企業のイノベーション戦略に人事はどう貢献できるのか(SHRM2019 2万人超が集まるHR PROのカンファレンスより)

Written by 山田 竜也 on 2019-07-08
#SHRM19 Creating Better Workplaces

SHRM(Society for Human Resource Management)をご存知ですか?
SHRMは企業の人事担当者が集まる団体で恐らく最大級のものです。日本では人材開発に関わる団体であるatd(Association for Talent Development)の方が認知度、関心度ともに高い印象がありますが、人材開発より広い、人事や働く場所に関する世界最大の学びの場がSHRMです。

 

誰が参加しているのか?

それぞれの世界大会の参加人数でいうと、今年5月にワシントンDCで開催されたatd2019ICEの参加者数はトータルで13,500人、内海外からは2,300人、88ヶ国。6月にラスベガスで開催されたSHRM2019はトータルで20,000人超、内海外からは1,200人。トータルの人数はSHRMの方が1.5倍でしたが、一方でSHRMの海外からの参加者はatd2019ICEの17%に対して6%とアメリカからの参加者が大半を占めていました。また、女性の参加者が70%程度と多く、ほぼ半々の印象だったatd2019ICEと比べるとジェンダーでの差もありました。

 

何が話されているのか?

巨大なカンファレンスの全貌を一参加者の視点から語るには限界があるのですが、昨年参加したatd2018ICEとの比較も交えながらお伝えしたいと思います。

そもそもの参加の動機は「企業のイノベーション戦略に人事はどう貢献できるのか?」「世界の最先端の事例ではどんな取り組みがなされているのか?/もしくはなされていないのか」を実感値として得たい!という所にありました。

昨年のatdはイノベーターやスタートアップに役立つストーリーテリングの手法にフォーカスしてセッションを選びながら、ITの活用や脳科学を使ってのラーニングの手法やトレンドを学びました(atd2018ICEで感じた3つのこと)セッションを絞った影響もあるのですが、atdの中では、社会やテクノロジーの変化に対応しなければいけないという文脈は感じられたものの、それに対応した企業のイノベーション戦略において人事が何をなすべきかは語られていませんでした。

一方で今年のSHRMでは、イノベーション、ストラテジーというキーワードでセッションを絞り込んだ影響はあるのですが、より不確実になる世界の中で、企業経営における人の要素はより大きくなり、人をマネジメントするHR PROの役割はより大きくなる。HRの人間は、自分たちの役割と可能性を認識し行動を変えなければならないというHR PROを鼓舞する強いメッセージを感じました。

 

HR PROへ、どんなメッセージが発信されたのか?

個人的に最も印象に残ったメッセージはJoe Rotella(SHRM-SCP, Chief marketing officer, Delphia Consulting, LLC)氏がMEGA SESSION How to Be a Better Business Partnerの中で繰り返し強調していたものです。

You are a business professional who have expertise in HR.

シンプルで分かり易いと思いませんか?
言われてみれば当たり前のことかもしれませんが、視座を変える(物事を見る立場を変える)ということの大事さを改めて実感しました。英語表現の特性なのかもしれませんが、この辺りのメッセージの出し方は学ぶ必要があると思います。

言っている事は分かるけど、これだけでは、スローガン倒れになってしまうのでは・・・、と物足りなさを感じていた所にいくつかガイドラインも示されました。何かを変えるには行動を変えるしかないですよね。ここまで定義して初めてメソッドとして使えるものになります。


 

以下は最刺激的なタイトルだったJennifer McClure(President, Unbridled Talent, LLC)のMEGA SESSION Disrupt HR: It’s Time to Disrupt HR and Approach It in a Whole New Wayからの引用です。

HR PROのあなたは、
・HR以外カンファレンスや学習イベントに参加しなさい
・HR以外の専門団体やHRの外のグループとのネットワーキングに入りなさい
・様々なテーマの本を読みなさい
・HR以外の人たちの友達を作りなさい
こうしたメッセージは参加者にどれぐらい伝わっているのか?残念ながら参加者の表情からは感じ取られませんでしたが、SHRMとしてHR PROに外の世界に視野を広げ、一段高い視座で考えることを促しているのは間違い無い様です。

 

