イノベーションのジレンマについて、より詳しい解説をこちらに書きました。
「イノベーションのジレンマ」には「技術革新が巨大企業を滅ぼすとき」という副題がついています。
つまり、技術が大きく進展することで巨大企業の地位が危なくなるという現象を紐解いているわけです。しかし、大きな企業ほど技術革新に費やすことのできる資源も多く、大きな企業ほど安泰なはずなのに、なぜ危うい地位になっていくのでしょうか。クリステンセンはこのパラドックスを深く理解するためにいくつかの業界に注目します。
ハードディスクドライブや油圧掘削機の事例から、その理由を紐解く。
当初考えられていたのは、企業は成功し、巨大化すると怠けてしまうというありがちな論理です。しかし、この仮説は見事に裏切られてしまいます。実はこうして衰退するトップを走る企業はしっかりとした合理的な運営がされており、「正しい」ことを行っていたのです。しかし、ここからが「ジレンマ」たる所以なのですが、正しいことをきちんと行っていたからこそ、破壊的な技術革新の波を逃してしまうという共通した過去を持っていました。大企業は油断や怠慢といった精神論ではなく、合理的に破壊されてしまう性質を持つという発見は多くの企業人の注目の的になりました。超ベストセラーになり、度々引用されるのも、企業が持つ本質的なジレンマに触れているからではないでしょうか。
ではジレンマ脱却の答えを知りたくなりますが、そのためにはジレンマのメカニズムを理解しなくてはいけません。クリステンセンが説く5つの原則は以下の通りです。
原則1:企業は顧客と投資家に資源を依存している
要するに、お金を出してくれる人に企業の戦略は影響されるということです。なので、実績のある既存事業に偏ってしまうのは当たり前と言えます。お客さんと株主を無視できる会社は、ほとんどないですよね?
原則2:小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない
まだ可能性も小さく、成長過程にある市場を大企業は軽視します。1億円のマーケットがあれば、中小企業にとってはデカいが、大企業にとってみればゴミに映るのと同じです。自社にとって十分に大きいと思えるビジネスにしか企業は投資しないですよね?
原則3:存在しない市場は分析できない
文字通り。分析というのは過去のものしかできません。未来の市場は分析できないので、過去データがあるような古い事業に投資が偏ります。これまで毎年10億円あった市場と、もしかしたら20億円になるかもしれないが、今0円の市場は比べることができませんよね?しかも会社組織というのは分析が好きです。様々な観点で分析をして説明責任を果たす必要があるからです。
原則4:組織の能力は無能力の決定的要因になる
いわゆる成功体験。クルマをつくることが得意になればなるほど、機織り機をつくるのは苦手になります。部署単位でも例外的な仕事が来たら混乱するはずです。経理部門に人事研修を頼むと何が起きるでしょうか。つまり、どんな組織も能力は専門化されていく傾向にあり、新しいことに取り組みにくい体質になります。
原則5:技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない
これが有名なイノジレ図です。もっと精度の高い腕時計を作ることができたとしても、皆が欲しがるとは思えないですよね?もっと極端に言えば、イグ・ノーベル賞のように、技術的にはスゴイが、そんな技術必要??というような技術も山ほどあります。性能はいつしか、顧客の要望を超えてしまう「オーバーシュート現象」が発生するまで進化します。
これらの原則を理解することで、ジレンマ脱却の道筋が見えてきます。
例えば、原則1を弱体化するために、イノベーション予算はまとめて確保したり、原則2や3を弱体化するために新規事業の開発プロセスに対して違う基準で規模を追求したり、原則5に対処するために顧客のジョブを軸に新規事業をスタートさせるなどです。
これらを会社経営に組み込むことが「イノベーションマネジメント」です。
「マネジメント」という言葉には、管理やコントロールという響きを持ってしまう印象があるかもしれません。しかし決して各プロジェクトを細かく管理することではありませんので注意が必要です。前述したように「合理的」に進めることでイノベーションが阻まれるわけですから、そのような一見合理的な仕組みを解除していくことが大事になるのです。