なぜハードウェアスタートアップは“ハード”なのか?

Written by 津田 真吾 on 2018-07-17

さまざまなスタートアップが存在してしかるべきなのですが、なぜかITスタートアップの方が「成功しそう」だという世間の評判があるようです。
ハードウェア系のスタートアップは文字通り「ハード」だという評価は軒並み共有されているので、特に反論はしませんが、なぜそういう評価なのか?そしてどうやったら「よりイージー」になるのか?考えてみたいと思います。
ちなみに知らない人もいるかもしれませんので、ハードウェア(Hardware) という言葉は難しいということではなく「硬い」、つまり変更が効かないということから生じた単語です。ソフトウェアは柔らかく変えやすいという意味になります。ハードウェアの制御ソフトウェアなど、その中間に位置するものを「ファームウェア」(firmware=しっかりとしていて変えにくいが変えられる)と呼ぶこともあります。
 
表面的な理由
ハードウェア開発を前提とするスタートアップが難しいとされる第一の原因は、資金調達が難しいからです。ハードウェアはソフトウェアよりも開発に時間もお金も掛かります。したがって、投資家にとって大きなコミットをしなくてはいけない案件になってしまいます。仮に大きなファンドを持つ投資家がいたとしても、数多く存在する他のIT/ソフトウェア系スタートアップに投資を分散させた方がポートフォリオが健全化します。少額しか投資できない投資家にとっても、他の投資家も投資してくれなければ開発が途中でストップしてしまう大きなリスクを抱えることになります。アーリーから投資するVCはリスクに対して極めて寛容であるにも関わらず、ハードウェアへの投資に距離を置く方も多いです。
その結果、ハードウェアスタートアップに投資するVCはIT系と比べると極端に少ないのが現状と言わざるを得ません。
 
なぜなのか?その1
では、なぜVCがハードウェアを避けるのかを観察してみました。すると、2つの理由がありそうです。
1つは、「技術がわからないから」というものです。確かに、ハードウェアスタートアップを始める起業家は技術的な特徴を軸にしているケースが多いです。そうした起業家に出資を検討するVC側はどうでしょう。一般に思われているように、多くのVCは「技術」の目利きをしているわけではありません。ベンチャーキャピタルは投資業ですので、投資に対するリターンの目利きをしているのです。そのため、テクノロジー企業に投資を行うVCは技術を一定レベルで理解できているものの、コードを書ける人は稀です。ただ、投資検討の対象となるIT系スタートアップの数が多いため、起業家と投資家のコミュニケーションに一定のパターンが出来上がっていて、こうしたスタートアップに対するVC側の理解力は優れています。つまり、共通言語も多く、成功事例も多いため、「わかりあえる」状態になりやすいということです。逆に、ハードウェア起業家が投資家と「わかりあえる」と思える経験が少ないと感じている状況は数多く見かけます。その結果、起業家は「わかってもらえない」と自信を失い、VC側もハードウェア系は「わかりにくい」と判断してしまいます。ハード系のスタートアップが支援者を得るには、コミュニケーションが大切なファクターになっているように見受けられます。
2つ目が、ハードは「成功しにくいから」というものです。「ハードである」ということを繰り返しているにすぎませんし、成功しにくいから投資をしないというは「予言の自己成就」のような状況ですね。これを乗り越えるためには「成功しそう!!」だということを感じてもらうしかありません。
 
なぜなのか?その2
上に挙げた2つの理由は、投資をする側の「評価」の問題です。したがって、仮にVCときちんとコミュニケーションを取って、信じてもらい、出資を得られたとしても、「ハードである」という評価に至るロジックを理解しておかないと、本当に成功することはできません。
それでは、ハードウェアを含むサービスを作ることがIT/ソフトウェア系サービスとと比べて大変なことを挙げてみたいと思います。

