盛田昭夫さんの秘蔵動画を見て感じた3つのこと

Written by 津田 真吾 on 2019-07-10

先日タイムラインにソニー創業者の盛田昭夫氏が、携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」について語る秘蔵映像が流れてきました。なぜ今頃発掘されたのか疑問を持ちつつ見てみると、これはすごい!動画はNHKのこちらのサイトから見れるので、ぜひ見て頂きたいと思います。

イノベーションに取り組む皆さんにも、いくつか気づきがある言葉があると思いますが、私が感じたことを3つ挙げてみます。

1 話がゆっくり

世代を追うごとに、早口になっていると言われてますが、Youtube で見る他の動画と比べると非常にゆっくり話しているように感じます。Youtube で育った若者はかったるく感じるほどではないでしょうか?非常に象徴的ではありますが、昭和では当たり前のスピードだったのが、違和感を感じるほどに時代は高速化しているんですね。

2 やってみて、直す。

Walkmanの名前について、ソニーでは何度もやり直しています。ともすれば、失敗なものをゴリ押ししたり、失敗がなかったこととしてウヤムヤにしてしまいますが、トップ自らが意見を途中で変えて修正を重ねています。リーンスタートアップという外来語に頼ることなく試行錯誤という基本形はカッコいいものです。

3 トップが若者のジョブに詳しい

盛田さんが自ら、若者を観察し、「音楽をいつでもどこでも聞きたい」と共感し、大きなラジカセを肩に担いでいる状態を「代替解決策」として、よっぽど音楽が聴きたいんだ、と捉えています。これはまさに若者のジョブを整理して、大事な課題として設定することを盛田さん自身がやっています。若者のことは若者が理解せよ、という風潮も強いですが、感覚的に分かるだけでは不十分で、トップが理解しないと本当のビジネスとして投資できません。そこもやり方考えた方がいいですね。

「ラジカセ 肩に担ぐ」の画像検索結果

人間の寿命が延び、ビジネスの寿命が縮む

Written by 津田 真吾 on 2019-06-27

人間の寿命が延びている。

私が就職した90年代の男性の平均寿命は76年生きていた。私が生まれた60年代はたった65年。それが今は23%も伸び、ほぼ80年となった。20で成人し、勤めるとして33%も長く生きることになる。

逆に、企業の寿命は縮んでいる。Innosightが発表したこちらのデータによると、60年代に30年間、世界トップ企業にランクインできていた企業は半分の約15年で退出させられている。

人の寿命が延び、企業の寿命が短くなると何が問題なのか?

所属している組織が、キャリアの途中で衰退し後輩が全然入らない。
就職したときに活況だった業界が、斜陽産業になる。
憧れの職業の待遇が悪くなる。

ここ数年の変化を感じることは難しいけれど、20年前ほど遡ると違いは歴然としている。当時日本が世界中から求められたエレクトロニクスや、精密部品の需要は軒並み低下し、工場もずいぶんと減った。立場上、組織の衰退を「ビジネス上の失敗」としてとらえるケースも多いが、私たち個人の生き方にも大きな影響があると言わざるを得ない。なぜなら、職業や所属する組織は私たちのアイデンティティーの重要な部分を占めているからだ。「インディージャパンの津田です。」「エンジニアです。」「研究者です。」「営業やってます。」「個人事業主として、デザインをやっています。」などなど、私たちは自分を説明するための「職業」や「所属」が必要だったりする。必要、というのは生物として生きるためというよりも、社会的に生きるために必要にという意味で。

アドラー心理学で有名な岸見一郎さんは、「仕事とは人の役に立ったと感じる時に訪れる」と言う。仕事を通じて、同僚や顧客、会社に貢献できた、と感じることが大事だというのは、私自身、日々実感する。その貢献していたはずの会社が傾いたら?役に立っていると思っていたのに、そうでもないということに気づいたら?ずっと続けてきた職業の需要がなくなってきたと感じたら?所属して頑張ってきた組織がなくなってしまったら?

