シャープとユニクロのマスクに見る新規事業の醍醐味

Written by 津田 真吾 on 2020-06-23

コロナ禍で、シャープとユニクロがマスクを新発売しました。マスクの製造販売というのは世の中にとっては新しいビジネスではないですが、取り組んだ2社にとっては紛れもなく新規事業であったはずです。しかも、数カ月で立ち上げた新規事業として相当苦労された方も多いのではないかと思います。せっかくなので、これらの事例を見ていくことで新規事業の悲喜こもごもを想像してみます。

シャープの目の付けどころ

まずはシャープです。「目の付けどころがシャープ」で有名な家電メーカーですが、家電の前はシャープペンシルを発明し、製造販売していたことを考えると相当なトランスフォーメーションを経てきた会社です。さらに、その後世界初の電卓の開発にも成功し、液晶事業でも一時代を築きました。ところが、液晶事業への過大な投資などや強烈な価格競争によって経営が悪化し、2012年、鴻海に売却されたことも記憶に新しいです。現在は鴻海の傘下で再建を図っています。

新型コロナ肺炎の感染拡大によってマスクは品切れになり、特に医療機関でのマスク不足は深刻化しました。そのため、政府はマスク増産に対し補助金を出すことに。シャープはこの政府の「ニーズ」に応える形でマスクの製造販売に参入しました。政府の「ニーズ」もあり、余剰のクリーンルームや作業員を活用できるため新規事業としては成功する条件が整っていると判断したのだと思います。さらに、補助金が設備投資の一部をカバーできるメリットや、消耗品ビジネスに参入できることもメリットとして挙げられます。当時不足していた「国産」マスクであることや、防塵技術を活用した生産管理などのノウハウにも優位性を見ていいたと思われます。

「シャープマスク」ちっとも当たらない 倍率118倍、7回連続で当選確率1%未満

シャープがマスクを初めて販売してから、およそ2か月。今も人気は衰えない。第7回抽選販売が2020年6月10日に行われ、応募総数は824万1181件。7万人が当選したが、倍率はなんと118倍だ。 世の中、マスクが少しずつ購入しやすくなってきているが、シャープマスクは「別格」。当選を心待ちにしている人は大勢いる。いつまで抽選販売会を行う予定なのか、シャープ広報に取材した。 …

発売を開始すると、人気は上々で早速サーバーはダウンします。これまでに直販でそこまでのアクセスを経験したことがなかったのではないでしょうか。「ニーズ」の確認と生産面では抜かりなかったものの、直販でのウェブ販売は未知の領域だったことが明らかになりました。新規事業たるもの、この位でへこたれてはいけません。一方で、どれだけ想定をしても理論と実践にはギャップがあるものです。“想定外を想定する”ためのイノベーションマネジメントの大切さを感じました。

ユニクロの本業は服

ファーストリテイリングは ユニクロというブランドとして今や誰もが知り、誰もが着る普段着の会社として名を馳せています。このように期待されている会社は、顧客からの声に耳を傾けることなく、色々な要望が来ます。つまり顧客からの支持が多いと「指示」も多いわけです。報道によると、涼しいマスクへの要望は消費者からあったものの、柳井会長は「本業は服を作ること」として後ろ向きだったようです。

ユニクロが “エアリズムマスク” 販売へ⇒「需要しかない」の声

「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが、今夏にもマスクを売り出すことが分かった。 NHK など複数のメディアが報じた。 時事ドットコムによると、マスクには通気性や速乾性に優れた「エアリズム」の素材を使い、夏にも店舗や オンラインストア で販売を始めるという。 …

ユニクロと言えば、「普段から小奇麗な格好がしたい」「
手ごろで 時代に合った無難な服装がしたい」といった未解決ジョブに気づき世界にも2000店舗以上を展開する洋服のブランドとなりました。最近では洋服の「暑い」「寒い」「重い」「かさばる」「着心地が悪い」といった不満解消にも余念なく、新素材の開発から最終製品の衣服までを手掛けることで、消費者からは機能性も兼ね揃えているという評価を得ていたように思います。