  • 物理法則に支配されている
    例えば、温度センサー一つとっても、質量を持ち、比熱があり、熱容量があるので、計測データにラグが発生します。ユーザーが落とせば壊れ、輸送中に破損したり、生産中にとんでもないミスが発生することもあり得ます。電子レンジの近くで変な動作をしてしまうのも物理法則であって、ビジネスのロジックではありません。ハードウェア開発をしていて、一番難しさを感じるのはこういう物理法則的な壁にぶち当たったときです。
    しかし反論すれば、どんなITサービスもハードウェアを必要としていて、物理法則を免れません。言い換えると、スマホやサーバーの所為にすることはできたとしても、無茶な運用を強いるようなITサービスは高くついたりUXが悪くなるので、お客さんは離れてしまいます。
  • ものづくりに時間がかかる
    一概に言えないかもしれませんが、時間が掛かるケースが多いです。プロトタイプまでは早くできても、量産金型を作ったり、数に対応するには時間がかかりますね。ソフトウェアであっても、AI系のサービスは本格的に開発しようとすれば結構時間が掛かりますし、人気のあるサービスを運用するならプロトタイプよりも堅牢な作り込みに時間が掛かるので、程度の差こそあれ、量産化に向けた時間はどちらもあるのではないでしょうか。
  • いずれ製造コストの安い競合に市場を奪われる
    これまでの日本のエレクトロニクスはそうでした。類似機能を持つパクリ製品が出回り、価格競争を強いられたり、価格を維持したままだと市場を奪われたりということが起きてきました。しかし、これはハードウェアに特異な問題ではないと思います。毎月リリースされるアプリの数を見ていると、類似品ばかりですし、顧客にお金を払ってダウンロードしてもらっているものも散見されます。問題はいかに顧客にとって必需品となっているかであり、それがハードウェアなのかソフトウェアなのかサービスなのか、ではありません。
  • スケールするための投資が必要
    ソフトウェアの最大の特長は「再生産に(ほとんど)コストがかからない」ことです。1人にアプリを配るのと、1万人にアプリを配るのと、文字通りコピペ同様の作業で済みます。しかし、ハードの場合は1人にデバイスを配るのと、1万人に配るのとではまったく世界が違います。もちろんそれだけの部材を手配しなくてはなりませんし、生産するための要員や生産設備を用意しなくてはなりません。ファブレスといくら言っても、工場を探し、図面のやりとりを行い、納品をしてもらわないといけません。このバリューチェーンをコントロールするのはやっかいなオペレーションを必要とします。
  • ピボットができない
    個人的にはこの理由がスタートアップにとって、もっとも難しいポイントだと思っています。リーンスタートアップを実践しようにも、仮説検証をするチャンスが少ないのがハードウェア系スタートアップの特徴です。MVPやプロトタイプだけを比べても、ハードウェアを開発するにはそれなりの時間とお金が掛かります。無事シードで資金を調達できたとしても、相対的にバーンレートの大きいハードウェアスタートアップは数少ないピボットでプロダクト・マーケット・フィット(PMF)を達成しないと成功できません。多くのハードウェアスタートアップを見ていると、ピボットはもちろんのこと、設計改良を1度もしない想定で資金計画をしています。ITスタートアップですら、1度の開発でPMFに到達するのは至難の技だというのにです。そんな至難のPMFをするためのシード期の調達となると、投資家が控えてしまうのもやむを得ないでしょう。シードやアーリーに出資するVCが投資するときに、起業家本人やチームを重視するのも、スタートアップには大なり小なりのピボットが不可欠だからです。

ではハードウェアスタートアップは難しいだけなのか?
こうやって書いていると、ハードなスタートアップはやるだけ無駄のような印象を与えてしまうかもしれませんが、一方で得られるメリットも大きいです。いくつか挙げましょう。

  • 参入障壁を築きやすい
    上記のように取り組みにくいということは、参入したいと思う競合も少ないです。製品だけでなく、素材や加工工程など、バリューチェーンの色々なポイントで参入障壁を築くことができます。特許などの効果も期待できます。
  • ライフスパンが長い
    製品開発に時間が掛かるということは、一つの製品の寿命が長いということでもあります。開発時には足枷だった時間が、市場を築くことができれば有利に働きます。
  • 価格の妥当性を訴求しやすい
    アプリはタダとか100円といった染み付いた価格感を顧客に持たれています。一方でハードウェアはそれなりに費用を支払うものだと顧客は認識を持っていることが多いです。産業機器などの大型ハードウェアなら1台1億といった価格帯も可能になります。サブスクリプションで課金するにしても、SaaSなどの「使用料」よりもハードウェアの「レンタル」の方が、ユーザーにとって直感的です。
  • わかりやすく普及力が高い(タンジブルである)
    プロダクトに重さと形があるということは、売り物が明確だということです。つまり国や文化を超えて普及させやすいのではないでしょうか。母国語が英語ではない私たちにとって、「サービス」が国境を超えるには翻訳が必要ですが、かつての自動車産業が世界を席巻したように、ハードウェアにはあまり翻訳作業は必要ありません。タンジブルで雄弁なプロダクトがあるからです。
  • いずれはハード+ソフトの総合競技になる
    グーグルの検索はソフトウェアサービスですが、自前で堅牢かつ高速なハードウェアシステムを組み上げているからこそ保てているサービスレベルです。ドロップボックスもサービスとして普及したものの、AWS頼りでは採算性も独自性も保てないという懸念がありました。そこを自社システムを持つことで上場に至っています。インテルは半導体を売っていますが、チップセットを含めたOSの在り方に知見があるからこそできるビジネスです。最近の車は自動運転を視野に入れたソフトウェア開発に躍起になっているようですが、すでに社内エンタメやナビゲーションなど、ソフトウェアが顧客満足度に占める割合は高くなっています。これらの例のように、最終的にハード+ソフトの総合競技になっていきます。ならば、より顧客に認識されやすく、基盤となり得るハードウェアに遅かれ早かれ強みを持っていたいものです。

