人材育成という、誰もが語るけど、誰も語り尽くせないテーマを少しでも捉えやすくするために整理してみました(だいぶ私見が混じっていますので、複雑なテーマを整理する叩き台として、読んでくださいね)
 人材育成に関する世界最大のコミュニティは atd(元ASTD)ですが、2017年5月に開催されるカンファレンスのコンテンツトラックには、キャリア開発、グローバル人材開発、人財、インストラクショナルデザイン(教育工学)、リーダーシップ開発、ラーニングテクノロジー、学習の測定と分析、マネジメントとのエンゲージメント、トレーニングデリバリー、学びの科学といった内容が並びます。あふれる情報は専門家としては知っておくべきことかもしれませんが、逆にこれら全てを押さえたからといって、効果的・効率的で、経営者・管理職・社員の要望を満足する育成が行えるわけではありません。
 人材育成に限らず、情報収集の前に、そもそも何のために?という目的を設定することが大切です。やっかいなのは、この目的が時代とともに移り変わること、業界や環境において異なることです。そこで、人材育成の変化を4つの段階に見ることで、目的と手段の組み合わせを考えてみたいと思います。ちなみに、古いものは不要ということではありません。むしろ、やり方が増えているという理解をした方が、ステレオタイプなバズワードに踊らされずに済みます。
 暗黙の前提として、企業内の人材育成を想定していますが、「働き方改革」が叫ばれる昨今、企業という枠の捉え方が変わってきています。企業という虚構が崩れようとしている?のかもしれません。 枠が外されて自由になった時、改めて、過去に主流だった手段(の現代版)も含めて様々な人材育成の選択肢が活用されます。人材育成に関わる方にとっては腕をふるうチャンス、企業研修に関わる企業にとってはビジネスチャンスです!

 

徒弟制度

人材育成1.0 徒弟制度
 1.0は徒弟制度です。いわゆる現在の企業内における人材育成から見ると、育成とは言えないという意見もあるかもしれませんが、実は現在も続いて行われている最も基本的な人材育成です。 多くの技術(工芸、工学の分野だけでなく、コミュニケーション、営業術等のソフトスキルも含めて)が、現在もOJTという名の徒弟制度で伝達されています。 徒弟制度だけでは一度に大勢を育成することはできないので、多くの技術が書籍やトレーニングプログラムとして安価に広く提供されています。しかし、現場の実践者(上司も部下も)から、「こうしたパッケージ化された育成は現場で使えない!現場での実践こそが大事だ!」という声を聞きます。少しでも実践的になるようにとカスタマイズで対応しますが、限界があります。 こうなってしまうのは、目的と手段が合っていないからです。左の写真のように、一人の弟子を一人の親方が時間をかけて、仕事の最初から最後までを教えていくことができれば、少年はやがて立派な親方へと育っていくでしょう。その代わりこのやり方は多くの弟子を一度に抱えることはできないですし、親方が十分に優秀で、教えられることが少年の時代にも通用することが前提になっています。守破離の守の段階を伝達するためのやり方です。 現代ではこの様に少人数でじっくり基本を叩き込むといった育成機会は、非常に貴重なものです。仕事の最初から最後までのどの部分で活用するか?残りの部分をどうやって補完するか?目的に応じた人材育成の全体設計を工夫すれば、徒弟制度は有効な武器になります。

 

階層別研修

人材育成2.0 階層別研修
 2.0は階層別研修です。ここからがいわゆる企業でイメージする研修です。社員が増え、OJTだけではまわらなくなり(上司や部下のバラツキが大きくなりすぎ上手く育成できなくなり)、職種や階層に合わせて一定レベルの人材を育成するための手段として必要になってきました。 企業がオペレーショナルな業務を抱え、それを回すために均質な人材を必要としていることが前提になります。工場の操業の様な常に安定した品質が求められる職場には必須のものですが、組織の維持・管理という観点で、主任・係長・課長・部長、更には役員まで、ピラミッド型の階層を維持するために広まっていきました。テーマ的にも時間管理やマネジメントの基本的なものからリーダーシップ等へと広がっており、研修全体のボリュームとしては未だに多くをしめるでしょう。 この手段はどの会社でも必要となる様な汎用的な内容で、どちらかというと組織の維持に重点がおかれていますが、問題解決、課題形成、戦略策定といった各企業・職場ごとの特性に合わせた(いわゆる実務により直接的に結びつく)テーマが研修の場で取り上げられる様になってから、少し様相が変わってきました。 親方の技を伝えるでもなく、組織を維持する均質なスキルを広めるでもなく、自分たちが今抱えるテーマに取り組みながら、学習とそれによる効果を一度に得ようというやり方です。答えを学ぶのではなく、答えの出し方を学ぶ必要性が出てきました。全ての階層がより多くのスキルを身につけなければならなくなってきています。

