がこれからの時代を生き抜く人間になるよう様々な体験をさせているように見受けられる。ただ、子供のスキマ時間をどんどん奪うよりも、自らが今の時代を生き抜こうとする姿を魅せる方がパワフルではないだろうか。親が新たな体験を楽しんで(特には苦しみ)いる姿を見せ続けることこそが子供にとって将来にわたり影響を与える重要な体験だと言える。

 

社員が、自分が、”イノベーティブな”アイデアが出ないと気づいた時はチャンスである。
今こそ、普段と違う行動をしてみてはいかがだろう。 Do Something Different!!

イノベーターは育成できるのか? 人間社会のジレンマ

Written by 津嶋 辰郎 on 2019-10-08

  

ここ数年は特に企業としては新しい事業を、そして国として新しい産業を創出するためにイノベーター、アントレプレナーの創出が喫緊の課題として注目されている。


果たしてイノベーター、アントレプレナーは育成できるか?

 

の問いに多くの人々が頭を悩ませている。

  

私も前職から十数年にわたって、社会人になった大人だけでなく、大学生や小学生を対象にしてこの問いに向き合ってきている。ただしここで言っているレベルは、GAFAの創業者のような振り切った存在の育成ではなく、そこまで大きくなくとも新しいビジネスを発案し、それを形にしようと努力し、やり遂げられる人材も含んでいると考えていただきたい。


この探索過程で国内外の多くの取り組みを調べ、また自分達が良かれと思うものを実践し、試行錯誤する中で、どうやらこの問いは一般論で語るのはではなく、”現代の日本において”という制約をつけることで、問題を明確化することができると気づいた。


そして現段階の私なりの答えは、


本人が望んでいるならば、現在の教育システムおよび企業システムから隔離することで、ある程度のレベルまではできる


となる。

現在のこの手の議論や取り組みの多くは、教育プログラムな思考を補助するメソッドの習得に殆ど注力されている。しかし、現実に現場で起こる問題は、どんなに創造力や思考力、そして自己肯定感を高めるようなプログラムや刺激を施したとしても、そうした能力が高められた子供達や大人が生きていくことになる、家庭を始め、教育機関、そして企業という社会基盤に受け入れのための準備ができていない。


結局、どんなにこうしたプログラムやメソッドを施したとしても、古い考えから脱せられない両親や親族、教師や校長、そして上司や経営者に触れることにより、すべてリセットされてしまうのである。

このことは、まだ自ら一人で生きていく力を持たない教育を受けている、または雇われている立場にとって、社会や組織に適合していくためには、非常に合理的は選択である。文化人類学者、心理学者、行動科学者が行ってきた様々な研究結果にも現れている人類が進化の過程で身につけてきた根源的な生存本能にからくる、生き残り戦略としての行動特性と考えてもごく自然な結果である。


そしてこの人間社会のジレンマとも言える問題は、クリステンセン教授がイノベーションのジレンマで語っている既存事業と新規事業を両立させることの難しさと同義であり、既存の仕組みから隔離するという手段も企業内で新規事業を成功させるための要件そのものである。

しかし、これは日本に限らず現在の先進国の一般家庭に生まれ育った場合、意図して生活環境を作らない限り、殆ど実現不可能な要件ではないか。そして実際その選択肢を提供できるのは、社会における生活基盤を実質的に支配している、


家族、教育者、経営者のみである


つまり育成のために変わらなければならないのは、育成する側の人間であり、その集団が構成している社会なのである。しかし、なぜこうも当たり前のことにもっと早く気づかなかったのだろうかと思う。残念ながらこの前提にたたず、進められている取り組みの殆どは徒労に終わる可能性が高い。

 

 

どうやら我々は、その本質的な実現手段を考えるより、自分にとって与えられた範囲で、または実現できる範囲の中での手段で考えた方が合理的と感じるのが本能のようだ・・・そしてこれは今の人類の認知としての限界であり、より良い未来を創るために機械に支援してもらう必要がある領域なのかもしれない。

そしてこの二元論では解決できない社会を作りたいと考えるモチベーションが東洋思想に熱い視線が注がれつつある根源ではなかろうか。

大企業においてスタートアップのピッチは使えるのか?

