《ヒトが持つバイアス》損失回避の画像

損失回避はもしかしたら最も有名なバイアスかもしれない。

人は、何かを失わないことを、何かを得ることに優先してしまう。

例えば、五分五分で1万円を失うか、2万円を得るかの賭けがあったとすると、多くの人は1万円を失うことを恐れて賭けに参加しない。50%の確率で2万円が得られるため、全体の期待値は+5000円というお得な賭けであるにも関わらず、多くの人が参加しないことがわかっている。

現状持っているものが「減る」ことを極端に嫌うように私たちは反応してしまうようだ。失う「恐れ」と得るかもしれない「望み」の天秤の話である。

投資という視点から見ると、新規事業への投資は確率が低いけれど、多額のメリットが得られる案件と見なせる。そして、前回紹介した「サンクコスト」に左右されなければ投資額は限定的である。投資の性質として、意図した以上のお金がかかることはないのである。株に100万円の投資をしたつもりが、いつの間にか投資額が1000万円になっていた、というのは詐欺にでも遭っていいなければ発生しない。だが逆に、100万円の投資した株が、気が付いたら1000万円の価値になっていたということはある。(特に最近の相場ではよくある)

要するに、投資がプラスになることを軽視し、投資額を過剰評価する「損失回避」というバイアスは、私たちを投資から遠ざける。わが社は投資に対して必要以上に慎重になっているな、と感じるほどであれば、間違いなくとても慎重になっているのではないだろうか。

もちろん、「投資」と「消費」をはき違えてはいけない。新規事業への投資には、事業化に向けられたものではない消費的な費用も多く存在するからだ。だが、私が知っている普通の新規事業向け投資は、顧客を探したり、試作品を作ったり、技術を入手するためのライセンス料だったりと、効果的なものが多い。特に、1社目の顧客を見つけて契約までこぎつけたりすると、事業価値としては一気に何10倍も増えることも珍しくない。その活動に数百万円の活動費しか要さないとすれば、素晴らしい投資対効果ではないだろうか。私が支援したことのある例では、ライセンス交渉準備に投資したことで契約料を数億円節約したこともある。事業の仮説検証に対する投資なら、定額の投資に対し、予想を上回るリターンは十分に期待できる。

にもかかわらず、私たちは「損失回避」してしまう。このバイアスはプロスペクト理論とも言われており、ダニエル・カーネマン氏が2002年にノーベル賞を受賞したきっかけにもなった「脳のクセ」である。

新規事業やスタートアップの文脈に置き換えてみると、私はこのプロスペクト理論を以下のように応用している。

  1. 投資するべきかしないべきか迷った際には、投資をするという意識を持つ。前述したように損失を過剰評価するバイアスを補正するためという理由もあるが、確定した損失(投資額)以上のマイナスはなく、リターンは数倍や数十倍といったものが期待されるなら、よほど失敗の確率が低くない限りは期待値はプラスになるというロジックも大事である。
  2. マーケティングや販売の活動は、とにかく実行する。丁寧に準備をして失敗を減らすことはあまり意味がない。あまりに雑なキャンペーンは仮説の検証にすらならないが、作り込んだところで多くの場合は自己満足である。失うものはほとんどない(プライド?)。シリコンバレーでは、「恥ずかしいほどのプロトタイプを販売すること」が成長を加速させるという金言もあるくらいだ。
  3. 決断に迷う事柄については、メリットとデメリット(Pros Cons)を洗い出すだけではなく、コストを減らす検討を行う。テストマーケティングに広告代理店などを利用しているような事例を見かけるが、その金額なら投資に値しなかったとしても、テストになる程度に工夫をすれば、コストは抑えられたりする。失うものが少ないなら、あっさりとメリットを追求した決断ができるものだ。

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