スカンクワークとは一般に、企業内で一部の有志が新しい事業や技術を「隠れて」開発することを指す。企業内新規事業の多くはスカンクワークもしくは「アングラ」(アンダーグランド)プロジェクト出身と言われている。その真偽のほどは確認のしようがないが、そのような事例は多く耳にする。筆者自身その手のプロジェクトには良く参加していたし、スカンクワークから生まれた新規事業の部門に所属もしていた。スカンクワークという言葉が有名になったのも、ロッキード・マーティン社でステルス戦闘機などの革新的な研究を極秘で行っていたためである。隠しているつもりがなくても、生まれた瞬間はとても小さいため隠れてしまい、新規事業の多くは企業内では「アングラ」から始まったように見えてきた。
さらに、新規事業の多くは世に出せるかどうかわからない上に「前例」がなく、「戦略的」に「アングラ」に進められてきた側面もある。「戦略的」と表現したのも、企業戦略というよりは、新規事業を推進するイントラプレナーたちの個人的な戦略としてである。取り組む前から定量的なデータや失敗しない根拠を延々と報告するよりは、まずは部門予算の範囲内で地ならしや実験をしたりすることをやってきた。また、それを監督する経営層も余裕があって黙認してきたという話もよく聞く(これこそ正に戦略的と言える)。こうして、新規事業を成功させたければ多少なりとも不透明なスカンクワークをやらなくてはいけないと考えられていた。
ところが、最近は「コンプライアンス」である。企業の透明性が高まっている。小さな支出や先行投資すべてに稟議があり、スカンクワークも許されなくなってきている。何か備品を買うにしても、現業との必然的なつながりを説明するように求められ、少しでも遊び心があるものは却下。これは社内の新規事業が生まれにくいということを意味するのでしょうか?
そんなことはないと考えています。
実際に、社内に新規事業部門を携える企業は増えている。これは取りも直さず、新規事業への期待が強く「アングラ」な偶然には頼っていられない様子を表している。専任部隊にして、きちんと予算も与えられている。さらに、そのような部門は従来「花形」な既存コアビジネスからは金食い虫と呼ばれ、肩身の狭い思いをしてきているのに対し、現在では「期待の星」として次の事業の柱として期待されている。つまり、新規事業は一定の割合で生み続け、一定の割合でなくなるものだという認識が企業トップで共有されつつある結果だと考えてよいだろう。新規事業への温かい眼差しの一方で、企業トップはコンプライアンスを重んじ、株主をはじめとするステークホルダに説明責任が伴う難しい立場になってきたと捉えた方が対策が見えてくる。
つまり、スカンクワークの代わりにとれる対策として以下が挙げられる。
- 予算の目的を変える~顧客開拓主義~
技術開発から顧客開拓・市場検証を目的とした活動に対して承認してもらってはどうだろう。従来のスカンクワークは技術開発として、「技術的にできる」証明であった場合が多い。成熟産業を抱える大手企業においては特にそうである。技術的な実証より市場での成功を示すことのほうが、リスク回避策になる。工場を一つ経てた上に、ほとんど売れない商品が在庫の山になることと比べ、テストマーケティングでの失敗は本当に些細なものでしかない。またこのような「作る前に売る」活動は技術開発よりも低予算であるので承認へのハードルも低い。 - 会社が承認しなくてもできることは多いことに気づく~手作り主義~
既存事業で育った人間は、どんな仕事にもお作法があると信じている。先輩の見よう見まねであれ、マニュアルであれ、社内規則であれ、何がしらの手順に従ったことだけが許されているという誤解があるようだ。しかし、新規事業を立ち上げる前には正しいお作法などない。お作法を見つけるのが新規事業開発の役目だと考えよう。すると、お金を掛けずにできることの多くは承認不要ということに気づくはずだ。社外の人にアイデアをぶつけてみる。専門家に意見を聞く。手作りプロトタイプを製作する。実に多くのことが行える。その際、精度や品質といったことが気になるタイプの人がいるが、あくまでも初期の実験であることを心に留めておこう。徐々に精度は向上させればよい。