ビジュアルシンキング Visual Thinking ~ファシリテーション・グラフィックのHow to~

Written by 山田 竜也 on 2013-04-30
 前回は考え方としてのVisual Thinkingを紹介した。ポイントは「描きながら考える、発言を描きながら議論する」という進め方にある。今回は具体的なHow toを伝えていく。How toに関してはいろいろと応用範囲が広いのでVisual Thinkingだけのものというより、いわゆるファシリテーション・グラフィックのHow toの1つとしてとらえると良いだろう。
 ちなみにこの辺りの手法の名前は造語も多いので自分なりの解釈を持って理解しておくことをお勧めする。以下は私の解釈だ。
 ◆板書
   議論された事を記録する。事実や結論を重視する
 ◆Visual Thinking
   考えるために描く、議論するために描く、議論の活性化を重視する
   思考・議論の過程を見える化する
 ◆ファシリテーション・グラフィック
   記録だけでなく会議の進行やプロセスにも関与する
   上記の2つも含む広い概念
 図に示すと以下の様になる。
グラ分類1.png
 
 How toとしては同じでも、手法の狙いによってHow toの意味づけは変わる。
 「考えるために描く、議論するために描く」という狙いのために、1つ1つのHow toがどんな意味を持つか、効果があるかを理解して欲しい。
 
◆How to1 テーマを書く
 当り前じゃないか!と笑う前にこういう事が無いか振返ってみて欲しい。議事次第などの資料が紙で配られている場合に多い。議論が始まってしばらくして、「すみません。今、どこを話してるんでしたっけ?」という様な事は無いだろうか?
 こうした事態は皆が議事次第をバラバラに見ているから起こる。ホワイトボードや模造紙などを使い、敢えて皆の視線を一点に集める事で、この事態は簡単に回避できる。同時に物理的に視線を上げさせることで前向き感をつくっていく事もできる。
 コツはテーマを読みながら書く事。こうする事で皆の意識を切り替える事ができる。特段テクニックも要らないし、きっちりやるだけで誰でも出来る。先ずは試してみて欲しい。
How to1.png
 
◆How to2 発言を分かり易く、かつ生々しく残す
 次はちょっと忙しい所だが、発言者の声を拾う部分だ。速く書けるにこした事は無いが、難しかったら発言をオウム返ししながら書くと良い。時間も稼げるし内容や意図も確認できる。
 最初からきれいに書く事は難しいかもしれないが、先ずは書く事が大切だ。一言一句を写し取る必要は無いが、発言を尊重し、汚くても良いから出来るだけ拾ってみよう。言葉が消えてしまうよりは良いし、間違っていたら後から直してもらえば良い。慣れてくると上手く要約して相手の意図をより分かり易くする事もできる。但し、要約・意訳が行き過ぎると発言者のオーナーシップ(言霊)が消えてしまうので、必ず表現の確認をした方が良い。
 コツは生の声を残す事。分かり易く要約するのには訓練が必要だが、生の声を残す事は発言者の声に少し耳を傾けるだけで出来る様になる。前提として傾聴のスキルは必要かもしれない。先ずは発言者の言葉遣いと語尾の強弱を意識しよう。
◆How to3 色に意味を持たせる
 最後はよりテクニック的な部分になるが、自身の思考の整理にもなるし、上手く活用できると議論の効率を大幅に上げる事が出来る。色に意味と言ってもいろいろあるが、私の場合は基本的に以下の3色を意識している事が多い。
 ●赤:問題、課題、ネガティブ
 ●青:解決、対策、ポジティブ、アクション、宿題
 ●緑:補足、詳細、ニュートラル、単なるコメント
 テーマや発言は●黒で書いていて、そこにアンダーラインという形でやる事もあるが、正しく分ける事ではなく、議論を活性化させるための色分けなので、直接文字色を変えるのをお勧めする。色遣いにはペンを握る者の意図が入るので誤解は生じるかもしれないが、それこそが活性化の糸口となる。どんどんカラフルにしていきたい。同系色の薄い色(ピンク、水色、黄緑色)があるとアンダーラインや囲みで強調するのに役立つ。
 コツはその場での一貫性を保つ事。ネガティブに青色を使ってしまって戻れなくなったら、その場はそれで通せば良い。途中で変えると混乱を招く。目的はあくまでも議論を活性化させる事なので、意見を赤か青かに敢えて仕分けて見るのも手だ。全体での色合いも議論の呼び水として使える。緑しかなかったら単なるコメントばかりで、誰も本音を言っていないという事かもしれない。
How to2,3.png
 
