コロナウイルスから見たイノベーション

Written by 津田 真吾 on 2020-04-01

このコロナウイルスは私たちの生活を激しく変えています。
「災害」と呼ぶこともできるかもしれません。日々、情報を追いかけていると、ウイルス学、感染症研究、公衆衛生、経済、政治、医療、危機管理など、さまざまな視点から、新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)の感染拡大と、人間社会への影響が語られています。

私も、「イノベーション」という視点からこの疫病について書いてみようと思ったのですが、書けることといえば1つくらいしか浮かびません。それは、

有事は解決すべき課題をはっきりさせる

書いてみると、これこそ不要不急なコメントだな~と。不要不急な外出を押さえていると、いかに私たちの日々の生活や経済が「不要不急なこと」で溢れているかを思い知らされるからです。平和で安定した時代に文化や芸術が発展するように、不要不急なことには意味があるし、人間らしさを彩っているのだなぁと改めて感じます。つまり「有事は解決すべき課題をはっきりさせる」とは言いつつ、それだけをやるべきとも、そうでないとも言えなくて、単なる面倒くさいコメントになってしまいました。



ここで終わるわけにいかないので、こういうときは、視点をひっくり返すしかありません。つまり、新型コロナウイルスに限らず、ウイルスの生態と生存戦略を理解することです。だからと言って、面倒くさくないとは言いませんが、コロナ情報ついでにぜひ読み頂ければと思います。

まず、幸いにも人類にとって、今回が初めてのパンデミックではありません。さらに、ウイルスが人類に完全勝利したことはありません。もし仮にウイルスがヒトを必ず征服し、全滅させることがあったとすれば、その時はウイルスにとっても死を意味するからです。ウイルスには知性はないけれど、宿主を殺さないほどには賢いのかもしれません。一方で数百万人を殺すほどの世界的な疫病になり得ることも歴史は示しています。今回の新型コロナウイルスも、当初は若者は罹りにくいとか、インフルエンザ程度の症状とか、致死率が低いとか、さまざまな情報があり、一体どのくらい危険な病気なのか不確かでした。ウイルスは人類全体にとっての脅威であることは確かではありますが、あなたやあなたの愛する人にとって具体的な脅威になるかどうかは不確かなのです。

次に、ウイルスは一種類ではありません。毎年やってくるインフルエンザウイルス、デング、HIV、HPV、等々知られているものだけでもかなりの数が存在します。ヒトに感染するコロナウイルス(CoV)は知られているだけで7種類も確認されています。HPVなど、ウイルスによって多くのがんも発生することが分かってきていて、その原因ウイルスも次々と特定されてきています。つまり、今回耐えれば済むというようなものではなく、いずれ、それがいつになるかは不確かですが、次のエピデミックやパンデミックはきっと来るのです。どのようなウイルスが襲ってくるか種類も分かっていません。地震や台風が発生しない地域があるのとは対照的に、自然災害と異なるのは発生しない地域や時期について、不確かさが多い点です。

ウイルスの優位性の一つが「見えない」ことです。最近よりもはるかに小さく、私たちは見えない敵と戦わなくてはいけません。接触でしか感染しないのか、飛沫感染するのか、空気中からも感染するのか、その現場を観察することはできず、実験や状況証拠から推定するしかありません。見えない敵と戦うと、人間はその存在そのものに疑問に持ちます。神の祟りや悪霊のものだと思ったり、生物兵器のような陰謀論を含め、複数の「解釈」の余地が生まれます。ウイルスではない幻想やデマとも戦う必要が出てきます。テクノロジーのない時代、人類は腕力と簡単な道具と「協力」によって巨大なマンモスを絶滅させました。自分たちよりもはるかに強く大きな相手を、完全に地上から殲滅させたのです。一方で存在が見えないほど小さく、簡単に水で流せるほど弱いウイルスは地上から消える様子はありません。

このように、ウイルスの危険性は、その存在と危機の不確かさ、が本質のように感じます。「不確か」というのは、「きっといる」「たぶんある」「ないことはない」という意味です。そして、ウイルスから見るとこれがきっと生存戦略なのだと思います。ゲリラ戦のように、「いつ攻撃するかわからない」「どこで攻撃するかわからない」「いないかもしれないし、いるかもしれない」「味方だと思っているあいつも敵かもしれない」と相手に思わせることが、はるかに強力な相手と戦うときの常套手段なのではないでしょうか?

ウイルスという不確かさの塊といかに戦うのか?

