インタビューの壁

Written by 星野 雄一 on 2021-04-20

 マーケティングの世界で古くから使われている格言に「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」というものがあります。私たちも事業開発の支援をする際にイメージとしてこの言葉を伝えることも多々あります。この古い言葉を今なお引用するくらい製品やサービスを提供する側にいるとどうしてもより性能が良いもの、より品質が良いものといったプロダクト中心の視野になりがちだと感じます。

 もちろん、多くの方はご自身のクセに気づき、そこから脱却するべくジョブの発見にチャレンジしていきます。やはり会議室で分析的に妄想を膨らましていても前には進まないことを感じるのでしょう。ジョブを持っていそうな方々にインタビューをされるケースは多いです。(私たちもそれをお勧めしますので)

 ただ、実際にインタビューに行くとそれはそれで苦戦するようです。ドリルの例で例えると、このような質問を投げかけるようです。「どんな大きさの穴を開けたいのか」「材質は何か」「数個の穴を開ければ良いのか、毎日多くの穴を開けなければならないのか」

 もちろんこれによって、どんな”ドリル”を提案すれば良いかは見えてくるという一定の気づきはありますし、この情報をドリルの新機種開発に役立てることもできます。しかし、本当に実現したいことはこのような顧客にあったドリルの提案や持続的イノベーションではないはずですよね。

 新規事業を、今までとは違うイノベーションを産み出そうとしているのであれば、もう少し突っ込んだ行動をやってみることをお勧めします。

 例えば、もし慣れないDIYにチャレンジする父親に先ほどのようなインタビューをすると、穴に着目したインタビューでも、たまにDIYで使えて、簡単に操作できて、といった回答が得られるとは思います。ただこれだけだと「便利なドリルが欲しい」で終わってしまいますが、それを通して何を実現したいのか?というところに着目したいものです。例えば「子供たちにいいところを見せたい」というジョブが見えてくるかもしれません。ここに着目すれば、父親のジョブを満たすのは穴でもドリルでもなく、違う手段も十分に考えられますし、敢えて経験もスキルもないDIYで困難な道を目指すよりももっと簡単な方法があれば、そちらを採用する可能性も出てきます。もちろん父親がDIYや自分で何かを作るといったことにこだわりを示しているのであれば、このジョブに着目しつつも、技術がなくてもワンタッチで綺麗に穴を開けられるドリルと考えることも可能です。

 インタビューに同席することもあるのですが、その際に良く見る例は相手のジョブを確認せずにインタビューを進めるパターンです。ジョブを抑えなくても顧客のことは今までよりもよく分かるでしょう。ただ、今までの思考の慣習で「穴」までしか視野が広がっておらず、プロダクトアウト意識が残っているように思えます。これが意外と目に見えない壁なのかもしれません。

 今後提案しようと目論んでいるプロダクトが何かは傍に起き、敢えて「その行為を通して得たいことは何なのか」という問いを投げかけてみてはいかがでしょうか。そうすると、何がジョブで、何が障害なのか、そして今やっていることに対する違和感がもっと解像度高く見えてくるはずです。

論語と算盤とジョブ理論

Written by 山田 竜也 on 2021-04-02
常盤橋のたもとの青淵 渋澤栄一の像 筆者撮影
常盤橋のたもとの青淵 渋澤栄一翁の像 筆者撮影

INDEE Japanの創業の地、日本橋本石町近く、常盤橋のたもとには青淵 渋澤栄一の像があります。新一万円札、大河ドラマで一躍、渋澤栄一本人の認知度が上がっていますが、それ以前から、渋澤翁の残したものは、多くの人が見知っているはずです。第一国立銀行(現:みずほ銀行)、日本鉄道(現:JR東日本)、東京瓦斯会社(現:東京ガス)等知らない人はいないでしょう。こうした誰もが知っている企業を含め、500社以上の企業の創設に関わった稀代の起業家、実業家である渋澤翁です。

渋澤翁は、その著書「論語と算盤」の中で、人間性(論語)とビジネスでの損得勘定(算盤)は両立させられる事を説き、「武士は食わねど高楊枝」の人間性、高潔性だけの世界から、人間性とビジネスでの金儲けを両立させる世界へと、幕末から明治への転換を推し進めました。

我々INDEE Japanも社名のINDEEに、Inspire, Innovate, Design, Developmentのビジネスでの革新に必要な行動と、Ecological, Ethicalの革新の方向性をガイドする言葉を込めています。渋澤翁の功績には遠く及びませんが、イノベーティブなやり方でより良い世界を作るために日々活動しています。

