なぜ普通のインタビューからは顧客の望みがわからないのか?

Written by 津田 真吾 on 2019-08-19

最近では『ジョブ理論』もだいぶん市民権を得てきました。マーケティングの世界において、「理論」と名前が付くようなものは他にないからでしょうか?さまざまな反響を聞きます。

さて、ジョブ理論についてある程度が進むと、自社製品や新しいアイデアについて「調査」をしたくなります。顧客がどのようなジョブを抱えているのかを知りたくなるということです。そして、アンケートを取ろう!という結論に至る方も多いようです。

が、アンケートは正直お勧めしません。なぜなら、普通のインタビューですら、顧客の本音を聞き出すことに失敗しているからです。どのような間違いがあるのか、見ていきましょう。

どこを気に入って買いましたか?

この聞き方は初めてのインタビューでついついやってしまう間違いです。特に自社製品に顧客が気に入るべき「何か」があるはずだという希望的観測がそうさせます。でも例えば、喉が渇いているのに飛び乗った特急の車内販売を想像してみてください。ムカつきながらも買ってしまう飲み物だってあるはずです。私たちは、気に入らなくてもNHKやアマゾンのサブスクリプションに加入してしまっていることも多々あるように、気に入らずとも「雇用」していることだってあることを忘れないようにしなくてはなりません。
ジョブは製品軸からは導けないことを気を付ける必要がありますね。

買った理由を教えてください

「買った理由」は、製品軸ではないので少しマシな間違いです。しかし、「理由」という言葉は、まるでロジックを聞かれているような気がして、回答者は「もっともらしい」理由を挙げることになります。もちろん、ド正直なインタビュー対象者もいるので一概には言えませんが、「お行儀の良い」回答をするのが人間です。例えばスマホを買った理由を聞かれれば、「情報収集」「業務連絡」といった社内稟議に通りやすいような答えをしたくなるのです。B2Bのジョブインタビューであればこのような表向きの理由を把握することも不可欠ですが、表向きのジョブ表現に騙されないよう注意が必要です。

買ったものをどのように使っていますか?

どのように使っているか?というのはジョブ理論で言えば「リトルハイヤー」と呼び、身近な解決策をどんなシチュエーションで繰り出すか?を尋ねる問いになります。 これは利用頻度を高めたり、消費量を増やしたりするための、リトルハイヤーについてのインサイトが欲しい時には有効な質問です。


一方で「ビックハイヤー」、つまり購入動機を知りたいときに相応しい問いではありません。メーカーが、新たに商品を買ってもらいたいときにはビックハイヤーの問いが大切で、売れた商品の満足度を高めたい、あるいはアップセルのサービスを開発したいのであればリトルハイヤーを目指すことになるので目的に合わせてインタビューしたいところです。

買ったときの「いきさつ」を教えてください

ジョブインタビューでは、さまざまな質問をアドホックに行います。ですが、鉄板の問いは「買ったときのいきさつを教えてください」ということになるでしょう。「いきさつ」というのは、漢字で書くと「経緯」と書きます。経糸(たていと)と横糸に喩えて、こまかな状況を知りたいわけです。特に、時系列で教えてもらうと、購入を検討した時点で持っていた情報や知識が明らかになります。たいていの場合、消費者は購入後の方が商品について詳しくなり、独自の見解を持ちます。前述の「お行儀の良い」回答は、現時点でさまざまな見解を持った上で精査された意見になりがちですが、購入時点では限定された知識や情報から判断していることに注意が必要です。

顧客が置かれている状況には、情報の制約があることに注意すると、単純にコミュニケーションの量を増やしても売れ行きが良くなることはないことに気づくはずです。顧客のTPO(死語に近い?)なのかに合わせた、活動が必要になりますね。

大阪の蝉が、東京の蝉よりうるさい理由

Written by 山田 竜也 on 2019-08-12

地球温暖化という言葉を最近はあまり耳にしませんが、連日の猛暑の中、真実はどこにあるかよりも、どう考えても暑い!というのが、我々の実感値ではないでしょうか。
個人的な気付きですが、暑さともう一つ実感値として感じたのが
「大阪の蝉は、東京の蝉よりうるさい」です。
昔は蝉時雨という言葉には、騒々しいだけでなく、どこか涼しげな響きもあった気がします。でも、最近はただただ暑い!うるさい!という印象で何の風情も感じません。

 

