アイデアをマネされたらどうするか?

Written by 津田 真吾 on 2020-02-10

自分が考えた新規事業のアイデアをパクられた!

まずは「おめでとう!」と言いたい。素直に。ほとんどのアイデアは誰からも見向きもされず、忘れ去られることを考えれば、素晴らしいアイデアを出したあなたは褒められるべきだ。

でも、褒められたところで釈然としない気持ちが残ることは経験上、よくわかる。一所懸命に考えて、準備したネタを、タダで盗まれるのは悔しいし、人間不信にもなるかもしれない。聞いたアイデアを実行してみたいほど気に入ったのなら、なぜ言ってくれなかったのか?なぜ誘ってくれなかったのか?と、寂しさと悲しさに覆われる。

しかし、優れたビジネスは模倣される運命にある。だからこそ、誰かにその新しいアイデアを相談すると必ず「競合優位性は?」「独自性は?」「模倣困難性は?」としつこく聞かれ、要するに「参入障壁を作らないと苦労するよ」と言うのである。シリコンバレーにも「アイデアには価値がない。実行にだけ価値がある。」という文化があるのも合理的だと思う。しかも、ビジネスのスピードが急速になっている現在、「障壁」を意味するBarrier よりも 、同じ城壁を守るが泳げば渡れる「掘」を意味する Moat が好まれている。模倣は可能だが、競合が追いつきにくくすることなら可能だという意味だ。

さて、今回三菱商事がsoucoのアイデアを完コピしたことや、Origamiが事業を畳んだり、PaypayやらLinePayやらD払いなど、QRコード決裁が死ぬほど増えている現状から、まずはこの参入障壁や競合優位性について書いてみたい。

パクられないアイデアとは?

「参入障壁」には数多くの種類がある。ピーター・ティールは

  • Proprietary Technology 独自技術
  • Network Effects ネットワーク効果
  • Economies of Scale 規模の経済 
  • Brands ブランド力

の4つを挙げている。またマイケル・ポーターは次の8項目を参入障壁だと定義している。

  • Trademarks consolidated in the market  市場における商標――ピーターティールのブランド力と同じ
  • Patents 特許 ―― 独自技術を公開し、国家権力で独占化する試み
  • Government Policies 政府の政策―― 国や政府が管理している医療、通信、交通、放送などの分野では新規参入者への認可や承認などのハードルがある
  • Mastering cutting-edge Technologies  先端技術の体得――ピーター・ティールと同じ
  • Economies of scale 規模の経済――ピーター・ティールと同じ
  • Learning Curve 学習曲線――技術体得や、ビジネスモデル体得までの時間的制約
  • High Capital Requirements 大きな資本の必要性――小さなオンラインストアなら数万円で開業できるが、石油採掘や宇宙事業は巨大な資金が必要
  • Access to Distribution Channels  代理販売業者へのアクセス――拡販する際の規模

これらの参入障壁のうち、斜線のものは大企業でないと手に入れられない点が重要である。つまり、スタートアップにとっては、喉から手が出るほど欲しいのがこのような障壁となり得る強みなのだ。

残る「学習曲線」「独自技術」「特許」で守るしかない。だが、優れた技術であればあるほど研究に時間がかかるし、ある程度はそのアイデアを口外しないと必要なリソースが手に入らないのも事実である。そうなると、八方ふさがりのような気もするが、実は突破口はある。

Motivation ― 人がやりたくないことをやる

クリステンセンも、破壊的イノベーションは最初、非常に小さな市場や辺境から始まると言っている。それは大企業にとって「魅力が無い」市場に映るからだ。例えば「遊休倉庫の稼働率を上げたい」と願うのは、たくさんの倉庫を抱える大企業である可能性が高い。どうせ眠っている資産なら誰しもが有効利用したいだろう。とてもわかりやすく、魅力的なアイデアだったことが仇となった可能性が高い。

