コンセンサスリスク

Written by 津田 真吾 on 2022-05-20

新しいチャレンジを始める苦労を減らすには様々な処方箋があります。

その中でも、意思決定のプロセスによって変えられることは非常に多いのではないかと思っています。なぜなら意思決定を行う上で最大のリスクになるのが「コンセンサスリスク」であることが多いからです。

コンセンサスリスクとは

例えば、新しいテクノロジーを開発したと自称するスタートアップと出会い、投資したいと思ったとしましょう。すると、まずは一番賛成してくれそうな同僚に非公式に相談する方が多いのではないかと思います。いきなり意見を否定されることは精神的なダメージがあるため、味方になりそうな、普段の意見が近い人やどんな意見にもポジティブな反応をするような人が選ばれます。

予定通り賛同を得られても、即座に投資に至りません。次は上司に相談することになります。まだまだ不確実性の高いスタートアップに投資するとなると、上司に色々と質問されて、場合によっては詰問されていると感じるかもしれません。忙しかったり、虫の居所が悪かったりすると「そんな不確かな状態で相談するな」と言われる可能性もあります。

上司から前向きな反応が得られたとしても、チーム内、組織内から反対意見が出ることも考えられます。

一人で「新しい行動をとるぞ!」と決めたとしても、グループ内でコンセンサスを取るリスクがあるのです。優れた投資先を見つけられるかどうか、というリスク以外に社内で同意が得られるか?同意を取る過程で社内に敵を作ってしまわないか?といった「コンセンサスリスク」が立ちはだかります。

コンセンサスと結果

コンセンサスが意味するもの

ここで今一度「コンセンサス」について考えてみると、上の表のようにコンセンサスが得られなかったとしても、成功する案があることを忘れてはいけません。「スカンクワーク」とも呼ばれるアングラプロジェクトは、全員の賛同を得ることなく、ひっそりと進められたりするようなものがあります。有名なロッキード・マーティン社のスカンクワークスを筆頭に、内緒でひっそりと始まったプロジェクトが成功する例はよくあります。反対に、コンセンサスが得られなかったがために、見送った案件があとから大きく伸び、「あのとき、決断しておけば…」と後悔するケースもあります。つまり、コンセンサスが得られることと、結果とは直接の関係がないものの、まずは「コンセンサスが得られなければよいアイデアではない」といった考えが組織に蔓延していることはよくあります。

このようなコンセンサス主導の考えが蔓延している組織にオープンイノベーション部門やCVCが挙げられます。会社に新しい事業を生み出すために設立され、苦労して優れているスタートアップを見つけたとしても、事業部から同意が得られないといったことが起きるのです。最初のうちは、事業部への打診の仕方や説得方法に苦心しますが、次第に優れているスタートアップを見つけることよりも、事業部が気に入りそうかどうかを重視してしまいます。事業部の意見を重視した明示的な方向転換というケースもありますし、無意識のうちに評価基準が内向きになってしまうケースの、どちらもよく起こります。また別の例として、社内説得に成功し、会社が大きな金額の投資を決めたことだけでヒーローになるような組織も同様にコンセンサス主導であり、イノベーション志向ではないと言えます。大きな投資が大損害を生んだとしても、社内合意を形成した功績が評価につながるのです。このような考えが組織に存在することの善悪はさておき、私たちは一人の責任で失敗する責任を回避する傾向があると同時に、同僚や上司から賛同を得ることを大事なものと感じていると理解することができます。

コンセンサスのメリット

コンセンサスを重視することは、イノベーションを起こすエネルギーを消費するものですが、実はメリットもあります。まずはそのメリットからお話ししましょう。最大のメリットは、コンセンサスを重視することで組織内の統率が取れることです。全員が一つの事業を展開している場合には、一糸乱れぬ統一感で品質の高い事業が行えます。組織内で合意の取れないことは、組織運営上、混乱を招くこととして避けなければいけないため、コンセンサスを重視することはとても合理的です。書類だらけの組織をペーパーレス化するような(外から見て)合理的な提案も、(内側からは)反発されるのは混乱という名のコンセンサスリスクがあるからです。一人でもデジタルに弱い人がいたり、一つでも紙が必要な業務があれば、業務が滞り混乱が生じるため、コンセンサスが得られるまで非常に多くの時間と労力がかかるのです。

