違うんじゃない。解像度が高いんだ。

Written by 津田 真吾 on 2019-06-10

ジョブ理論を話をしていると、最もよく聞かれるのが「ニーズ」「ジョブ」の違いについてです。次によく聞かれるのが、「インサイト」「ジョブ」の違い。

この手の質問に答えるのは、正直言うと、とっても難しくて困るんですが、何が難しいのかというと、「ニーズ」や「インサイト」というのはあまり定義されずに使用されているからです。

あまり定義されていないということは、その概念は“ぼんやりしている”ということです。例えば、「ニーズ」という言葉は「ウォンツ」という言葉と対比して使用されることがある場合には、ただ単に“Want”として欲しいのではなく、“Need”として必要としている風に多少定義がくっきりするかもしれません。ですが一般的に、「ニーズ」とは「顧客が望むコト」「顧客が欲しいモノ」と広がりのある意味を持っているようです。このように広がりを持っている言葉であるため、現象として表れている「顧客が商品に対して向ける関心や行為」を指して「ニーズ」と呼んでいるのが現状です(その辺はこちらに書いています)。「潜在的ニーズ」という文脈であったり、望んでいる状態を指して「ジョブ」を指すケースもあるのでベン図に描くとこんな感じでしょうか?

同様に、「インサイト」とジョブの関係を整理すると、下図のようになるかと思います。インサイトというのは、「顧客に対する深い洞察」を指します。簡単には手に入らない情報のことですね。これもたくさんあります。

量が質を担保する時代は終わった

多くの人にとって、こんなに厳密に「ニーズ」とか「インサイト」を定義することは大事ではないかもしれません。しかし、これから売れるものを作ろう、成功する事業を立ち上げよう、という場面においては命取りになりかねません。ぼんやりとした状態で「ニーズ」や「インサイト」を見ていると、情報の量に圧倒されてしまいます。顧客はAも欲しい、Bも欲しい、Cがやりたいと言っている・・・と、莫大な情報の量にうずもれてしまうでしょう。

人間はコンピュータと違い、多くの情報を同時に扱うことはできません。一度に処理しきれない情報を前にすると、多くの人は:

  • 思考停止
  • 見たいものだけを見る

という行動を取ってしまいます。どっちも冷静な人ならやらないことですね。ですが、解像度高く情報を取捨選択していると、きちんと処理できるようになります。究極のところ、お客様はどんな状況からどんな進歩をしたいと思っているのか?さえ知っていれば、お客様の身長や性格、家族構成などの情報は不要なのです。

「足りない」と感じるとき、もしかしたら解像度が足りないのかもしれません。

貧困の撲滅では、繁栄は得られない

Written by 山田 竜也 on 2019-06-03

prosperity ! or poverty …

クリステンセン教授の最新刊「繁栄のパラドクス」が6月21日に出版される。 ビジネスの世界で培ってきたイノベーション理論を国家の繁栄に適用した期待の新刊だ。

ビジネスはもちろん、社会課題の解決に取り組む多くの方に読んでもらいたい。 なぜそう言い切れるか? 繁栄 prosperty と貧困 poverty 、この2つの言葉の捉え方について、少し考えてみたい。

繁栄とは?と改めて聞かれると言葉に窮する。一般的には、医療のレベル、治安の良さ、教育水準等で評価されるが、クリステンセン教授は、より重要な指標として、「そこに住む人たちが生計を立てられる雇用があること、そして、社会が上へと登っていける流動性があること」を加えている。

つまり、繁栄とは、「多くの地域住民が経済的、社会的、政治的な幸福度を向上させていくプロセス」である。

天然資源ばかりに依存して、自らが雇用されるというより外国資本に権利を売り渡して利益を得るのでは、持続可能な豊かさを得られない。住民が生計を立てられる雇用が確保されて初めて、依存から脱して上を目指すことができる。雇用が確保されても、カースト制度の様な人々の動きを固定化する様な慣習や世襲制の独裁政治の中では、社会的、政治的に変化していける流動性がないと、住民の生活は固定され、幸福度は上がらない。

貧困を撲滅して、繁栄を築くには、個別の問題を解決するのではなく、経済的、社会的、政治的な課題を解決するエコシステムを作る必要がある。貧困という問題にだけ着目すると経済的な課題ばかりにフォーカスしてしまう。そして、経済的な課題解決だけでは、繁栄による幸福は得られない。

 

貧困の撲滅 ≠ 繁栄による幸福

「貧困の撲滅?」「繁栄による幸福?」、何を問題と捉えるかによって、ソリューションの限界が自ずと設定されてしまうのだ。

 