中之島                      丸の内

きっかけは最近仕事でちょくちょく行っていた大阪の都心と東京の都心での蝉の煩さの違いです。梅田から堂島を抜けて中之島辺りまで歩くと道路の照り返しで暑いのはもちろんですが、蝉の煩さで余計に煩わしさが増します。
東京も同様に少しの移動も地下に潜りたくなるぐらい暑いのですが、蝉の声はそれほど気になりません。もちろん東京にも蝉はいますし、都心の公園でもよく抜け殻を目にします。何が違うのだろう?と調べて見たら自分なりに納得のいく仮説が見つかりました。

 

「大阪の蝉が、東京の蝉よりうるさい」のは、
 ・蝉の種類が違うから
 ・一種類の蝉が支配的だから

 

実は、日本の気温の上昇により、元々南方にしかいなかったクマゼミの北限が上昇している様です。そして、大阪の都心はこのクマゼミに支配されつつあります。大阪では都市部の中心部にいくほど「シャッシャッ…」というクマゼミの鳴き声の割合が増えます。かつて大阪で最も多かった種類はアブラゼミだったが、昭和50年代後半を境にクマゼミが逆転し、都市部の大阪市では、いまや90%以上を占める様です。

そして、クマゼミが都市部で圧倒的な強さを誇る理由は、「孵化(ふか)の時期」と「クマゼミの幼虫のある“特技”」が鍵を握る可能性が浮上している様です。さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をどうぞ。

クマゼミ                    アブラゼミ

また、セミはそれぞれ鳴く時間帯が違います。昔は、鳴く蝉の声で時間の変化を感じたものですが、クマゼミ一色になると、ある時間帯にだけ騒音の様に降り注ぐという事になります。

 

セミの種類(鳴き声)     その出現期間(時間帯)
ニイニイゼミ(チーチー……)  梅雨明け~9月、早朝から夕暮れ
アブラゼミ(ジージジー……)  7~9月、朝方と午後
ミンミンゼミ(ミーンミンミン……)  7~9月、午前中
クマゼミ(シャーシャー……)  7~9月、午前中
ヒグラシ(カナカナカナ……)  7~8月、朝か夕方
ツクツクボウシ(オーシツクツク……)  8月後半~9月、朝方と午後
 音源:https://www.kodomonokagaku.com/magazine/cicada.php

 

後退する氷河

Großer Aletschgletscher: links 1979, mittig 1991, rechts 2002

こうして写真で見ると一目瞭然ですよね。
何かに違和感を持ったら、事実を探して数字を掴むと意外な発見に辿り着くことがあります。この発見から仮説を立てるとビジネスのチャンスになることがあります。クマゼミとアブラゼミの戦いには特に解決すべきジョブはないかもしれませんが、クリステンセン教授の最新刊「繁栄のパラドックス」に登場するリチャード・レフトリー氏は発見した事実から解決すべきジョブを見つけ保険の無消費層を救うビジネスを生み出し新たな市場を開拓しました。

レフトリー氏が見つけた事実は、「自然災害による地域別の死傷者数ではバングラデシュ、パキスタン、インドが突出しているのに、これらの国々は保険金の総支出額ランキングには全く顔を出していない」というものでした。
この数字を見ても「そんなの当たり前だよ、彼らはお金が無いのだから仕方ない」と諦めてしまうのが、ほとんどの反応だと思います。しかし、レフトリー氏は「経済的余裕が無いからこそ、家族を襲う危機に対して備えを持ちたいはず」という仮説を立て、これを解決するために、これまでとは違う引受条件とチャネルで販売するMicroEnsureというサービスを開発しました。現在では20カ国以上、5,600万人超の契約者を獲得しています。

 

・違和感を感じるセンサーを持つこと
・感じたらその背景を探ってみること
・未解決のジョブを見つけたら、業界の枠に囚われずに解決策を考えてみること

一つ一つ時間はかかりますが、着実に実行し続ければイノベーションの芽を育てることができます。

 

大阪と東京を往復する機会があったら、鳴き声の違いに気をつけて見ませんか。地球環境の変化を身近に実感できるかもしれません。

『天気の子』に観る革新と伝統、そして未来を創るために必要なリベラルアーツ!?