他にも内部メンバーの結束や、円滑な業務、人間関係などコンセンサスを重視するメリットはたくさんあります。

コンセンサスのデメリット

コンセンサスのデメリットとしてまず挙げるべきは、新しいことができないことです。新しければ新しいほど、その取り組みの結果は不透明となり、反対したくなるポイントが増えるからです。さらに、メリットとして挙げたメンバーの人間関係や結束が高まりすぎてしまうのも弊害です。成果よりもコンセンサスを重視したり、失敗したときの責任が曖昧になったり、貢献度の高い人が報われないと感じたりといった組織面のデメリットもあるのです。

私たちは機械ではなく人間です。そのため、貢献度の差はどうしても生じます。中心的に貢献した人にとって、成果が「みんなの」成果として評価されてしまえば、いずれやる気を失うでしょう。つまり同質な組織がコンセンサスを重視しすぎると、成果も出ないし、モチベーションも下がる一方です。

コンセンサスを無視!ではない

だからといって、コンセンサスを無視するべきだと言いたいのではありません。誰もがコンセンサスを無視して勝手に動くと、コンセンサスのメリットとして挙げた「チームワーク」「実行力」という2つの非常にパワフルな力がなくなってしまうからです。つまり、チームワークが不要で、実行よりも検討や構想段階においては、コンセンサスは無くても構わないということになります。

先ほどの例において、CVCを立ち上げたなら「投資」については事業部のコンセンサスは要りません。優れていると判断したスタートアップに投資ができるような仕組みを作る方が結果が得られるでしょう。ただし、投資先のスタートアップが(特に投資を行った時点で)事業部との連携に相応しいとは限りません。むしろ、破壊的なスタートアップであればあるほど、カニバリゼーションの危険があるため事業部との連携が難しいケースが多いものです。もちろん、CVC内においても満場一致での投資判断を行っていたのでは、人数が多いチームであればあるほど、本来のイノベーティブな投資はできなくなる傾向にあります。かといって、コンセンサスなしに多額な投資もできるとなると、失敗したときの被害が大きくなり、一人による一つの間違った判断で全体が壊滅することも起こり得てしまうというジレンマが生じます。

追認プロセス

このジレンマを解決することが、コンセンサスリスクを下げ、意思決定の速度を高めると同時に大きな失敗を避ける秘訣になります。そこで、実はコンセンサスなしに成功するパターンを注意して眺めてみると、実は、コンセンサスは予想外のプロセスで構築されていることが分かります。一度に築かれるものではなく、細かいステップで構築されています。最初は、口頭でのアイデア、次は簡単なビジネスモデル、その次は要素のプロトタイプ、次にピッチ…といった具合に、徐々に徐々に形にしながら合意が形成されていきます。

その際、「追認」ということが行われているのです。極端な話、「アイデア出しても良いですか?」という承認を得てからアイデアを考えないですよね?同様に、「~試してみても良いですか?」という事前承認よりも「~試してみたら○○な結果が出たんですよ!」と小さな進歩を追認していくプロセスが実態です。

つまり、承認→実行ではなく、実行→追認 という順序です。

手を動かして何らかの形にしてみてから、追認してもらうというステップを意識してみてはどうでしょう。

統計的アプローチ

最後に。実はコンセンサスを重視した方が良いときと悪いときを判断する簡単な方法があります。

それは、「普通にやると、それは失敗するような事柄なのか?」と自問自答してみることです。例えば、とある商品の見込み顧客への営業活動を行うときを一例に考えてみることにします。もし、とても商談成功率が高い商品を扱っていて、10回中9回は受注につながるような易しいものなら、過去の成功事例や失敗事例を多く知っている人たちからチェックしてもらいながら、ミスのないように準備を重ねることが大事になります。しかし、これまで成功事例がないような新商品を扱っているとすれば、過去のやり方を聞いて、失敗を繰り返さないようにすることはできますが、成功する方法は過去に試したことのない方法で行うしかありません