SHRM2019の統一テーマ「Creating Better Workplaces」

今年のSHRMの統一テーマは「Creating Better Workplaces」。日曜日のオープニングは、Jenn Lim(Creator of the Zappos Culture Book)氏によるCHANGE-MAKERS SERIES Delivering Happinessでした。
ワークプレイスという言葉を”働く場所”ととらえるなら、それは会社の中だけとは限らず、家庭やコーワーキングスペース、近所の公園と幅広く、人生を過ごすほぼ全ての場所が該当する世界にと変わりつつある。
今年から新たに加わったセッションカテゴリー、CHANGE-MAKERS SERIESの最初のセッションは、人生の目的である幸せを実現するために、個人が企業が何をすべきかが語られました。

Jenn Lim, Delivering Happiness

そして、仕事と人生のバランスの問題ではなく、個人としての幸せを実現するためにも、企業がビジネスで成功するためにも、意味のある目的が必要であることが、HAPPINESS FRAMEWORKとして提示された。

Jenn Lim, Delivering Happiness
HAPPINESS FRAMEWORK3
PARALLELS OF A GREAT BUSINESS AND HAPPINESS

非常に大きなテーマとしての”働く場所”が、意味のある目的を接点として、個人の人生の幸せと企業のビジネスの成功を繋ぐものとなる。そんな”働く場所”を作っていくという「Creating Better Workplaces」が本大会のテーマとしてセットされるセッションでした。

クロージングセッションは、オープニングのザッポスと対をなす感じでの、Blake Mycoskie(Founder and Chief Shoe Giver, TOMS)氏によるThe Power of Giving: Conscious Capitalism and the Future of Businessで、靴の通信販売に始まり、靴メーカーに終わるという上手なサンドイッチでした。

Blake Mycoskie, Wear your beliefs

Blake Mycoskie氏は起業家であり、フィランソロフィスト。4度目の企業の最中に仕事に疲れ訪れたアルゼンチンで、子供達の靴不足を知り、1足売れたら1足寄付するというone for oneの仕組みで先進国の社会的ジョブと途上国の機能的ジョブを結びつけたビジネスモデルでの成功の話から、そこでまた仕事に追われる状態の自分に気づき、自分を顧客として現代人の課題に取り組むためのmade forというサービスを始めるまでのストーリーが語られました。made forは完全アナログでの小さな行動習慣を日常生活に取り込むという日本の道の精神に近いものを感じました。

 

世界をより良くするために働く、働く自分も幸せになる。
両立してこそ本当に”良い働く場”を生み出すことができる。
SHRM2019のテーマは、まさに現代の課題をとらえたものでした。

 

企業のイノベーション戦略、世界をより良くする仕事、仕事を通しての幸せ、幸せをプロデュースするHR PRO、これらを繋ぐことができれば、Better Workplacesを生み出すことができると思いませんか (^ ^)

貧困の撲滅では、繁栄は得られない

Written by 山田 竜也 on 2019-06-03

prosperity ! or poverty …

クリステンセン教授の最新刊「繁栄のパラドクス」が6月21日に出版される。 ビジネスの世界で培ってきたイノベーション理論を国家の繁栄に適用した期待の新刊だ。

ビジネスはもちろん、社会課題の解決に取り組む多くの方に読んでもらいたい。 なぜそう言い切れるか? 繁栄 prosperty と貧困 poverty 、この2つの言葉の捉え方について、少し考えてみたい。

繁栄とは?と改めて聞かれると言葉に窮する。一般的には、医療のレベル、治安の良さ、教育水準等で評価されるが、クリステンセン教授は、より重要な指標として、「そこに住む人たちが生計を立てられる雇用があること、そして、社会が上へと登っていける流動性があること」を加えている。

つまり、繁栄とは、「多くの地域住民が経済的、社会的、政治的な幸福度を向上させていくプロセス」である。

天然資源ばかりに依存して、自らが雇用されるというより外国資本に権利を売り渡して利益を得るのでは、持続可能な豊かさを得られない。住民が生計を立てられる雇用が確保されて初めて、依存から脱して上を目指すことができる。雇用が確保されても、カースト制度の様な人々の動きを固定化する様な慣習や世襲制の独裁政治の中では、社会的、政治的に変化していける流動性がないと、住民の生活は固定され、幸福度は上がらない。

貧困を撲滅して、繁栄を築くには、個別の問題を解決するのではなく、経済的、社会的、政治的な課題を解決するエコシステムを作る必要がある。貧困という問題にだけ着目すると経済的な課題ばかりにフォーカスしてしまう。そして、経済的な課題解決だけでは、繁栄による幸福は得られない。

