3週間前にコラムをアップした時には、まだまだ残暑厳しいという感じだったが、


3週間前にコラムをアップした時には、まだまだ残暑厳しいという感じだったが、
既存事業、特に大企業では仕事の枠組みやプロセスは整っています。ある意味で完成形を示していると言っても良いでしょう。一般的に起きるような多く業務については、あまり非効率を感じることなくこなすことができるのではないでしょうか。もちろん、まだ成長過程にある中小企業においては十分に仕組みづくりができていないところも多いと思います。ところが、大企業では、通常のビジネスを回すための役割分担やルールは整備されており、各マネージャーはルールや前例に従って効率的に意思決定することができるようになっています。
ところが、このような大企業であればあるほど、会社の仕組みについて尋ねると、「部分最適」だと口々に言います。部分的に「最適」であるということはどういうことでしょう?
「最適」と自称できるほどの完成度にありながら、なぜ「部分最適」という言葉には不満の響きを感じるのでしょうか。実は、言っている本人も「最適」という最高の褒め言葉と自身の不満が同居していることに気づいていないことが多いのです。この点について考察してみます。なぜなら、この点がイノベーションとオペレーション(運営)あるいはオプティマイザーション(最適化)との最大の違いだからだ。
これらの部長さん方が「部分最適」という言葉を発する時の状況を注意深く観察すると、ちょっとしたイレギュラーなことをやろうとしている時であることに気づきます。例えば、少し背伸びをした開発、あるいは顧客との深い関係づくりをしようとすると、会社の仕組みが邪魔になってきます。これは、現状の業務をこなすことに特化した組織ができあがっていることの証です。なので、最近起きているような環境変化に対応しようとすると、足かせになり、部長さんも不満を感じることになります。
次のような事例は皆さんの会社にも少なからずあるのではないでしょうか。
“最近の引き合いトレンドは、技術提案を求められる”
“技術的に突っ込んだ商談が増えている”
“設計を始める前にマーケティング戦略を立てないと失敗する”
“既存の枠を超えたコストダウンが求められている”
「最適化」というのは、ある一定の条件が与えられたとき、結果を最大化することである。
例えば、特定の市場における特定製品の価格設定などは正解が求まるような格好の最適化問題である。
最適値からずれた価格設定をすると「損失」が発生し、効率が失われる。
ところが、その一定の条件が変わると、結果が最大となる条件は異なる。
例えば、同じ製品を新興国に持ち込んだ場合に、最適価格が異なることは容易に想像がつくことと思います。
さて、先ほどのよくある事例というのは、一般に仕組みの範囲外で活動することで改善することができます。
“最近の引き合いトレンドは、技術提案を求められる” → 営業・技術間
“技術的に突っ込んだ商談が増えている” → 営業・技術間
“設計を始める前にマーケティング戦略を立てないと失敗する” → 企画・開発間
“研究テーマにビジネス視点が求められる” → 研究所・事業部間
“既存の枠を超えたコストダウンが求められている” → 設計・製造間
これらの例の様に、既存の枠組みを超えた課題解決をするということは、最初に与えられた問題を変えて取り組むということになる。
そもそもグラフの形が見えないので、最適値は把握できず、効率を図ることができなくなります。また、新たな変数が加わっています。当初最適化した数式すら変わったと認識すべきなのです。新たな変数が加わったことによる影響は、新たに学習する必要があります。曲線の形を知ってこそ、次の「最適化」を行うことができると認識しましょう。部門間連携と新規事業開発は程度の差はありますが、この点で同じです。どんな仕組みであれ、それはある特定の状況を効率よくこなすための手段でしかありません。
緩やかな業務変革であろうと、新規性の高い事業開発であろうと、もし既存の組織が個別最適化されていて不都合だと感じたならば、以下の点を心得ておくとよいのではないでしょうか。
10/8の夜。山中先生のノーベル賞受賞の記事を目にした瞬間、驚きと共に当事者でもあるかのような感動が沸き上がり、じんわり目頭が熱くなった。この感動の理由は、INDEE Japan設立に対する自分の思いを強くした約1年半前の出会いに遡る。
“医療テクノロジー”との出会い。
自分が就職を考える時には全く考えてもみなかった分野。
私は両親(DNA?!)のおかげで病院に縁が全く無い生活を送り、身近にも難病で苦しむ親族もいない。親族の中にも影響を受けるような臨床医や研究医もいない。そう考えると自分の人生において、医療という世界は最も遠い領域だったのかもしれない。