難題に対して、(事前の)コンセンサスを求めすぎると、過去に失敗した方法を繰り返してしまいかねません。あるいは複数の対策を同時に取り入れるといった、非現実的で難易度の高い解決策に膨らんでしまうこともよく起きます。

統計的に成功者の少ない課題については、マイナーな解決策が正解につながるかもしれません。なぜなら、マジョリティの人が取る解決策が上手くいかない結果、成功確率が低いという可能性が高いからです。青色ダイオードを発明した中村修二さんも、多くの研究者が取り組んでいたセレン化亜鉛ではなく窒化ガリウムという材料に着目したことが大きなブレークスルーに繋がったと語っています。「優秀な研究者がこれだけ研究してきたセレン化亜鉛で結果が出ないということは、無理なのかもしれない」と考えたそうです。

つまり、どんなに難しく見える問題も過去の失敗に対しての仮説を立てたうえで、別の解決策を試してみることで突破口になることがあるということです。こんな問題や課題については、コンセンサスよりもマイナーな意見を重視するアプローチを取るのです。そうやってコンセンサスリスクや、難しい課題も前向きにとらえてはいかがでしょうか。

イノベーションは国を創る。

Written by 津田 真吾 on 2022-02-28

ロシアによるウクライナ侵攻に憂う。人類は経済やスポーツなどというゲームを発明した。この発明によって私たちは、争いたい、勝ちたい、競争したい、といった根源的なジョブを健康的に処理する術を身に付けた。イノベーションは、Win-Winを生み出す。私たちの選択肢を増やし、戦争や人殺しといったLose-Loseの行為から目を背けてくれる。

Moatとは?参入障壁と何が違うのか?

Written by 津田 真吾 on 2022-02-08

まず最初にUbieの創業チームが話しているこのポッドキャスト、めちゃくちゃ面白いんでスタートアップとか事業開発やってる人は是非聞いてください!
とくにMicrosoftとSlackの分析は冷静かつ謙虚かつ大胆ですごいです。

(Ubieを知らない人も少なくなっているかもしれませんが、ユビーAI受診相談などを開発しているユビーです。最近は海外進出し、英語版もリリースしてたりします。)

さて、これを聞いて触発されたので書くんですが、Moat(モート)って考えてますか?

“参入障壁“という言葉の方が比較的馴染みがあるかもしれませんが、Moat(モート)というのは、似て非なるキーワードです。

Moatとは、日本語で“堀”を指す言葉で、城を守るために周囲の地面を掘りこんで、簡単には敵に攻められないようにするアレです。水が張ってある堀もありますし、単なる溝になっている堀もあります。Moat に対して参入障壁はBarriers to Entry、ということでMoatよりは鉄壁な言葉のニュアンスに違いがあります。

しかし、Moatと参入障壁には言葉のニュアンス以上に違う点があるのです。というのも、参入障壁とはあくまでも大企業が安定した経営を続けるために築くものだからです。市場のパイを新参者に取られないように特許や規制で固め、新しい業者の参入コストを大きくすることが狙いです。

他方のMoatは、Ubieのように自社も成長しながら、マーケットを拡大していく際に築くものです。なので、前提として競合も存在しているし、市場のパイも成長しているという違いがあります。つまり、競合は今後も増える前提に立ち、それらの競合よりも早く成長できるように、自社に有利な条件をつくるという発想が必要です。喩えるなら、忍者が前に全速力で走りながら“まきびし”を後ろに撒いて、追いかける敵をさらに遅くさせるイメージです。

