リーダーとは諸説あるが、単純にいえばリードする人だろう。人望があり、決断でき、大局感を持つ人はいずれも素晴らしく、尊敬するが、誰もが持ち合わせたい資質だが、未来思考であることがリーダーに特段必要だと考えている。一方で対比されるマネージャーとは、マネージする。現状をやりくりする役目だ。誤解なきように補足すると、どちらが良いなどと言うつもりではない。誰の中にもマネージャーの部分とリーダーの部分は同居しているので、未来思考だが現状のやりくりも上手な人は数多く存在し、リーダーシップのあるマネージャーとして評価されている。
さて、もしあなたがより良きリーダーとして未来思考を身につけたいとしたら何をしたらいいだろう。
例えば、私はこの人はリーダーだと思った身近な人を観察して真似をしようと思った。もしくはリーダーシップを発揮して成功した人を研究した本を数多く読んだ。
そういったリーダーシップに関する本は玉石混淆。しかし、中でもクリステンセン、ダイアー、グレガーセンによる8年ものイノベーター研究をもとに書かれた『イノベーションのDNA』はリーダーとマネージャーの違いをくっきりと浮かび上がらせている。スティーブ・ジョブスのようにゼロから独自のコンピューティングの世界を創り上げ、世界を変えるようなリーダーは、イノベーターとも言われる。こうしたイノベーターはリーダーの中でも、大きな意義のある課題を取り上げ、率先して取り組むタイプのリーダーである。こうしたイノベーターを、非常に優秀なマネージャーであるトップ経営者と比べ、イノベーターの資質を抽出した研究がこの本では紹介されている。マネージャーが高い「実行力」を持つ一方で、イノベーターには高い「発見力」があることが分析の結果、明確になったのだ。現業を発展させ、推進し続ける力(実行力)と、未来の可能性を発見する力(発見力)を明確に分けたという意味で非常に有意義な研究である。
もう一点、この本で明らかになったことがある。それは、行動パターンである。イノベーションの種を発見し、未来を創造する力の源は思考パターンではなく、行動のパターンであることが研究の成果として発表されている。あながち「とりあえず真似をする」 という行動は間違っていなかったのだ。新たな機会に気づく力である「発見力」は「質問力」「観察力」「ネットワーク力」「実験力」「関連づける力」という5つの力で構成されているのだが、前者の4つの力は個人の行動特性を指す。すなわち、リーダーはどれだけ質問をするか、どれだけ観察しているか、どれだけ多様な人と交流するか、どれだけアイデアを試すのか、という活動量に違いがあるのだ。最後の「関連づける力」ですら、4つの行動特性の結果の下、成立する。これは、二つの点で大きな意味がある。
- イノベーターかどうかを客観的に評価することができる
- 行動を変えればリーダーになれる
生きていくにはさまざまな”力”が必要とされる。「忍耐力」「鈍感力」「体力」「知力」「人間力」等々、多くの力はいざとなったら発揮されたり、深層にあって見えにくい力だったりする。こうした力が必要であることは間違いないのだが、果たして自分にあるのかどうか、正直分からない。さらに、つかみどころのない力であるため、高めることは困難だ。「人間力」を高めたいと思っても、一体どこから手をつければよいか、悩んでしまう。
かなり宣伝になってしまうのは承知で、イノベーター診断を勧めたい。『イノベーションのDNA』を構成する行動特性を一つ一つ問われることで、私自身、日々の行動に関する気づきはいくつもあった。日頃の行動を振り返り、小さな改善ポイントがいくつも出てきたことで、半年前に受けたときよりも、今では発見力が高まっていると実感できる。誰しもがイノベーターとして起業家になる必要はないかもしれない。しかし、未来の中に自分がやるべきことを発見できたら、それこそリーダーであり、幸せではないだろうか。