 他にもHow toはいろいろあるが、今回は思考の過程を残しつつ議論を見える化していく際のポイントを紹介した。
 
 議論の方向性を探したり、検討漏れを探したり、まだまだHow toは沢山ある。大事なのはHow toを沢山知っている事より、”いつでも”、”どこでも”、使えるHow toをしっかり身に付ける事だ。その意味でこの3つはかなり使い勝手のある基本技だ。是非、活用して欲しい。

日本企業におけるイノベーションの特殊事情

Written by 津田 真吾 on 2013-04-22

Innosight社ワークショップを前に、いくつか「イノベーションのジレンマ」に関する振り返りと復習をしてきました。今回は日本の特殊事情に着目してみたいと思います。

「イノジレ」で取り上げれられている企業はアメリカの企業ばかりです。しかし日本では、イノベーションのジレンマを上手に回避したような事例がいくつか見受けられます。
例えば、富士通。富士電機から独立してコンピューター事業を立ち上げ、さらにはファナックのような優良企業を生んでいます。また、富士フイルムはフィルム会社からコピーやデジタルイメージングあるいは医療にまでの事業を創っています。しかし、大半の日系エレクトロニクス企業はジレンマに呪われているようにも見えます。シャープ、パナソニック、ソニーのような世界的に著名な企業が成長戦略を描けず、コモディティ化に苦心しています。
日本にはイノベーションに有利な点と不利な点の両面がありそうですが、日本の特殊事情にはどのようなものがあるのでしょうか。

  • 顧客:日本が高度成長を果たし、総中流と言われるほど豊かになった国をメイン市場としている企業にとっては、既存顧客を重視する傾向が強くなってしまいがちだろう。世界的に見れば、日本人は皆教育レベルが高く、非常に均質である。勤勉さと高品質というのは国民性とまで称されている。よっぽど意識しないと(むしろ顧客を無視しないと)、「普通」を目指した商品・サービスが出来上がってしまう。最初から日本市場から無視したものやサービス作りに着手するのも一手だ。
  • 投資家:日本企業の株主は海外の株主と比べるとおとなしい。そのため、短期的なリターンを求めるようなイノベーション阻害は比較的少ないと思われる反面、成長性に対しての要求も厳しくない。つまり、本業が順調なうちに着手するイノベーションには水を差さないが、本業の成長が鈍化した時にもあまり成長を要求しない。富士フイルムも、デジカメ普及によってフィルム事業が危機的になる前から複写機等の新事業に取り組んでいる。
  • 経営者:生え抜き経営者が日本には多い。このように既存の論理で選ばれた経営者は新しい論理を創造することが得意だとは限らない。しかし、子会社として成功しているイノベーションが多いことを鑑みると、これらの新社長はきっと「異端」だったのではないかと想像がつく。「主流派」経営層は本業のポジションを占め、異端な経営層が新規事業を行うという選抜が行われるのは、イノベーションにとって都合がいい。もちろん、必要以上にこれらの子会社や異端リーダーたちの足を引っ張ってはならないことが条件になる。
  • 従業員:就職というより「就社」で選んだ企業に入った従業員は、組織の既存ルールや過去の価値観に従いやすい。目立たないとクビになってしまう外資と比べると、「普通」に目立たないサラリーマン戦略がもっとも合理的な働き方となる。いわゆる「空気を読む」のが王道である。「変わったこと」に取り組むように会社が仕向けたり、評価しなければ、安定した既存事業を無難にこなす能力だけが発揮されることになる。また、本業に偏った経験や知識を持っているため、違う業界へと進める際の能力が不足しがちだ。一方で、海外企業には珍しいジョブローテーションが行われているため、新しい事業に取り組むとなれば、多彩で多能工な人材がいるというメリットもある。