Moatは自社事業をつくりながら、同時に、他社との本質的な優位性を築くことが求められることにあります。

TAMが大きければ大きいほど、そのマーケットは魅力的です。目標が大きく、攻めてるスタートアップほど、真剣にMoatと向き合うことになるはずです。

Moatのジレンマ

Moatと向き合うと、とあるジレンマに気づくかもしれません。

そのジレンマとは、「作りやすいMoatは他社も乗り越えやすく、強いMoatを作るのは大変だ」ということです。手に入れやすい優位性は、あっけなく優位性を失う、つまりEasy Come Easy Goですね。

Moatは自社にとっての難易度と他社にとっての難易度で4つの象限に分けることができますが、めったにEd象限の選択肢はないということに愕然とするのです。

自社には容易だが
他社には難しい
Ed
自社・他社にとって
ともに難しい
Dd
自社・他社にとって
ともに容易
Ee
自社にとって難しく
他社には容易
De

その割に、De象限にあるような戦略は案外あるものです。当たり前ですが、この象限の戦略は回避され、選ばれません。

そうなると、事業を進めながら自然にできるようなMoatが次に魅力的に見えます。しかしこれらのMoatは他社にとっても比較的獲得が容易なEe象限にあることが多いです。例えば、事業開発を加速し、知名度の先行者利得を得ようと考える会社がこれに当たります。スタートアップの限られたリソースで築ける1~2年の先行者利得は、そこまで大きくはありません。スタートアップが数年かけて作った知名度も、大企業が本気でテレビコマーシャルを打ちまくったりすれば、あっけなく消えてしまうリスクがあります。

Ubieの例のように、KOLのような獲得コストがかかるけれど大事な顧客につかってもらうことや、リアルなユーザーデータを獲得することは自社にとっても遠回りですし、他社にとっても築くのが大変なMoat(Dd象限)です。

この象限を攻めるという一見骨が折れる泥臭い戦略は、成功すると大きなMoatを築けるというメリットがあります。そして出来上がってみると、必ず予想以上の効果があったりします。

予想以上の効果というのは「他社の意欲を削ぐ」という効果です。

追従しようと思っていた他社から見て、Dd象限のMoatが他社の手に落ちると、「自社には難しいけれど、他社はやり切った」というDe象限に見えてしまい、回避されるのです。これこそが強いMoatの他ありません。難攻不落だと敵に思われれば、仮に裏門が開いていても、敵は攻めて来ないのです。

Do things that don’t scale

Paul Graham

Paul Graham(ポール・グレアム)が言うところの「スケールしない」泥臭いことをやり切る目的は、このDd象限のMoatを作る目的だと捉えてはどうでしょうか?


後日談

このMoatの話をその後Ubieの阿部さんとしました。すると、一度DdのMoatを掘ったことで、さらに追加のMoatを掘る限界コストが下がり、当初選択肢がなかったEd領域の打ち手が増えている状況にあるそうです。
つまり、強いMoatをつくることで、提供価値とMoatが“複利加速度的”に増えている、ということを教えてもらいました。

一つ目のDdを泥臭く作り上げたUbieのサービスから得られるユーザー体験。この体験は、次なるData Moatとなるデータを生むマシンとなり、自己成長するエンジンにもなっているんですね。今後のUbieの成長と、世界への変化には期待しかありません。

なぜ Generation Z をターゲットにするべきでないか?

Written by 津田 真吾 on 2022-01-12

若者世代をターゲットにしたビジネスは成功しずらい。特に「X世代」とか「Y世代」とか「Z世代」とか「ゆとり世代」とか「さとり世代」とか、そういう世代をターゲットにすると成功は厳しい。結論から言うと、“世代”をターゲットにすると失敗するが、“世代”を忘れることができれば、成功の一歩目は踏み出せる。少し説明しよう。

なぜ難しい世代なのか?

