ビジネス環境を踏まえた組織開発の着眼点

Written by 星野 雄一 on 2019-07-19

大手企業が採用強化に向けて、新卒に高年収をオファーする仕組みを構築し始めている。ビジネスのサービス化などの流れを受け、その中核を成す人材の採用は経営・人事にとって重要な課題である。また同時にその人材を維持すること、いわゆるリテンションも重要課題であることは言うまでもない。

 

そのような背景も踏まえ、近年、社員のエンゲージメントが着目されている。HR techでもHOTなテーマで、エンゲージメントアップの実現に向けて多くのツールもローンチされている。感謝の言葉などを通した承認や声掛け、またそれが他の社員が見て、さらに応援してもらえるような機能を有している。それが給与に反映される会社もある。

 

このようなツールの多くはITスタートアップ企業が自らの成長痛を乗り越える過程と共に発展しており、現実のジョブを解決しているので力強さがある。

 

多くの組織において、最初は少人数で事業スタートさせることが多いだろう。最初は各自が様々な役割も果たすためにコンテクストも共有されやすく、意思疎通もしやすい。そこから高い目的・目標に向かい、規模が急拡大し、業務も分かれる中で、新たな人が分からない、以前よりも会話が減ったという状況が発生する。そのような中でもバラバラにならないように繋がりを持ちたいというジョブを解決するために、各社で表彰制度やサンクスカードのようなものを試行錯誤していった。それをIT化したのがエンゲージメントツールの原型であったりする。これは実際に物理的な距離は遠くないが、目に見えない”組織”や”チーム”という壁を乗り越えていくものだったであろう。ある意味、IT好きで自分の仕事に没頭しやすいエンジニアが多い職場だからこそ、意思疎通しにくいという状況は起きやすかったのかもしれない。

 

会社がさらに規模が拡大し、業務分化していくと、営業所や本社と工場などの物理的な距離が立ちはだかる。また、ワークプレイスは多様になっていく中で、ITをベースとしたエンゲージメントツールは効果的に力を発揮する。人は距離が遠く離れていても、関わる人にポジティブな繋がりを持ちたいのである。

 

ただ、繋がりたいというジョブが”常に”強いかと言うとそんなこともないであろう。組織がリスクを取って業務に取り組んでいる状態だからこそ日頃言えない感謝の言葉が効いてくる。新たな挑戦をしない職場、そして自分自身が挑戦をしていない状況では認められたい・感謝したいというジョブの強さは弱まる。むしろ外を見たくなったり、給料が減らないことを祈る方が強くなる。このような職場の場合はエンゲージメントの前に次のビジネスを生み出すための施策の方が先である。

 

また、副業や兼業という働き方のトレンドも見逃せない。この環境下ではエンゲージメントというよりも会社と個人のオープンで対等な関係が鍵であり、一般的に言われているようなエンゲージメントの重要性は薄まると考えられる。社を超えたオープンなタレントで構成されるプロジェクトが中心の事業ではエンゲージメントの重要性は薄く、一方で社員の知恵やスキルを結集して自社プロダクトを開発するような事業では先のエンゲージメント施策は有効であろう。

 

組織がどんな事業をしていて、社員がどのような業務環境に置かれているのか、そこで発生する切実なジョブは何か、切実ではないジョブは何か。そのような視点を持ちながら組織開発・人材開発の施策を考えられると、”You are a business professional who have expertise in HR.“への道に近づくのではないだろうか。

世界の人材開発担当にイノベーションはどう捉えられているか(ATD2019ICEより)

Written by 星野 雄一 on 2019-05-27

5月19日から22日にかけて、世界最大の人材開発のカンファレンスである ATD2019ICEがワシントンDCで開催された。米国で毎年行われているカンファレンスであり、今年は世界で13,500人、日本からも227人参加した。4日間掛けて300を超えるセッションがあり、多くは企業人事やトレー二ングに関わるような方々が参加している。今回はこのカンファレンスを通して、イノベーションという文脈で印象に残ったことを記載したい。(ATD2019ICEの全般的な考察は他社がアップすると思うので、そこはお任せする)