短命化しているのは組織ではない

ここまで書いておきながら実は、短命化しているのは企業ではないことに注意したい。実際に、バブル崩壊を経ても多くの金融機関は(合併は著しいが)生き延びている。私がかつて所属していたIBMは3分の1ほどに縮小したものの、存命している。一方でスタートアップの大半は数年で消滅する。なので、大企業はスタートアップと比べて「安定している」というのは真理と言わざるを得ない。

しかし、IBMの例のように、その看板の下で働く人たちは減っている。勤めている人たちもずいぶん入れ替わっている。一方の株価は安定はしていることを考えると、安定しているのは株主なのかもしれない。では、何が短命化しているかというと、「ビジネスモデル」である。稼ぎ方が変わってきているのだ。

ハードウェア販売中心のビジネスモデルからソフトウェア販売、さらにはビジネスサービス、ついにはビジネスサービスを自動化したSAASサービスへと転換したとする。会社は残ったとしても、ハードウェアの技術職の必要性は減り、つぎにセールスマンの必要性は減り、と職種に対する需要は大きく変動する。価値の源泉がシフトすれば、企業はビジネスモデルをシフトさせることになる。必要とされるスキルもシフトしていく。

スキルをシフトするスキル

ビジネスモデルが短命化すると、このシフトが発生する回数が増える。寿命も延びているので、会社を転職する「転社」も増えるが、同じ会社内で求められる業務が変わる「転職」ももちろん増える。

そうなってくると、ある特定のスキルを身につけるというよりも、「スキルを身につけるスキル」みたいなものが必要になってくる。 急な変化のただ中にいて、混乱を目の当たりにすると、私たちは何か強い北極星となるような「答え」を求めてしまう。だが、過去に成功した「答え」であるビジネスモデルはすでに古びてしまっている可能性も高くやっかいだ。なにせ、終身雇用が崩れた今、会社勤めしていたとしても、労働の対価として給料をもらっている「事業」だからだ。

実はこのように、会社員も、まるで個人事業主として「会社に雇われている」という見方が大事だ。そして、「ジョブ理論」が身近にならないだろうか?ジョブ理論以外にも、イノベーションの文脈で語られるリーンスタートアップ、デザイン思考、ビジネスモデルキャンバスは会社レベルだけでなく、スキルをシフトしていくときにとても役立つ。

  • 会社に雇われているのはなぜか? (ジョブ)
  • 転職できるとしたら、どんな価値を提供することができるだろうか? (ジョブ、ビジネスモデルキャンバス)
  • 身につけたいスキルを(転職や学校に行き直さずに)使った最小限の仕事はないだろうか? (MVP)
  • 独立する前に副業で試せないだろうか?(リーンスタートアップ、デザイン思考)
  • 転職に成功したとしたら、どのようなリソースやパートナーが増えるだろうか?(ビジネスモデルキャンバス)
  • 転職に失敗したとしたら、どのようなピボットが考えられるだろうか?(リーンスタートアップ)

これらの問いを考えることは、最新のツールを使ってみたり、スタートアップ風のオフィスに模様替えしたりするよりもきっと多くの気づきがあると思う。こういう取り組みもやっているので、スキルをシフトするスキルにご興味のある方は覗いてみてはどうでしょう?

違うんじゃない。解像度が高いんだ。

Written by 津田 真吾 on 2019-06-10

ジョブ理論を話をしていると、最もよく聞かれるのが「ニーズ」「ジョブ」の違いについてです。次によく聞かれるのが、「インサイト」「ジョブ」の違い。

この手の質問に答えるのは、正直言うと、とっても難しくて困るんですが、何が難しいのかというと、「ニーズ」や「インサイト」というのはあまり定義されずに使用されているからです。

あまり定義されていないということは、その概念は“ぼんやりしている”ということです。例えば、「ニーズ」という言葉は「ウォンツ」という言葉と対比して使用されることがある場合には、ただ単に“Want”として欲しいのではなく、“Need”として必要としている風に多少定義がくっきりするかもしれません。ですが一般的に、「ニーズ」とは「顧客が望むコト」「顧客が欲しいモノ」と広がりのある意味を持っているようです。このように広がりを持っている言葉であるため、現象として表れている「顧客が商品に対して向ける関心や行為」を指して「ニーズ」と呼んでいるのが現状です(その辺はこちらに書いています)。「潜在的ニーズ」という文脈であったり、望んでいる状態を指して「ジョブ」を指すケースもあるのでベン図に描くとこんな感じでしょうか?