 

貧困の撲滅 ≠ 繁栄による幸福

「貧困の撲滅?」「繁栄による幸福?」、何を問題と捉えるかによって、ソリューションの限界が自ずと設定されてしまうのだ。

 

この話はビジネスの世界にも当てはまる。多くの企業が自社の製品・サービスの枠の中で事業戦略を立てている。既存の製品・サービスの売上げを拡大するための”事業”戦略だから、ある意味仕方ないのかもしれない。ただし、新しいカテゴリーになりそうな可能性のある新製品・サービスや、全く新しい価値を提供するものまでも、この括りに入れて評価してしまうことには問題がある。

既存の評価指標では新製品・サービスを正しく評価することはできない。繁栄を目指している国への支援のレベルを経済的な指標だけで見てしまうことと同じだ。

 

見方を変えることは現実には意外と難しい。そこで、とても簡単だが有効な手法として、問題をFLIPしてみることをオススメする。FLIPはタフツ大学のポジティブ・デビアンス・イニシアティブ代表のジェリー・スターニン氏が、真に解決すべき問題は何か?を探すために使っていた考え方だ。

ジェリー・スターニン氏 Flipのジェスチャー
写真:デイビット・F・ガッサー

FLIPの例としてマザーテレサの逸話を紹介する。

反戦デモへの参加を求められたマザーテレサは、「それは反戦のためのデモなのですね?」と何度も確認したあとで、「それでは私は参加しません」と答えた。反戦のためなのになぜと不思議がる人々にマザーは答えた。「それが、戦争反対のためのデモならば、私は参加しません。もし、それが平和のための行進であれば、私は喜んで参加します」と。

戦争がないことをゴールにするのでは、外交手段としての”戦争”はなくなるかもしれないが、経済制裁や輸入規制等による国同士の争いは消えない。平和な繁栄を求めるのであれば、平和こそをストレートに願わなければいけないのだ。

社会課題を解くには、繁栄を考える時と同様に、多くのステークホルダーを考えなければいけない。誰かの目線だけでなく、社会全体で持続可能な解決策に繋がる様、FLIPによる問題の再定義が広まることを願う。

フロンティア市場にこそイノベーションの余地がある

Written by 山田 竜也 on 2019-04-30

平成最後の日、明日からは令和が始まります。皆さんはどうお過ごしですか?
10連休のGWですが、今年はバケーション派とステイケーション派、それぞれに読み合って、ディズニーランドが平日並みに空いていたりした様です。
自分は近場の観光地を狙ったのですが、大混雑でした。それでも、見頃の景色は素晴らしかったですが。

Nemophila
Nemophila

フロンティア

皆が知らないフロンティア観光地を探すという手もありましたが、フロンティアでかつ観光地というのはなかなかありません。しかも、日本からの10連休では時間的ハードルが高くてほとんど無理でしょう。
フロンティア(frontier)の語源はラテン語の額(frons)です。前面という意味が受け継がれていますが、これまで開拓してきたのが後面、これから開拓していく領域が前面で、未開拓領域、フロンティアとなります。フロンティア市場とは未開拓の市場という意味です。
観光地は開拓され尽くしてしまった感もありますが、未解決のジョブが隠れたフロンティア市場はまだまだ残されています。人はどんな状況でも進歩したがっているので、開拓され尽くすことはありません。

未開拓領域に踏み込む時、どんな事が思い浮かぶでしょうか?

ポジティブ
・莫大な市場にアクセスできる!
・パイオニアとなって先行者利益を獲得できる!
・新しい時代を作る事ができる!

ネガティブ
・安定した電力が得られるだろうか?
・必要な材料や部品を現地調達出来るだろうか?
・現地の人材を上手くマネジメントしていけるだろうか?