これまで団塊世代や団塊ジュニアをターゲットに成功してきた企業は、市場の先細り危機感から何度も企業は若者の消費を喚起しようとチャレンジをしては失敗している。

その失敗の原因には色々な説があり、どれも説得力がある。

  • 若者は可処分所得が少ない。
  • 若者はデジタルでほとんど事足りるので、クルマやテレビなど「~離れ」が起きやすい。
  • 若者は衣食住が足りているので消費意欲が低い。
  • 若者の価値観は違うので、従来のマーケティング手法が役立たない。

これらの理由は納得感が高いので、たまに「若者の価値観を持った若者」「ジェネレーションZ向けのマーケティング」をやっているのを見ると、それを信じて託したくなる。しかし、残念ながらジェネレーションZが起業してジェネレーションZ向けのビジネスを行ったとしても必ずしも成功確率が高いとは言い難い。

その理由はジョブ理論から考えれば明らかだ。

「世代」が消費するわけではない

前述したように、「団塊の世代」「団塊ジュニア」という2つの画一的なマーケットが存在したために、私たちは「世代」というのは一つの消費性向を持つものだと考えがちだ。しかし当たり前だが、同じZ世代でも大谷翔平さん、藤井聡太さんといったアグレッシブな人もいるし、そうでない人もいる。

そう考えると、それまでの世代で「世代別マーケティング」が偶然にも成功してしまったことの方が悲劇なのかもしれない。

状況がジョブをつくり出す

人間は、環境が激変すると必要なものが同じになる。急に感染症が蔓延した2019年、人々はマスクを買うのに躍起になった。石油や石油商品がなくなる(もしくはなくなる不安)という状況に陥ると、石油ショックのときのように狂った消費に走る。消費税率が変わったときも覚えているだろうか、高額商品を購入しておこうと色々なものの特需が生まれた。

コロナでリモートワークを強制されるとZOOMやTEAMSを「雇った」のも同じ構図である。ジョブ理論では、「状況がジョブをつくる」という言い方をするが、とある状況からの進歩を目指すとき、その進歩のステップがジョブとなり、消費に結びつく。

Generation Zをどう観察するか?

私は決して若者世代ではないし、若者の「価値観」が分かっているわけではない。しかし、彼らがどのような「消費行動」を取っているのかは注意深く観察するとよくわかる。いくつかそのポイントを紹介しよう。

1.「消費」はお金を使うとは限らない。
私たちは、一般に稼ぐ力の弱い若年世代のうちは、お金よりも時間を消費する。特急料金を払わず青春十八きっぷで旅をしたり、高速道路を使わず一般道を走った。相対的に時間と体力があり、お金のない状況にある若者の「消費行動」を知るには、売り上げデータとにらめっこしていても答えがでないだろう。無料で遊べるゲームやSNSがふんだんにある今の状況ではなおさらである。

2.どこにでも行けるし、同時に複数の「所」に行ける。
GenZより30歳以上離れた諸先輩方は、どこに行くのも「リアル」でしか行けなったし、誰と会うのでも「リアル」でしか会えなかった。電話こそあったが、留守だったりすると連絡がつかない。なので、誰かと会いたければ半日以上かけて移動したり、待ち合わせしたり、コストも時間もかかるのが当たり前だったのに対し、現在はサクッと話をしたり、メッセージを送っておくこともできるし、会いに行くにしても交通機関はかなり便利になっている。移動中も“繋がって”いられるし、他の人と直前まで話していることもできるのだ。つまり、たくさんの選択肢があるだけでなく、「全部」を叶えることも難しくなくなっている。若者の行動は同時に1つとは限らないのだ。

3.情報だけはあるので、「選択」にも時間がかかる。
ググればほとんどの情報は手に入る。書籍も格段に多く、何か一つの行動を取る際にも選択肢が比べ物にならないほど増えている。しかし、この情報を処理する人間の脳は変わっていないため、さまざまな選択肢から結論を出すには時間がかかる。大人たちから見れば、何もやっていないように見えるし、「迷って」決断が遅く見えるかもしれないが、選択肢を探すことも含めて選択そのものに非常に時間がかかっている点も注意に値する。子供のころから将棋や野球の道を目指し、恵まれた才能もあれば「迷い」も減るかもしれないが、そうでない大半の若者は買い物一つ取っても選択に非常に時間をかけている。