この話はビジネスの世界にも当てはまる。多くの企業が自社の製品・サービスの枠の中で事業戦略を立てている。既存の製品・サービスの売上げを拡大するための”事業”戦略だから、ある意味仕方ないのかもしれない。ただし、新しいカテゴリーになりそうな可能性のある新製品・サービスや、全く新しい価値を提供するものまでも、この括りに入れて評価してしまうことには問題がある。

既存の評価指標では新製品・サービスを正しく評価することはできない。繁栄を目指している国への支援のレベルを経済的な指標だけで見てしまうことと同じだ。

 

見方を変えることは現実には意外と難しい。そこで、とても簡単だが有効な手法として、問題をFLIPしてみることをオススメする。FLIPはタフツ大学のポジティブ・デビアンス・イニシアティブ代表のジェリー・スターニン氏が、真に解決すべき問題は何か?を探すために使っていた考え方だ。

ジェリー・スターニン氏 Flipのジェスチャー
写真:デイビット・F・ガッサー

FLIPの例としてマザーテレサの逸話を紹介する。

反戦デモへの参加を求められたマザーテレサは、「それは反戦のためのデモなのですね?」と何度も確認したあとで、「それでは私は参加しません」と答えた。反戦のためなのになぜと不思議がる人々にマザーは答えた。「それが、戦争反対のためのデモならば、私は参加しません。もし、それが平和のための行進であれば、私は喜んで参加します」と。

戦争がないことをゴールにするのでは、外交手段としての”戦争”はなくなるかもしれないが、経済制裁や輸入規制等による国同士の争いは消えない。平和な繁栄を求めるのであれば、平和こそをストレートに願わなければいけないのだ。

社会課題を解くには、繁栄を考える時と同様に、多くのステークホルダーを考えなければいけない。誰かの目線だけでなく、社会全体で持続可能な解決策に繋がる様、FLIPによる問題の再定義が広まることを願う。

世界の人材開発担当にイノベーションはどう捉えられているか(ATD2019ICEより)

Written by 星野 雄一 on 2019-05-27

5月19日から22日にかけて、世界最大の人材開発のカンファレンスである ATD2019ICEがワシントンDCで開催された。米国で毎年行われているカンファレンスであり、今年は世界で13,500人、日本からも227人参加した。4日間掛けて300を超えるセッションがあり、多くは企業人事やトレー二ングに関わるような方々が参加している。今回はこのカンファレンスを通して、イノベーションという文脈で印象に残ったことを記載したい。(ATD2019ICEの全般的な考察は他社がアップすると思うので、そこはお任せする)

まず、3日目の基調講演に登場したセス・ゴーディン氏。マーケティングに関する著作を多数出版している氏は、新興企業の台頭により入れ替わりの激しい現在において、従来のマスを狙った平均値的なプロダクトではなく、オンリーワンを目指さなければ勝ち残れない、“どうしてもそれが欲しい人”に向けた商品開発をすることが重要である。そしてそのような観点でビジネスに取り組める人材が必要だと説いた。まさにジョブを捉えて事業開発をできる人材こそが今、求められているのだとの見解を示していた。そしてそれを阻むのは「誰が責任を取るのだ問題」。この議論が始まると失敗できずイノベーションは起きないとも合わせて伝えている。また、イノベーションを起こすリーダーシップはアートであるとも続ける。ややもするとリーダーに様々なスキルを求めようとするが、原点は"自分がどうしたいか”であり、人としてもオンリーワンであることの重要性を説いている。また行動を起こすための準備を躍起になってやるのではなく、自分がいくところにいく。そのようなマインドセットが人を動かすのだとの熱く説いていた。大変共感できる内容であった一方で、様々な内容を織り交ぜてスピーチしていたため、メッセージの拾い方は人それぞれかもしれない。

 

また数は少ないが、起業家精神やイノベーションのセッションも幾つかあった。その中で、イノベーションDNAの5つのスキルの話が複数のセッションで引用されていたのも印象深い。イノベーターの必要スキルという中で引用先が同じものであるということは標準的に受け入れられる考え方であることの証明であろう。ちなみにど真ん中のタイトルであった「起業家の才能開発」というセッションは日本人が私以外いなかったことが残念である


その他、ラーニングとラーニング技術の展望について語っていたセッションでは、ラーニングやテクノロジーの展望に着目するのではなく、人のLIVEに着目するのだということが主張されていた。ここでもジョブを捉えるというニュアンスが語られており、個々の技術(AI,VR,etc)に関しても、個々の技術が持つ本質的な価値について主張していた。テクノロジーに関しては数年前からも語られているが、参加者同士での会話を鑑みると、まだまだ導入には抵抗感はありそうだ。リテラシーの強化が必要と感じる。