Written by 津嶋 辰郎 on 2019-07-26

7/19に封切りされた新海 誠監督の最新作『元気の子』。早速鑑賞してきたところ、この作品はお盆直前の今というタイミングで見てみることにも意味があるんじゃないかと思い、感じたことを少し言葉にしてみたいと思うに至った。新海監督の作品をご存じのない方も、また違った視点で興味を持って貰えたら面白いと思う。


2016年に公開された『君の名は。』で一躍有名になった新海 誠監督であるが、1971年生まれの同世代アニメーターということもあり、10年以上前にたまたま目にした自主制作での劇場公開作品でもある『ほしのこえ』をきっかけとしてから継続的にチェックしてきていた。同世代の監督作品には、同じ時代を歩き見てきた景色と影響を受けてきた作品からのより多くの共感点をみることができる。そして、大人になっても変わらない、時空を越えるいわゆる日本人的へたれロマン?!・・・これが世代を越えた監督の作品に共通する魅力だと思う。そんなアニメ監督ではあるが、実は奥さんも子供も女優と子役という芸能一家でもある。


本作品もタイトルのテーマでもある「晴れと雨」を中心として、『君の名は。』同様に多くの対比を用いてそれぞれの立場が違う目から見た世界を表現することで、多様化する現代において誰もが普段気づきにくくなってしまった現実世界の深みを描いているように思えた。


ネタバレにならないように作品の話はこれくらいにしておいて、作品がスタートしてすぐに私の目を引いたのは、ストーリーの中でも重要な象徴となる代々木駅近くのビル(実在する代々木会館がモデル)の屋上に位置する神社(これも実在する銀座駅近くの朝日稲荷神社がモデル)の鳥居の前に置かれた、キュウリとナスに割り箸をさして作った二体の人形である。そして作品の中盤に登場するおばあちゃんが語る、旦那の初盆にまつわる習わしに関する話である。


この作品では”お盆”という名目で、当然の習慣として夏の帰省をしている我々日本人に対して、改めてその意味を思い起こさせる仕込みが含まれている。

 

東京と離島、新宿のビル群と古びた神社、子供の心と大人の心・・・
そこに共通して存在する革新と伝統 の共存


テクノロジーが切り開く未来は本当に我々が求めている世界なのか?我々が実現しようとしているイノベーションは、果たして人類を今以上に幸せにできるのか?


新しい事業となる製品・サービスが世の中に普及するということは、良くも悪くも未来の子供達の世界に大きな影響を与える。不安定で不確実、そして複雑で不明確・・・いわゆるVUCAと言われる時代の中、この問いに自信をもって踏み出していくために必要な知識や知恵が必要になっていることが、昨今リベラルアーツが注目を浴びつつある背景でもある。


しかし、事はそんなに単純ではなく、それぞれの領域に分断された知識や情報をどれだけインプットしても、それらを効率的に有機的に繋げる学習方法は今の所存在しない。それは残念ながら一人一人の人間の中で繋いでいくしかない。そしていくら自分の中で繋ぎ合わせたとしても未来は何も変わらない。リベラルアーツを活かすにも、結局は実践という過程は不可欠である。これもまた二元論では答えは見つからない対比の一つである。


いまだ日本の至る所で新しい事業の”アイデア不在”の議論が行われている。しかし、実際我々が事業立ち上げの現場の最前線で時間を過ごす中で、事業のアイデアが不足していると感じたことは一切無い。そしてアメリカや中国に比べて新しい技術に遅れをとっていると感じた事も無い。では何が足らないのか?

 

多くの人がワクワクする課題を設定し、そこに自らのコミットメントをもって人を集められるリーダーが足りていない


リーダーとまで言えなかったとしても、我々一人一人が未来にとって自信を持つためには、日本という特殊な島国おいて先人が歩んで来た歴史や伝統から、もっともっと学ぶべき事があると新海監督も作品を通して伝えていると感じる。


私事ではあるが、昨年の7月末に義母が、そして翌月の8月末に母方の祖父が他界した。


ちょうど先週末に、義母の一回忌を義父が先に眠るお寺においておこなった。そこで住職から7月という今のタイミングということもあり、お盆についてのお話を伺っていた。お盆とはもともと仏様となった先祖を自宅にお迎えして一緒に過ごす時間である。そして、ご先祖様が自宅に来るときにはできるだけ速く、そしてお盆をゆっくり過ごした後に仏の国に帰るときにはゆっくりと名残をおしみながら帰って欲しいう意味を込めてキュウリは馬、なすは牛に見立ててお飾りするんです・・・と。