同様に、「インサイト」とジョブの関係を整理すると、下図のようになるかと思います。インサイトというのは、「顧客に対する深い洞察」を指します。簡単には手に入らない情報のことですね。これもたくさんあります。

量が質を担保する時代は終わった

多くの人にとって、こんなに厳密に「ニーズ」とか「インサイト」を定義することは大事ではないかもしれません。しかし、これから売れるものを作ろう、成功する事業を立ち上げよう、という場面においては命取りになりかねません。ぼんやりとした状態で「ニーズ」や「インサイト」を見ていると、情報の量に圧倒されてしまいます。顧客はAも欲しい、Bも欲しい、Cがやりたいと言っている・・・と、莫大な情報の量にうずもれてしまうでしょう。

人間はコンピュータと違い、多くの情報を同時に扱うことはできません。一度に処理しきれない情報を前にすると、多くの人は:

  • 思考停止
  • 見たいものだけを見る

という行動を取ってしまいます。どっちも冷静な人ならやらないことですね。ですが、解像度高く情報を取捨選択していると、きちんと処理できるようになります。究極のところ、お客様はどんな状況からどんな進歩をしたいと思っているのか?さえ知っていれば、お客様の身長や性格、家族構成などの情報は不要なのです。

「足りない」と感じるとき、もしかしたら解像度が足りないのかもしれません。

新しいプロダクトが世の中で受ける4つの力

Written by 津田 真吾 on 2019-05-07

色々なスタートアップをやっていると、「ハック」することが頻繁に求められます。実際に、成長速度の速いスタートアップほど、自社としても新たな解決策としての新サービスや新製品を導入している傾向は顕著です。スタートアップは、スタートアップのサービスによってさらに加速しているのです。

ハックする、ということは、目の前の課題解決のために新たな解決策を取り入れることです。ジョブ理論的に言い換えると、「ジョブを片づけるために解決策を雇う」ということになります。

自らが新たな解決策を試してみる際に、どのような選択肢からどのように選んだのかを4つの力で分析してみてはいかがでしょうか?顧客の立場で、進歩に役立つサービスや製品を開発する上でもわかりやすい分析法です。クリステンセン最新刊“Prosperity Paradox”にもこの考え方は掲載されています。

(1)まず、顧客が成し遂げたいジョブを挙げます。図の例では、井戸のない村に住むアフリカの住民が「いつでも水が飲みたい」というジョブです。
(2)次に、「2時間かけて自ら水を汲む」という現状の解決策を記載します。ジョブに対して、「現状の解決策」が挙げられない場合は、ジョブを見直した方がよいでしょう。
(3)提供したい解決策を書きます。ここでは「井戸」ということになります。
(4)1つ目の力、「現状の不満」を書き出してみましょう。例えば、往復4時間もの時間を費やしてしまうことだとか、限られた量しか汲めないこととか、重く苦しい道のりを行き来しないといけないことが不満点として挙げられます。
(5)2つ目の力、「既存習慣」の強さを見ます。例えば、水汲みが生活に組み込まれていて、道のりの途中で他の用事も済ませているとしたら井戸を使うことへの抵抗になります。
(6)3つ目の力である「解決策の魅力」を挙げましょう。もちろん、「歩かずに水が得られること」と「大量に水が得られること」になります。
(7)4つ目の力を挙げる前に、この魅力的な提案である井戸をユーザが使ううえで障害になり得る点を挙げます。能力的な面として「掘る技術が難しい」、金銭的に「お金がない」、時間的に「掘るまでに何カ月もかかる」、アクセスとして「井戸を見たことがない」という4種類の障害すべてが存在していることがわかります。
(8)4つ目の力である「解決策への不安」を最後に記入します。井戸を取り入れる上で、ユーザが不安に感じることを挙げます。「壊れたらどうしよう?」という不安は持ちそうです。

解決策への魅力が、障害を乗り越えるほどのものなのか?そもそも、現状に相当な不満があり、変化を求めようとしているのか?などを総合的に比べてみましょう。冷静に分析できれば、きっと新たな解決策の問題点や、ユーザが不安に感じる点が明らかになるはずです。問題点が多すぎてもがっかりしないでください。往々にして、解決策が複雑すぎることが根本的な問題であることが多いからです。 経験則として 、ジョブに即した機能以外はマイナスし、現状の障害を取り除き、不安解消のサービスをプラスする、というのが一般的なスタートアップや新規事業の処方箋になります。なぜなら、ジョブを絞り込めないまま開発を進めてしまい、複数のジョブを同時に解決しようとするからです。ユーザのジョブに照らし合わせて、4つの力を整理してみてはいかがでしょうか?

