人材育成というのは、永遠のテーマですね。どこに行っても課題として挙げられています。個人レベル、部門レベル、企業レベル、国家レベル、で必ず話題に挙がります。国家レベルで言うと、文部科学省ではサービス・イノベーション人材育成推進プログラムのほか、いくつかの産学連携による高度人材育成に関する制度を用意しています。グローバル化や日本経済の停滞を背景に、新たな事業を生み出すような人材、とりわけイノベーション人材を求め、育成しようと試みています。
このように政府が取り組んでいるのを見ると、イノベーション人材の姿やどうやって育てれば良いのか、あたかも正解があるかのように感じてしまいますが、そんなものはありません。あったら誰も苦労しません。わかっているなら、第二の本田宗一郎さんや井深大さん、松下幸之助さんがもっと登場してもいいはずです。
このような偉大な起業家たちは、それぞれに個性的で、それぞれに異なる道筋で成功を築きました。そのため、人材育成というと、本当に捉えどころのないもののように感じてしまいます。
一人一人の個性や適性を活かしながら、人材を育成する際に一つのモデルとなるのが、「T型人間」「π型人間」です。アルファベットのTの横棒は幅の広い教養や能力、縦棒は深い専門性を指します。πだとさらに2つ目の専門領域を持っていることを指します。
なぜ専門性と幅広い教養や能力の両方が重要なのかというと、いくつかの理由が考えられます。
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- 専門知識だけでは、世の中の多くの人にその価値を伝えられないため
- 薄く広くだけでは、真似されやすく優位性を保ちにくいため
- 一つひとつの専門領域は代替技術の登場などにより廃れることもあるため
- 異なるアイデアを結合(新結合)した際にイノベーションが生まれるため
- 一つの専門領域を深めると、そのアナロジーを活用して応用範囲が広がるため
- 科学技術の進歩とともに各専門領域は広がりを見せており、それらを統合することが困難になっているため
- 多様性を増している社会に対する理解の幅と深さの両面が求められているため
このように、人材育成は個別の能力や知識だけでは語れません。まっすぐに専門性を高めながらも、幅広く好奇心を持ち、違う領域の人と交流したり、与えられた仕事を枠を超えて取り組んでみたり、専門知識が他の分野で応用できないか考えてみたり、といったことが大切になってきます。さらには、井深さんが心がけていたような「誰もやらないこと」をやり遂げるために必要な試行錯誤力も重要です。誰もやったことがないことというのは、言い換えると失敗して当たり前。そのような失敗を失敗として受け止めずに前に進むことができる力は必要な資質です。つまりは人の成長は取り組む姿勢、いわゆる行動特性をいかに鍛えるか、という点にかかっていると言っても過言ではないでしょう。
このようにチャレンジをし続けるとともに、失敗からも学ぶ姿勢をもってすれば、成長の速度そのものが加速されます。そもそも新しいことに取り組んでいきたいわけですから、誰も知らないことに対して学びの速いことが重要な要件になります。つまり、単に計画を立てたり、計画に従って実行するだけでなく、計画を立てながら細かく見直していく高速仮説検証プロセスを受け入れやすい体質にしていく。同じ時間でより多くの仮説を検証し、学んでいく力そのものを育成したいものです。
となると、周りができることは、事実ではなく仮説を披露してもらうこと、異分野や他業種との接点を増やすこと、チャレンジそのものを評価すること、実績ではなく可能性を評価すること、そしてチャレンジを応援すること。