2月初旬にNHK土曜ドラマでテレビ60周年記念として放映された”メイドインジャパン”が身近な会話でも話題になっている。人数的な賛否のバランスという意味では、否に軍配が上がるように思えるが、そういう私も未だステレオタイプな”ものづくり神話”がメインメッセージになっている内容に、残念ながら共感することができなかった。
50代以上の日本人をターゲットにした20年前のドラマならまだしも、我々でも違和感を感じているなら、これからの未来の主役である20代にこの作品がどのように映ったか非常に気になるところである。
では何に違和感を感じたか?について考えてみたが、そもそもの作品の中の要所要所のやりとりがナンセンスであったため一言では言えないが、自分にとっての最大の違和感を表現すると
制作者が”ものづくり”の実体を正しく認識していない
という点にある気がしている。近年は、”日本の強さはものづくり”だとか”ものづくり立国日本”という感じでだれもがものづくりという言葉を使うようになった。しかし、私が感じる”ものづくり”という言葉は大きく異なる2つの意味で使われていると感じている。そのズレを模式的に図1に示してみた。この図は”ものづくり”を構成する要素である研究から生産までのプロセスを4つの箱で示している。
まず第一にこの4つの箱の違いを明確に説明できる人が少ないように思う。特に開発と設計(量産設計)の境界は、製品特性によっても役割が曖昧であるため、実務者にとってもはっきり区別できない人も多いのではないか(話がややこしくなるので、今回はこの違いには深く触れない)。しかし、私はこの境界の曖昧さが高度成長期の製品開発を支えてきた”すり合わせ”を生み、日本の強さになったと考えている。そして逆に現在の多くのメーカーが課題を正確に捉えられず変われないでいる原因だと考えている(この点も次回以降に)。
話を元の論点に戻すと私の認識では、ものづくりという言葉から多くの人は、赤枠で示している設計から生産のエリアを連想していると考えている。つまり、このエリアはどういう製品を作るかを決定した後の大量にものを生産するプロセスを示す。まさに”ものを作る”作業であり、高度成長期には極めて重要なプロセスだったと言える。そしてこの力は現在に至っても日本は世界最強を維持しているのは間違いない。(ただこの領域こそが、中国が競争力を高めているのも事実である。)
一方、最近のニュースや新聞記事においてメーカーの課題として取り上げられるときの”ものづくり”は、私は青で示すこの4つの箱すべてを指していると感じている。つまり、基礎研究からそれを世の中の何にどうやって応用するかかという開発まで含む広義のものづくりである。このようにものづくりに研究と開発を加えると、そもそも自前主義を貫いてきた日本のメーカーの多くは歴史的にも得意としていない。特に研究領域において効率的な投資を行うためには、すべて企業内で完結するのは難しく、大学や研究機関とのコラボレーションや基礎技術を持つベンチャーの買収など先行的な投資が重要になってくる。
今、日本の多くのメーカーが直面している課題は、長期的な視野で何を研究しそれをどうやってビジネスにつなげていくか?という領域への取り組み方を抜本的に変えていく必要がある。
改めてメイドインジャパンの話題に戻ると、ドラマの中のキーワードが”ものづくり”であったために、この言葉から想起される領域の違いにより受け手の印象が大きく異なってしまう。日本が得意とした赤枠のものづくり領域は、未だ衰えていない。それは自信を持つことだと思う。しかし、外部環境の変化によってその領域で競争力を保てる”ビジネスカテゴリー”は徐々に先進国から、新興国にシフトしつつある。先進国において多くの雇用を生むためには、もっと長期的な取り組み(難易度の高いチャレンジ)に投資をしていかなければならないことをメディアももっともっと言語化して欲しい。そうでなければ間違いなく、特定のビジネスカテゴリーに属する多くの日本企業は一度沈まざるを得ない。