この分析を通じて、イノベーションのジレンマが日本企業にとって特に起きやすいことが、理解いただけたでしょうか。個人的にも、再確認するポイントがいくつもありました。
同時に、この確認作業を通じて、富士通や富士フイルムを筆頭に、企業内ベンチャーが成功する事例が日本に多いのも納得できました。いざジレンマを打開するとすると、追い風となることも沢山あります。

成り行きに任せると企業は高齢化しやすい環境かもしれません。同時に、高い若返り力も秘めているのです。その力を開花するためには、4つのポイントを意識してはどうでしょうか。

  •  本業以外の視点を持つ人材を入れる
  •  会社が順調なうちに始める
  •  異端リーダーの足を引っ張らない
  •  会社としてイノベーションを評価する

イノベーションのジレンマ 《要約》

Written by 津田 真吾 on 2013-04-19

「イノベーションのジレンマ」には「技術革新が巨大企業を滅ぼすとき」という副題がついています。
つまり、技術が大きく進展することで巨大企業の地位が危なくなるという現象を紐解いているわけです。しかし、大きな企業ほど技術革新に費やすことのできる資源も多く、大きな企業ほど安泰なはずなのに、なぜ危うい地位になっていくのでしょうか。クリステンセンはこのパラドックスを深く理解するためにいくつかの業界に注目します。
 

ハードディスクドライブや油圧掘削機の事例から、その理由を紐解く。

当初考えられていたのは、企業は成功し、巨大化すると怠けてしまうというありがちな論理です。しかし、この仮説は見事に裏切られてしまいます。実はこうして衰退するトップを走る企業はしっかりとした合理的な運営がされており、「正しい」ことを行っていたのです。しかし、ここからが「ジレンマ」たる所以なのですが、正しいことをきちんと行っていたからこそ、破壊的な技術革新の波を逃してしまうという共通した過去を持っていました。大企業は油断や怠慢といった精神論ではなく、合理的に破壊されてしまう性質を持つという発見は多くの企業人の注目の的になりました。超ベストセラーになり、度々引用されるのも、企業が持つ本質的なジレンマに触れているからではないでしょうか。
ではジレンマ脱却の答えを知りたくなりますが、そのためにはジレンマのメカニズムを理解しなくてはいけません。クリステンセンが説く5つの原則は以下の通りです。

原則1:企業は顧客と投資家に資源を依存している

要するに、お金を出してくれる人に企業の戦略は影響されるということです。なので、実績のある既存事業に偏ってしまうのは当たり前と言えます。お客さんと株主を無視できる会社は、ほとんどないですよね?

原則2:小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない

まだ可能性も小さく、成長過程にある市場を大企業は軽視します。1億円のマーケットがあれば、中小企業にとってはデカいが、大企業にとってみればゴミに映るのと同じです。自社にとって十分に大きいと思えるビジネスにしか企業は投資しないですよね?

原則3:存在しない市場は分析できない

文字通り。分析というのは過去のものしかできません。未来の市場は分析できないので、過去データがあるような古い事業に投資が偏ります。これまで毎年10億円あった市場と、もしかしたら20億円になるかもしれないが、今0円の市場は比べることができませんよね?しかも会社組織というのは分析が好きです。様々な観点で分析をして説明責任を果たす必要があるからです。

原則4:組織の能力は無能力の決定的要因になる

いわゆる成功体験。クルマをつくることが得意になればなるほど、機織り機をつくるのは苦手になります。部署単位でも例外的な仕事が来たら混乱するはずです。経理部門に人事研修を頼むと何が起きるでしょうか。つまり、どんな組織も能力は専門化されていく傾向にあり、新しいことに取り組みにくい体質になります。