ここで戦い方としてビル・ゲーツのTEDトークが一つの参考になります。

『サピエンス全史』で有名なユヴァル・ノア・ハラリ氏の「戦い方」も大いに参考になります。

『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリ氏、 “新型コロナウィルス”についてTIME誌に緊急寄稿!|Web河出

著作累計が2,000万部を突破した世界的歴史学者・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は、2020年3月15日付アメリカTIME誌に「人類はコロナウイルスといかに闘うべきか――今こそグローバルな信頼と団結を(原題:In the Battle Against Coronavirus, Humanity Lacks Leadership)」と題した記事を寄稿しました。 新型コロナウイルスと対峙する上での示唆に富んだハラリ氏のメッセージを、氏の著作全てを訳した柴田裕之氏が新たに訳しおろし、ハラリ氏並びにTIME誌の了解を得て、緊急全文公開します! 現代における「知の巨人」が考える、”今、人類に本当に必要なこと”、”真の意味での新型コロナウィルスに対する勝利”とは何か。是非ご一読下さい。 ユヴァル・ノア・ハラリ 単行本 – 人文書 ユヴァル・ノア・ハラリ 2020.03.24 柴田裕之=訳 (歴史学者・哲学者。世界的ベストセラー『 ユヴァル・ノア・ハラリ=著 サピエンス全史』、『 ホモ・デウス』、『 21 Lessons 』著者) …

きっと、ウイルスとの戦いはもぐらたたきになることでしょう。ビル・ゲーツはTEDトークは2015年のものですし、SARS、MERSなどのアウトブレイクも不定期ではありながら、時折襲ってきました。

人類が文明の発展とともに導入してきた感染症対策のためのイノベーションには多くのものがあります。「浄水」「下水処理」「ゴミ処理」のようなインフラもあれば、「ワクチン」「治療薬」「診断薬」などのソリューション、さらには「マスク」「手洗い」といった予防的習慣などもありますし、WHO、CDCのような組織などもあります。しかし、今回のパンデミックが示しているのは、これまでのソリューションでは不十分だということです。これからの世界が待っているイノベーションには、以下のようなものが挙げられるのではないでしょうか?具体的な策や似たような考えを持っている方がいたら、ぜひアイデアを聞かせてください。

  • ウイルスの存在確率が可視化される技術
  • 情報の「不確かさ」が分かる技術
  • 不確実な複数の治療法のポートフォリオ管理するシステム
  • 医療従事者だけでも「確実に」保護される設備・防具

最後に、これらの長期的な解決策が登場するまでの短期的な戦い方としては、隔離やソーシャル・ディスタンスを取ることしかないかもしれません。次の宿主を見つけることのできなかったウイルスは死んでしまうので、仮に感染者を確実に隔離さえできれば、ウイルスはいずれ根絶できるからです。


短期的な戦い方についても、ビル・ゲーツのTEDトークは参考になります。
https://www.ted.com/talks/bill_gates_how_we_must_respond_to_the_coronavirus_pandemic

山中伸弥教授は、今回のウイルスを今のテクノロジーで制圧することは困難、私たちが拡散を防ぐ工夫を取る必要があると発表しています。経済的な損失は回復できるけれど、一度無くなった命は回復できないというメッセージは非常に明確だと思いました。

山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信

例年より早く桜の開花が進んでいます。いよいよ春ですね。 皆さんにお願いがあります。今年のお花見は、人混みは避け、近くで咲いている桜の周りを散歩するだけにしてください。 …

教えるのか?学ばせるのか?

Written by 山田 竜也 on 2020-03-09

コロナウイルスは、人が会うことを必要とする業界に大きな影響を及ぼしました。音楽CDからライブに活路を見出していたエンタメ業界、来年度への布石を打とうとしていたイベント・展示会、4月の新人研修を控えた研修業界。我々も3月に予定していたセミナーやイベントは全て中止・延期になりました。

そんな中、注目を浴びているのがオンラインセミナーです。ZOOM, Skype, Hangouts, Facetime等のツールはこれまでも使われていましたが、ここにきていよいよ本格導入の流れが来るのではと期待しています。

我々もこのタイミングを利用してZOOMを使った1時間程度の無料オンラインセミナーを開催しました。1週間ちょっとの集客期間に関わらず、40名以上に申込み頂き、30人ぐらいに実際に参加頂きました。