AIを使いこなそうとすると失敗する

Written by 津田 真吾 on 2019-04-01

人間というのは、手に道具を持つと使いたくなる動物のようだ。


「トンカチを持つとすべてがクギに見えてくる」とはうまく言ったもので、マッチを持つと、寒いわけでもなく、調理がしたいわけでもないのにもかかわらずシュッ、とすりたくなる。

ライターを手に持つとカチカチやってしまう。
私も、初めて携帯電話を買ったときは普段話をあまりしないような人にも電話をかけたくならなった記憶がある。

そういえば、昔プレゼンのセミナーを受講したときに、指し棒は使うべきではないとその講師には教わった。それは、指すべき図がなくても振り回したり指で遊んでしまうからだそうだ。聞いてもらいたいのは話の筋だ、覚えてもらいたいのは話し手のメッセージだ。ずいぶん納得した記憶がある。


今はAIの時代。どこの企業もこぞってAIを使うのだ、と横並びに経営戦略に書かれている。横並びであること自体が悪いのではない。むしろ必然だ。これまで多いの技術導入を先送りにしてきた結果、このタイミングで何を導入するかといえば、AI以外にはないだろう。
ただ、思い出したいのは、ITの導入も消極的、クラウド導入も慎重、ダイバーシティや裁量労働などの人事政策も慎重に導入してきた過去だ。同じアプローチでは導入は先送りにされ、今回は2週遅れにもなるくらいの差がグローバルに隆盛している企業とついてしまう。
ここで、「同じアプローチ」と呼ぶのは以下のような進め方を指す。

  1. 研究室、なる組織を作り他社事例を学び、学んだことを社内プレゼンし、事業部に昇格させることを目指す。
  2. スタートアップには技術があるのではないかと探し回った挙句に、「ウチには使いこなせない」と諦める。
  3. 使い方を易しく解説してくれるITコンサル会社に多額な開発費を払い、AIっぽいが業務は何も変わらないものができる。

それぞれのステップにおける問題点は明確だ。まず、不確実性の高い新領域は網羅的に研究することは出来ない。つまり、社内コンセンサスを取ろうとすると必ずアラが見つかり、反対する人が現れるということだ。全員が賛成するようなアイデアはもう古い、と言われるように新しいアイデアこそ相談や合意を最小限にしてやってみることが大事になる。リーンスタートアップが重宝されているのは、予算をかけずにやってみることが出来るからだ。そんな手法なんか知らずとも、まずはやってみなはれ、である。

「使いこなそう」という願望が叶わないのには2つの原因がある。一つには、使う強い動機が弱いからだ。スタートアップはAIを開発する側でもあると同時に、ヘビーユーザーでもある。リソースもあまりなく、合理的にスピーディーに事業を進めざるを得ないスタートアップには、猫の手も借りたい。スマートな猫なら最高だ。成長するスタートアップはどんどん積極的に新しいサービスを使いながら、自社の事業に役立てている。
「使いこなす」ことができないもう一つの理由は、「遊び」がないからだ。目的がなくても、持っていれば「遊んでしまう」のが人の常。スマートフォンも遊んでいるうちに、「使いこなした」状態になっていったという経験をお持ちの方も多いと思う。パソコンも業務以外に使っているうちに使えるようになった側面は否めないはずだ。最強のプログラマーは、遊びが転じてプログラムを書き始めた人たちなのである。気持ちの持ちようも含めて「遊び」は不可欠だ。

調査をして、使いこなせないことがわかると、わかりやすい説明に飛びつきたくなる。そうなると、まあ高い買い物になるわけなので、そのあたりは説明を割愛しようと思うが、まじめに遊びもなく、みんなの合意を目指した結果のAIがつまらなくなるのは必然。新しい道具は、まずは一部の人で遊んでみて、結果が見えるようになってからまじめに取り組んでみてはいかがでしょうか?