 

なお、カンファレンスに参加する人は企業人事やトレーナーの方が大半であるが、その中で事業開発の分野での人材開発コンサルタントという明らかに異質な私は、名刺交換の際に仕事の話をすると面白がって頂けたようだ。何をしているのか興味深く聞いて頂けるのはありがたいが、企業の中でイノベーションというのはアイデア発想や意識づけといった要素が強く、イントラプレナーの輩出という部分にはまだまだ軸足を置けてないのだろうということでもあり、今後もイントラプレナー輩出に向けた活動を取り組み、企業人事の方が力を入れて取り組めるように尽力していきたいと改めて感じた。

スタートアップと禅の意外なつながり

Written by 津嶋 辰郎 on 2019-05-22

失われた時代と揶揄されてきた平成の30年。残念ながら日本は経済として主要先進国の中で、唯一GDPの成長を実現することができなかった。


その間、学ぶべき対象としてまたはグローバル経済への適応を目的として、数多くのアメリカ的経営手法を大企業を中心として輸入してきた。その結果として、導入初期は学習という意味で盛り上がったとしても、その後事業の成果として現れないだけでなく、うまく適応できなかったりむしろ以前より疲弊している現場を数多く見てきた。


ここ数年は、急速な市場の変化への対応や新しい事業の創出が急務の中、スタートアップ(いわゆるベンチャー起業)の領域においても、アメリカのシリコンバレーを起源とする方法論やそのエコシステムを輸入する形で浸透しつつある。もちろんそこから学ぶべき側面はあるものの、日本が戦後積み上げてきた、独特の事業環境と組織体制との大きなギャップに起因する、ミスマッチを感じ始めている方も多いのではないかと思う。


INDEE Japanも設立から8年、国内外でイノベーションを実践する特殊部隊として大手企業およびスタートアップと様々な事業立ち上げに取り組んできている。昨今、変革への渇望からようやく日本でもクリステンセン教授が提唱した破壊的イノベーションという言葉が普及した一方、伝統という言葉に対して、”古くさい”とか”変えるべきもの”という悪いイメージが先行してしまっていることを危惧している。そもそも伝統というものは長い時間の淘汰のサイクルを乗り越え生き残ってきたという実績を持ち、歴史を紐解かない限りその本質が見えない非常に貴重なものとも言える。


話を戻すと新事業のスタートアップという最近の潮流と、日本の伝統的な文化のその根底にある禅の思想に着目するとまた違って景色が見えてくる。

 

私自身は禅の学者でなければ禅僧でもない。ただ子供のころからお寺の中にある道場で剣道を習い、住職や師範から毎日のように”剣”と”道”にまつわる話を、当時は馬の耳に念仏のように聞かされる日々を送っていた。そしてその後、技術者としてそして起業家として様々な事業開発に向き合い経験を繰り返す中で、ようやく当時の”念仏”の意味を、自分の言葉で現代社会に翻訳できるようになってきた。

その剣と道の話は別の機会に取り上げられるとして、今回の本題であるスタートアップと禅の思想としての意外な繋がりをお伝えした。それは共に、

 

実践を通してしか真理を追究できないという作法に基づく

 

ということである。

禅という世界観を体現する代表的な特徴として、その教えは不流文字・教外別伝として表現されているとおり、人から人への口頭での伝承(口伝)を基本とし、書物として文章化されていない。いわゆる師匠と弟子が繰り返して交わす禅問答の修業がそれにあたる。

また座禅に代表されるように、掃除や食事など日常生活における身体を通した実践を通して修業するというプロセスを正としている。そして、前述の自分の子供時代に剣道の道場で経験したことも、実はこの思想に基づいていたことにようやく気づくことができた。

 

これらは明らかに現代社会が追究している一般的な学習方法からすると真逆に位置する非効率な手段である。つまり拡大生産性やさまざまな効率化を追求するために、我々が身につけているスキルセットや正しいとされるマインドセットとは大きく異なることを大切にするという思想である。

ここまでくれば、貴方が起業家かもしくは新規事業担当者であれば気づいたはずである。これは新規事業立ち上げの特にゼロからイチを生み出す初期のフェーズにおいて最も大切にされる作法と全く同じである。

ごちゃごちゃ言わずにやってみろ・・・答えが見えてくるまでやれってやつである。

 