今週金曜日にも開催しますので、是非この機会にお試しください。
3/13(金)15:00-16:00イノベーターDNA診断 特別フォローアップセミナー

普段からセミナーは行なっていますし、ZOOMも打合せ等で利用しています。ZOOMを使ったワークショップへの参加経験もありました。そういう意味では、組合せとして新しいだけなのですが、実際にやってみると色々気付きはありました。

 

ZOOMでのオンラインセミナー果たして・・・

先ず最初に、「大した準備もしていないのに、とてもスムーズに運営できたこと」、クライアント先でのテレカンでは専用システムを使っているにも関わらず、もれなく手古摺るのですが、今回はほぼノントラブルでした。参加者によっては苦労された方もいたかもしれませんが、チャットで把握した限りでは冒頭音声設定の間違いが少しあったぐらいでした。

次に、「レクチャーが程よくコンパクトにまとまったこと」、対面だとどうしても参加者の表情や仕草を意識してしまうため、質問を投げかけてみたり、表現を変えて補足したりと、良く言えば丁寧、悪く言えば冗長になってしまうのですが、リアルタイムで反応を取りにくいために、その場のコンテキストに振り回されずに、コンテンツを伝えることに集中できました。

そして、「記録した動画は再利用に耐え得る」、企業内研修でも欠席者のために撮影させてくれないかという相談が良くありますが、対面でインタラクティブに行う研修では記録そのものが難しいですし、少なからず編集作業が必要になります。今回はZOOMでの記録を試みてみましたが、当日のセミナーそのままでした(元から画面越しなので当たり前ですが)これならば欠席者向けの再配布も簡単です。

 

手段での区分けには意味がない

オンラインか?、リアルか?、教えるのか?、学ばせるのか?、敢えて手段で4象限に分けてみると今回のセミナーは左上にきます。右上は良い例が思いつかなかったので?のままとしました。
(何か良い例を思いついた方、是非教えてください(^^;

 

こうして区分けしてみたものの、何れにせよ、これは手段の区分けであって、目的に応じたものではありません。一方で、手段で区分けした議論が先行してしまい、それぞれの手段毎での導入になってしまわないか不安を感じます。

一方通行の座学よりも双方向のワークショップ形式の方が学習効果が高いとも思われがちですが、分かり易いレクチャーには価値があります。ワークショップ形式で双方向での盛り上がりを重視しすぎると、場は盛り上がっても伝えられているコンテンツは少なくもなります。

今回のオンラインセミナーでは、短い時間、一方向という制約の中で行った結果、座学のレクチャーとしての完成度は高くなった気もしています。You Tuberの様に完成度を高めた動画があれば、リアルでの座学は皆でディスプレイを眺める方が効果的かもしれません。それであればいっそ動画を見るまでは事前課題にしてしまった方が良いかもしれません。

 

目的に合わせて手段を組合せる

 

手段で区分けしたり、学習者中心!と 大上段に構えると未解決のジョブを見失ってしまいます。未完成だが価値のあるテクノロジーを試す機会も減ってしまうかもしれません。
それぞれの手段の特徴を活かして、目的に合せて使える様になってきた手段を駆使するのが効果の高い学習環境を作るポイントではないでしょうか。

結局、いろいろ試してみるのが一番。試すハードルが下がっている事は何よりうれしいことです。使えるものはドンドン使い倒していきましょう。その中で有効な使い方が見つかり、未来のスタンダードになっていくばずです!

止められない暴走が止まる時

Written by 星野 雄一 on 2020-02-28

コロナウイルス問題によって、世界中で混乱が起きています。
中国の一都市で発生したことがあっという間に世界中に広がり、健康面のみならず、金融・経済までも影響を及ぼしています。リーマンショックの時を思い出し、世界はつながっていると改めて感じる日々です。

マスクはもちろん様々な日用品は品不足となり、生活にも混乱をきたしています。東日本大震災直後のことを思い起こさずにいられません。そして小学生の子供を持つ親としては、急遽2週間の対応方法を決めるなど、なかなかな事態だなと感じています。

 

色々と混乱は起きていますが、個人的に気になることとして、「なぜ今このウイルス問題が起きたのか」、その意味について考えています。


株価は1年以上前から下落すると言われながら、なかなか下落しませんでした。しかし今回、大幅に下落しました。

 

自民党、安倍政権を問題視する声は前々からネット上を中心に上がっていましたが、選挙をすると自民党が勝つという状況も変わりませんでした。しかし今回、分かりやすく政治のリーダーシップ問題が露呈しました。世代問わず多くの国民に失望を与えてしまったのかもしれません。現在有力な野党もいないので、次回の選挙で与党が変わることはないかもしれませんが、少なくとも構成は大きく変わるのでしょう。