そんなユニクロが、消費者に「需要しかない」と言わしめるほどのエアリズムマスクに躊躇するというのは意外でしかありません。

推測ですが、次のような考えがあったのだと思います。まず、マスクは服ではなく、医療もしくは衛生用品であるという考えです。このような考えは、企業が成長する際、社内の統率を取り、組織内の分業体制を作るためには大切な考え方ですが、自社のケーパビリティを限定してしまうという欠点もあります。もう一つ考えられるのは、現在は海外市場に照準を合わせていて、国内市場のニッチな要望に対しては優先順位を落としていたのではないかという点です。国内市場からの声は社員の耳に届きやすい反面、日本市場は全世界の代表ではなく、むしろ異例な市場であることが多いからです。国内の大きな声に影響され、海外市場における機会を見過ごしてきた他の日本企業を他山の石としてユニクロ経営陣は当初見ていいたのかもしれません。

しかし、涼しいマスクへの要望を聞くだけでなく、ジョブの観点で検討すれば、消費者は感染予防という機能性よりも「外出する際の身だしなみ」のためにマスクを利用していることに気づいたのだと推察されます。
日本の酷暑のもとで「身だしなみ」をするために、涼感の高い肌着が必要とされたように、涼しいマスクは多くの人に取って必需品になるはずだと考えられるのです。

マスクによって「飛沫を飛ばさない」という機能的なジョブだけでなく、「私は感染拡大対策をしています」「周囲に配慮できる人です」ということも同時に示したいという社会的ジョブを私たちは満たしています。現に、手作りマスクを作る人は多くいますし、こだわりの生地を使ったりするなど、形や柄で個性を出す人も少なくありません。考えてみれば、この構造は他の衣服もまったく同じです。単に暑さ寒さを凌ぐためや、体を隠すための機能的ジョブのためだけに服を着ているのではありません。 「身だしなみ」「自己表現」の道具だと思えば、マスクも立派なファッショングッズ。機能性も兼ね揃えたアパレルと見なせば、マスクこそユニクロが参画するべき事業とも言えるでしょう。

新規事業が面白い理由

シャープとユニクロの例を見ていると新規事業の非常に面白い面が浮かび上がってきました。

  1. 顧客ジョブによって事業領域を再定義することが大事。
     既存事業をスケールするには製品を軸に組織の統率が効率的ですが、新しい事業には顧客のジョブ視点でセグメンテーションすることが重要です。ユニクロではマスク事業を伸ばすためにも、マスクは洋服内のアイテムの一つとして位置付けることになると思います。そうなったら面白いですし、日本発ファッションアイテムとして文化的なアピールもできる可能性もあるのではないでしょうか。
  2. 「ニーズ」「ジョブ」の関係は、氷山の見えている部分と水面下の部分の関係。
     ニーズに応えるのもよいですが、ジョブに応えた方が大きなビジネスになりそうです。でも、目の前に潜在化したニーズがあったことで、多くのステークホルダーを巻き込んだ意思決定ができたのかもしれませんね。(ちなみにジョブとニーズの違いは以前こちらにも書きました
  3. どんなに新しくなくても新規事業のアイデアは仮説。
     液晶テレビや調理家電と比べると、ローテクだしシンプルな商品であるマスクも、いざ売ってみると想定外のトラフィックによるトラブルがありました。
  4. 成長。
     シャープはマスク事業をきっかけに、オンライン通販の新たな能力を獲得しました。今後は他の医療機器への進出も期待できます。ユニクロにとっては、マスクも海外へ提案するきっかけになることと思います。この過程で、海外諸国からのフィードバックもたくさん得て、機能性の高いアパレルとしての幅を広げるのではないでしょうか。