じゃあ、一体どうしたらよりイージーになるのか?

  • 技術の価値を顧客の目線でとらえる
    ハードウェアを利用する場面を顧客の目線で捉え直します。顧客にとって解決するのが難しいジョブなのでしょうか。そうでなければ、もっと難しいジョブがあるかどうか探すのも一手です。とっても重要で難しいジョブを片付けるには顧客は高いお金を払いますし、あまり重要でなく困っていないジョブについてはお金を払いません。
  • MVPの構想を慎重に行う
    アイデアの検証にいきなり製品を開発したくなるのですが、グッとこらえたいところです。スタートアップには「ビジネスモデルの実験」という要素がありますので、実験は実験らしく工夫が大切です。工夫というのは、MVPの仕様をダウングレードするだけではありません。既存プロダクトとのハイブリッドで価値が伝えられたり、一切モノを作らないで検証したりすることもできます。
  • プロダクトのソフトウェア部分等、切り出したビジネスモデルを視野に入れる
    前述したように、ハードウェアビジネスの方がバリューチェーンが長くなります。裏を返せば、切り売りできる部分もあるかもしれません。顧客のジョブによっては早期にマネタイズできる部分と、長期的にプラットフォーム化していく部分を分けて考えられるケースも多いです。こうしたオプションをなるべく早く(大きな投資をする前に)検討し、実現性を検証していくことが大事です。
  • (宣伝にもなりますが)アクセラレーションプログラムを活用する
    いろんなMVPやビジネスモデルの引き出しを持っている人たちと早くから話をするのは、特にハードウェア系スタートアップにとって重要なことだと思っています。なので、Kawasaki ZENTECH Accelerator ZENTECH DOJO Nihonbashiを始めたということもありますが。スタートアップは仮説検証が重要ですが、検証の機会が限られているなら、最初に立てる仮説の重要性がことさら高まることは理解できると思います。

 
ZENTECHってどんなことやってるの?って聞かれることも増えたので、少しハードな点を書かなきゃ…と書き始めたのはよかったのですが、だいぶん長くなりました。
ちょっと長くなりすぎましたが、皆さんの思うところも気になります。ご意見お待ちしています。

自転車に乗ることと、乗っている自転車を操縦すること

Written by 津田 真吾 on 2018-06-21


自転車に初めて乗るとき、計画は立てたでしょうか?
PDCAを回したでしょうか?その計画を両親にレビューしてもらったでしょうか?
目標を時速15kmなどと定量的に示しましたか?

目標はただ一つ。乗れるようになるだけ。
一方で、乗っている自転車を操縦し、毎日20km先の学校に遅刻せずに行かないといけないとしたら(再現性)?あるいは、なるべく寝坊できるように、短時間で学校に行くには(効率性)?
その場合は、ちゃんと地図を見て、計画を立て、ペースもコントロールしないといけないでしょう。親にその経路を見てもらえば、交通量の多い道や危ない道について教えてくれるかもしれません。
乗っている自転車を目的地まで操縦するための技術と、初めて自転車に乗る技術を混同してしまってはいけません。自転車を漕いだことがない人に地図は不要なのです。
イノベーションや新規事業の立ち上げ方には数多くの情報があります。一定の法則があって、あたかもシステマティックな手法に沿って実行すれば成功するかのような印象を持たれる方が増えてきたように感じます。しかし、これらの手法は自転車で言うと、補助輪付き自転車やストライダーのようなものです。
どのような段階を踏めば、自転車で自立することができるのか?どのようなバランスの取り方、筋肉の使い方をするのか?
そして大事なのが、怪我をしない転び方。
それよりももっともっと意味があるのが、自転車を好きになれるかどうか。ストライダーが大好きなら、自転車はもっと好きになるはずです。
リーンスタートアップ、JOBSメソッド、ファーストマイル・ツールキット。これらの手法は大怪我をせず、ビジネスの喜びを最大限にする道具です。

4コママンガ:瀬川秀樹さん作

なぜリクルートのリボンモデルが成立するのか?