まず、3日目の基調講演に登場したセス・ゴーディン氏。マーケティングに関する著作を多数出版している氏は、新興企業の台頭により入れ替わりの激しい現在において、従来のマスを狙った平均値的なプロダクトではなく、オンリーワンを目指さなければ勝ち残れない、“どうしてもそれが欲しい人”に向けた商品開発をすることが重要である。そしてそのような観点でビジネスに取り組める人材が必要だと説いた。まさにジョブを捉えて事業開発をできる人材こそが今、求められているのだとの見解を示していた。そしてそれを阻むのは「誰が責任を取るのだ問題」。この議論が始まると失敗できずイノベーションは起きないとも合わせて伝えている。また、イノベーションを起こすリーダーシップはアートであるとも続ける。ややもするとリーダーに様々なスキルを求めようとするが、原点は"自分がどうしたいか”であり、人としてもオンリーワンであることの重要性を説いている。また行動を起こすための準備を躍起になってやるのではなく、自分がいくところにいく。そのようなマインドセットが人を動かすのだとの熱く説いていた。大変共感できる内容であった一方で、様々な内容を織り交ぜてスピーチしていたため、メッセージの拾い方は人それぞれかもしれない。

 

また数は少ないが、起業家精神やイノベーションのセッションも幾つかあった。その中で、イノベーションDNAの5つのスキルの話が複数のセッションで引用されていたのも印象深い。イノベーターの必要スキルという中で引用先が同じものであるということは標準的に受け入れられる考え方であることの証明であろう。ちなみにど真ん中のタイトルであった「起業家の才能開発」というセッションは日本人が私以外いなかったことが残念である


その他、ラーニングとラーニング技術の展望について語っていたセッションでは、ラーニングやテクノロジーの展望に着目するのではなく、人のLIVEに着目するのだということが主張されていた。ここでもジョブを捉えるというニュアンスが語られており、個々の技術(AI,VR,etc)に関しても、個々の技術が持つ本質的な価値について主張していた。テクノロジーに関しては数年前からも語られているが、参加者同士での会話を鑑みると、まだまだ導入には抵抗感はありそうだ。リテラシーの強化が必要と感じる。

 

なお、カンファレンスに参加する人は企業人事やトレーナーの方が大半であるが、その中で事業開発の分野での人材開発コンサルタントという明らかに異質な私は、名刺交換の際に仕事の話をすると面白がって頂けたようだ。何をしているのか興味深く聞いて頂けるのはありがたいが、企業の中でイノベーションというのはアイデア発想や意識づけといった要素が強く、イントラプレナーの輩出という部分にはまだまだ軸足を置けてないのだろうということでもあり、今後もイントラプレナー輩出に向けた活動を取り組み、企業人事の方が力を入れて取り組めるように尽力していきたいと改めて感じた。

企業が見逃している隠れた市場

Written by 星野 雄一 on 2019-04-22

東京大学の上野千鶴子名誉教授による入学式での祝辞が話題になっている。女子学生への差別に対する指摘、自身および東大のベンチャースピリット、そして周囲への感謝と社会へ還元することの必要性など、各所に示唆に富んだ祝辞だ。

 

その中でも「がんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください」という一文は私の中で引っかかるものがあった。共感を感じるとともに、これをエリート学生に敢えて言わなければならないという状況こそ、日本の大企業から出てくる商品に何か偏りを感じてしまう感覚と繋がったからだ。

 

人の常識は環境によって形づくられているという点は否めないであろう。大企業のしかも企画職や研究職である多くの人は、学業を行える環境の上で努力をし、高校や高専・大学・大学院などと進学をしていった人が多い。ある時点からは同じような学力や考え方を持つ集団の中に入り、そして企業に入れば尚のこと近しい価値観を持つ人々に囲まれた環境の中で生活をしている。さらに様々なインフラが整っている。そして一定の収入を得て、食うに困るほどの状況ではない人がほとんどだ。その彼らの良いと思う感覚でアイデアを出し、想いを持って開発し、リリース判断をする商品は、やはり同質の価値観や生活環境の人に受け入れられるものが多くなるのは必然とも言える。