この2社以外にも「コロナのため」という目的ときっかけが明確になった新規事業は数多くありますが、いつか「コロナのお陰」と言われるような気がします。

世界は螺旋で進歩する

Written by 山田 竜也 on 2020-02-10

D2C(Direct to Customer)の出現

D2C(Direct-to-Consumer)という言葉をご存知でしょうか。卸売店・小売店などの流通を介さず、ECサイトで直接ブランディング・販売を行い、企業から消費者にダイレクトに商品を届ける仕組みのことです。

テスラもD2Cですし、眼鏡のWarby Parker(ワービーパーカー)、最近話題のAllbirds(オールバーズ)という靴もD2Cとカテゴライズされています。

また、言葉としては、シェアリングエコノミーにより増えてきたC2C(個人間商取引)もありますし、一般消費者向け商品を生産するメーカーの間に卸売が入ったB2B2Cもあります。色々なアルファベットの組合せが余計に複雑にしている様な気もしますが、一般消費者向けの製造業を対象にシンプルに考えれば、作り手と消費者の関係の違いで定義できます。

 

生産者 −> 卸売業者 −> 小売業者 −> 消費者

 

生産者 <−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−> 消費者

 

単に仲介業者を減らすだけだと、中抜きするだけですが、新たに着目されている理由はDirectという言葉が示す様に、直接顧客と関係を結べる事にあります。作り手と消費者の関係が双方向になるのです。

これにより、amazon primeやFacebookの様なソフトウエア商品では無い自動車や靴がソフトウエア商品の様な関係性を顧客と直接結ぶことが出来ます。顧客との関係性が直接になれば、製品開発に役立つ情報がダイレクトに取れますし、顧客との関係を深めてLTV(Life Time Value)ベースでのビジネスに繋がります。

 

こうした商取引きは新しいのか?

「生産者が作ったものを直接消費者に届け、顧客との関係をダイレクトに結ぶ」このモデル自体は特に新しくありません。オーダーメードで限られた数の靴や服を売る様な工房型の店は古くからあります。オーダーメードでなくても常連さんを抱える老舗のパン屋さんやケーキ屋さんもあります。
但し、こうして始まった店も顧客数が増え、直接顔の見えない顧客に商品を届ける様になると間に流通業者が入り、大量生産、大量販売が進み、顧客との接点が小売店側に移りB2B2Cの状態になります。販売量が増えてもネットでのお取り寄せの様な形で顧客との直接の関係を維持している場合もあります。

工房型の直接取引、卸売業・小売業を介した大量販売、ネットでの直接取引、結局はいくつかのパターンが繰り返し現れるだけの気がします。同じ所をグルグル回っているだけで、そこに進歩は無い様にも見えます。

 

では、何が新しいのか?

D2Cの本質的な新しさは、SPAと比較すると分かり易いです。どちらも自社で企画、生産した商品を消費者に直接届けるという点は同じです。違いは顧客情報の活用度合いにあります。顧客が商品を購入した販売時点までか、使用後も含めたライフサイクルまで捉えているかにあります。

使用後の反応こそを大事にしているのがD2C企業と言えます。購入時のBig Hireより使用後のLittle Hireにこそ、顧客に選ばれ続けるヒントが眠っているからです。

認知 −> 購入 −> 利用 −> 利用の継続 −> ジョブの解決

生産者 <−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 顧客からの発信

先ほどの製品やサービスを届ける流れを顧客の視点で書くと上の様になります。

Big Hireは顧客が製品やサービスを購入した瞬間です。この時点ではその製品やサービスを購入したいという顧客のニーズは満たされていますが、顧客がその製品やサービスで解決したかったジョブは未解決のままです。Little Hireとは顧客が製品やサービスを利用した瞬間、もしくは利用し続けてジョブが解決した瞬間です。そして、この瞬間になって初めて顧客からの発信が始まります。生産者が得たいフィードバックが得られる様になります。