Amazonのベゾスは、自社の利益を極限まで絞って値付けした。儲かりすぎると、他社が追随すると思ったからだ。ギリギリで薄利ビジネスを営むことで、他社には消耗戦に参入したくないと思わせているうちに、「規模の経済」や「ネットワーク効果」を作り上げた。Eコマースが流行する前に、地味に始めたことで学習曲線も随分先に進んだ。ベゾスはかつて「iPhone唯一の失敗は価格を高く設定しすぎたこと」だと言ったそうだが、利益率が高く、魅力的なビジネスに見えたことで後発のAndroidにシェアを奪われたという見方はさすがだ。

要するに「良いアイデアだけど、ウチはやりたくない」と思わせるようなアイデアが一番良いと思っている。

三菱商事のケースでは、soucoのアイデアを真似したかどうかよりも、「真似したんじゃないか?」と思われるリスクや、今後スタートアップから信用されないかもしれないリスクを冒してまでも、やってみたいような良いアイデアだと感じたのだ。

―最後に―

マネをされると悔しいし、マネをされた人を恨みたくなる。スマートな戦い方じゃない、と批判したくもなる。何のクレジットもなく論文やアイデアを盗まれたこともあるので、その悔しさや痛みはわかるつもりだ。でも実は、日本という国が今、先進国と見なされ、おおむね豊かに暮らしていけるのは先人たちが「マネ」をしたからだと思っている。リバースエンジニアリングや産業スパイは行われていたのも事実だ。「これは必要だ」と感じれば躊躇なく行動することが大事なのである。スティーブ・ジョブズもピカソも、「優れた芸術家はまねる、偉大な芸術家は盗む」と言ってきている。

だからと言って、パクりやマネを奨励する気はないことは強く断っておきたい。

さすがにレジに並んだとき、決済手段があまりにも多すぎてうんざりするし、レジのバイトが可哀そうだ。毎月新しい決済サービスをシステムに導入しているSIerのエンジニアからも悲鳴が聞こえる。○○ペイ、SUICA / PASMO / Quickpay、各種クレジットカードとか…横並びでマネをして、そこに未来を見ているのだろうか?他社に勝ったり、既存の大手企業を潰すことを目標にしていないだろうか?

最終的には消費者の選択によって企業が淘汰されていくことになるだろう。そこには血みどろな戦いも予想される。そういう明確な戦いを好むビジネスマンも多いが、そのプロセスはあまり楽しくないのではないだろうか。マネも良いが、消費者から見てその選択肢が増えることが良いことなのか今一度考えたい。

世界は螺旋で進歩する

Written by 山田 竜也 on 2020-02-10

D2C(Direct to Customer)の出現

D2C(Direct-to-Consumer)という言葉をご存知でしょうか。卸売店・小売店などの流通を介さず、ECサイトで直接ブランディング・販売を行い、企業から消費者にダイレクトに商品を届ける仕組みのことです。

テスラもD2Cですし、眼鏡のWarby Parker(ワービーパーカー)、最近話題のAllbirds(オールバーズ)という靴もD2Cとカテゴライズされています。

また、言葉としては、シェアリングエコノミーにより増えてきたC2C(個人間商取引)もありますし、一般消費者向け商品を生産するメーカーの間に卸売が入ったB2B2Cもあります。色々なアルファベットの組合せが余計に複雑にしている様な気もしますが、一般消費者向けの製造業を対象にシンプルに考えれば、作り手と消費者の関係の違いで定義できます。

 

生産者 −> 卸売業者 −> 小売業者 −> 消費者

 

生産者 <−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−> 消費者

 

単に仲介業者を減らすだけだと、中抜きするだけですが、新たに着目されている理由はDirectという言葉が示す様に、直接顧客と関係を結べる事にあります。作り手と消費者の関係が双方向になるのです。

これにより、amazon primeやFacebookの様なソフトウエア商品では無い自動車や靴がソフトウエア商品の様な関係性を顧客と直接結ぶことが出来ます。顧客との関係性が直接になれば、製品開発に役立つ情報がダイレクトに取れますし、顧客との関係を深めてLTV(Life Time Value)ベースでのビジネスに繋がります。

 

こうした商取引きは新しいのか?