 

実際に、企業で実行されているアイデアブレストやワークショップの結果を見ると、技術によって更に便利になった世の中で人は余暇をどう過ごすか、人生を豊かに過ごすかといったような文脈の未来像や、人がより健康で居続けるためにといった、どこか幸せの香りがする消費者とその消費者が持つ”幸せジョブ”から生まれるものをよく目にする。もちろん一つのシナリオとしてあり得ると思うし、そういう人もいる。ただ、やはり偏りは否めない。人はもっと多様な生活環境にいるし、もっと言うと幸せジョブを持たない人の方が多いのではないかと。特に日本が迎える現実の未来はそんなに甘いものではない。

 

私は新規事業創出の一環でインタビューや行動観察を行うことがあるが、普段の生活では絶対に合わないであろう人にお会いする。そこにクライアントも同席する場合もあるのだが、先日インタビューを終わった後にクライアントが「人それぞれですね。」としみじみと一言漏らしていたのが印象的だった。もちろん、みんなドキュメンタリーで、ニュースで、ネットで、本で、自分とは違う環境下で生活している人がいることはわかっている。ただ実際に自分とは違う人に会ってその人の人生や生活を真正面から聞いたことや、自分自身がその立場で生活した体験がなければ、やはりどこか遠い存在であり、遠い市場になってしまう。

 

自分たちとは違う世界で生きている人、ほとんど日常生活で合わない人のジョブが存在する市場、この市場は大企業にとってみれば未開拓市場である。アフリカで市場を見つけたければ、アフリカに行くしかないのと同じ理屈だ。だからこそ、先の上野教授も言っている。「未知を求めて、よその世界にも飛び出してください」と。

 

隠れた市場にいる人の進歩にも目を向ければ、リソースの豊富な企業がやるべきことはまだまだ多いし、日本という国の進歩にも更に貢献できるのではないか。

イノベーターは育てられるのか?

Written by 星野 雄一 on 2019-03-18

よく「イノベーターは育てられるのか?」という質問を受けることがあります。

 

イノベーターに求められる能力が先天的か後天的かといった要因に着目して質問される方、逆に結果に着目し、本当に結果を出せる人材になるかどうかという意味で質問される方もいますが、質問に対しては次のようにお答えしています。

 

「行動がイノベーターになる」という状態は作り出せます。

 

少し話を変えてみましょう。多くの人は社会人になった頃、新人研修やOJTもしくはインターンなどを通して、名刺交換の仕方や電話の取り方、議事録の書き方などを習得してきました。習得するためには学生時代に身につけていなかった行動の取り方を教えてもらい、それに沿ってやってみて、様々なケースで実践を積み重ねて身につけてきたのではないでしょうか。(教えてもらえず見よう見まねでやった方も多いかもしれません)

これらの行動は、すでに出来ている人にとっては当たり前のことであっても、初めてやる人にとっては全く当たり前でない行動であったはずです。が、いつしか出来るようになりました。


日本では経済成長と共に事業がスケールし、似たようなことをやれる人を増やすため、暗黙知であった行動を言語化やマニュアル化、OJTを発展させてきました。その結果、従業員は既存事業を回すための様々な行動は上手になっていきました。すなわち、行動を規定でき、やれる人が多くいて、自ら熟練を重ねれば、新たな行動は身につくということです。

 

そして、今、どうやったらイノベーターやイントラプレナーを育てられるかという議論が熱を帯びています。 それは事業の陳腐化スピードが早い、今の時代に必要な行動がそれだからです。

 

ところが社内を見渡しても、過去にイノベーションと呼ばれるような新規事業を起こした人は役員クラスを見ても極僅か。周りには経験者がいないので困ったものですよね。また、かつてはイノベーターの行動に関するモデル化、言語化が進んでいなかったので、仮に経験者がいたとしても一部の凄い人(変人?)が取る行動とされていました。その背景もあり、「イノベーターは育成できるのか?」という問いに繋がっているのだと感じます。

 