例えば、楽器は多くの人が一度はトライし挫折するものの典型です。購入した瞬間には高揚感はありますが、本当に解決したいジョブはその先の弾けた瞬間にあります。そして、そこまで辿り着くには時間がかかります。ギターで有名なフェンダー(Fender)は、ギターを始めた人の90%は1年後には挫折してしまうという状況を発見し、ギターが上手くなり演奏を楽しめるリトルハイヤの瞬間までを支援するために、フェンダープレイ(Fender Play)という初心者のプレイヤーを対象としたオンラインギター学習システムを開発しました。

もちろん、どの企業も販売後の顧客の利用状況を掴もうとしています。昔も購入した製品にユーザー登録の葉書は付いていましたが、ほとんど使われる事はありませんでした。新たな商品解決のための情報は、別途、マーケティング調査を行って入手している場合がほとんどです。

自分たちが良いと信じるものを作り、顧客と直接関係を結び、顧客からのフィードバックを重視して、一緒に良いものを作っていくのが、D2C企業の戦略と言えるでしょう。

 

何が新しさを支えているのか?

一見商取引のパターンがグルグル回っているだけの様にも見えますが、それを支えるインフラは変わってきています。インターネット、決済サービス、物流サービスがあるからこそ、メーカーと消費者の直接取引が可能になります。SPAとD2Cを分ける消費者からの発信は、インスタグラムなどのSNSの発展により可能になりました。

どんな商品において、どの様な商取引の形態が望まれているか?様々な商品が溢れかえる現代に置いては、より自分だけの特別な商品を使いたいという感情的なジョブが強くなります。好きなブランド、自分が推しているブランドを周囲に示したいという社会的なジョブも生まれてきます。

「こうしたジョブの変化と、それを実現するテクノロジーの変化」は即ち、螺旋を上から見たときに、どのジョブが強くなっているかと、螺旋を横から見たときに、どのジョブを解決できるテクノロジーが用意されているかに相当します。

 

2つの視点で世界を見れば、世界は確実に進歩しています。
世界は螺旋で進歩するのです。

顧客インタビューで気をつけたいこと

Written by 星野 雄一 on 2020-01-31

新規事業を推進する上で欠かせないのが、顧客のことを知ることですね。その一環としてインタビューを行うケースも多いでしょう。でも、いざやってみると難しいことも多いですよね。ここではいくつかの気をつけたい事例を共有しつつ、どうすれば良いかを考えたいと思います。

 

「これってどうですか?」パターン

自分の仮説が当たっているかどうかを聞きにいってしまっています。特に既存事業でインタビューに慣れている方がハマりやすいです。具体的には「こんな課題ありませんか?」「例えばこういう商品だったらどうですか?」と、クローズドクエスチョンに持っていってしまいます。ジョブを”発見”しに言っているのに、”確認”ばかりではいけないですよね。

 

「ジョブがなかった、仮説が外れてた…」と嘆く気持ちになりますが、「No」から派生する会話の中ではヒントになる情報がたくさん隠れていますので、ここを掘りましょう。

 

「わかりますー」パターン

顧客の声をしっかりと傾聴しているのですが、ただ持論を聞いて終わっています。やっていることをひたすら聞いているうちに共感モードに入り、そうですよねーとなっていく。相手が何をしているかは拾えているのですが、なぜその行動を取っているかを拾えていません。

 

「元々考えていたジョブではなくて、共感できる違うジョブが発見できた!」と心躍る前に、もう少し深く聞いてはいかがでしょう。

なぜその行動を取っているの?どんな時に?今の方法とは違う手段はなぜ取らないの?