そして東京が日本の中心になり、多くの人が地方から上京するようになってから神奈川と東京は、8月から1ヶ月ずらして7月にお盆を行うようになった。こうした伝統的な風習もそこで暮らすライフスタイル変化によって変わってきたということも。そういう話を聞いていたからこそ、この作品の中に描かれているキュウリとナスの人形が何より目を引いたことは間違いない。


自分が子供のころに我が家の仏壇に飾るために、キュウリとなすの馬と牛を両親と一緒に作った記憶がある。しかし、今の横浜の自宅にはもちろんそれはない。住職の話を聞いたときも、一緒にいた自分の子供にはそのイメージすら頭の中にも浮かばなかったのではないかと思う。最近自分も母国の伝統や文化に関する子供のなぜ?に答えられないことが多いことを実感する。

小学生にとってまだその意味の深さは分からないかもしれないけど、改めてその意味を調べた上で、この夏の帰省の機会に少し伝えてみようと思う。

『イノベーションって何すればいいんですか?』と新卒社員に聞かれたら?(その1)

Written by 加藤 寛士 on 2019-07-23

「イノベーションを起こすって具体的に何すればいいんですか?」と意識高い系の新卒社員に聞かれたときに、社会人の先輩としてどのように答えればいいのでしょうか?

今回はイノベーション・コンサルティングを専門とするINDEE Japanなりに、できるだけシンプルにその答えを考えてみました。

イノベーションとはなにか?

イノベーションとは『発明』と『普及』が両立したときに起きる現象のことです。

したがって、イノベーションへの取り組みの基本方針は、『発明』と『普及』の両方を成功させるべく活動をする。もしくは、両立できるように必要な支援を行い、エコシステムの整備を行うということになります。

INDEE Japanでも『発明』と『普及』の観点から、人事・ファイナンス・テクノロジー・マーケティング・ブランディング・オペレーション・ディストリビューションといった各領域における戦略策定と具体的な支援を行うコンサルティングサービスを提供しています。

それではまず『発明』について、もう少し詳しく見ていきましょう。

イノベーションの文脈における『発明』とは?

イノベーションのおける発明とは、端的に言えば「2つ以上の要素の新しい結合」のことです。スティーブ・ジョブズも以下のように言っています。

創造とは結びつけることだ
– スティーブ・ジョブズ

ここで、初心者イノベーターあるあるネタ(笑)を1つ紹介しますが、「2つ以上の新しい要素の結合」を『発明』と勘違いするということがあります。結合が新しい必要があるのであって、要素が必ずしも新しい必要があるわけではないということですね。

こうした誤解があるため、最先端を行くテクノロジーを駆使したおしゃれで新しいプロダクトに取り組まなくてはいけないという先入観が生まれ、取り組みのハードルが無意味に上がってしまい、身動きが取れなくなっているというのは、よく見かける光景です。

「おしゃれで最先端なプロダクトに見せること」はアーリーアダプターに対するブランディング戦略として有効なこともあり、イノベーティブと言われているプロダクトやサービスは、そうしたブランディングがなされることが多いようです。それが、「イノベーション = おしゃれで最先端」という誤解が生みやすい環境を作っているのだと思います。


イノベーションという言葉を現在のような意味で初めて用いたのはノーベル賞授賞者を複数育成し、20世紀の経済学を形作った天才の1人と言われ、近年さらにその先見性への評価も進んでいるヨーゼフ・シュンペーターという人物なのですが、彼はイノベーションが生まれる領域は以下の5つであると定義しています。

  • 新しい商品の創出
  • 新しい生産方法の開発
  • 新しい市場の開拓
  • 原材料の新しい供給源の獲得
  • 新しい組織の実現

シュンペーターも、結合の素材は必ずしも最先端かつおしゃれなテクノロジーではなく、ブランドだったり、顧客だったり、資金だったり、チャネルだったりするものと考えていたということですね。


なお1つ補足をしておくと、結合する素材が新しければ、必然として結合も新しいものになるので、新しい素材を探し求めることも『発明』に対する有効な戦略の1つであることは確かです。

  • 大企業・歴史のある企業・技術に長けた企業であれば、他社が持ち得ない素材を社内から引き出す
  • 身軽さや少数精鋭の個人の能力がウリの新興企業であれば、技術や時代がもたらした新しい素材の可能性を誰よりも先に引き出す

