『ジョブ理論』と「JOBSメソッド」は競合するのか?

Written by 津田 真吾 on 2021-11-24

クリステンセン氏は亡くなってしまい、『ジョブ理論』増刷(なんと12刷)に「おめでとう」も「ありがとう」も言えない。

クリステンセン氏には『イノベーションのジレンマ』『ジョブ理論』、『イノベーション・オブ・ライフ』、『繁栄のパラドクス』といった書籍に代表されるような、本当に役立つ考え方を教えてもらった。有難いことにクリステンセン氏以上に、INDEE Japanのメンバーや、XVCのメンバー、投資先のファウンダー達から考え方を授かることは本当に多い。そういう知恵をもらうと、謎が解けたことに感動し、新しい知に脳も喜ぶものだ。

さらに嬉しいのが、「『ジョブ理論』を教えてくれてありがとう」と言われることだ。何年も前のプロジェクトやセミナーでご一緒し、その時にお伝えしたJOBSメソッドをよく覚えてくださっているのだ。そして、「ありがとう」と言われること、特に何年も経ってから覚えて頂いていることは本当に嬉しい。

さて、講演やコンサルティングの現場でお伝えする「JOBSメソッド」は、ジョブ理論を実践するための一連の手法である。INDEE Japanで開発したものではあるが、まったくゼロから考えたものではない。『イノベーションへの解』『ジョブ理論』『ザ・ファーストマイル』といった書籍を読めば、理論の内容だけでなく実践面でのコツなども概ね身に付けることはできるだろう。あるいは、優秀なマーケターなら「ジョブ理論」を読むまでもなく、似たようなアプローチを取っていたりする。つまり、『ジョブ理論』は2000円で購入することのできる「優れたマーケターになるためのガイド」であり「イノベーションを成功させるためのノウハウ」であり、「顧客価値を生み出すための考え方」なのだ。

したがって、書籍『ジョブ理論』はINDEEがお届けする「JOBSメソッド」は競合製品ということになる。一人当たり10倍以上の価格差があるので、「本を買っておこう」とか、さらに節約して「図書館で借りよう」ということになると、INDEEはアガったり…となってしまう。が、案外そうでもないのである。

微妙に異なるジョブ

実は、ビジネス書と企業研修やコンサルティングは異なるジョブを解決する。

書籍は、安く、一人で、マイペースで、読んだり、(こっそり)読まなかったり、自由に知識を得ることができる。

一方のセミナーは、本よりは高いが、チームで、ある時間をコミットして、知識を得たり、不明点を質問したり、(こっそり)実践のヒントまで得ることができる。さらにコンサルティングでは、自分の仕事にジョブ理論を当てはめることができるし、ジョブ理論以外の技も(こっそり)学べる。

この(こっそり)というのが、ミソである。

実は購入されたビジネス書の8割以上は読まれていない。「積ん読」という言葉が出来たことには理由があるのである。「知っておかなきゃ」と思って本を入手しても、読まなくてもよいのが本なのだ。この「積ん読」という言葉は、世界各国で「あるある!」と、“tsundoku”という言葉が輸出され、英語のWikipediaページも存在する。買った本を読もう読もうと先延ばしにすることは世界共通で起きる事象なのだ。まとまった時間を取るのは大変だし、他の本も読まなきゃだし、読み切るのに一冊の本はそれなりの時間がかかってしまうという欠点がある。

つまり「知識を手に入れたい」というジョブの解決策として「本を買う」というのは、完璧な解決策ではない。なので、本の要約サイトなども繁盛するし、超要約「ジョブ理論」といった、まとめ記事もアクセスが多い。

「共通言語」

近年、イノベーションの取り組みのなかで「Common Language」「共通言語」の必要性が認識されつつある。こちらもWikipediaのページが参考になるのだが、「ジョブ」という考え方に限らず、新規事業やスタートアップに必要な考え方の多くは、既存ビジネスとの共通項は少ない。既存ビジネスにおいて、マーケティングデータがあるのにもかかわらず仮説ベースの「仮説検証」を行うのは無駄が多いと言わざるを得ないし、過去の品質問題を知らずに製品開発を行うのは無謀だ。さらに極端な例かもしれないが、エンロン事件のように会計業務が「クリエイティブ」だと本当のマズいことになる。つまり組織内の全員がイノベーティブな行動を取る必要はない。しかし同じ組織にいる以上、コミュニケーションは必要だ。

そんなときに、「共通言語」はとても大切な考え方になる。新規事業と既存ビジネスとは交流が常にある訳ではないが、リソースは共有している。大切なリソースを配分する際、まったく会話が成立しないのは相当なハンディキャップになる。定性的で感覚的になりがちな新規事業と、定量的で硬直的になりがちな既存ビジネスとが共通言語を持つことで得られるメリットは大きい。政治的で感情的な議論から、可能性とリスクを基準にした議論ができることになるのだ。

組織単位の研修やセミナーでは、その共通言語を一度に築くことが可能になる。一人一人が苦労しながら学ぶのは異なり、組織で共通認識を促進し、議論のベースを築くことができる。組織での学びは、個人の学びとは異なるジョブなのだ。


少し宣伝的になってしまいましたが、今回言いたいことはこんな感じです。

  • 一人の学びとして本は(自由)で何かと都合がよい。
  • 本は案外(自由)なため、読まれない。
  • 組織学習にはセミナーが有効。
  • 競合品のように見えても異なるジョブを解決していることが多い。