ポジネガ両側面ある様に見えますが、見方を変えると両方ともポジティブに捉えられます。ハーバードビジネスレビューに掲載されたクリステンセン教授の記事に分かり易い事例が挙げられています。

Cracking Frontier Markets

フロンティア市場への取り組み方

フロンティア市場へ取り組むときこそジョブ理論が役に立ちます。ジョブ理論ではニーズ(人が製品・サービスに向けた関心)ではなく、そのニーズが発生する前から人が持っているやりたい事に着目します。製品・サービスが市場に投入される前のフロンティア市場ではジョブに着目して考えていく必要があります。

クリステンセン教授の記事の事例から二つのポイントをお伝えします。詳しくは記事を、もっと詳しく知りたい人は、Prosperity Paradox : How Innovation Can Lift Nations Out of Povertyを読んでください。

 

一つ目のポイントは無消費の発見にあります。保険関係の仕事に関わっていたリチャード・レフトリー氏は死者数が突出したバングラディッシュ、パキスタン、インドが保険金の総支払額のランキングに全く顔を出さないことに気づきました。「最も保険を必要とする環境に暮らす人たちが、保険に入る事ができずにいたのです」、これが無消費の状態です。

二つ目のポイントはその環境に住む人にサービスを提供するために超えなければ行けないハードルを特定して、適切にそれを超えることです。
その環境に適したインフラは何か?受け入れられる価格(経済合理性)はどこにあるか?を考えていきます。
レフトリー氏は当初は単純に先進国の保険商品の廉価版を提供しようとしましたが、対象者には全く関係ない「スカイダイビングによる事故は対象外です」という注記がある様な代物で論外でした。
次に携帯電話を介して無料の保険を提供しました。しかし、これでも契約時の氏名、年齢、近親者の質問に答えてもらう事がハードルになり8割の人が脱落してしまいました。
そして、最終的には携帯電話番号だけで契約できる様にしインドで発売し、初日で100万人の申し込みを獲得しました。

従来の常識ではイノベーションを軌道に乗せるにはインフラ、法制度などが整えられる事が必要と考えられていました。しかし、フロンティア市場ではこのどれもが未整備です。
一方でインフラ、法制度がないということは、既存のインフラ、法制度のしがらみに囚われずに新しいやり方やテクノロジーを導入し易いとも言えます。そして、何もない更地だからこそ上手く適合した時には爆発的に普及します。

 

日本はフロンティアになり得るのか?

koinobori - Carp Streamer
koinobori – Carp Streamer

改めて、フロンティアとは未解決のジョブを抱える人たちがいる場所と定義できます。そうしたジョブは、経済的発展やインフラの未整備によりフロンティアである場合もあるし、経済発展の末に高齢化社会が訪れて発生している場合もあります。そういう意味では日本もフロンティア市場となり得ます。
ハードルに関しても同じです。制度や慣習でがんじがらめに見えても、宗教や文化的には寛容ではないでしょうか。東京は世界で一番多様な食文化を持ち、かつ美味しく安く食べられる場所だと思います。観光客のリピーターが多いのも頷けます。

 

先進国であっても課題先進国と呼ばれる様に、それぞれの国がそれぞれの状況に置いて何らかのジョブを抱えています。どんな状況でも人は進歩したがっているからだです。ジョブの3種類のレンズ(機能的、感情的、社会的)を適切に切り替えれば、どんな場所でもジョブを発見できます!

QBハウスは誰のジョブを解決している?

Written by 山田 竜也 on 2019-03-25

 破壊的イノベーションやジョブ理論等のセミナーで事例として活用させて頂いている10分カットのQBハウスを運営するキュービーネットホールディングス株式会社が一般社団法人日本能率協会の2018年度のKAIKA大賞を受賞しました。私もユーザー兼KAIKAの検討委員として北野社長他スタッフの方にインタビューさせて頂き改めてファンになりました。

 テーマは「〜業界常識を覆してでも実行した、全社レベルの人間醸造大逆転劇〜」

 QBハウスというと「10分間でカットのみ、通勤途中の便利な立地で高回転を維持」と収益を生むビジネスモデルの話ばかりが着目されますが、今回のテーマは、そのモデルを実現する社内での人材育成がテーマでした。

 さて、「QBハウスは誰のジョブを解決している?」と聞かれたらどう答えますか?
 もちろん、写真の素敵なお兄さんお姉さんに、頭をさっぱりしてもらいたい我々一般ユーザーが頭に浮かびますが、実は彼・彼女のジョブも解決しています。これが今回お伝えしたいポイントです。

 

ユーザーへの価値提供の仕組み x 価値を生み出す社内の仕組み

 

 10分カットの様な新しいカテゴリーを作っていくには、ユーザーのジョブを解決して価値を提供するだけでなく、その価値提供を実現する仕組みを作っていく必要があります。そのためには、そこで働いてくれる社員のジョブを解決しなければなりません。

