若者世代をターゲットにしたビジネスは成功しずらい。特に「X世代」とか「Y世代」とか「Z世代」とか「ゆとり世代」とか「さとり世代」とか、そういう世代をターゲットにすると成功は厳しい。結論から言うと、“世代”をターゲットにすると失敗するが、“世代”を忘れることができれば、成功の一歩目は踏み出せる。少し説明しよう。

なぜ難しい世代なのか?

これまで団塊世代や団塊ジュニアをターゲットに成功してきた企業は、市場の先細り危機感から何度も企業は若者の消費を喚起しようとチャレンジをしては失敗している。

その失敗の原因には色々な説があり、どれも説得力がある。

  • 若者は可処分所得が少ない。
  • 若者はデジタルでほとんど事足りるので、クルマやテレビなど「~離れ」が起きやすい。
  • 若者は衣食住が足りているので消費意欲が低い。
  • 若者の価値観は違うので、従来のマーケティング手法が役立たない。

これらの理由は納得感が高いので、たまに「若者の価値観を持った若者」「ジェネレーションZ向けのマーケティング」をやっているのを見ると、それを信じて託したくなる。しかし、残念ながらジェネレーションZが起業してジェネレーションZ向けのビジネスを行ったとしても必ずしも成功確率が高いとは言い難い。

その理由はジョブ理論から考えれば明らかだ。

「世代」が消費するわけではない

前述したように、「団塊の世代」「団塊ジュニア」という2つの画一的なマーケットが存在したために、私たちは「世代」というのは一つの消費性向を持つものだと考えがちだ。しかし当たり前だが、同じZ世代でも大谷翔平さん、藤井聡太さんといったアグレッシブな人もいるし、そうでない人もいる。

そう考えると、それまでの世代で「世代別マーケティング」が偶然にも成功してしまったことの方が悲劇なのかもしれない。

状況がジョブをつくり出す

人間は、環境が激変すると必要なものが同じになる。急に感染症が蔓延した2019年、人々はマスクを買うのに躍起になった。石油や石油商品がなくなる(もしくはなくなる不安)という状況に陥ると、石油ショックのときのように狂った消費に走る。消費税率が変わったときも覚えているだろうか、高額商品を購入しておこうと色々なものの特需が生まれた。

コロナでリモートワークを強制されるとZOOMやTEAMSを「雇った」のも同じ構図である。ジョブ理論では、「状況がジョブをつくる」という言い方をするが、とある状況からの進歩を目指すとき、その進歩のステップがジョブとなり、消費に結びつく。

Generation Zをどう観察するか?

私は決して若者世代ではないし、若者の「価値観」が分かっているわけではない。しかし、彼らがどのような「消費行動」を取っているのかは注意深く観察するとよくわかる。いくつかそのポイントを紹介しよう。

1.「消費」はお金を使うとは限らない。
私たちは、一般に稼ぐ力の弱い若年世代のうちは、お金よりも時間を消費する。特急料金を払わず青春十八きっぷで旅をしたり、高速道路を使わず一般道を走った。相対的に時間と体力があり、お金のない状況にある若者の「消費行動」を知るには、売り上げデータとにらめっこしていても答えがでないだろう。無料で遊べるゲームやSNSがふんだんにある今の状況ではなおさらである。

2.どこにでも行けるし、同時に複数の「所」に行ける。
GenZより30歳以上離れた諸先輩方は、どこに行くのも「リアル」でしか行けなったし、誰と会うのでも「リアル」でしか会えなかった。電話こそあったが、留守だったりすると連絡がつかない。なので、誰かと会いたければ半日以上かけて移動したり、待ち合わせしたり、コストも時間もかかるのが当たり前だったのに対し、現在はサクッと話をしたり、メッセージを送っておくこともできるし、会いに行くにしても交通機関はかなり便利になっている。移動中も“繋がって”いられるし、他の人と直前まで話していることもできるのだ。つまり、たくさんの選択肢があるだけでなく、「全部」を叶えることも難しくなくなっている。若者の行動は同時に1つとは限らないのだ。

3.情報だけはあるので、「選択」にも時間がかかる。
ググればほとんどの情報は手に入る。書籍も格段に多く、何か一つの行動を取る際にも選択肢が比べ物にならないほど増えている。しかし、この情報を処理する人間の脳は変わっていないため、さまざまな選択肢から結論を出すには時間がかかる。大人たちから見れば、何もやっていないように見えるし、「迷って」決断が遅く見えるかもしれないが、選択肢を探すことも含めて選択そのものに非常に時間がかかっている点も注意に値する。子供のころから将棋や野球の道を目指し、恵まれた才能もあれば「迷い」も減るかもしれないが、そうでない大半の若者は買い物一つ取っても選択に非常に時間をかけている。

4.とにかく多様である。
当たり前かもしれないが、とにかく多様である。前述したように、選択肢も多く、同時に複数の選択をすることもできるし、何も選択しなくても大丈夫な状況に置かれていると、色々なことが可能である。戦後の貧しい時代に若者だった団塊世代は、とにかく金銭的に豊かになるということが当然の進歩になる。しかも、終戦というタイミングからよーいドンで経済的豊かさを追求すれば、同じタイミングで家電や家、クルマなどといった同じものを消費するという分かりやすい行動パターンになる。同時期に生まれた彼らのジュニアたちも同期した成長をするため、デモグラフィックが有効だ。だがしかし、豊かになった時代以降に成長するということは一体何を意味するのか?豊かさ以外に人生で追及することと言えば…そう一概に言えないのだ。まさに個性が違いを生むし、好みや趣向が占める割合が多くなる。「世代」という括りで見ると答えが多すぎて戸惑ってしまうはずだ。

5.「悟って」はいない。
「さとり」世代とか、達観世代という別名もあるように、何かに深くのめりこむことができていないように見えるかもしれない。だが、それはまだたくさんあるオプションを試し切れていないだけだと理解した方が良いだろう。「悟った気になる」ことはどの世代であろうとも若者の特権ではあるが、決して悟ってはいないのだ。行動を見れば、色々なものに興味が移るし、同時に複数のことに興味を持っているようだ。深読みしすぎず、かえってその多次元的、同時並行的な行動と状況からジョブを紐解くことをお勧めする。

GenZをターゲットにしたビジネス

ここまで書いて分かるように、「Generation Zをターゲットにしたビジネス」という、粗く、年齢セグメントに着目したビジネスはお勧めしない。しかし一方で彼らの消費行動はネットやメタバースにも波及しているし、同時に複数の消費も可能な貪欲なマーケットだ。また、ほとんどの企業が失敗しているマーケットであるため、チャンスは大きいと言える。TikTokなどの成功事例もある。まず、コツは解像度を高めて「~な状況に置かれた若者」といったターゲット設定をすることから始めることをお勧めする。さらに、以下の観点で優れた解決策を生み出すことができたら面白いだろう。

  • 「選ぶ」プロセスや「選ぶ」体験価値はもっと高められる
  • 「何者にもなれる」ことは「何者でもない」という矛盾を秘めており、感情的ジョブ、社会的ジョブの源泉である
  • 「暇つぶし」は大切なジョブである
  • インターネット、さらにメタバース内のキャラクターにもジョブがある

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