高度成長期の中、スーパーカーや宇宙開発に憧れて育ち、大学では人力飛行機開発に夢中になった。就職と同時にレーシングカーの開発に携わり、憧れの世界の内側で仕事をすることができた。縁あって日本のお家芸といわれた半導体製造装置ベンチャーの創業期からビジネススタートアップの経験することもできた。その後、ものづくり日本の復活?!という青臭いビジョンを描き、研究開発のコンサルティングに踏み入れ、数多くのトップメーカーの光と闇を見ることができた。この経験は、自分の中の事業と研究開発という断片的なパズルのピースをつなげることができた。自分の経験はすべて”ものづくり・ビジネス”という世界の深い理解に繋がっている。
どれの経験も心からワクワクできたし、寝る間も惜しんで取り組むほど楽しかった。何一つとして遠回りした印象は全くない。でも何か足らない気がしていた。贅沢な悩みかもしれないけど。まだ見ぬ自分の知らない世界を探していた。
ある日、当時のクライアントのご縁から幹細胞という世界に出会った。製品開発としては、いろいろな分野を見てきたが、医療、バイオはある意味初めて。しかし、そこには多くのエンジニアが次なる目標を見いだせないでいる他の日本メーカーの現状からは考えられないほど、未解決の課題が無尽蔵に眠っていた。いわゆるどこに向かう?何を研究開発する?やりがいは何?という議論が不必要なほどそこは課題が山積みではないか?!という純粋な驚きである。
そして先端研究をしているアカデミアという世界には、あたかも研究テーマが自分自身の人生のミッションのように必死で取り組んでいる研究者が沢山いる。「アカデミアってこんなに魅力的な世界だっけ?」とこれまでの自分の知る世界の情報の偏りを実感した。
こんな事を言うと怒られるかもしれないが、私が学生時代感じた大学に対する焦燥感は、理工学単独で課題解決できる世界の多くはやりつくされ、実用化、産業化としては疑問を感じる研究ばかりがなされていると感じる現実。この環境の中で、若手がモチベーションを維持していくのは難しい。一方、医学、薬学、生化学などの世界では数年先の実用化が期待できるような未知のテーマがごろごろ転がっている。まさに産業化との距離が非常に近い完成度の研究が行われている。
素人だからこその勘違いかもしれないがその可能性の大きさにワクワクした。
医工連携という言葉は業界の方々にとってはすでに使い古されているかもしれないが、産学連携と同様にコンセプトとしては長い一方、結果はまだまだ出ていないと感じている。まさにメカトロニクスのバックグラウンドを持つ日本の多くのエンジニアが、医学や生化学という知識との融合によるソリューションを考えることで、やりがいを実感を世界が描けるという可能性を確信した。
しかし、いくらアカデミアの研究成果が産業に近いとはいえ、そこは千に三つと揶揄される世界。事業化のハードルは限りなく高く、そして時間と資金を要する。そして大企業からの優秀な人材の流動性の低かった日本においては、こうした事業のスタートアップ経験者は極めてまれである。この領域のプロのニーズは今後確実に増えるはず。この仮説をメンバーで共有することでINDEE Japanはスタートした。
山中先生のノーベル賞受賞は、再生医療領域はもちろんのこと未来に夢を馳せている研究者に多くの勇気と自信を与えてくれたことは間違いない。そして、世界中の注目を浴びることで、研究予算、規制の見直しによる技術の進歩に拍車が掛かるとは間違いない。
そして、今そうした変化、進化していく医療テクノロジーの波の中に自分達が飛び込んだ事への追い風とその先に立ちはだかる様々な困難へのやりがいを実感している。
現状の研究開発に悶々としている研究者、技術者のみなさん!チャレンジできる課題はまだまだありますよ。世の中の変化を受け入れる努力を惜しまないかどうか?ではないでしょうか。
イノベーションとオペレーション
新しいアイデアが普及する過程はSカーブを描きます。
Sの形を右上に登るにつれて、ユーザーの性格が変わることはご理解いただけたのではないかと思います。
(まだ完全に理解されていない方はスーパーカー消しゴムに見る普及プロセス、Sカーブから自分自身のポジションを知る、Tech-On! ものづくりと普及率の深い関係 を参照してみてください)
このユーザーの変化に伴って、製品やサービスに求められることも異なります。こちらの記事では製品の黎明期と成熟期は2つの異なるパラダイムであることを述べました。
同じように、スタートアップと成熟した事業を持つ大企業とではほとんどのすべての点で異なります。