 

 セミナー等でQBハウスの事例を話すと、「簡単に真似されるのではないか?」という質問を受けます。確かに10分カットだけを売る(アンバンドリング)、価格を一律1,000円でわかりやすくする、想定ユーザーの生活導線上の目立つ場所に出店する等の工夫は比較的真似しやすいかもしれません。
 しかし、本当に簡単に真似し易いのならば、なぜ他の美容室や理容室はやらないのでしょうか。やれない、もしくは、やりたくないのではないでしょうか。

 この質問には、「QBハウスはヘアスタイリストのどんなジョブを解決しているのでしょう?」と質問で返しています。約7割が3年以内に退職するとも言われているブラックなイメージのある業界、シャンプーばかりで指が割れ、お客さんの髪には触れられずに休日返上で練習・・・という状況でヘアスタイリストが解決したいジョブは何でしょう?

 ・美容学校を卒業したスタイリストは、見習いでも、早く接客できる様にしたい

 ・経験の浅いスタイリストは、接客の機会が少なくても早く成長したい

 ・この仕事が好きなスタイリストは、ブラックな業界でも、ホワイトに働きたい

 

 こうしたジョブに答えるために、QBハウスは業界常識を覆して様々な施策を実施してきました。この部分は一朝一夕では真似できません。
 職人気質で技術は背中を見て盗む世界に、給料をもらいつつ、専門のトレーナーから1日8時間しっかり学べる6ヵ月の LogiThcut カリキュラムを提供しています。LogiThcutは属人的な技術を徹底的に分解して論理的な(Logical)考え方(Thinking)に基づいたカット理論でカット経験が無くても6ヶ月間で店舗デビューできる様に育てます。

 必要な道具が全て揃ったシステムユニットは改良を重ねて5世代目。10分間での身だしなみを実現するために、無駄な動作を極限まで省いています。
 全てはスタイリストが力を発揮するため、その結果、お客様が望むサービスを受けられる様にです。「ちょっと時間ができたからQBハウスでさっぱりしよう!」とまさに目的ブランド(あるジョブを片付けようと思った時に真っ先に想起されるサービス)になっています。

 

価値を生み出す社内の仕組み = 業界の不を破壊する仕組み

 

 顧客やユーザーの未解決のジョブだけでなく、自分がいる業界の不の側面からも新規事業のテーマを発見できます。しかも、この場合は自分が当事者になれるので、業界構造の理解やジョブの理解のための活動を効率化できます。一方で、業界の当たり前に違和感を持てない可能性も高いので、ジョブ理論のレンズで丁寧に観察する必要があります。また、機能するソリューションを描くには、その他のステークホルダーのジョブも同時に解決しなければならないかもしれません。
 QBハウスは最初、業界に新しいサービスモデルを導入してユーザーのジョブを解決しました。しかし、フランチャイズでの拡大を急ぎ、サービスを提供する側のスタイリストのジョブは解決されないままでした。その後、現在の北野社長の体制下で、スタイリストを社員として雇い、トレーニングカリキュラムを構築し、持続可能なビジネスに育て上げました。
 QBハウスの様に、両者を同時に解決する形でソリューションを描ければ、同業他社が真似したくない破壊的イノベーションを起こすことができます。

 

 外のチャンスと内のチャンスの両方に目を向けて、
 顧客も自社もハッピーになる新規事業を作りましょう!

組織は“イノベーション”戦略に従う

Written by 山田 竜也 on 2019-02-18

先日、イノベーティブな組織への変革をテーマにしたセミナーを行った際、終了後に参加者から「もっと組織変革の話を聞きたかった」というコメントをもらった。イノベーティブな組織であるための要素を理解し、それへ向けてのイノベーション戦略を描くという内容だったのだが、いわゆる組織風土改革に関する内容をより期待されていたと気付いた。

なぜこのギャップが生まれたのか?