“読書百辺読書百遍義自ずからあらわる”とはよく言ったものである。

 

実はこの話はクリステンセン教授も代表的な著書の一つでもある「イノベーションのDNA」の中で、イノベーターが共通に持つ代表的な5つの特徴の一つとして実験力としてこの”実践を通して学び続ける”という行動特性を挙げている。

 

昨今、組織の閉塞感の中で悶々とするエリート層に会う度に、その根本的な原因は、知識ばかり増やして頭でっかちになり、評論してばかりで結局は実行に移さない、移そうとしないところにあるのは間違いない。

 

国家としての戦場、ビジネスとしての戦場となる外部環境は、大きくそして急速に変化していることを否定する人は誰もいないはずである

 

前述の通りそもそも我々一人一人のDNAの中には、間違いなく椅子に座って考えるだけでなく、実際に体を使って実践を通して道を切り開いていく事を是とする思想が宿っている。そろそろその我々の中に眠る本来の強さを呼び覚まそうではないか。

今回を第一回目として、引き続きこの我々の伝統や文化の中から様々な現代を生きるためのヒントを紐解いていきたいと考えている。こうしたアプローチに興味を持ってくださった方は、こうしたイベントでお会いできればと思います。

新しいプロダクトが世の中で受ける4つの力

Written by 津田 真吾 on 2019-05-07

色々なスタートアップをやっていると、「ハック」することが頻繁に求められます。実際に、成長速度の速いスタートアップほど、自社としても新たな解決策としての新サービスや新製品を導入している傾向は顕著です。スタートアップは、スタートアップのサービスによってさらに加速しているのです。

ハックする、ということは、目の前の課題解決のために新たな解決策を取り入れることです。ジョブ理論的に言い換えると、「ジョブを片づけるために解決策を雇う」ということになります。

自らが新たな解決策を試してみる際に、どのような選択肢からどのように選んだのかを4つの力で分析してみてはいかがでしょうか?顧客の立場で、進歩に役立つサービスや製品を開発する上でもわかりやすい分析法です。クリステンセン最新刊“Prosperity Paradox”にもこの考え方は掲載されています。

(1)まず、顧客が成し遂げたいジョブを挙げます。図の例では、井戸のない村に住むアフリカの住民が「いつでも水が飲みたい」というジョブです。
(2)次に、「2時間かけて自ら水を汲む」という現状の解決策を記載します。ジョブに対して、「現状の解決策」が挙げられない場合は、ジョブを見直した方がよいでしょう。
(3)提供したい解決策を書きます。ここでは「井戸」ということになります。
(4)1つ目の力、「現状の不満」を書き出してみましょう。例えば、往復4時間もの時間を費やしてしまうことだとか、限られた量しか汲めないこととか、重く苦しい道のりを行き来しないといけないことが不満点として挙げられます。
(5)2つ目の力、「既存習慣」の強さを見ます。例えば、水汲みが生活に組み込まれていて、道のりの途中で他の用事も済ませているとしたら井戸を使うことへの抵抗になります。
(6)3つ目の力である「解決策の魅力」を挙げましょう。もちろん、「歩かずに水が得られること」と「大量に水が得られること」になります。
(7)4つ目の力を挙げる前に、この魅力的な提案である井戸をユーザが使ううえで障害になり得る点を挙げます。能力的な面として「掘る技術が難しい」、金銭的に「お金がない」、時間的に「掘るまでに何カ月もかかる」、アクセスとして「井戸を見たことがない」という4種類の障害すべてが存在していることがわかります。
(8)4つ目の力である「解決策への不安」を最後に記入します。井戸を取り入れる上で、ユーザが不安に感じることを挙げます。「壊れたらどうしよう?」という不安は持ちそうです。

解決策への魅力が、障害を乗り越えるほどのものなのか?そもそも、現状に相当な不満があり、変化を求めようとしているのか?などを総合的に比べてみましょう。冷静に分析できれば、きっと新たな解決策の問題点や、ユーザが不安に感じる点が明らかになるはずです。問題点が多すぎてもがっかりしないでください。往々にして、解決策が複雑すぎることが根本的な問題であることが多いからです。 経験則として 、ジョブに即した機能以外はマイナスし、現状の障害を取り除き、不安解消のサービスをプラスする、というのが一般的なスタートアップや新規事業の処方箋になります。なぜなら、ジョブを絞り込めないまま開発を進めてしまい、複数のジョブを同時に解決しようとするからです。ユーザのジョブに照らし合わせて、4つの力を整理してみてはいかがでしょうか?