Written by 津嶋 辰郎 on 2019-09-03

 

長年、日本の大手企業における新規事業立ち上げ支援を進める中で、最も効果的な取り組みを一つ挙げるとするとそれは、

 

ピッチスライドの共通化

 

である。その背景を少し整理してみたいと思う。

 

ビジネスアイデアの発案者がどれだけそのビジネスに自信をもっていたとしても、どれだけ顧客インタビューをこなしてきたとしても、そして事業の検証に必要な金額が10億円でなくわずか100万円であったとしても、大手企業において経営層に判断を委ねるためには、何らかのピッチ審査(新事業審査などと呼ばれているものである)に臨むしかない。

 

ご存じの通り、どんな会社であっても経営層は既存事業の対応で非常に忙しい。新規事業担当役員とはいえ100%新規事業に専念できていることはめったになく、新規事業立ち上げプロジェクトもいくつも掛け持っているのが普通である。また既存事業にない分野の取り組みなると、前提となる知識もまちまちである。つまるところ、

 

限られた時間の中で事業の魅力や取り組む意義を提案者と経営者が伝え合う

 

ことが企業内新規事業立ち上げにとっての最大の課題なのである。

 

 

 

この課題に対しては、多様な投資家との異種格闘技戦に戦うためのツールとも言える、スタートアップのピッチに多くを学ぶことができる。

 

我々も多くの大企業の活動において、スタートアップと我が社は違うという理由で初期は各社の企業文化に合わせる形で、この審査用スライドの構成をカスタマイズすることを求められて対応することが多いが、どの企業においても最終的にはこの10のスライドに集約されることになった。

 

 

あまり型にはめない方が、提案者が自由な発想ができて良いという意見もあるが、実はこの型を活用することには組織にとっての学習としてもっと重要な効果がある。

 

それは、この構成のピッチをステージゲートやマイルストーンと呼ばれているであろう審査の場で何度も繰り返すことを通して、テーマは違えど、同じ構成のピッチを繰り返しレビューする中で、経営層が新事業立ち上げにおいて重要な考え方に馴染んでいくということである。いわゆる武道でいう”型”を通して本質を学ぶプロセスとも言える。いわゆる守破離の守としての効果である。

 

本来ならば、新事業立ち上げ経験のない経営層に新規事業の立ち上げと既存事業のマネジメントの違いや、各フェーズにおけるレビューのポイントなどなどを一から学んでもらうことが正論ではあるが、なんせ前述の通り忙しい経営層にそうしたトレーニングを施そうとしても現実にはそうそう時間が取れるものでもない。

  

この10スライドは、元々は米国において大型の資金調達を達成したスタートアップのピッチに共通する要素から導かれたものである。そして我々もそもそもは、日本のスタートアップのピッチの教科書となることを目指して2016年に翻訳したものであった。

 

しかし、その後、数年にわたって日本の大企業内新規事業支援において、実践検証してきた結果、共通に使えるだけでなくこれを型として実践することが、実は最も効果的な取り組みであるという結論に至った。

 

この10スライドの構成についてもっと深くお知りになりたい方は、こちらの本を参考にしてもらいたい。(これは社内での普及における有効なツールにもなる)

 

『天気の子』に観る革新と伝統、そして未来を創るために必要なリベラルアーツ!?