津田 真吾
2018-06-18

Twitterを眺めていたら、リクルートについてのこんなツイートが目に留まりました。
 


 
リクルートのさまざまなサービスはB2B2C型のプラットフォームになっていて、これがある意味、勝ちパターンとして伝承されている訳です。プラットフォームは自社を中心に異なる2つの顧客を持ち、それぞれに価値を提供できないと成立しないモデル。図で描くのは簡単だけど、築くのはとっても大変なビジネスです。
そういえば、そこまでじっくりリクルートのモデルを見たことがないな〜と思ってじっくりとリボン図を見てみると・・・そこには「図」以上の秘訣が隠されていたのです。
例えば、スーモを見ると、「住宅を探す個人」というくくりの中に、

  • “職場に近い街でひとり暮らしをしたい”
  • “子供が生まれたので緑の多い郊外で広いマンションか戸建を買いたい”
  • “中古マンションを買ってリフォームしたい”

という顧客のジョブが書いてあるではないですか!!
ざっくりと「住宅を探す個人」という静的なニーズ表現のままだと、色々と不都合があります。
 
例えば、

  • なぜ住宅を探すのかが曖昧だと、あからさまに探している人だけがターゲットになり、他のメディアと熾烈な競争になる
  • どんな業者がどんな観点で広告を出せばいいかわからない
  • 記事編集者も「住宅」の紹介ばかりで、引っ越しやら暮らし、リフォームなどへと消費者が求めている情報へとアンテナが立たない

ここで取り上げられているジョブは、多く発生し、既存のサービスでは面倒だったり満足度が低いものばかりです。
 
ゼクシィーだと、以下のようになります。

  • “テラスのあるレストランでアットホームなパーティにしたい”
  • “都心のホテルでこだわりのウエディングにしたい”
  • “指輪も自分たちの希望に沿ったものを選びたい”

と、結婚する人たちがどんな体験を望んでいるのかが一目瞭然です。顧客のジョブに気づかずにいると、レストランなのかホテルなのかという場所だけの提供に終始してしまいがちです。「アットホームなパーティ」と「こだわりのウェディング」では、全体としてのサービスは相当変わってくるのは想像に難しくありません。IRにまで言えるほど浸透して入れば、そのジョブの違いを意識した情報提供、紙面づくり、企画、などなどが可能になるんですね。

ニューヨークでUBERとLYFTとTAXIを乗って気づいたこと(2)

Written by 津田 真吾 on 2018-04-18

前回はこちら

ニューヨークでUBERとLYFTとTAXIを乗って気づいたこと(1)

LYFT, UBER, TAXI が片づけるジョブ

タクシーやライドシェアサービスが共通するのは「移動したい」というジョブを片づける点です。
特に、荷物を持っていてなるべく歩きたくないとき、初めての街で迷いたくないとき、暑かったり寒かったり雨だったりで外を歩くと不都合なときに、タクシーやライドシェアを「雇い」たくなります。考えてみると、乗る前にだいたい行き先は決まっているんですよね。だから、捕まえるときは「その場」に来て欲しいし、行き先はすでに決まっている「目的地」ということになります。ジョブを言い換えると、
今いる場所から、次の目的地まで楽に移動したい。
 
そのジョブの体験を左右するところはいくつかあることがわかります。
 
(1)車を呼ぶ(配車)
(2)車を待つ
(3)車に乗る
(4)行き先を告げる
(5)移動の車中
(6)降車
(7)支払い
UBERやLYFTは、この全体を新しいものに変えています。配車はアプリでGPSの位置情報を活用したものしています。待つ時間は最寄りの空車をアサインすることで短縮化するとともに、待ち時間を表示しています。車を乗る際、荷物があれば手伝ってくれますし、車内は一般的なタクシーよりもはるかに清潔です。到着までの時間も表示され、最適経路から遠回りしているかどうかが一目瞭然です。降りるときも荷物を降ろしてくれ、支払いの必要もありません。特にチップについては額を考えたり、ねだられたり、断ったりといった煩わしさからも解放されます。
スマホのアプリのUIや経路検索、最寄りの空車をマッチングしたりするIT面の特徴、「シェアリング」といった目新しい側面に目がいってしまいますが、現在地から目的地まで移動したい、というジョブに注目したLYFT対UBERの競争には期待しています。ライド全体の評価が可視化され、比べられるようになったことで、タクシーの清潔さや、ドライバーの親切さといった人的な側面にも日が当たるようになったことも注目に値します。
 