 

そんな渋澤翁の残した考え方、「論語と算盤」一節に、次の様なものがあります。

『孔夫子の論語に説かれた人物観察法は、まず第一にその人の外部に顕われた行為の善悪正邪を相し、それよりその人の行為は何を動機にしているものなるやを篤と観、さらに一歩を進めて、その人の安心はいずれにあるや、その人は何に満足して暮らしてるや等を知ることにすれば、必ずその人の真人物が明瞭になる』

『その人の外部に顕われた行為』を視て、
『その人の行為の動機』を観察し、
『その人の安心(目的)』を推察する。

この視・観・察は「論語と算盤」の中では”人物の見極め方”として挙げられていますが、この見立て方は、ジョブ理論の”人の消費行動の理解の仕方”とピッタリ符合します。この視・観・察をジョブ理論の文脈で語ると以下の様になります。

『消費者が実際に行なっている行動 Solutions、そこでの障害 Barries』を観察・インタビューする
『消費者が本当にやりたい事、その行動により解決したい事 Job』を発見する
『消費者が解決する事で何を達成したいのか Objective』を推察する
模式的に表すと以下の図になります。

JOBSメソッド®︎ JOBSフレームの概念図
JOBSメソッド®︎ JOBSフレームの概念図

 

改めて、本質的な物の考え方は普遍的だという事を思います。渋澤翁は幕末の人々に「論語」を引用し、そこに「算盤」という概念を重ね合わせて、双方のバランスを取ることの大切さ、有用さを伝えました。

我々は、クリステンセン氏の「ジョブ理論」を引用し、そこに新規事業開発に必要な要素を盛り込んだJOBSメソッド®︎を開発し、実践的なイノベーションの起こし方、新規事業開発の進め方をお伝えしています。

最後は宣伝の様になってしまいましたが、今後も、普遍的な考え方を大事にしつつ、時代にあったアレンジで実践的で役立つ手法をお伝えしていきます。INDEE Japanからの発信にご期待ください!

イノベーション力を強化していたら、ついでにマネジメント力が高まるという話

Written by 星野 雄一 on 2020-10-26

最近はジョブ理論も普及してきており、色々な箇所で読書会なども開催されているようです。先日、人事系の方が集まる勉強会にご縁がありジョブ理論のエッセンスをお伝えすることになりました。

 

テーマは「ジョブ理論と人材育成」。その場では最初にジョブ理論の基本をお伝えした後に、参加者の人材育成や組織開発に関するお悩みなどを題材にディスカッションをしました。そこでお話しした、ジョブ理論と人材育成という一見離れたテーマの共通項について共有できればと思います。

 
このブログを読んでくださっている方はジョブ理論をご存知の方も多いと思います。ご存じない方はこちらを参考にしてください。

 

振り返りも含めて説明すると、ジョブとは「人がある特定の状況下で望む進歩・進化」です。ジョブは「幸せでいたい」とか「健康でいたい」といったものよりも、「若い頃は運動もしていたけれども、最近はすっかり運動もせず、とうとう健康診断で指摘を受けてしまった。運動すれば良いことはわかっているが、子供もいるし、仕事も忙しいし、時間もない。限られた時間の中で効果のある運動をしたい。」といった特定の状況を含んだ具体的なものになります。

若い頃から運動は特にしていない人、健康診断で指摘を受けてない人、子供がいない人、時間にゆとりのある人は例文の方とは状況が異なり、ジョブも変わるでしょう。結果、”雇う”商品・サービスも変わってくる可能性が高いです。それを無視して、うちの商品やサービスは機能もあって性能が良い、だから多くの消費者を満足させるに違いない!と消費者に訴求してもなかなか届かないということなのです。これはプロダクトアウトと称されたり、”自分目線”と称されたりします。

 

これと同じことが人材育成でも言えます。

 

部下や後輩を指導する役割になる人は、その部下よりも豊富な経験や知識をお持ちのケースが多いですし、それを伝承することを期待されているとも思います。もちろんそれらの経験や知識は部下の役に立つのですが、「これが本質だ」「これは知っておけ」「このくらいやれないと」と自分目線で押し付けても、そのアドバイスを部下は”雇わない”ケースが多いのではないでしょうか。それは、その提案が部下にとってオーバースペックだったり、現状に合ってないからなのでしょう。部下には部下の現状があり望む進歩があるので、部下のジョブを把握し、そこにミートしたアドバイスをするということは上司のコアスキルである言えるのです。