  

リモートワークも時差出勤も前々から謳われていましたが、古く大きい日本企業はスピード感を持って変われませんでした。しかし今回、それがあっという間に実行できました。もう、できない理由はないでしょう。

  

このように多くの人の中で違和感を感じていたこと、でも人間の力で変えることができなかったことが、自然の力でこうも即座に変わってしまったということ。

これを目の当たりにすると、ジレンマに陥っている様々なシステムが変わる転換であり、その抜け方を示されているようにも感じます。

 

・イノベーションのジレンマを起こしているが、なぜか延命している大企業
・環境破壊していることを分かりながら売り続けられる商品、買い続ける消費者
・年金破綻はわかっているのに、手を打たない日本

様々なことが臨界点を超えそうです。

 

超えた瞬間は、一見すると混乱であり、問題であるかもしれません。ただ、ジレンマからの脱却が出来つつある現在の状況を見ると、次のステージへの光ではないかと思わずにいられません。

 

アイデアをマネされたらどうするか?

Written by 津田 真吾 on 2020-02-10

自分が考えた新規事業のアイデアをパクられた!

まずは「おめでとう!」と言いたい。素直に。ほとんどのアイデアは誰からも見向きもされず、忘れ去られることを考えれば、素晴らしいアイデアを出したあなたは褒められるべきだ。

でも、褒められたところで釈然としない気持ちが残ることは経験上、よくわかる。一所懸命に考えて、準備したネタを、タダで盗まれるのは悔しいし、人間不信にもなるかもしれない。聞いたアイデアを実行してみたいほど気に入ったのなら、なぜ言ってくれなかったのか?なぜ誘ってくれなかったのか?と、寂しさと悲しさに覆われる。

しかし、優れたビジネスは模倣される運命にある。だからこそ、誰かにその新しいアイデアを相談すると必ず「競合優位性は?」「独自性は?」「模倣困難性は?」としつこく聞かれ、要するに「参入障壁を作らないと苦労するよ」と言うのである。シリコンバレーにも「アイデアには価値がない。実行にだけ価値がある。」という文化があるのも合理的だと思う。しかも、ビジネスのスピードが急速になっている現在、「障壁」を意味するBarrier よりも 、同じ城壁を守るが泳げば渡れる「掘」を意味する Moat が好まれている。模倣は可能だが、競合が追いつきにくくすることなら可能だという意味だ。

さて、今回三菱商事がsoucoのアイデアを完コピしたことや、Origamiが事業を畳んだり、PaypayやらLinePayやらD払いなど、QRコード決裁が死ぬほど増えている現状から、まずはこの参入障壁や競合優位性について書いてみたい。

パクられないアイデアとは?

「参入障壁」には数多くの種類がある。ピーター・ティールは

  • Proprietary Technology 独自技術
  • Network Effects ネットワーク効果
  • Economies of Scale 規模の経済 
  • Brands ブランド力

の4つを挙げている。またマイケル・ポーターは次の8項目を参入障壁だと定義している。

  • Trademarks consolidated in the market  市場における商標――ピーターティールのブランド力と同じ
  • Patents 特許 ―― 独自技術を公開し、国家権力で独占化する試み
  • Government Policies 政府の政策―― 国や政府が管理している医療、通信、交通、放送などの分野では新規参入者への認可や承認などのハードルがある
  • Mastering cutting-edge Technologies  先端技術の体得――ピーター・ティールと同じ
  • Economies of scale 規模の経済――ピーター・ティールと同じ
  • Learning Curve 学習曲線――技術体得や、ビジネスモデル体得までの時間的制約
  • High Capital Requirements 大きな資本の必要性――小さなオンラインストアなら数万円で開業できるが、石油採掘や宇宙事業は巨大な資金が必要
  • Access to Distribution Channels  代理販売業者へのアクセス――拡販する際の規模

これらの参入障壁のうち、斜線のものは大企業でないと手に入れられない点が重要である。つまり、スタートアップにとっては、喉から手が出るほど欲しいのがこのような障壁となり得る強みなのだ。

残る「学習曲線」「独自技術」「特許」で守るしかない。だが、優れた技術であればあるほど研究に時間がかかるし、ある程度はそのアイデアを口外しないと必要なリソースが手に入らないのも事実である。そうなると、八方ふさがりのような気もするが、実は突破口はある。