Written by 津嶋 辰郎 on 2019-07-26

7/19に封切りされた新海 誠監督の最新作『元気の子』。早速鑑賞してきたところ、この作品はお盆直前の今というタイミングで見てみることにも意味があるんじゃないかと思い、感じたことを少し言葉にしてみたいと思うに至った。新海監督の作品をご存じのない方も、また違った視点で興味を持って貰えたら面白いと思う。


2016年に公開された『君の名は。』で一躍有名になった新海 誠監督であるが、1971年生まれの同世代アニメーターということもあり、10年以上前にたまたま目にした自主制作での劇場公開作品でもある『ほしのこえ』をきっかけとしてから継続的にチェックしてきていた。同世代の監督作品には、同じ時代を歩き見てきた景色と影響を受けてきた作品からのより多くの共感点をみることができる。そして、大人になっても変わらない、時空を越えるいわゆる日本人的へたれロマン?!・・・これが世代を越えた監督の作品に共通する魅力だと思う。そんなアニメ監督ではあるが、実は奥さんも子供も女優と子役という芸能一家でもある。


本作品もタイトルのテーマでもある「晴れと雨」を中心として、『君の名は。』同様に多くの対比を用いてそれぞれの立場が違う目から見た世界を表現することで、多様化する現代において誰もが普段気づきにくくなってしまった現実世界の深みを描いているように思えた。


ネタバレにならないように作品の話はこれくらいにしておいて、作品がスタートしてすぐに私の目を引いたのは、ストーリーの中でも重要な象徴となる代々木駅近くのビル(実在する代々木会館がモデル)の屋上に位置する神社(これも実在する銀座駅近くの朝日稲荷神社がモデル)の鳥居の前に置かれた、キュウリとナスに割り箸をさして作った二体の人形である。そして作品の中盤に登場するおばあちゃんが語る、旦那の初盆にまつわる習わしに関する話である。


この作品では”お盆”という名目で、当然の習慣として夏の帰省をしている我々日本人に対して、改めてその意味を思い起こさせる仕込みが含まれている。

 

東京と離島、新宿のビル群と古びた神社、子供の心と大人の心・・・
そこに共通して存在する革新と伝統 の共存


テクノロジーが切り開く未来は本当に我々が求めている世界なのか?我々が実現しようとしているイノベーションは、果たして人類を今以上に幸せにできるのか?


新しい事業となる製品・サービスが世の中に普及するということは、良くも悪くも未来の子供達の世界に大きな影響を与える。不安定で不確実、そして複雑で不明確・・・いわゆるVUCAと言われる時代の中、この問いに自信をもって踏み出していくために必要な知識や知恵が必要になっていることが、昨今リベラルアーツが注目を浴びつつある背景でもある。


しかし、事はそんなに単純ではなく、それぞれの領域に分断された知識や情報をどれだけインプットしても、それらを効率的に有機的に繋げる学習方法は今の所存在しない。それは残念ながら一人一人の人間の中で繋いでいくしかない。そしていくら自分の中で繋ぎ合わせたとしても未来は何も変わらない。リベラルアーツを活かすにも、結局は実践という過程は不可欠である。これもまた二元論では答えは見つからない対比の一つである。


いまだ日本の至る所で新しい事業の”アイデア不在”の議論が行われている。しかし、実際我々が事業立ち上げの現場の最前線で時間を過ごす中で、事業のアイデアが不足していると感じたことは一切無い。そしてアメリカや中国に比べて新しい技術に遅れをとっていると感じた事も無い。では何が足らないのか?

 

多くの人がワクワクする課題を設定し、そこに自らのコミットメントをもって人を集められるリーダーが足りていない


リーダーとまで言えなかったとしても、我々一人一人が未来にとって自信を持つためには、日本という特殊な島国おいて先人が歩んで来た歴史や伝統から、もっともっと学ぶべき事があると新海監督も作品を通して伝えていると感じる。


私事ではあるが、昨年の7月末に義母が、そして翌月の8月末に母方の祖父が他界した。


ちょうど先週末に、義母の一回忌を義父が先に眠るお寺においておこなった。そこで住職から7月という今のタイミングということもあり、お盆についてのお話を伺っていた。お盆とはもともと仏様となった先祖を自宅にお迎えして一緒に過ごす時間である。そして、ご先祖様が自宅に来るときにはできるだけ速く、そしてお盆をゆっくり過ごした後に仏の国に帰るときにはゆっくりと名残をおしみながら帰って欲しいう意味を込めてキュウリは馬、なすは牛に見立ててお飾りするんです・・・と。

