先日、封切りして1ヶ月になるタイミングでようやく話題の宮崎駿監督作品「風立ちぬ」を見ることができた。宮崎作品には幅広いファンが存在することもあり、大人向けに仕上げられた本作品について賛否がささやかれているのは当然のことと予想される。ただ主人公の堀越二郎氏が、失敗と葛藤を繰り返しながら零戦という傑作にたどり着くストーリーは、私自身が毎日のように飛行機を追いかけまわした、青春時代の原体験を思い出させてくれる大変感慨深い作品だった。

美しい飛行機を感じ取るこの感性ってなんだろうか?

改めて考えてみると非常に言葉にするのが難しい。私が大学時代のすべてをつぎ込んだ鳥人間コンテストでの機体、つまり人力飛行機は、人間の力という非常に少ない力のみを動力として飛行するという制約から考えても、飛行機として究極の形状をしていると今でも思っている。当時の私は毎日のように図面を眺めては手を動かし、毎日のように様々な名機の写真や専門書を眺め、チームのみんなで議論し、飛行機の事を考えない日は一日もないような日々をすごした。そしてこのプロセスを通して、結果的に自分の中に”美しい飛行機”という形を形成していった。その感性については誰からも直接的に教わった記憶はない。

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そしてその自分の”美しい”と感じる感性を他人に言葉で伝えることは、かつてより言葉巧みになった今に至るもできそうにない。もはやそれは図面だけでも難しく、飛行している姿そのものでしか表現できないと考えている。この能力をアートと呼ぶならば、これはできない人からみれはまさに”超能力”と言っても過言ではないのではないだろうか。

工学は科学とは異なる

私はこの飛行機造りの経験からこの言葉にたどり着くことができたが、この意味は非常に深い。分析や解析だけではたどり着けない世界、つまりロジックだけでは見えない世界の存在を実践を通して実感することができたということである。当時を振り返っても、いつまでも数字を追いかけている、ある意味数理的に優秀な人物が集まったチームは、どこもまともに飛べる飛行機を開発することができていなかった。その事実からも、この気づきこそが我々を成功に導いたとも言えると考えている。複雑な実体から重要な要素を抽出し、抽象度の高い領域で形づくることができる人間のアートの力は偉大である。

今もその瞬間を自分は覚えている。大会に出場した2年目。そこそこの飛行機を作る事ができてはいた。しかし、それは自分がイメージする美しい機体ではなかった。その機体が623.66 mという記録で着水した時点で、実は”来年はいける”というイメージが浮かんでいた。そして3年目のチャレンジにおいて、自分達のような無名チームが当時タブーと言われたタイプの機体で9761.56m(大会新記録)を飛び優勝を手にすることとなる。

これと同じことが”経営”という世界にも当てはまると明確に実感できるようになったのはここ数年である。世の中の戦略理論そしてそのフレームワークは、すこしでもこのアートの世界を見える化、言語化しようとした努力の結晶である。しかし、結局はそれもあくまで実体を表現する一側面でしかない。そうした断片的な数字からどういう”美しさ”を見いだすか。それは飛行機を美しいと感じる感性と同じものである。経営者はこの感性を磨く努力が必要なのである。この”美しさ”を感じられないのならば、今一度、日々の努力を見直してみる必要がある。

アートの世界観を形作るのは仮説検証の結果。そしてそれは仮説検証の回数により深まる。

風立ちぬの堀越二郎氏の姿から学ぶことはこの世界観ではないだろうか。これはまさにイノベーションへのプロセスと同義である。

私が青春時代を過ごしたチームのWeb


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