「生産者が作ったものを直接消費者に届け、顧客との関係をダイレクトに結ぶ」このモデル自体は特に新しくありません。オーダーメードで限られた数の靴や服を売る様な工房型の店は古くからあります。オーダーメードでなくても常連さんを抱える老舗のパン屋さんやケーキ屋さんもあります。
但し、こうして始まった店も顧客数が増え、直接顔の見えない顧客に商品を届ける様になると間に流通業者が入り、大量生産、大量販売が進み、顧客との接点が小売店側に移りB2B2Cの状態になります。販売量が増えてもネットでのお取り寄せの様な形で顧客との直接の関係を維持している場合もあります。

工房型の直接取引、卸売業・小売業を介した大量販売、ネットでの直接取引、結局はいくつかのパターンが繰り返し現れるだけの気がします。同じ所をグルグル回っているだけで、そこに進歩は無い様にも見えます。

 

では、何が新しいのか?

D2Cの本質的な新しさは、SPAと比較すると分かり易いです。どちらも自社で企画、生産した商品を消費者に直接届けるという点は同じです。違いは顧客情報の活用度合いにあります。顧客が商品を購入した販売時点までか、使用後も含めたライフサイクルまで捉えているかにあります。

使用後の反応こそを大事にしているのがD2C企業と言えます。購入時のBig Hireより使用後のLittle Hireにこそ、顧客に選ばれ続けるヒントが眠っているからです。

認知 −> 購入 −> 利用 −> 利用の継続 −> ジョブの解決

生産者 <−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 顧客からの発信

先ほどの製品やサービスを届ける流れを顧客の視点で書くと上の様になります。

Big Hireは顧客が製品やサービスを購入した瞬間です。この時点ではその製品やサービスを購入したいという顧客のニーズは満たされていますが、顧客がその製品やサービスで解決したかったジョブは未解決のままです。Little Hireとは顧客が製品やサービスを利用した瞬間、もしくは利用し続けてジョブが解決した瞬間です。そして、この瞬間になって初めて顧客からの発信が始まります。生産者が得たいフィードバックが得られる様になります。

例えば、楽器は多くの人が一度はトライし挫折するものの典型です。購入した瞬間には高揚感はありますが、本当に解決したいジョブはその先の弾けた瞬間にあります。そして、そこまで辿り着くには時間がかかります。ギターで有名なフェンダー(Fender)は、ギターを始めた人の90%は1年後には挫折してしまうという状況を発見し、ギターが上手くなり演奏を楽しめるリトルハイヤの瞬間までを支援するために、フェンダープレイ(Fender Play)という初心者のプレイヤーを対象としたオンラインギター学習システムを開発しました。

もちろん、どの企業も販売後の顧客の利用状況を掴もうとしています。昔も購入した製品にユーザー登録の葉書は付いていましたが、ほとんど使われる事はありませんでした。新たな商品解決のための情報は、別途、マーケティング調査を行って入手している場合がほとんどです。

自分たちが良いと信じるものを作り、顧客と直接関係を結び、顧客からのフィードバックを重視して、一緒に良いものを作っていくのが、D2C企業の戦略と言えるでしょう。

 

何が新しさを支えているのか?

一見商取引のパターンがグルグル回っているだけの様にも見えますが、それを支えるインフラは変わってきています。インターネット、決済サービス、物流サービスがあるからこそ、メーカーと消費者の直接取引が可能になります。SPAとD2Cを分ける消費者からの発信は、インスタグラムなどのSNSの発展により可能になりました。

どんな商品において、どの様な商取引の形態が望まれているか?様々な商品が溢れかえる現代に置いては、より自分だけの特別な商品を使いたいという感情的なジョブが強くなります。好きなブランド、自分が推しているブランドを周囲に示したいという社会的なジョブも生まれてきます。

「こうしたジョブの変化と、それを実現するテクノロジーの変化」は即ち、螺旋を上から見たときに、どのジョブが強くなっているかと、螺旋を横から見たときに、どのジョブを解決できるテクノロジーが用意されているかに相当します。

 

2つの視点で世界を見れば、世界は確実に進歩しています。
世界は螺旋で進歩するのです。

顧客インタビューで気をつけたいこと

Written by 星野 雄一 on 2020-01-31

新規事業を推進する上で欠かせないのが、顧客のことを知ることですね。その一環としてインタビューを行うケースも多いでしょう。でも、いざやってみると難しいことも多いですよね。ここではいくつかの気をつけたい事例を共有しつつ、どうすれば良いかを考えたいと思います。