 

人材育成は企業にとって重要なテーマだと思いますが、実際にマネジメントに携わる方には「短時間で部下を育成したい」「できれば他の人がやってほしい」といった思いもあるでしょう。そこに対してマネージャー研修では「傾聴しましょう」とか「相手の立場に立って考えましょう」と言われちょっと辛いところですよね。ただ、せっかくイノベーションを生み出したい!と思われている皆様であれば、イノベーション力を高める手段として「部下のジョブを捉える」という実践を積むのはいかがでしょうか。ジョブ理論は観察や傾聴の際の着眼点となり、より解像度高く相手を理解することに繋がりますので一石二鳥です。

“きく”を漢字で書くと・・・? ジョブインタビューのコツ!

Written by 山田 竜也 on 2020-10-06

「“きく”を漢字で書くと・・・?」と聞かれたら、
既に一つ答えを書いてしまいましたが、“聞く”が浮かびますよね。「門に耳をそば立てて中の音を聞く」と習った記憶もありますが、 “英語のHEAR” 、音として聞こえるかどうかですね。最近のオンライン会議ではこの“聞く”が上手くいかなくて、イライラする事もあります。

 

そして、もう一つは、“聴く”。コーチングやコミュニケーション系の仕事をしている人にはお馴染みの”傾聴”です。こちらは十四の心を持って相手の話に深く耳を傾けるという様な説明もありましたが、 “英語のLISTEN” 、意識して音楽や言葉の中身に深く耳を傾けるとしていう意味です。

 

そして、もう一つは、“訊く”です。これは少しニュアンスが違っていて、聞いたり、聴いたり、するためにこちらから尋ねて言葉を導くものです。 “英語のASK” になるのではないでしょうか。

 

実は、この3つを上手く使い分ける事が、相手から本音を引き出し、ジョブを探っていくときのコツになります。

 

 

そもそもジョブインタビューの目的はジョブを発見することです。“聞く”ことでデモグラ購買情報といった顧客情報は集める事はできますが、そうした情報は顧客の消費行動と相関関係があるものの、なぜ買うのか?という因果関係はわかりません。因果関係に迫るには、顧客の気持ちや性格、好みといった所にまで、意識して耳を傾け“聴く”必要があります。

しかし、それでも、顧客が特定の商品やサービスを雇う理由であるジョブにまではたどり着けません。例えば、洋服が好きで、いつもおしゃれな最先端のファッションを身に付けている人だからと言っても、全ての商品をファッション性に拘って選ぶ人は少ないのではないでしょうか。ジョブを解決する先の目的は機能的/感情的/社会的の3種類です。そのジョブの目的は何かをいろんな角度から尋ね”訊く”事で何が本音かが見えてきます。

そして、その本音は本人の口からは発せられないままの場合もよくあります。“訊く”ことで出てきた言葉を真摯に“聴く”ことでジョブの深堀りが進んでいきます。このループを回していくことがジョブインタビューのコツです。

 

 

 

では、どこまでループを回せば、ジョブを掴めるのか?

 

一つの基準は相手の感情が動く所を探す事です。具体的には、笑いが起こったり、口調が砕けたり、特徴的な言葉遣があったり、会話をしていく中で場の雰囲気が変わるような時に、相手が重要なメッセージを発している事があります。

 

経験豊富なインタビュアーは、表層的な会話にならないように、敢えて挑発的な質問をして、相手の感情を動かすようなことをすることがあります。

ジョブインタビューの場合にも、相手のリップサービスに惑わらされずに、本当の理由を探る必要があります。自社の商品に対して、「御社の製品は品質が良くて安心だからいつも買っているんです」と口では言っていても、実は本当の理由は「昔からの惰性で買っているだけ、新しいの選ぶのめんどくさい」かもしれません。昔は買った理由、もしくは、きっかけがあったけど、今は理由はないという状態です。相手の表面的な言葉だけを拾っていたら、全く違う方向に進んで行ってしまうかもしれません。

 

  • ”訊く”ことで出てきた言葉を真摯に”聴く”ことでジョブを深堀りする
  • 相手の感情の動きから重要なメッセージを読み取る

 

ジョブインタビューは最初は戸惑うかもしれませんが、実践した数だけ確実に上達します。但し、“訊く”で踏み込まずに繰り返しているだけでは、ジョブにはたどり着けませんし、上達もしません。

