こちら「事業開発とは」の記事では、事業開発に際してはリソース不足と事業化ノウハウ不足という大きな課題について触れた。

平たく言うと、人は足りないし、事業を立ち上げた経験を持つ人はもっと足りない、ということになる。となると、四方八方塞がれていて何もできないような気がしてくるのではないだろうか。
実際に、こういう状況下から結果を出す人は稀である。だからと言って、スティーブジョブスを筆頭とするようなイノベーターでないと、手も足も出ない、という訳ではない。

新規 or 既存

そのような状況から事業を開発する方法について述べる前に、事業開発には2つあることを明確にしておく。それは(世の中にとって)既存な事業の開発と(世の中にとっても)新規事業の開発だ。前者は後追いで市場に参入する訳だから、競合よりも経営資源を多く投入するしかない。ソフトバンクが寡占状態の携帯電話市場に参入した時には、料金を下げ、広告も派手に打ち、シェアを奪った。その結果、ドコモやAUも値下げをして、消耗戦に突入した。今からセブンイレブンの隣にコンビニを開店する人はかなりの消耗戦になることが容易に想像されよう。そのため、もし本当にリソースが不足しているなら既存事業開発という選択肢はほぼない。
だが、既存事業に参入するメリットもある。それは、ノウハウもあるし、情報もあるということだ。競合他社のデータを用いれば、市場規模の予測は立つし、事業ノウハウも真似しやすい。コンビニなら優秀な店長のヘッドハンティングや店舗ごと買収することだってできる。つまり資金は必要になるが、確実性が高くローリスク、ローリターンなのが既存事業の開発ということができる。

一方で、新規事業は正反対のハイリスク、ハイリターンである。誰もやったことがないので、予測はできない上に、経験者はいない。セブンイレブンの隣に新形態の100円均一コンビニを出店することを想像して欲しい(今では100円ローソンがあるが、それ以前として)。来店者数や客単価、客層などについては、仮説を立てるのが精一杯で、出店してみないと予想はつかないのではないだろうか。すると、まずは1店舗を出してみて、様子を見ながら店舗数を増やしていくことが一番理に適っているように見える。実際に、このような仮説検証プロセスはこちらで紹介した「リーンスタートアップ」という言葉にもなっている。

もちろん、どんな「既存事業」とはいえ、何らかの差別化をして参入する訳なので、「新規」なことはある。どれほどリスクやリターンが大きいかというのは相対的なものだ。しかし、「事業開発とは」で述べたように、「事業」の定義がはっきりしていれば、何が「新規」で何が「既存」かは明確になる。今の事業ノウハウが効果的に使える事業は「既存」であり、分からないことも多く、仮説や想定を立てないと進めることができないのが、「新規」ということになる。繰り返しになるが、既存事業においては持っているリソースやノウハウをなるべく多く投下した方が成功確率が高くなる。すなわちノウハウ面では、現在成功している手法を組織内で効率的に展開することが求められる。これば別名「標準化」と言われていることなので、「事業開発」とは別のものとして扱いたいと思う。実際に、「標準化」は日本のメーカーがとても得意としてきており、成功事例をパターン化し、ルール化し、教育することに関しては世界でトップクラスの企業が日本には多い。そちらに興味がある方は書籍も数多く存在するので、そちらを参照されたい。では、新規事業においてはどうするか。それが、「仮説検証」である。

仮説検証

さて、この「仮説検証」に必要な力はいくつかあるので紹介したい。

    • 仮説立案力=「仮に決めてみる」
      未来のことは誰にもわからないため、、「もし~」「例えば、こんなものがあったら~」と仮の前提をいくつか置くことが第一歩になる。間違っていることを恐れ、「少子高齢化する」「世界人口は増加する」といった当たり前の仮説もあまり意味をなしません。「1000円の床屋があったら、3000円払っていた人の30%は来てくれるはずだ」など、具体的で検証できる仮説を立てることが重要になる。
    • 行動力=「やってみる」
      何よりもとにかくやってみないと何事も始まらない。会議室でああだこうだ言っていても、どんな力も持ち腐れになってしまう。個人的にも、日本の人、特に読者の皆さまは世界的に見れば相当優秀で能力のある人たちなので、トライしないことは非常にもったいないことだと思います。
    • 観察力=「ありのままを見る」
      いざ実行してみると、想定と違うことが沢山起きる。「想定と現実のどちらを信じるか?」というのは馬鹿な質問だと思うかもしれないが、真剣に計画を立て、真剣に実行していればこそ、思い込みがあるというものだ。その世界にどっぷりとはまっているため、現実を歪めて見てしまうことがある。仮説は正しいものだと認知的なバイアスが掛かることも心理学の実験を通じて知られてもいる。しかし、ありのままを見ることでしか新しいことに対応できないため、とても大切な力と言える。
    • 学習力=「必要な能力を次々と身につける」
      最初からどのような能力が必要なのかをすべて予想することには限界がある。観察してみた結果、想定外のことが起きていることを発見することになるだろう。例えば、コンビニを出店してみたら、意外に近所のお年寄りが来店することが分かったとする。すると、流通業としての知識や能力だけでなく、老人福祉に関することもビジネスには役立ってくるのではないだろうか。彼らのおかれている状況を捉えることで固定客を確保しつつ差別化も図ることができるだろう。ここで、念を押しておきたいのは、学習力というのは、誰にも備わっている力だということだ。多くの人は優れた義務教育制度の下、数多くのことを学んできている。さらにいうと、社会人になってからはビジネスの基礎から、いくつかの専門領域についても経験しているはずだ。すなわち、学習してきているのだ。であるのにもかかわらず、「私は技術はわかりません」「私は財務しかわかりません」「私は営業できません」と”学習しない宣言”をしてしまっているのだ。もちろん、世の中には専門家がいるため、いまさら学習することに対する抵抗があるのは仕方がない。だが、仮説検証に取り組んでいれば、その新しい事業のことについては他の人では知りえないことを知っているはずなのである。既に枠を外れているという自覚は学習力を高めるきっかけになるのではないだろうか。

上記の力は個人にも当てはまるが、組織にも当てはまる。チームとして仮説を立て、行動してみて、観察してみて、学習するというプロセスをいかに回せるかというのが、事業開発、つまりスタートアップの生命線になる。

次回はこの仮説検証サイクルを具体的にご説明したい。

>>>事業開発(2)はこちら


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