(企業内ベンチャーや新規事業部などは、ルール以外はスタートアップに近いと思います)
スタートアップ | 大企業 | |
資金 | 限られている | 多い |
人材 | 限られている | 多い |
設備 | 非常に限られている | 整っている |
業務プロセス | トライアンドエラー | 定まっている |
組織体制 | 属人的 | 体系化されている |
社内ルール | ない | 整理されている |
意思決定 | アドホック | 組織的・体系的 |
この表に示した違いを生んでいる要因を理解することで、新規事業が失敗する多くの理由が説明できます。そのために、表の左から右、つまりスタートアップが成長して大企業なる過程を考えてみよう。
例えば、介護用ロボットのベンチャーを立ち上げたとする。すると、最初は開発するにも、前例や基準がなく試作品を作っては試し、そして直すということの繰り返しになる。製品が「正常に」動くかどうかの基準すらない。既に普及している産業用のロボットであれば、どのくらいの負荷に耐え、何年間使用されるのか、どのような環境で使われるのか、想定がある程度できる。それはスペックという名の指標が開発者に分かりやすく定義されるためである。ユーザー側が学習するという側面もあり、作り手、売り手、買い手、使い手が前提とする一定の基準は徐々に定まっていく。うまくいったパターンを組織は学習していくと言い換えることができる。
このパターンには「開発」や「営業」といった役割分担も含まれる。その役割分担が機能するための社内ルールが整っていく。
スタートアップ時には、その都度都度で何を開発し、何を売るかといった意思決定はされる。しかし、成功体験や失敗体験が経験値としてたまってくると、判断を間違わないような意思決定の仕組みができたり、暗黙のコンセンサスを求めるようになる。
事業がうまく回りはじめて会社が大きくなりだすと、最初からのメンバーの多くは「昔は何でもすばやくできていたことが、いろんな人のお伺いを立てないとできなくなった」と嘆くのは上記の過程があるためである。
大企業の論理をスタートアップにあてはめてしまう
他方で、大企業の考え方そのままでスタートアップをやると、致命的な問題が起きる。資金、人材、プロセス、ルールなど内々尽くしのスタートアップ。経験上、このような環境に放り込まれると、3つの反応がある。
もちろんスタートアップにおける正解は3なのであるが、他の選択肢を選んでしまっている例を実に多く見かける。この違いがイノベーションとオペレーションなのである。
1は正解至上主義とでも言えるだろうか。正解への道筋がないと、思考停止、いや行動停止してしまうパターンである。すでに確立されたビジネスであれば定石は多く、正解と言えるような道筋に従っていれば失敗しない可能性は高い。これはある程度確立された事業を失敗しないように運営(オペレーション)する極意である。しかし、新しいことに取り組んでいる以上、正解かどうかはやってみた結果からしか言えないということを心掛ける必要がある。
2は巻き込まれる人も多いので、スタートアップでやってしまうと弊害が大きい。仮に仕組みを作ったとしても、試してみないからには仕組みが機能するかどうかわからないからだ。ビジネスが回り、一定のパターンが見えないと、仕組みは描くことはできないのだ。「想定外」の原発事故を除くと、日本の自然災害に対する備えが海外から高く評価されている背景には、災害の多い日本列島に長年住んできた歴史がある。それに、大企業にはふんだんにリソースがある。情報もある。そのため、打てる戦略のオプションが多い。長年そのような環境で仕事をしていると、オプションの中から「最適」なものを選ぶような思考回路が強化される。経営戦略の書籍を読むと「最適化 (optimization)」というキーワードが連発されている。これらの書籍を読むと、最適化の対義語としてイノベーションが挙げられていることが多い。イノベーションの時期では選択肢の中から選ぶような余裕はなく、選択肢そのものを創造しなくてはいけない。これがオペレーションとの違いになる。オペレーションで新たなオプションを作ってしまうと混乱する。
3のように動き回っているうちにパターンは見えてくるものだ。もちろん人によって間違いから学ぶ速度には差があるかもしれない。誰かが勝ちパターンを見つけない限りは、「良い方法」など見つかるわけがない。そのパターンを見つけるためには、トライアンドエラーが必然になる。失敗は辛く、いつ正解にたどり着けるのか、果てしなく感じるかもしれない。しかし、チーム全体が学習することを前提に活動することによって発揮できる能力は計り知れない。