創発とは単に優れたアイデアを出すことではない

Written by 津田 真吾 on 2020-10-19

「創発」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

創発とは、物理学では「発現」と訳されているEmergenceの訳語であり、意図的ではない現場から生まれるような戦略や行動のことを指します。現場からの意見やアイデアが求められる状況で使われるこの言葉には、イノベーションのヒントが込められているのです。

創発とは – コトバンク

「創発」とは、部分の性質の単純な総和にとどまらない特性が、全体として現れること。物理学や生物学などで使われる用語「emergence」(発現)が語源で、自律的な要素が集積し組織化することにより、個々のふるまいを凌駕する高度で複雑な秩序や …

「創発」を理解することで既存の枠組みや固定観念によって身動きがとりにくくなっている方もきっと身軽になると思います。


「創発」にもっとも近い概念は「ボトムアップ」です。また、ボトムアップはトップダウンの対義語であるように、創発の対義語は「意図」です。したがって、創発の条件は、まず現場発であることが挙げられます。次に、意図的ではない、というのが2つ目の条件です。

現場から意見を集めて、意外性の高いアイデアを求める取り組みは多くの企業で行われています。しかし、必ずしも上手くいっているようには見えません。その原因の一つが「意図的ではない」アイデアについてマネジメントが受け取れないからです。通常、上から戦略として降りてきたものが実行計画になり、日々のオペレーションになっているような組織ではボトムアップのアイデアは行き場所がありません。どんなに面白くて価値のあるアイデアがあっても、拾い上げる仕組みがないのです。

せっかく創発を現場に促し、現場の気づきがマネジメントに上がってきたとしてもスルーされているケースがあります。アイデアの伝え方が拙いことも一因ですが、創発を促しているのですから上手に拾っていきたいものです。


では、現場で発見された気づき(特にジョブ)やアイデアを「創発」にするにはどうしたらいいでしょうか?

もちろん、現場が多くのアイデアを出すことは必要です。しかし数を出すだけでは十分ではありません。同じモードで「創発しろ!」「アイデアを出せ!」という掛け声があっても、吸い上げて拾い上げるプロセスがなくては、途中で跳ね返ってきてしまいます。この状態を経験した現場は、最悪、「ウチの組織ではアイデアを出しても無駄だ」とあきらめモードになってしまい、二度とイノベーションの機運が高まらなくなることもあります。脅しているのではなく、こうした学習性無力感を持つ組織は珍しくありません。楽しいだけのアイデア出しワークショップに弊害があるのは、こうした影響があるからです。

創発の起きるイノベーティブな組織の多くは、組織がフラットなのは偶然ではありません。さらに、トップに創業者が残っている若い企業であればフラットにすれば済むのですが、多くの伝統的な事業会社にはゼロから事業を作り上げたメンバーや知恵が残っていないからです。その結果、どのアイデアを吸い上げ、磨き、どのように事業にしていくのかという仕事がなされずに、せっかくのアイデアが宙に浮いたり、スルーされてしまいます。

創発を根付かせようとすると、アイデアが出たあとの「イノベーション・マネジメント」は不可欠です。言い換えると、イノベーション・マネジメントは創発をつくり出すための仕掛けであり、仕組みなのです。

イノベーション・マネジメントには4つの要素があります。

  • どのようなアイデアを求めているのかを示し、募集する
  • 集まったアイデアを評価する
  • アイデアを事業仮説として育成する
  • 事業仮説から戦略上の事業として認定する

一見「創発」のように無秩序で自由な雰囲気から出てくるアイデアも、その後のプロセスにはマジメな手続きがしっかり必要です。