そして東京が日本の中心になり、多くの人が地方から上京するようになってから神奈川と東京は、8月から1ヶ月ずらして7月にお盆を行うようになった。こうした伝統的な風習もそこで暮らすライフスタイル変化によって変わってきたということも。そういう話を聞いていたからこそ、この作品の中に描かれているキュウリとナスの人形が何より目を引いたことは間違いない。


自分が子供のころに我が家の仏壇に飾るために、キュウリとなすの馬と牛を両親と一緒に作った記憶がある。しかし、今の横浜の自宅にはもちろんそれはない。住職の話を聞いたときも、一緒にいた自分の子供にはそのイメージすら頭の中にも浮かばなかったのではないかと思う。最近自分も母国の伝統や文化に関する子供のなぜ?に答えられないことが多いことを実感する。

小学生にとってまだその意味の深さは分からないかもしれないけど、改めてその意味を調べた上で、この夏の帰省の機会に少し伝えてみようと思う。

オープンイノベーションが上手くいかない理由をジョブ理論で考えてみる

Written by 津嶋 辰郎 on 2019-07-01

「オープンイノベーション」という言葉については今更その内容を説明する必要がないくらいに、日本においても普及しきった印象である。一方、実際の取り組み現場においては、成功事例を探すことが難しいほど問題が多いといえる。まだまだ取り組みとして、黎明期であるから今後は成功したと言える事例も出てくる可能性もあるが、正直今のまま進めても殆どの活動が成果に繋がるとは言いがたい・・・と現場で感じる問題点についてコンパクトに整理してみたい。


オープンイノベーションの難しさの原因は、多様なステークホルダーが存在するということに尽きると考えている。勿論それぞれの組織に所属する担当者によっては考え方やスタンスは異なるが、今回の記事ではジョブ理論を用いて私の経験を交えた日本の組織おける典型的なパターンをモデルとして考えたいと思う。分かり易くするために敢えて多少極端な表現にしている点はご了承いただきたい。 ジョブ理論について復習が必要な方はこちらの記事も参考まで。


今回考察する事例としては、大学と企業(大手、ベンチャー双方に関係するが特に大企業を意識している)の連携でのオープンイノベーションを想定し、シーズ発明者、大学関係者、企業連携担当者、経営者という4種類のジョブが異なるスレークホルダーの場合で考えてみたい。

それぞれのステークホルダーが抱えるジョブとその背景を示すとこういう感じではないだろうか。


シーズ発明者のジョブ:自分の研究テーマを理解した上で、できるかぎり自分が考えてきた用途で実用化して欲しい。一方、事業化への関与にはあまり興味ない。

→ 日本における研究者は、もちろん自分の発明を実用化することには思いがあるが、基本それを事業化する取り組みに興味がある方は少ない。そのため事業化における自分の関与は最小限に留め、発明の価値とその本来の活用方法を理解できる人物は上で、進めて欲しいと考えていることが多い。


大学契約関係者のジョブ:発明者、企業側がそれぞれから多くの要望があったとしても、できる限り大学の制度に則った契約の中に納めたい。基本的に前例のないことはやりたくない。

→ 大学職員もしくは、産業界からの転入だとしても日本の大学という環境で働きたいと考えている方は、前例主義でコンサバティブな方が多い。そのためイノベータータイプの上司がいないかぎり、如何に既存の仕組みの枠を外すことなく、物事を進めたいという考えるのは責めることができない必然のジョブである。


オープンイノベーション担当者のジョブ:短期的な成果が期待できない状況においても、社内に価値を上手く発信して自分達の取り組みを評価されたい。

→ 上層部の期待や既存事業の成果に比べて明らかに時間を要するのが、オープンイノベーションを通した新規事業立ち上げの取り組みである。一方、会社の中の仕組みは既存事業を運営する時定数で回っている。そのために如何に成果を見える化し、その進捗と価値をその分野に土地勘のない社内メンバーに上手く伝えていくかということが苦悩している作業である。