日本では、タクシー業界が保護されていることもあり、ライドシェアのサービスは上陸していません。その代わり、「配車アプリ」が登場しています。全国タクシーという先行者がいる中、DeNAはタクベルというサービスをリリースするなど、数多くの企業が参入しています。しかし、利用者にとっては、配車をアプリでできる程度。タクベルでは支払いも楽になったようですが、全体のプロセス、つまり移動というジョブをもっとも気持ちよく片づけてくれる会社が市場シェアをとるのではないでしょうか。消費者としても、もっとよくなることを期待したいですね。
 
 

ニューヨークでUBERとLYFTとTAXIを乗って気づいたこと(1)

Written by 津田 真吾 on 2018-04-17

先日、ニューヨークに行きました。
ニューヨークは、イエローキャブと言われるタクシーがよく流していて便利な街として有名です。地下鉄ももちろん便利なのですが、タクシーなら行きたい場所の玄関まで乗せて行ってくれるので、楽ですよね。
最近は、UBERやLYFTといったライドシェア、つまり白タクも流行っているので、圧倒的なタクシー優位なニューヨークのマンハッタンでどういう違いがあるのか試してみることにしました。
事前の想定としては、3つ。

  1. いっぱいタクシーが流しているのに、スマホを出してアプリを起動して、行き先を登録する体験って煩わしいんじゃないか?
  2. LYFTは後から参入した分、UBERより良いサービスを提供しているかもしれない
  3. タクシー優位の街にUBERやLYFTは十分あるだろうか?

 
そして、実際に3種類すべて乗ってみての気づきは:

  • タクシーは、ドライバーによるバラツキが大きい。空港では、公認のタクシーへの案内なども充実していて確かに乗り易い。逆に、行き先を知らないドライバーも多いし、結局スマホの画面を見せながらナビしてあげることもよくあった。親切なドライバーもいて、移住してきたばかりという雰囲気を出している若者は、一所懸命にフレンドリーに話しかけたり、荷物を持ってくれたりした。しかし、メーターを倒さずに価格交渉をしようと試みてきた輩もいて、ちょっと嫌だ。発展途上国で毎回交渉するのは仕方がないが、先進国の公認タクシーでこれをやられると疲れる。
  • UBERドライバーは十分にいる。出かけるちょっと前に呼ぶなら、あまり待たずに車が来ます。ドライバーはみんな礼儀正しく、荷物を積むのもフットワーク軽い。市内の渋滞によって「あと5分」というアプリの表示はあまりあてにならないので注意が必要ですが、もしかしたらわざと短めに表示しているのかも。滞在中雨に振られたが、出かけるちょっと前に配車をして、来そうになったら外に出るとあまり濡れない。タクシーだと濡れながら拾わないといけない。
  • LYFTもたくさんある。UBERと掛け持ちのドライバーが多いようだが、看板をつけている車はないので、正確にはわからない。ドライバーは皆親切。UBERよりもアプリは軽い気がする。あまり言語化できないけれど、立ち上げてから予約までの体験はベター。良い車(キレイ&新しい)が多い印象だし、少し安い印象なので、もし総合判定ならLYFTを使うかな。唯一の欠点は、予約ができないこと。早朝のフライトに合わせて車を呼びたいなら、UBERは前の晩に時間指定の配車ができるのでとても便利だが、LYFTにはその機能がまだ実装されていない。
  • ホテルリムジン・・・これが最悪。空港に行くためにホテルのベルボーイにタクシーを頼んだ。そしたら、あのリムジンはタクシーと同じ料金だからといって勧めてくれた。ホテルが勧めるなら問題がないだろうと安心して乗ったところ、通常60ドル位のところ80ドル請求された。ちなみに、LYFTなら45-50ドル位だった距離だ。帰国日だし、クレームをする体験も消耗するだけなので泣き寝入りということになるが、ちょっといいホテルのベルボーイだからといって簡単に信用してはいけませんね。多分、一見さんであることを見越したぼったくりなんだと思います。

なぜぼったくりが起きるか?