イノベーティブな組織になるためには、組織風土ではなく、イノベーション戦略の策定から始める必要があるというのが基本コンセプトなのだが、組織そのものへ直接働きかける事でも変革できると言う前提に立つと、その必要性がピンとこないのかもしれない。組織が先か?戦略が先か?どこかで聞いた様なテーマだが、有名なのは「組織は戦略に従う」だ。

「組織は戦略に従う」はアルフレッド・D・チャンドラーJr.の経営学の古典的名著で、1920年代に、GM、デュポン、シアーズなど当時の大企業が市場環境の変化に対応するために挙って採用した事業部制はどのような経緯で生まれたのかが描かれたものである。時代は違えど、市場の変化についていくためには先ず戦略ありきという点は共通である。そして、今、イノベーションを起こし続けられる組織になるために、イノベーション戦略が求められている。

 

戦略を描く → 組織に落とし込む → 具体的な行動を定義する

確かに戦略を描いても、それを組織に落とし込めなければ機能しない。明確な戦略、もっと噛み砕くと、何を目的・目標と定め、どのようなKPIを設定し、日々どのような行動を取るべきかが無いと、具体的なアクションには繋がらない。組織風土のような目に見えないものを日々の行動に落とし込むには、その風土を生み出すための具体的な行動が不可欠となる。

 

既存事業の中で根本にしている理念から行動を定義し浸透していく場合には、戦略そのものを変えるわけでは無いので、組織内の人の関係性にアプローチする組織開発的なアプローチも有効だが、新規事業を創出し続けられる組織になるには、既存事業とは異なる取るべき行動を示すために、イノベーション戦略を立てることから始める必要がある。

 

組織変革というテーマでも、既存事業を維持するためか、新規事業を生み出すためかでアプローチは大きく異なると言う事だ。

 既存事業? vs 新規事業?

では、新規事業を、それもイノベーティブな新規事業を生み出して行くためには何をすれば良いのか?

 

組織の枠を超えて考えさせるために、個人を解放させても、組織の関係性を変えても、不十分である。Unstructure, Unlearningはステップとして必要だが、その上で、新規事業を生み出す組織を運営する新しいプロセスと新規事業のネタを探索し仮説検証していくプロセスをRestructure, Learningしていく必要がある。

 

マッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱した7S Modelで考えてみよう。このモデルは企業戦略の要素がそれぞれ関係しあっている事を示している。そして、成熟した既存事業を持つ企業はこれらが整合している。
問題は、一度は整合した要素をイノベーティブな組織を生み出し続けられる形に変化させるために、どう変えていけば良いか?と言うことだ。

多くの企業で取り組まれている活動は、ここの要素が整合しなければ機能しないものであることを無視して(もしくは、気付きながらもできずに)部分的な一点突破を行なっている様に見える。

一点突破の例

・組織構造
  新しい組織を新設して飛び地の新規事業に特化させるが、
  全体に何の影響も与えることができずに大きな変化に繋がらない。
・人材
  内部人材に組織の枠を超えた活動を期待し育成するが、
  組織の壁を超える人材は生まれてこない(もしくは出て行ってしまう)
・組織風土
  働き方に自由度を与え組織全体から湧き出すものに期待するが、
  ガス抜き的なアイデアしか出てこない。
・スキル
  選抜人材にビジネスモデルやデザインに関する教育を行うが、
  ビジネスの現場に置いては何も新しいアイデアが得られない。
・システム、制度
  ビジネスプランやアイデアを公募するが、
  現業の改善か個人の夢のようなアイデアしか出てこない。

こうした施策が機能しない原因は、既に整合している7つの要素の1つ(ないし2つ)から、全体をひっくり返そうとすることに無理があるからだ。

 

既存事業を守りつつ、新規事業も、イノベーションも起こせる組織になるには、既存事業と新規事業の戦略を分けるしかない。1つの企業に敢えてダブルスタンダードを許すのだ。

その上で、イノベーション戦略の下に
・組織構造をUnstructureし、新たな組織を新設する
・これまでの人材像を横に置き、新しい種類の人材を登用する
・既存事業を支えていた組織風土と異なる風土を認める
・これまで重視していたスキルをUnlearningし、新しいスキルを習得する
・新しいプロセスを定義する

 

ダブルスタンダードを許す事は、1つにまとまった組織では抵抗感があるかもしれない。その時は、7つの要素を全て持った特区的な組織を作ると言う手もある。何れにせよ機能する最少単位を作らなければ成果は得られない。

1920年代、「組織は戦略に従う」の中で、アルフレッド・D・チャンドラーJr.は市場の変化に合わせて企業が事業部制へと移行していく姿を描いた。それから100年過ぎた今、変化が加速する時代に、既存事業と新規事業を両輪とする組織への移行が求められている。