Motivation ― 人がやりたくないことをやる

クリステンセンも、破壊的イノベーションは最初、非常に小さな市場や辺境から始まると言っている。それは大企業にとって「魅力が無い」市場に映るからだ。例えば「遊休倉庫の稼働率を上げたい」と願うのは、たくさんの倉庫を抱える大企業である可能性が高い。どうせ眠っている資産なら誰しもが有効利用したいだろう。とてもわかりやすく、魅力的なアイデアだったことが仇となった可能性が高い。

Amazonのベゾスは、自社の利益を極限まで絞って値付けした。儲かりすぎると、他社が追随すると思ったからだ。ギリギリで薄利ビジネスを営むことで、他社には消耗戦に参入したくないと思わせているうちに、「規模の経済」や「ネットワーク効果」を作り上げた。Eコマースが流行する前に、地味に始めたことで学習曲線も随分先に進んだ。ベゾスはかつて「iPhone唯一の失敗は価格を高く設定しすぎたこと」だと言ったそうだが、利益率が高く、魅力的なビジネスに見えたことで後発のAndroidにシェアを奪われたという見方はさすがだ。

要するに「良いアイデアだけど、ウチはやりたくない」と思わせるようなアイデアが一番良いと思っている。

三菱商事のケースでは、soucoのアイデアを真似したかどうかよりも、「真似したんじゃないか?」と思われるリスクや、今後スタートアップから信用されないかもしれないリスクを冒してまでも、やってみたいような良いアイデアだと感じたのだ。

―最後に―

マネをされると悔しいし、マネをされた人を恨みたくなる。スマートな戦い方じゃない、と批判したくもなる。何のクレジットもなく論文やアイデアを盗まれたこともあるので、その悔しさや痛みはわかるつもりだ。でも実は、日本という国が今、先進国と見なされ、おおむね豊かに暮らしていけるのは先人たちが「マネ」をしたからだと思っている。リバースエンジニアリングや産業スパイは行われていたのも事実だ。「これは必要だ」と感じれば躊躇なく行動することが大事なのである。スティーブ・ジョブズもピカソも、「優れた芸術家はまねる、偉大な芸術家は盗む」と言ってきている。

だからと言って、パクりやマネを奨励する気はないことは強く断っておきたい。

さすがにレジに並んだとき、決済手段があまりにも多すぎてうんざりするし、レジのバイトが可哀そうだ。毎月新しい決済サービスをシステムに導入しているSIerのエンジニアからも悲鳴が聞こえる。○○ペイ、SUICA / PASMO / Quickpay、各種クレジットカードとか…横並びでマネをして、そこに未来を見ているのだろうか?他社に勝ったり、既存の大手企業を潰すことを目標にしていないだろうか?

最終的には消費者の選択によって企業が淘汰されていくことになるだろう。そこには血みどろな戦いも予想される。そういう明確な戦いを好むビジネスマンも多いが、そのプロセスはあまり楽しくないのではないだろうか。マネも良いが、消費者から見てその選択肢が増えることが良いことなのか今一度考えたい。

世界は螺旋で進歩する

Written by 山田 竜也 on 2020-02-10

D2C(Direct to Customer)の出現

D2C(Direct-to-Consumer)という言葉をご存知でしょうか。卸売店・小売店などの流通を介さず、ECサイトで直接ブランディング・販売を行い、企業から消費者にダイレクトに商品を届ける仕組みのことです。

テスラもD2Cですし、眼鏡のWarby Parker(ワービーパーカー)、最近話題のAllbirds(オールバーズ)という靴もD2Cとカテゴライズされています。

また、言葉としては、シェアリングエコノミーにより増えてきたC2C(個人間商取引)もありますし、一般消費者向け商品を生産するメーカーの間に卸売が入ったB2B2Cもあります。色々なアルファベットの組合せが余計に複雑にしている様な気もしますが、一般消費者向けの製造業を対象にシンプルに考えれば、作り手と消費者の関係の違いで定義できます。

 

生産者 −> 卸売業者 −> 小売業者 −> 消費者

 

生産者 <−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−> 消費者

 

単に仲介業者を減らすだけだと、中抜きするだけですが、新たに着目されている理由はDirectという言葉が示す様に、直接顧客と関係を結べる事にあります。作り手と消費者の関係が双方向になるのです。

これにより、amazon primeやFacebookの様なソフトウエア商品では無い自動車や靴がソフトウエア商品の様な関係性を顧客と直接結ぶことが出来ます。顧客との関係性が直接になれば、製品開発に役立つ情報がダイレクトに取れますし、顧客との関係を深めてLTV(Life Time Value)ベースでのビジネスに繋がります。

 

こうした商取引きは新しいのか?