4.とにかく多様である。
当たり前かもしれないが、とにかく多様である。前述したように、選択肢も多く、同時に複数の選択をすることもできるし、何も選択しなくても大丈夫な状況に置かれていると、色々なことが可能である。戦後の貧しい時代に若者だった団塊世代は、とにかく金銭的に豊かになるということが当然の進歩になる。しかも、終戦というタイミングからよーいドンで経済的豊かさを追求すれば、同じタイミングで家電や家、クルマなどといった同じものを消費するという分かりやすい行動パターンになる。同時期に生まれた彼らのジュニアたちも同期した成長をするため、デモグラフィックが有効だ。だがしかし、豊かになった時代以降に成長するということは一体何を意味するのか?豊かさ以外に人生で追及することと言えば…そう一概に言えないのだ。まさに個性が違いを生むし、好みや趣向が占める割合が多くなる。「世代」という括りで見ると答えが多すぎて戸惑ってしまうはずだ。

5.「悟って」はいない。
「さとり」世代とか、達観世代という別名もあるように、何かに深くのめりこむことができていないように見えるかもしれない。だが、それはまだたくさんあるオプションを試し切れていないだけだと理解した方が良いだろう。「悟った気になる」ことはどの世代であろうとも若者の特権ではあるが、決して悟ってはいないのだ。行動を見れば、色々なものに興味が移るし、同時に複数のことに興味を持っているようだ。深読みしすぎず、かえってその多次元的、同時並行的な行動と状況からジョブを紐解くことをお勧めする。

GenZをターゲットにしたビジネス

ここまで書いて分かるように、「Generation Zをターゲットにしたビジネス」という、粗く、年齢セグメントに着目したビジネスはお勧めしない。しかし一方で彼らの消費行動はネットやメタバースにも波及しているし、同時に複数の消費も可能な貪欲なマーケットだ。また、ほとんどの企業が失敗しているマーケットであるため、チャンスは大きいと言える。TikTokなどの成功事例もある。まず、コツは解像度を高めて「~な状況に置かれた若者」といったターゲット設定をすることから始めることをお勧めする。さらに、以下の観点で優れた解決策を生み出すことができたら面白いだろう。

  • 「選ぶ」プロセスや「選ぶ」体験価値はもっと高められる
  • 「何者にもなれる」ことは「何者でもない」という矛盾を秘めており、感情的ジョブ、社会的ジョブの源泉である
  • 「暇つぶし」は大切なジョブである
  • インターネット、さらにメタバース内のキャラクターにもジョブがある

『ジョブ理論』と「JOBSメソッド」は競合するのか?

Written by 津田 真吾 on 2021-11-24

クリステンセン氏は亡くなってしまい、『ジョブ理論』増刷(なんと12刷)に「おめでとう」も「ありがとう」も言えない。

クリステンセン氏には『イノベーションのジレンマ』『ジョブ理論』、『イノベーション・オブ・ライフ』、『繁栄のパラドクス』といった書籍に代表されるような、本当に役立つ考え方を教えてもらった。有難いことにクリステンセン氏以上に、INDEE Japanのメンバーや、XVCのメンバー、投資先のファウンダー達から考え方を授かることは本当に多い。そういう知恵をもらうと、謎が解けたことに感動し、新しい知に脳も喜ぶものだ。

さらに嬉しいのが、「『ジョブ理論』を教えてくれてありがとう」と言われることだ。何年も前のプロジェクトやセミナーでご一緒し、その時にお伝えしたJOBSメソッドをよく覚えてくださっているのだ。そして、「ありがとう」と言われること、特に何年も経ってから覚えて頂いていることは本当に嬉しい。