 

「なぜですか?」パターン

なぜ顧客がその行動を取っているのかを抑えようと努力しているが、答えを知りたいかのごとくストレートに聞いています。 顧客はすべて思考で論理的に行動をしているわけではありません。こう聞かれると多くの場合、頭で考えたそれっぽい返しが戻ってきます。

また事情聴取のような場になることもあるでしょう。

 

相手の言葉のみならず意図もしっかりと押さえるために、ぜひ”今やっていること”を拾い上げてみましょう。その後「なぜ?」を推察することをお勧めします。

 

ジョブ発見型のインタビューの場合は”なぜ”を直接的に拾うのではなく、現在の行動から”なぜ”を推察することが肝要です。JOBSのフレームワークを使いつつ、ぜひ意識して取り組んでみてください。

「顧客像」を理解する。「顧客」を理解する。

Written by 津田 真吾 on 2020-01-23

最近はイノベーションという文脈だけでなく、ジョブ理論についてもご相談を頂くことが多くて嬉しい限りです。ジョブ理論についてそのようにご相談を受ける時は、大きく分けて2つのタイプがあることを先日発見しました。

  1. 顧客を知らないため、もっと理解したいと思っている
  2. 顧客を知ってはいるが、顧客に向けた働きかけに問題があると思っている

それぞれについてもう少し詳しく説明しましょう。

タイプ1:顧客を知らない

最初のタイプは、単純に「顧客を知らない」ことを自覚している企業です。代表的なのは、すでにモノを作ったけれどさっぱり売れず、作る前に顧客のことを考えていなかったことに気づくようなシチュエーションです。あるいは、新しい市場を狙いたいけれど情報が取れない、取り方がわからない、整理の仕方がわからない、やってもやっても手応えがない、といった状況です。

このような場合には、もちろん顧客との接点を増やします。具体的にはインタビューや観察(エスノグラフィー)を行います。もちろん、インタビューや観察で得た情報はJOBSメソッドを活用するなど、ジョブの観点で整理するのがよいでしょう。顧客は誰なのか?ジョブは?ジョブの目的は?ジョブ解決の障害は?代替解決策は?といった問いで得られた情報を整理します。手軽に行うにはジョブ調査もおススメです。

ジョブの観点で顧客を知ることで、その顧客が本質的にやりたかったことが見えてくるはずです。既存の市場にある商品だけでは顧客が不満である理由や、どのような商品なら新たに採用されうるのか、といった答えが得られます。

タイプ2:顧客を知っているが、見つけられない

このタイプの企業では、マーケティングが徹底されている傾向にあります。そのため、「顧客像」はしっかり持っています。にもかかわらず、その顧客像に“リーチ”できていないとの自覚症状を持っていたりするのです。

「都市部に住む20代~30代の仕事を持つ女性」「~意識が高く、習い事にも通う…」などと言ったペルソナを決めていることも少なくありません。このようにペルソナを明確にすると、「顧客像」ははっきりするものの、分かった気になるという欠点もあるのがやっかいです。

この場合は、まず抽象的な「顧客像」についてはひとまず置いておきます。そのうえで、顧客が製品を購入する必然性について考えることを行うのです。

必然性。

必然性、というのは買わないといけないような理由ということです。

都市部に住むことや、年齢は、買う人を表してはいますが、買う理由ではありません。性格も理由ではありません。私は新しい物好きですが、すべての新しいものを買ったりはしません。

風邪を引いたら、風邪薬を買うのは必然性が高いです。

同様に新築の家を買うのに、ローンを申し込むのも必然性が高いです。多くの方は、不動産を現金で買うことができず、他の個人から借りたりすることも難しいからです。つまり「ローン」という商品を買う顧客像を理解するには、いくらの家を買いたいのか?いくらの現金を持っているのか?他の現金調達手段は?といったことを理解するのが手っ取り早くなります。(これらのことをジョブ理論では「状況」と呼びます)。つまり、顧客の年齢や性別よりもはるかに知っておきたいことが山ほどあるんです。 顧客像に加えてこれらの状況を押さえておくことで、新たな顧客も見つかりようになります。

Amazon Go の顧客体験は何が凄くて、何がしょぼいのか?