サラリーマン経営者のジョブ:既存事業だけでは存続が難しい事は理解しており、新しい事業の立ち上げが必要だと考える中、株主および社内のステークホルダーから失敗だと思われるような取り組みはしたくない。取り組むなら売上としての成果に繋げたい。

→ 新規事業の立ち上げの必要性について社内外に発信していたとしても、既存事業以外の領域に土地勘のないこと、短期的に収益を生まないテーマについて費やす時間を確保できない。またその自分自身が土地勘のない領域において、担当者を信用してリスクをとる決断をするハードルは日本の組織体制と社内のステークホルダーに対しても非常に高い。


どうだろうか?これらのジョブとその背景については、恐らくそれぞれの立場の方と仕事をしたことがあれば、それほど違和感のない内容だとご理解頂けると思うし、とりわけ特殊なことを言っているわけでない。と考えても、そもそもこれだけ複雑なステークホルダーのジョブを満たしていかなければならないのがオープンイノベーション・・・の課題であれば、それを成果に結びつけることがどれほど難易度が非常に高いか。なかなか成功事例に出会えないのも必然なのである。

ではこの複雑な状況の中でもなんとかプロジェクトを進めるための処方箋は次の3つであると考えている。


・プロジェクトにおける共通の目標を言語化し、ステークホルダー間でしっかりと合意する


・目標達成までの期限とそこに到達するまでの中期的なマイルストーンを決める
(撤退の条件もこのマイルストーンに含める)


・リーダーまたはそれに変わる人物が各組織間のジョブの隙間(グレーゾーン)を埋めることをコミットする


完全な取り組みとはいえないですが、参考になる具体的な事例として、シンガポールにおけるEDB(経済開発庁)が行っているグラントスキームに見ることができる。シンガポールという国家は日本同様の高齢化社会であり、単純労働者に対する移民受け入れを制限する政策を進めているため、先端的なライフサイエンス技術の導入およびロボットによる単純労働の自動化が世界で最も推進されていると言って間違いない。しかも、国内のシンガポール大学が近年アジアナンバーワンの評価を得ているとは言え、研究開発は一日にしてならず・・・のためそう簡単には国内から新たなシーズが生まれることが容易でないと理解していることもあり、海外企業の受け入れ体制が非常に整っている。その中でも前述の2領域においては日本企業に対する期待値が極めて高いのである。


話を戻すとEDBが主導する開発型スキームは新しい技術を基にしたソリューションを導入したい事業者が起点となり、それ実現にコミットできる企業を公募する(この時点でステークホルダー間の目標が合意されている)。そして、そのグレーゾーンのマネジメントをEDBの担当役人(立場的にも幅広い裁量権がある)がコミットする(実際の解決に必要な人を集めて議論する場をセットする等を行う)。技術シーズとして必要なものを提供できる研究機関がシンガポール国内にあれば共同開発のアレンジを行う(大学担当者のジョブを捉えている)。そして、最も日本のグラントに抜け落ちている要素としては、参加する開発企業に対しては、EDBがソリューション実現後は政府のお墨付きで国内外のターゲット施設等に事業展開の支援まで約束してくれる(オープンイノベーション担当者および経営者のジョブを満たしてくれる)というものである。


我々もこうしたシンガポールにおけるスキームを活用して、大手企業内での新規技術開発プロジェクトや日本において特に資金調達や実証環境の確保が困難なハードウェア系の事業展開するモデル事例の構築を進めている。その過程でシンガポール政府を始め、様々な現地パートナーとのネットワーク構築が実現してきたためINDEE Singaporeを立ち上げ、より多くの機会を提供していこうと考えている。無論、こうした機会を活用するために日本の大手企業およびスタートアップが十分満たせないジョブをサポートするのが我々の役目である。


こうした機会に少しでもご興味を持っていただけたら、お気軽にこちらにでも問い合わせいただければと思う。