事業開発とは何か?
事業=価値×顧客 であると、以前書かせて頂いた。今回はその続きを書こう。
この公式に従うと、事業開発とは価値の開発と、顧客の開発に分けて考えることができる。
しかし、新規事業の場合、この二つを分けて行うことができないのがやっかいだ。既存事業であれば、改良した製品やコストダウンした製品を開発し、別の部隊が営業する。それは、既存顧客に売ることを前提としていて、顧客を新たに開発する必要がないためだ。ところが、新規事業の場合、新たな顧客の開拓もしくは既存顧客の新たな需要を開拓する必要性がある。製品開発と同時並行的に行なう「リーンスタートアップ」のようなプロセスがスタートアップにおいて実績があるので、参考にしたいところだ。
ではこの顧客開拓というのが、製品開発とどのように結びつくのだろうか?製品開発と営業は従来、共通言語がなく、視点も180度違う。つまり同時に行うのが複雑だったりする。良いものを作れば売れる、とばかりに製品開発を先行させると、作り手にとって良いものであっても、買い手にはそれほどでもない・・・というような失敗は枚挙にいとまがない。逆に、顧客の要望を聞いてから開発に着手しようとすると、二つの問題が生じる。
- 顧客は欲しいものを言語化できない。
スティーブ・ジョブスはかつて『人は形にして見せて貰うまで自分は何が欲しいのかわからないものだ』と言っている。一般に、顧客は既存製品の欠点には気づくが、新しい何かについての意見は出せないものなのだ。同様に、一大自動車産業を作り上げたヘンリー・フォードは『もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えていただろう』と言っていた。 - 多くの顧客に聞けば、要望が膨らみ、少ない顧客に聞けば、ごく一部の顧客向けの要望になってしまう。
念入りに市場調査をすると、多くの要望が出てくる。それらをすべて盛り込んだ製品をつくれば、相当オーバースペックなものになってしまうだろう。多くのガラパゴス製品のように、良すぎて売れない製品になってしまうのだ。逆に、ある顧客の要望ピンポイントで開発をすると、その顧客には満足いくものになるかも知れないが、他の顧客のニーズには合わないものになってしまう。受託開発のような状況とも言えるだろう。
Jobs to be done に着目する
では、どうしたら良いだろうか?
ポイントは顧客の代わりに、何が欲しいのかを表現してあげることにある。
一言で言うと、顧客がやりたいこと(Job)ができるような、解決方法を提供することだ。顧客が何をやりたいのか、に着目し、それを手助けする方策を提供するのだ。クリステンセンは、これを Jobs to be doneの発見と呼んでいる。こう書くと簡単だが、顧客がやりたいことは、あいまいだったりする。また、「ジョブ(用事)」という名のもと、やりたいことが「不安を解消したい」とか「いい気分になりたい」など、感情的な場合もあるだろう。さらには「周囲に認められたい」、「無難に済ませたい」などといった社会的なジョブもある。
そのため、粘り強く多面的に観察し、顧客を知ることを行う必要がある。場合によっては、調査する人に日記までつけてもらい、家の中まで追跡することも行うのだ。このとき、売りたいものがはっきりしすぎていると、恣意的な目で見てしまい、顧客の本当の姿を見誤ってしまうので気をつけたい。
この一見主観的な方法論をJOBSメソッドとして、学びやすい形にしています。ワークショップの形でJOBSメソッドを学べるような講座や、新規事業のための調査も行なっているので、事業立ち上げのきっかけにしてみてください。