 

アクションラーニング

人材育成3.0 アクションラーニング
 3.0はいわゆるアクションラーニングです。この言葉自体、いろいろな解釈をする方がいますが、ここでの定義としては、「業務上の重要な課題を扱う」「異なる専門分野の関係者が知恵を出し合う」「講師ではなくファシリテーターが学習プロセスを導く」ととらえてください。 徒弟制度は、あるギルドの中に閉じこもっている。階層別研修は均質な知識の伝達に止まってしまう(問題解決のスキルを全員に伝えたとしても、問題解決への行動は担保されない)。もっと短期に成果のでる研修を行え!という要求から生まれてきたものがアクションラーニングの様な実際の課題を扱った手段です。 時代背景としては、企業が直面する問題が複雑になり、複数のステークホルダーが絡み、特定のやり方や特定のメンバーだけでは対処できなくなってきた。より短期の業績が重視され、将来につながる人材育成(このやり方が将来につながらない訳ではないですが)よりも、直接の問題解決の方が重要になってきた。といったことが挙げられます。 アクションラーニングで押さえておきたいポイントは、コンテンツをいかに上手く伝えるかという講師の腕から、学習者がいかに本当の問題を見つけそれに対してアクションを起こせる様になるかという、ファシリテーターの導きや、学習プロセスの設計が重要になってきたということです。伝達するから気づきの機会をつくりゴールに導く!へ、手段としては大きく変化しました。

 

学習者中心
Turun normaalikoulu – Turku University Teacher Training School

人材育成4.0 学習者中心
 4.0は(ここが一番知りたいところだと思いますが)学習者中心です(なんだ、それだけか・・・とがっかりされた方、もう少しだけお付き合いください)。 左の写真を見てください。子供ですよね。この子たちを安定しているかもしれないが、画一的なレールに乗せて育てたいと思いますか?安定の保証ができなくなっている昨今、Yesという方は少数派ではないでしょうか。 人生において学ぶべきことは不変なのかもしれませんが、そこから先に必要なことは、学ぶべきことを学習者自身が探していく必要があると考えています。学習者中心のポイントはまさに学習者を中心とすることにあります。 組織があって、その組織を維持するためではない。 個人がいて、その個人が世界により大きな影響を与えていくために学ぶ。 この手段の前提は、既存の組織よりも、これから作られる組織が目的となっていることです。企業が新しい事業(将来の企業)を必要とし、従来の会社の枠が外れ新しい働き方が必要とされる今、学習者中心の手段はより重要になってくるはずです。企業内の人材育成において活用していくには、会社の色やルールに染めるのではなく、会社を変えていくような人材をどう育てるかという視点に立つのが有効です。
 学習者中心の手段を導入するには、そこで育った人材をどう活用するか?を決めておく必要があります。 これは、社内でイノベーターをどう活用するか?という問いに答えるのと同じです。
 イノベーション、新規事業を起こしたいという企業はたくさんありますが、そのために既存の社内のリソースやプロセスや価値観をどこまで変える気があるか、全ステークホルダーで合意が取れている企業はほとんどありません。企業内でイノベーション人材を育成していくには、様々なステークホルダーと対峙していく必要があります。人材育成が先か、イノベーション・新規事業開発が先か、ニワトリ玉子の課題に取り組むには、いずれにせよ覚悟が必要です。


キーワードから探す

過去の日付から探す

関連記事

Related Articles

イノベーション手法

PickUp Articles

ジョブ理論解説

イノベーションの特殊部隊 INDEE Japanによる ジョブ理論の書籍画像|innovator's Note

イノベーターDNA診断
イノベーション能力診断の世界標準

イノベーションの特殊部隊 INDEE Japanによる イノベーターDNA診断のイメージ画像|innovator's Note

動画コンテンツ
イノベーション大全

イノベーションの特殊部隊 INDEE Japanによる イノベーション大全のイメージ画像|innovator's Note

社内アクセラーション
プログラム

イノベーションの特殊部隊 INDEE Japanによる 社内アクセラーションプログラムのイメージ画像|innovator's Note