Written by 津田 真吾 on 2019-10-24

先日サンフランシスコのAmazon Goを体験したので、今回は3つのことを書きます。

1.アマゾンゴー(Amazon Go)は無人コンビニとして話題となってるけど、何が凄いの?
2.小売店の顧客体験ってどうなの?
3.Amazon Goは未来なの?

何が凄いの?

Amazon Goが一目ですごいと言われているのは、「レジが無いこと」です。欲しい商品を持って、外に出るだけで購入することができるというのは、まるで魔法。セルフレジが普及しつつありますが「人に会わない」という無人ではなく、「レジ精算をしない」「どうやって金額を計算しているのかわからない」「決済の瞬間がわからない」んですよね。棚から商品を選んで、店を出れば自分のものになっているというスムーズな買い物体験を提供することが話題です。小売店は「欲しいものを手に入れたい」というジョブを、オンラインとは違い、視覚的・体験的に解決する場ですので話題になるのも当然です。

小売店が片づけるジョブ

このように、小売店が存在するのは「欲しいものを手に入れたい」というジョブがあるからです。欲しいものを目で見て、手でピックアップするだけで買い物が済むというのは、他の店舗と比べるとスムーズかつ快適なプロセスとなっています。「顧客体験」というと、つい「おもてなし」や「接客」といった言葉が出てきますが、「欲しいものを手に入れたい」という機能的なジョブは機能的に優れていないと良い体験とは言えません。Amazonが言う「Frictionless」、つまり、やりたいことが「何の手間もなく」できると、顧客は何度も戻ってくるはずです。Amazonは、その購入する手間がいかにスムーズかをアピールするためにアプリやレシートに、店舗の滞在時間を記載しています。


この時はたった2分27秒しか滞在しなかった

しかし、Amazon Goを利用してみて、Friction(摩擦)は減っているものの、そこまで凄いかな?というのが正直なところです。

まず、店舗に入るのにスマホアプリを起動する必要があります。そのアプリで表示されるバーコードをゲートでかざすことで初めて店に入ることができます。

しかも、事前にアプリをダウンロードし、クレジットカードを登録するなどの手間もあります。また、購入に2分半しか掛かっていないことからもわかるように、品数は多くはなく、正直、買いたくなるようなものがそれほどあるわけではありません。

AmazonGoを体験すると、自動販売機(特にSUICA/PASMOが使えるやつ)がいかに最高な体験なのかに気づかされます。買いたいもののボタンを押し、スマホをかざすだけで買えるのですから。

AmazonGoは、普通のコンビニのセルフレジよりはシンプル。また、有人レジでの待ち時間はないけれど、袋詰めは自分でやる必要があるし、顧客体験が最高に最高ってわけではないというのが実感です。

AmazonGoは未来を象徴しているのか?

ではAmazonGoのような店舗やレジシステムは普及しないかというとそうではありません。顧客体験としては、そこまで劇的に良くなっていなかったとしても、導入する店舗にはメリットがとても沢山あるからです。

小売店が喉から手が出るほど欲しいのは「どんな顧客が何を買っているのか?」という情報です。そのために会員カードやポイントカードを発行し、購買情報と個人情報を紐づけようと躍起です。しかしAmazonはその遥か上を飛んでいきます。なにせオンラインで買っているものと、オフラインで買うものがわかるのですから。どういう商品がオンラインで買われ、どういう商品が実店舗で買われるのか?オンラインに顧客を奪われている小売店にとっては切実な状況におけるクリティカルな情報になるはずです。

Amazonはかつてオンライン書店用に開発したITシステムを、他社にクラウドサービスとして提供しました。その後、AWSとして多くの顧客がクラウドを利用できる形に商品化し、今やドル箱にしています。Amazonがこのシステムを外販するかどうかまだわかりませんが、十分に考えられる戦略です。

小売店に訪れる消費者だけでなく、小売店業のジョブを片づけることで、まだまだAmazonは成長しそうだと感じました。