なぜジョブ理論が有効なのか?《ディープテックPMF編》の画像

技術的に尖っている新規事業やスタートアップをサポートしていて最近感じることです。技術シーズに特徴があるため、支援が得られやすい傾向あるじゃないですか?初期の資金調達にあまり苦労せずにMVPやPoCを作ることができるスタートアップが一定数あるのですが、その後、あまり音沙汰がなくなってしまうことも珍しくありません。

“技術”にスポットライトを浴びてシードステージを「何となく」通り過ぎてしまうと、PMFでかなり苦労すると思うんです。もちろん、PMFをするのはどんなスタートアップであってもめちゃくちゃ大変なのですが、「技術主導」で進めてきただけに落差が大きく感じたり、初めての苦労にメンタル的に疲れることもあるので、対処法を書きたいと思います。

技術に特徴があると、なぜ最初(だけ)モテるのか?

ユニークな研究をしていると、その研究成果の可能性が非常に大きいと感じるはずです。例えばブロックチェーンのような技術は、暗号通貨という用途以外にも、NFTやデジタル契約書などの応用例がありますし、データベースを用いるあらゆるアプリケーションにも理論的には応用可能です。iPS細胞が発明されたときも、あらゆる細胞を人工的に作り出すことができるという可能性が人々をワクワクさせました。

つまり、新たな技術は「可能性」がウリなのです。

いろんなことができるよ~という可能性が、社内の評判を高めたり、研究資金を引き出したり、投資家の投資を呼び寄せていたりします。

そして技術を引っ提げて、色々な事業会社に声を掛けると、商談もたくさん行うことになります。技術がユニークなので、アポ取りも簡単かもしれません。

しかし、いざ商談をたくさんさばいても「売り上げが立たない!!」。

話は盛り上がるけれど、契約につながらないケースというのは本当にたくさん見てきました。その理由は「可能性では稟議書が書けないから」です。

では、このときの「反響」は本物なのでしょうか?

まるでハイプ・サイクル

技術が目新しいと、研究助成やらエンジェル投資やらでつないで、あまり苦労せずにMVPが出来るかもしれません。「あれも出来る、これも出来る」という期待が盛り上がっている状態では、研究助成もたくさん受けられると思いますし、目新しさから出資する人もいるかもしれません。

ところが、それが一周すると「可能性はいいから、具体化してよ」と言われるようになります。最初の熱狂が忘れられ、実用的なものが求められ、本気で実用化したい人からだけ声がかかるようになります。そんなとき、まだ「可能性しかない」状態のままだと、話が進みません。応用範囲の可能性が低かったとしても、実用性や必要性の可能性が高くないと「使えない」技術という評判ができてしまうのです。

ハイプ・サイクル

その期待の膨らみと、萎みを表したのがハイプサイクルです。周囲の勝手な期待で膨らんだ「過度な期待のピーク」が過ぎると、急にその技術はモテなくなります(いわゆるハイプやセクシーでなくなる)。それは、現実的な側面が色々と見えてきたり、メッキが剥がれた競合によって技術の評判が落ちたり、次のハイプが来るからです。

世間の期待に惑わされずコツコツとその技術を磨き、実用化が進むと、幻滅期を超えるのです。技術が安定すれば、評判と実力が一致し、「生産性の安定期」となります。

可能性の期待と解決の期待

したがって、スタートアップにしてみれば、初期の人気のうちに勘違いせず、実用的なアプリケーションを探し、具体的な解決策を示すことが重要になるのです。いかに汎用的な技術を持っていたとしても、何か具体的な課題解決を一つでも解決してみることが重要です。

ハイプが過ぎてから慌てて課題を探して解決策を作るのは、なかなか辛いものがあります。というのも、その頃には期待がしぼんでいて、小さな課題ばかりに見えたりするからです。AI(ディープラーニング)の期待がピークだったころ、すべての課題はAIで解決するという風潮がありました。ところが、現在着実に成果を挙げているAIは、かなり限定的な用途を提案しているものだけです。解決すべき課題を明確にしてこなかったスタートアップにしてみれば、急に用途を限定したり、市場規模が3ケタほど小さくなったり、周囲の期待が萎んだり、といった雰囲気の中、具体的な解決策を開発しないといけなくなるからです。一方、具体的で切実なジョブからMVPを手掛けていたスタートアップは、小さいながらも「実績がある」として、逆にハイプが過ぎてから期待が高まります。この期待こそ本物の「反響」です。そして、その反響に見合うほど解決策の実力があれば、まさにプロダクトとマーケットがフィットした状態となるのではないでしょうか。


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