「生産者が作ったものを直接消費者に届け、顧客との関係をダイレクトに結ぶ」このモデル自体は特に新しくありません。オーダーメードで限られた数の靴や服を売る様な工房型の店は古くからあります。オーダーメードでなくても常連さんを抱える老舗のパン屋さんやケーキ屋さんもあります。
但し、こうして始まった店も顧客数が増え、直接顔の見えない顧客に商品を届ける様になると間に流通業者が入り、大量生産、大量販売が進み、顧客との接点が小売店側に移りB2B2Cの状態になります。販売量が増えてもネットでのお取り寄せの様な形で顧客との直接の関係を維持している場合もあります。

工房型の直接取引、卸売業・小売業を介した大量販売、ネットでの直接取引、結局はいくつかのパターンが繰り返し現れるだけの気がします。同じ所をグルグル回っているだけで、そこに進歩は無い様にも見えます。

 

では、何が新しいのか?

D2Cの本質的な新しさは、SPAと比較すると分かり易いです。どちらも自社で企画、生産した商品を消費者に直接届けるという点は同じです。違いは顧客情報の活用度合いにあります。顧客が商品を購入した販売時点までか、使用後も含めたライフサイクルまで捉えているかにあります。

使用後の反応こそを大事にしているのがD2C企業と言えます。購入時のBig Hireより使用後のLittle Hireにこそ、顧客に選ばれ続けるヒントが眠っているからです。

認知 −> 購入 −> 利用 −> 利用の継続 −> ジョブの解決

生産者 <−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 顧客からの発信

先ほどの製品やサービスを届ける流れを顧客の視点で書くと上の様になります。

Big Hireは顧客が製品やサービスを購入した瞬間です。この時点ではその製品やサービスを購入したいという顧客のニーズは満たされていますが、顧客がその製品やサービスで解決したかったジョブは未解決のままです。Little Hireとは顧客が製品やサービスを利用した瞬間、もしくは利用し続けてジョブが解決した瞬間です。そして、この瞬間になって初めて顧客からの発信が始まります。生産者が得たいフィードバックが得られる様になります。

例えば、楽器は多くの人が一度はトライし挫折するものの典型です。購入した瞬間には高揚感はありますが、本当に解決したいジョブはその先の弾けた瞬間にあります。そして、そこまで辿り着くには時間がかかります。ギターで有名なフェンダー(Fender)は、ギターを始めた人の90%は1年後には挫折してしまうという状況を発見し、ギターが上手くなり演奏を楽しめるリトルハイヤの瞬間までを支援するために、フェンダープレイ(Fender Play)という初心者のプレイヤーを対象としたオンラインギター学習システムを開発しました。

もちろん、どの企業も販売後の顧客の利用状況を掴もうとしています。昔も購入した製品にユーザー登録の葉書は付いていましたが、ほとんど使われる事はありませんでした。新たな商品解決のための情報は、別途、マーケティング調査を行って入手している場合がほとんどです。

自分たちが良いと信じるものを作り、顧客と直接関係を結び、顧客からのフィードバックを重視して、一緒に良いものを作っていくのが、D2C企業の戦略と言えるでしょう。

 

何が新しさを支えているのか?

一見商取引のパターンがグルグル回っているだけの様にも見えますが、それを支えるインフラは変わってきています。インターネット、決済サービス、物流サービスがあるからこそ、メーカーと消費者の直接取引が可能になります。SPAとD2Cを分ける消費者からの発信は、インスタグラムなどのSNSの発展により可能になりました。

どんな商品において、どの様な商取引の形態が望まれているか?様々な商品が溢れかえる現代に置いては、より自分だけの特別な商品を使いたいという感情的なジョブが強くなります。好きなブランド、自分が推しているブランドを周囲に示したいという社会的なジョブも生まれてきます。

「こうしたジョブの変化と、それを実現するテクノロジーの変化」は即ち、螺旋を上から見たときに、どのジョブが強くなっているかと、螺旋を横から見たときに、どのジョブを解決できるテクノロジーが用意されているかに相当します。

 

2つの視点で世界を見れば、世界は確実に進歩しています。
世界は螺旋で進歩するのです。