さて、講演やコンサルティングの現場でお伝えする「JOBSメソッド」は、ジョブ理論を実践するための一連の手法である。INDEE Japanで開発したものではあるが、まったくゼロから考えたものではない。『イノベーションへの解』『ジョブ理論』『ザ・ファーストマイル』といった書籍を読めば、理論の内容だけでなく実践面でのコツなども概ね身に付けることはできるだろう。あるいは、優秀なマーケターなら「ジョブ理論」を読むまでもなく、似たようなアプローチを取っていたりする。つまり、『ジョブ理論』は2000円で購入することのできる「優れたマーケターになるためのガイド」であり「イノベーションを成功させるためのノウハウ」であり、「顧客価値を生み出すための考え方」なのだ。

したがって、書籍『ジョブ理論』はINDEEがお届けする「JOBSメソッド」は競合製品ということになる。一人当たり10倍以上の価格差があるので、「本を買っておこう」とか、さらに節約して「図書館で借りよう」ということになると、INDEEはアガったり…となってしまう。が、案外そうでもないのである。

微妙に異なるジョブ

実は、ビジネス書と企業研修やコンサルティングは異なるジョブを解決する。

書籍は、安く、一人で、マイペースで、読んだり、(こっそり)読まなかったり、自由に知識を得ることができる。

一方のセミナーは、本よりは高いが、チームで、ある時間をコミットして、知識を得たり、不明点を質問したり、(こっそり)実践のヒントまで得ることができる。さらにコンサルティングでは、自分の仕事にジョブ理論を当てはめることができるし、ジョブ理論以外の技も(こっそり)学べる。

この(こっそり)というのが、ミソである。

実は購入されたビジネス書の8割以上は読まれていない。「積ん読」という言葉が出来たことには理由があるのである。「知っておかなきゃ」と思って本を入手しても、読まなくてもよいのが本なのだ。この「積ん読」という言葉は、世界各国で「あるある!」と、“tsundoku”という言葉が輸出され、英語のWikipediaページも存在する。買った本を読もう読もうと先延ばしにすることは世界共通で起きる事象なのだ。まとまった時間を取るのは大変だし、他の本も読まなきゃだし、読み切るのに一冊の本はそれなりの時間がかかってしまうという欠点がある。

つまり「知識を手に入れたい」というジョブの解決策として「本を買う」というのは、完璧な解決策ではない。なので、本の要約サイトなども繁盛するし、超要約「ジョブ理論」といった、まとめ記事もアクセスが多い。

「共通言語」

近年、イノベーションの取り組みのなかで「Common Language」「共通言語」の必要性が認識されつつある。こちらもWikipediaのページが参考になるのだが、「ジョブ」という考え方に限らず、新規事業やスタートアップに必要な考え方の多くは、既存ビジネスとの共通項は少ない。既存ビジネスにおいて、マーケティングデータがあるのにもかかわらず仮説ベースの「仮説検証」を行うのは無駄が多いと言わざるを得ないし、過去の品質問題を知らずに製品開発を行うのは無謀だ。さらに極端な例かもしれないが、エンロン事件のように会計業務が「クリエイティブ」だと本当のマズいことになる。つまり組織内の全員がイノベーティブな行動を取る必要はない。しかし同じ組織にいる以上、コミュニケーションは必要だ。

そんなときに、「共通言語」はとても大切な考え方になる。新規事業と既存ビジネスとは交流が常にある訳ではないが、リソースは共有している。大切なリソースを配分する際、まったく会話が成立しないのは相当なハンディキャップになる。定性的で感覚的になりがちな新規事業と、定量的で硬直的になりがちな既存ビジネスとが共通言語を持つことで得られるメリットは大きい。政治的で感情的な議論から、可能性とリスクを基準にした議論ができることになるのだ。

組織単位の研修やセミナーでは、その共通言語を一度に築くことが可能になる。一人一人が苦労しながら学ぶのは異なり、組織で共通認識を促進し、議論のベースを築くことができる。組織での学びは、個人の学びとは異なるジョブなのだ。


少し宣伝的になってしまいましたが、今回言いたいことはこんな感じです。

  • 一人の学びとして本は(自由)で何かと都合がよい。
  • 本は案外(自由)なため、読まれない。
  • 組織学習にはセミナーが有効。
  • 競合品のように見えても異なるジョブを解決していることが多い。