しかしながら今は新規事業開発の分野でも、その行動の取り方や考え方が言語化されてきました。イノベーターDNAモデルでは、質問力、観察力、ネットワーク力、実験力、そして関連づける力が必要な力と定義づけられており、事業機会発見のJOBSフレームワークや仮説検証プロセスなどの行動も言語化されています。

 

ですので、これらの知識・型を正しく取得し、新しい行動を素直にやってみて、素直にわからないところは質問し、様々な場面で実践を積み重ねることをやれば、結果として「行動がイノベーターになる」のです。


ただ、一つ気をつけなければならない点があります。せっかく型を教えてもらったのに、まだ慣れないうちに「自己流で創意工夫し始める」ことです。これはコーチやメンターが伝えていることを正しく理解しようとせずに自分の中で過去の経験・知識に当て嵌め、「前に聞いたあれと同じ」とか「それと似たようなことをして、昔◯○さんが失敗した」と判断し、安易にやるべきことを除いたり、やり方を変えたりしてしまうことです。どうなってしまうかは大体想像できるかと思います。

この辺りは茶道や武道の世界で言われる、守破離とも通ずるものがありますね。まずは守である、と。行動変容の基本は昔と何も変わりません。コンテンツが変わっただけです。

 

これから人生100年時代では避けては通れない環境変化に対して、必要な行動を素早く身につけて、行動変容を遂げていく必要性は今後も絶えず発生するでしょう。AI時代を迎えたら・・・といった議論もありますが、時代の変化があれば、変化している環境に自ら身を置き、先人の活きた知恵を学び、実践を積み重ねながら習得していく姿勢、すなわち「知的な謙虚さ」を持っていれば、特に怖がることもないでしょう。

ティール組織と育てるジョブ

Written by 星野 雄一 on 2019-02-07

人材育成という経営課題は以前から変わらず存在しますが、昨今の人手不足に伴い、さらに加速しているように感じます。事実、人を育てられる部課長層の転職市場は活況のようです。ところで、その市場評価の高い!?実際に人を育てている人はどんな目的のために取り組んでいるのでしょうか?


そこには大きく3つの目的があるように見受けられます。


1つ目は会社方針である現有勢力で数多くの仕事をこなすことを達成するため人を育てるパターン。

これは義務だから致し方なくとか、自分が楽したいからという欲求に従って行動している状態です。マネージャー研修だとここにフォーカスを当てている方によく出会います。


2つ目は自らの承認欲求を満たすために人を育てるパターン。

具体的には、相手が知らない知識を伝えて「すごい」と言われたい、もしくは教えて凄さを見せつけることで囲い込んで集団のボスになりたいという欲求に従って行動しているような状態です。よく企業の中で見るパターンで、出世頭の人がよく取るスタイルです。コンサルティングファームのパートナーモデルなんかはとても分かりやすいです。


そして3つ目は相手のキャリア成長のために貢献したいので、人を育てるパターン。

これは純粋なる貢献心からの行動なので、もはや育てる立場の本人は、育てるという感覚とは違うのでしょう。ティール組織で語られている文脈はこれに近いですね。囲い込みの不毛さを感じて進化版のスタイルとして取り組んでいる人もいますが、一方で1つ目も2つ目も取り組めずにここに行き着いている人もいるようです。


結果的に伝えている知識やスキルなどは同じかもしれませんが、育てた相手が転職や抜擢されて別部署に異動するといった成長のチャンスを迎えた時にその本質が垣間見えます。人材育成の目的が義務感や囲い込みだと、今までの取り込みが無駄になったと思い、貢献心ならば素直に良かったと思えるのでしょう。


社員個々の潜在能力発揮を目指す企業が増えていくことによって、人材育成の主人公は会社ではなく、本人という本来の姿になるのでしょう。その中では「育てる」というよりは、結果的に「育つ」状態にすることが必要になっています。今後は人を育ててきた人ではなく、育つ仕組みを作り上げてきた人が重宝されるのでしょう。

余談ですが、現場のスタイルがどんどん進化を遂げる未来において、人事が研修の場を準備して、一生懸命集客に走るという姿はなくなっていくのでしょうね。