 

「これってどうですか?」パターン

自分の仮説が当たっているかどうかを聞きにいってしまっています。特に既存事業でインタビューに慣れている方がハマりやすいです。具体的には「こんな課題ありませんか?」「例えばこういう商品だったらどうですか?」と、クローズドクエスチョンに持っていってしまいます。ジョブを”発見”しに言っているのに、”確認”ばかりではいけないですよね。

 

「ジョブがなかった、仮説が外れてた…」と嘆く気持ちになりますが、「No」から派生する会話の中ではヒントになる情報がたくさん隠れていますので、ここを掘りましょう。

 

「わかりますー」パターン

顧客の声をしっかりと傾聴しているのですが、ただ持論を聞いて終わっています。やっていることをひたすら聞いているうちに共感モードに入り、そうですよねーとなっていく。相手が何をしているかは拾えているのですが、なぜその行動を取っているかを拾えていません。

 

「元々考えていたジョブではなくて、共感できる違うジョブが発見できた!」と心躍る前に、もう少し深く聞いてはいかがでしょう。

なぜその行動を取っているの?どんな時に?今の方法とは違う手段はなぜ取らないの?

 

「なぜですか?」パターン

なぜ顧客がその行動を取っているのかを抑えようと努力しているが、答えを知りたいかのごとくストレートに聞いています。 顧客はすべて思考で論理的に行動をしているわけではありません。こう聞かれると多くの場合、頭で考えたそれっぽい返しが戻ってきます。

また事情聴取のような場になることもあるでしょう。

 

相手の言葉のみならず意図もしっかりと押さえるために、ぜひ”今やっていること”を拾い上げてみましょう。その後「なぜ?」を推察することをお勧めします。

 

ジョブ発見型のインタビューの場合は”なぜ”を直接的に拾うのではなく、現在の行動から”なぜ”を推察することが肝要です。JOBSのフレームワークを使いつつ、ぜひ意識して取り組んでみてください。

クレイトン・クリステンセン氏の死を悼んで

Written by 津田 真吾 on 2020-01-26

クレイトン・クリステンセン氏が遂に、亡くなられた。67歳だった。

Clayton Christensen dies at 67 after lifetime of business, spiritual influence

SALT LAKE CITY – Clayton Christensen, whose theory of disruptive innovation made him a key influence on Silicon Valley powerhouses like Netflix and Intel and twice earned him the title of the world’s most influential living management thinker, died Jan. 23 at age 67.

深刻な健康問題を抱えていたことは知られていたので、突然亡くなったようなショックではないものの、衝撃と喪失を感じている。クリステンセンの書籍は残るし、彼の「理論」も残るし、彼の理論を応用したいくつもの会社たちもきっと世の中に残る、がである。

世の中にインパクトを残したい、と新しいアイデアや、新しい本や、新しい製品や、新しい技術や、新しい会社をつくり出す人は多い。クリステンセンの理論は、 ささやかな私という個人にも大きな影響を与えた。が、そんなことよりも IntelやAmazon、Appleの経営に大きな影響を与えたことが知られている。Amazonがここまで急速に超巨大な企業へと成長したのは、ベゾスが理解の難しい破壊的イノベーション理論を完全に我がものとしていたからだと私は考えている。

クリステンセンの影響力は単にビジネスという文脈に限らない。確かにハーバードビジネススクールで教鞭をとり、イノサイトというコンサルティング会社を立ち上げ、いくつものビジネス書を書いてはいるが、書いてある内容や教えている内容はビジネスというゲームの遊び方ではない。ビジネスが人間の経済活動をどのように形作り、働いている人たちの心理がどのように影響し、意思決定者がどのようなバイアスを持つのか、という人間理解の切り口だと、私は考えている。だからこそ、色々な人の心にも残っているのではないだろうか。