というような活動に戦略的に取り組んで行くことは大切ですが、希少性の高い資源や新規性の高いテクノロジーも、”なにか”と結合することでしかイノベーションの文脈における『発明』とはならないという認識を持つことが大切です。これはイノベーションへの取り組みについての実践をするにあたって、1つのコツのようなものです。その認識を持てていないために、イノベーションへの取り組みが、単なる学究やオタク的な活動にとどまってしまっているというのも、またよく見られる光景です。


以上、「イノベーションに取り組む」とはざっくりとどんな活動なのか?、イノベーションという文脈における『発明』とはどんな活動なのか? についてできるだけシンプルに開設してみました。

意識高い系新卒社員のキワドイ質問に、答えをするために少しでもお役に立てたらうれしいです(笑)

次回その2では、 『普及』とはなにか? 、そして『発明』と『普及』どちらを先に取り組むべきか、少し深堀りして解説してみたいと思います。

ビジネス環境を踏まえた組織開発の着眼点

Written by 星野 雄一 on 2019-07-19

大手企業が採用強化に向けて、新卒に高年収をオファーする仕組みを構築し始めている。ビジネスのサービス化などの流れを受け、その中核を成す人材の採用は経営・人事にとって重要な課題である。また同時にその人材を維持すること、いわゆるリテンションも重要課題であることは言うまでもない。

 

そのような背景も踏まえ、近年、社員のエンゲージメントが着目されている。HR techでもHOTなテーマで、エンゲージメントアップの実現に向けて多くのツールもローンチされている。感謝の言葉などを通した承認や声掛け、またそれが他の社員が見て、さらに応援してもらえるような機能を有している。それが給与に反映される会社もある。

 

このようなツールの多くはITスタートアップ企業が自らの成長痛を乗り越える過程と共に発展しており、現実のジョブを解決しているので力強さがある。

 

多くの組織において、最初は少人数で事業スタートさせることが多いだろう。最初は各自が様々な役割も果たすためにコンテクストも共有されやすく、意思疎通もしやすい。そこから高い目的・目標に向かい、規模が急拡大し、業務も分かれる中で、新たな人が分からない、以前よりも会話が減ったという状況が発生する。そのような中でもバラバラにならないように繋がりを持ちたいというジョブを解決するために、各社で表彰制度やサンクスカードのようなものを試行錯誤していった。それをIT化したのがエンゲージメントツールの原型であったりする。これは実際に物理的な距離は遠くないが、目に見えない”組織”や”チーム”という壁を乗り越えていくものだったであろう。ある意味、IT好きで自分の仕事に没頭しやすいエンジニアが多い職場だからこそ、意思疎通しにくいという状況は起きやすかったのかもしれない。

 

会社がさらに規模が拡大し、業務分化していくと、営業所や本社と工場などの物理的な距離が立ちはだかる。また、ワークプレイスは多様になっていく中で、ITをベースとしたエンゲージメントツールは効果的に力を発揮する。人は距離が遠く離れていても、関わる人にポジティブな繋がりを持ちたいのである。

 

ただ、繋がりたいというジョブが”常に”強いかと言うとそんなこともないであろう。組織がリスクを取って業務に取り組んでいる状態だからこそ日頃言えない感謝の言葉が効いてくる。新たな挑戦をしない職場、そして自分自身が挑戦をしていない状況では認められたい・感謝したいというジョブの強さは弱まる。むしろ外を見たくなったり、給料が減らないことを祈る方が強くなる。このような職場の場合はエンゲージメントの前に次のビジネスを生み出すための施策の方が先である。

 

また、副業や兼業という働き方のトレンドも見逃せない。この環境下ではエンゲージメントというよりも会社と個人のオープンで対等な関係が鍵であり、一般的に言われているようなエンゲージメントの重要性は薄まると考えられる。社を超えたオープンなタレントで構成されるプロジェクトが中心の事業ではエンゲージメントの重要性は薄く、一方で社員の知恵やスキルを結集して自社プロダクトを開発するような事業では先のエンゲージメント施策は有効であろう。

 

組織がどんな事業をしていて、社員がどのような業務環境に置かれているのか、そこで発生する切実なジョブは何か、切実ではないジョブは何か。そのような視点を持ちながら組織開発・人材開発の施策を考えられると、”You are a business professional who have expertise in HR.“への道に近づくのではないだろうか。