原則5:技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない

イノジレ図

これが有名なイノジレ図です。もっと精度の高い腕時計を作ることができたとしても、皆が欲しがるとは思えないですよね?もっと極端に言えば、イグ・ノーベル賞のように、技術的にはスゴイが、そんな技術必要??というような技術も山ほどあります。性能はいつしか、顧客の要望を超えてしまう「オーバーシュート現象」が発生するまで進化します。

これらの原則を理解することで、ジレンマ脱却の道筋が見えてきます。
例えば、原則1を弱体化するために、イノベーション予算はまとめて確保したり、原則2や3を弱体化するために新規事業の開発プロセスに対して違う基準で規模を追求したり、原則5に対処するために顧客のジョブを軸に新規事業をスタートさせるなどです。


これらを会社経営に組み込むことが「イノベーションマネジメント」です。

「マネジメント」という言葉には、管理やコントロールという響きを持ってしまう印象があるかもしれません。しかし決して各プロジェクトを細かく管理することではありませんので注意が必要です。前述したように「合理的」に進めることでイノベーションが阻まれるわけですから、そのような一見合理的な仕組みを解除していくことが大事になるのです。

ドラッカーとクリステンセンの共通点 《顧客の創造》

Written by 津田 真吾 on 2013-04-17

昨日に引き続き、Innosightワークショップに関連して書きます。

クリステンセンが命名した「破壊的イノベーション」というのはドラッカーが定義した企業の目的と非常に深い関係があります。
ドラッカーは企業の目的は「顧客の創造」しかない、と断言しました。
このことをつい、私たちは忘れてしまいます。なぜなら、一般の企業活動は「顧客の維持」に向けられていることが多いからです。それは、既存顧客に対する営業が新規顧客に対する営業と比べるとはるかにコストが掛からないためであり、顧客を創造しなければ、維持する顧客がいないことを忘れてしまうからでもあります。

既存の顧客の中でも要求が厳しい顧客を維持するために、オーバースペックな製品やサービスになってしまう場合、破壊的イノベーションが生じると、クリステンセンは説いています。要求がさほど厳しくない新しい顧客が、スペックでは劣るが十分な機能の製品に出会うと、一気にこの安い製品が普及します。

映画製作用ビデオカメラが家庭用ビデオカメラに駆逐される経緯を例に考えてみます。従来のスペックとして劣るビデオカメラであっても、顧客を創造することができる様子を簡単に示しました。

ino1.GIF
スライド2.GIF



この経緯をグラフにすると、有名なイノジレのグラフになります。

イノジレのインパクト

Written by 津田 真吾 on 2013-04-16

lnnosightのワークショツプを開催する前に「イノベーションのジレンマ」(長いのでイノジレと呼んでいます)について復習しておきたいと思います。

内容に入る前に、まずAMAZONの書評が強烈ですので、簡単に紹介させてください。5点満点中、平均評価は4.6、111件中89件が星5つという評価になっています(2013年4月15日現在)。そもそもこの様なビジネス書に111件ものレビューが存在すること事体が驚異的です。これらの投稿者からは、皆にも本を読んでもらい、警鐘を鳴らしたいという気持ちが伝わってきます。徹底的に正しいと言われ続けた習慣つまり、顧客の声をしっかり聞いて対応する優秀な企業ほど、ヤバイと言っているのですから。
レビューの内容も「ビジネスマン必読書」と薦めているものが多く、今の日本経済の低迷を表いているという意見も見受けられます。

このジレンマから脱却したいというのが私たち共通の願いなのではないでしょうか。願いをかなえるためのヒントをクリステンセンは伝えてくれています。イノベーションのジレンマは驕りからだけではなく優秀な企業もヤバイという事実。つまり、優秀に合理的な判断をしているだけでは成功は一時的な現象で終ってしまうという事、謙虚でい続けるといった精神論だけではなく、一見正しいことが危険だという事です。
ちょうど今、日本のエレクトロニクス産業はその結果を体験しています。何とかしたいものですね。

次回はもう少し本の内容に触れます。