例えば「破壊的イノベーション理論」では、新興企業の開発する未熟な技術が未熟であるがゆえ、大して注目もされず、注目度が低いだけに本当に必要とする顧客に採用されながら成長する過程を解説している。この間、エリート企業は油断しているわけではなく、完成度を次々と高める持続的イノベーションは行っているのだ。後知恵では、既存のエリート企業を駆逐するベンチャーという流れは当たり前のように感じるが、実際に最中にいる人間には、エリートを見切って、エリート街道を走っていない“しょぼい”(粗削りで底辺の)技術に投資をするという判断は、とてつもなく難しい。『イノベーションのジレンマ』を何度も何度も読んだとして、理論を知っていたとしても難しい。

また「ジョブ理論」では、作り手が一所懸命にモノづくりに込めるこだわりとはまったく別の視点から、買い手は商品を“雇う”と解説する。買い手のこだわりは、自分がやりたいこと、つまりジョブに合致しているかどうかである。この理論も、理解できたとしても実行するのが難しい。この理論に向き合うと、売り手と買い手という立場の違う人間がお互いを理解することの困難、さらに作り手として作りやすさを優先しがちであることがあぶり出される。

クレイトン・クリステンセンさんが死去。「イノベーションのジレンマ」で知られる経営学者

「イノベーションのジレンマ」で知られるアメリカの経営学者、クレイトン・クリステンセンさんが1月23日、67歳でボストンで死去した。 CNN などが報じた。死因は、がん治療の合併症だという。 「 現代外国人名録2016 …

訃報に際し、『イノベーション・オブ・ライフ』を名著として挙げる方も多い。この本では、幸福や人生について、氏の考えを知ることができる。ビジネスは、多くの場合、収益の最大化を目指す。簡単に言えば、効率的に手っ取り早く稼ぐことが目的化される。しかし、この収益や効率だけを追求する考え方に警鐘を鳴らす。破壊的イノベーション理論と同様に、長期的で重要な課題よりも短期的な課題に「資源配分」を人間はしてしまいがちだ。人生の場合、資源配分といってもそれは“時間”である。この本でも、ビジネスの文脈を脱し、人生の分岐点における「考え方」を提示してくれたのがクリステンセン氏である。

『イノベーションのジレンマ』のクレイトン・クリステンセン教授、関連記事 | Biz/Zine

『イノベーションのジレンマ』などで知られる、クレイトン・クリステンセン教授が1月23日、死去した。Biz/Zineでは著作関連の記事、今となっては最初で最後の来日となってしまった日本講演のレポートなどを提供させていただいた。ご冥福をお祈りしつつ、氏のイノベーションへの貢献をたたえ、関連記事をまとめさせていただく。

『ジョブ理論』を知っている者にとって、彼の思想は「物の売り方」だろう。あるいは『イノベーションのジレンマ』を知っている者にとっては「業界の覇権を取るための指針」に見えるはずだ。あるいは最新『繁栄のパラドクス』を読むと、経済発展や途上国の開発に関する考え方のように感じるだろう。しかし、直接クリステンセンと話をすると、これらの書物は彼の考えのごく一部でしかないということが分かる。「イノベーション」が元来、経済成長につながるような大きな創造を指す用語であったように、クリステンセンは経済活動を人間の大きな営みの鏡として見ていると私は感じた。