是非、真摯に一歩踏み込む事から始めてください。

 

先日、宣伝会議さんに取材を受けました。
『「ジョブ」と「雇用」の関係から考える顧客体験を起点としたブランドの存在意義』というテーマでジョブ理論についてマーケティング文脈で語らせてもらいました。10/9(金)に宣伝会議デジタル有料版での公開が予定されております。(https://mag.sendenkaigi.com/
山田の取材記事は、公開当日の、1日だけ無料公開となるようです。機会があれば覗いてみてください。

進歩をやめない

Written by 津田 真吾 on 2020-08-04

私たちは進歩したい


普段からめちゃくちゃテクノロジーのお世話になっていて本当に有難いです。
朝、半分以上寝たまま、何の事故も起こさずにトイレに行けます。これは水洗トイレ、下水道という画期的なイノベーションを享受しているからです。水洗トイレが屋内になければ、外の肥溜めやボットントイレに行こうものなら、かなり意識がはっきりとした状態で、足元にも気をつけなければ、そりゃ大変なことに…昔は子供がよく落ちていたそうですよ。

喉が渇いたな。そう思ったら、冷蔵庫を開けるとひんやりと冷えた麦茶。氷もできています。まるで天国です。

でも、そんなトイレや冷蔵庫に不満を持つことがあるかもしれません。

「便座が冷たい」という不満を持ったとき、一部の人は「昔の人よりもずいぶん恵まれているんだ。今の時代は屋内で座ってトイレができるんだから、甘ったれるな!」と。「氷を製氷皿から出すのが面倒」なんて言おうものなら、「昔は氷は貴重品だったんだ」との老害昔話も飛び出てくることも。

しかし、温かい便座や自動製氷装置のように、もう進化が終わったかと思うようなテクノロジーに、さらなる進化が追加されることは少なくありません。じわりと普及し、当たり前になったイノベーションには、ウォシュレットやサイクロン掃除機、コードレス掃除機などが挙げられます。既存のテクノロジーから十分に便利さを享受していながら、「もっと~だったら…」といった願望を持つのは、いけないことなのでしょうか?

現状への感謝と改善の意欲は矛盾しない

ZOOMはレッドオーシャンだと思われていた電話会議システムに参入し、コロナ禍の後押しもありましたが、今や毎日3億人が利用する遠隔会議プラットフォームへと成長しました。そのきっかけは「いまの電話会議システムは使いにくい」という不満です。当時WebexやSkypeなどのシステムは存在していて、すでに世界中の誰とでも、無料でビデオ通話が可能だったにも関わらずです。

「昔の国際電話は高かったんだぞ~」という人たちにとってはWebexは神のようなソリューションだったことでしょう。でも、Webexが当たり前の世の中においては問題もたくさんあるんです。

代替解決策

ジョブ理論には「代替解決策」という考え方があります。
それは、ジョブを片づけるために、人は何らかのソリューションを「我慢して」使用しているという、ものの見方です。しかも「我慢」しているかどうかは、本人は気づいていないことも多いのです。ZOOMを使ってみることで、初めてそれまでのツールの使いにくさに気づいた方も多いのではないでしょうか。ウォシュレットに慣れてから初めて、ウォシュレットの価値を実感した方も多いはずです。

つまり、現状のソリューションは、何らかの妥協を伴った上で顧客は購入しているということです。特にZOOMの場合は、顧客の不満は音声会議ならそこまで気にならないものの、ビデオ会議となると大きいものでした。

ZOOMは他社が音声を主体に設計している中、ビデオファーストの設計をしました。さらに、導入をより簡単にし、費用のハードルをさらに下げ、安定性も高めたことで急成長しました。在宅でのビデオ会議の際に、部屋の 片づけや化粧をしなくてはいけない問題など、遠隔会議にまつわる不満点についても、仮想背景や画像フィルタを用意することで密かに支持者を増やすことも抜かりなく行っています。


私たちは「トイレ」「冷蔵庫」「電話会議システム」など一つ一つの技術に満足することはあるかもしれません。しかし、「清潔で安全な生活を送りたい」「いつでも美味しいものを飲んだり食べたりしたい」「遠い友人や知人とどこででも話がしたい」といったジョブの視点に立てば、常に“もっと”を求めていると言えるでしょう。提供側の論理で私たちの進歩を止めたくはないものです。組織が老体になると、自社の限界で顧客の限界を決めてしまいがちですが、これはもったいない。企業の進歩は顧客の進歩とともにありたいものです。