価格というものは、買い手はなるべく安い方がいいし、売り手はなるべく高い方がいいわけです。タクシー利用者には旅行者が多く、そのため、移動したいという動機は強いです。そこで、タクシーのドライバーという売り手は、払ってくれる範囲内で高い値段を請求するということが起きます。もちろん、法外な金額を請求されて怒る客や、支払いを拒否する客も出ます。あるいは、他のドライバーはもっと安いといってクレームをするかもしれません。ですがタクシーなんて、2度同じドライバーに当たることはとても稀なので、「2度と乗らない!」と脅されたところで痛くも痒くもありません。乗客はタクシー以外の移動手段もないことが多く、ぼられる可能性が高くても仕方なく利用せざるを得ないケースが多くなります。
一方で、ドライバーはいつも同じ街を走っています。当然、ドライバー同士はコミュニケーションを取っています。あの客はいくら払ってくれたとか、ロシア人は怒ると払わないとか、どんどんノウハウが溜まっていきます。そんな知恵を身につけたドライバーによるいわゆる「ぼったくり」が横行しても何ら不思議はありません。

ぼらないドライバーが一番損

そうかと思えば、品位のあるドライバーもいます。プロ意識からとても誠実なドライバーや、ぼったくりが行われると街全体の魅力が下がり、旅行者や出張者が減るといった長期的で全体的な影響を気にしているドライバー。彼らはお客さんとの関係を一期一会の精神でしっかりとしたサービスを行うことで、その評判が街全体へと波及することを知っています。ですが、そういう意識の高い人は残念ながら一部です。意識の高いドライバーが良い評判を作り出し、ぼったくるドライバーがその評判を換金するとも言えます。
例えば、日本のタクシーでぼられることはあまりないです。そうすると、日本のタクシーは優良なドライバーが多いという評判で、お客さんが集まります。そのイメージに油断した客からぼったくると、とっても儲かります。いわゆるフリーライダーとして、他人の評判にただ乗りしているわけです。一度大手のタクシー会社に入社することで、会社の評判を簡単に手にすることができるのです。
タクシーに限らず、大きな組織になると、過去の実績や仲間の実績があることによって、一人がサボったり、ズルをしても、給料をもらえます。逆に、頑張っても収入があまり増えなかったり、評価された1年後の給料に反映されるなど、頑張るインセンティブも弱くなってしまうということが起きます。タクシーは政府がコントロールしている規制産業なので、クビにするなどの厳しい罰則や、極端な成果報酬を敷くことが難しいという側面もあります。

UBERやLYFTはインセンティブHACK

ご存知の方も多いと思いますが、UBER や LYFTを利用すると、ドライバーを評価するように求められます。つまり「評判」がすぐに個人に」紐づくのです。タクシー会社ではありません。しかも、その評判は配車を行う際にお客さんに直接伝わります。ドライバー個人が良心的なサービスをするインセンティブが働き、悪いサービスを提供しない仕掛けです。

そして、何よりも大事なのが、ドライバーになるようなドライバーは「個人の評判で仕事をした方が得な人」が多いということです。特に初期のドライバーとしてUBERやLYFTに登録するドライバーは、タクシー会社勤めだと報われない人たちです。シェアリングエコノミーということで、エコな生活を実現しつつ、タクシー会社の経費を中抜きする「もったいない」商法だと思われがちですが、コスト面の話だけではありません。ドライバーが優れたサービスを提供したくなる仕組みを提供し、結果として移動の経験が良くなっている点がこれだけ普及している背景にあります。

タクシーが規制産業であることを考えると、タクシーのサービスの仕組みは法律が規定しています。メーターを義務化することや、料金体系を画一化することで、法律はサービスを高めようとします。これにより極端なぼったくりや、交渉によるバラツキは防ぐことができます。それでも遠回りをしたりするなどして料金を多めに取るドライバーは残ってしまいます。ドライバーのインセンティブの仕組みとしては大きな差です。UBERはタクシー会社と比較されることの多い会社ですが、実はタクシーを規制する政府とも比較しても興味深い点があります。「公共性」という理由で政府が介入している産業も、「フリーライダー問題」によって顧客に不満足が生じているなら、人間をHACKしたスタートアップは勝てる可能性が十分にあると言えるでしょう。

もっと書きたいことがあるので、次はジョブを考えます