このように感じた背景として、クリステンセンが来日した2015年に交わした会話で最も記憶に残っているフレーズが2つある。

(築地市場で働く多くの人を眺めながら)彼らは働くこと自体に意義を感じている

たった70年前まで私たちの祖国同志が戦争したことが信じられない。今では経済を支え合うパートナーだ。

人間同士は平和的に協力し合うことが可能で、その協力の総和が経済規模だというような見方は素敵ではないだろうか。

『繁栄のパラドクス』に書かれているような経済発展を、彼は単に政治家の目標値としては見ていない。より多くの国民がより豊かに暮らすことが叶うと、結果として経済発展がもたらされるという。そして、より多くの国民が豊かな暮らし方をするには、「破壊的イノベーション」が必要になる。近年、彼が「破壊的イノベーション」を「より安く、シンプルで、アクセス可能なソリューション」とよく説明していたが、一部の国民にしか許されなかった贅沢が全国民に可能になることは、国の豊かさを表すのではないだろうか。「贅沢」と言っても、一部の国においては「水」や「食料」を指すし、現在の日本においては「有給休暇を自由に取ること」や「周囲の誰からも尊重されること」を指す。つまり、その時々、その状況に置かれた人々が求める進歩(ジョブ)に対するソリューションを提供することの重要性をいくつもの書籍で語っている。このようにして生まれた「進歩」は人々を豊かにし、対価としての「価値」は経済発展を生み、平和さえも生み出すことができるのではないだろうか。クリステンセンは、私たちは常に「進歩」を目指す前向きさが備わっているという前提 に立っている点が、個人的には好きである。

ビジネスと人生について考えるきっかけを与えてくれ、発展と進歩という希望を与えて下さったクレイトン・クリステンセン氏の冥福をお祈りします。

「顧客像」を理解する。「顧客」を理解する。

Written by 津田 真吾 on 2020-01-23

最近はイノベーションという文脈だけでなく、ジョブ理論についてもご相談を頂くことが多くて嬉しい限りです。ジョブ理論についてそのようにご相談を受ける時は、大きく分けて2つのタイプがあることを先日発見しました。

  1. 顧客を知らないため、もっと理解したいと思っている
  2. 顧客を知ってはいるが、顧客に向けた働きかけに問題があると思っている

それぞれについてもう少し詳しく説明しましょう。

タイプ1:顧客を知らない

最初のタイプは、単純に「顧客を知らない」ことを自覚している企業です。代表的なのは、すでにモノを作ったけれどさっぱり売れず、作る前に顧客のことを考えていなかったことに気づくようなシチュエーションです。あるいは、新しい市場を狙いたいけれど情報が取れない、取り方がわからない、整理の仕方がわからない、やってもやっても手応えがない、といった状況です。

このような場合には、もちろん顧客との接点を増やします。具体的にはインタビューや観察(エスノグラフィー)を行います。もちろん、インタビューや観察で得た情報はJOBSメソッドを活用するなど、ジョブの観点で整理するのがよいでしょう。顧客は誰なのか?ジョブは?ジョブの目的は?ジョブ解決の障害は?代替解決策は?といった問いで得られた情報を整理します。手軽に行うにはジョブ調査もおススメです。

ジョブの観点で顧客を知ることで、その顧客が本質的にやりたかったことが見えてくるはずです。既存の市場にある商品だけでは顧客が不満である理由や、どのような商品なら新たに採用されうるのか、といった答えが得られます。

タイプ2:顧客を知っているが、見つけられない

このタイプの企業では、マーケティングが徹底されている傾向にあります。そのため、「顧客像」はしっかり持っています。にもかかわらず、その顧客像に“リーチ”できていないとの自覚症状を持っていたりするのです。

「都市部に住む20代~30代の仕事を持つ女性」「~意識が高く、習い事にも通う…」などと言ったペルソナを決めていることも少なくありません。このようにペルソナを明確にすると、「顧客像」ははっきりするものの、分かった気になるという欠点もあるのがやっかいです。

この場合は、まず抽象的な「顧客像」についてはひとまず置いておきます。そのうえで、顧客が製品を購入する必然性について考えることを行うのです。

必然性。

必然性、というのは買わないといけないような理由ということです。

都市部に住むことや、年齢は、買う人を表してはいますが、買う理由ではありません。性格も理由ではありません。私は新しい物好きですが、すべての新しいものを買ったりはしません。

風邪を引いたら、風邪薬を買うのは必然性が高いです。

同様に新築の家を買うのに、ローンを申し込むのも必然性が高いです。多くの方は、不動産を現金で買うことができず、他の個人から借りたりすることも難しいからです。つまり「ローン」という商品を買う顧客像を理解するには、いくらの家を買いたいのか?いくらの現金を持っているのか?他の現金調達手段は?といったことを理解するのが手っ取り早くなります。(これらのことをジョブ理論では「状況」と呼びます)。つまり、顧客の年齢や性別よりもはるかに知っておきたいことが山ほどあるんです。 顧客像に加えてこれらの状況を押さえておくことで、新たな顧客も見つかりようになります。