Sカーブから読み解く組織のあるべき姿

人の行動は組織に従う。これは逃れようのない真実である。特に企業や業界が成熟すればするほどその傾向は強くなる。
一方、業界および製品の成熟度によって組織のあるべき姿も変わっていく。この変化に追随できていない企業は衰退の流れから逃れることができない。今回はSカーブを基に変化する組織体制について考えてみたい。

私は2000年以降の変わろうとしているが、結果にあらわれない日本のメーカーの苦労する姿を目の当たりにしてきた。一方、置かれた状況は同じ製造業の中でも、十分な結果を出している会社もいくつかか存在する。分かりやすい例として「キーエンス」に着目してみたい。キーエンスは収益性の高いFA製品にフォーカスし、自社工場を持たないというファブレスを早くから導入したことでも注目されていた。私の就活の時代にもメーカー勤務の重鎮になぜキーエンスは儲かってるか?という純粋な問いを投げかけて回ったが、その答えを明確に答えてくれる人に出会うことはなかった。実は当時のキーエンスの人事責任者からも明確な答えをいただけなかった。阿漕なことは何もしていない。信じて欲しいという言葉を何度も言われたことを記憶している。今の私ならビジネスドメインとしての業界力に加え、当時からも日本のメーカーとしては先進的な組織体制に強さのヒントがあったと考えている。

まずご存じの通りイノベーション理論のSカーブにおける中間点である右肩上がりの成長市場での競争においては、効率的な事業オペレーションが重要になる。価値のあるものを他社よりいかに早く、安く提供できるか?という競争である。図1の組織図はみなさまの馴染み深いトップダウンの体制であり(ある意味組織の当たり前の姿として刷り込まれてもいる)、この体制でのパフォーマンスの高さが高度成長期における日本の強さの源泉である。しかし、モノがある程度普及し終わり、作ったら売れるという時代の終演、つまりSカーブの右側に進むにつれて顧客のニーズは複雑になり、競争の原理が変わってくる。いわゆる”付加価値”や”差別化”と言われるような他社とは異なる価値提供を実現しなければならない。

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この局面はまさにバブル景気前後において日本の大手企業に突きつけられた課題であり、事業戦略として大きな分かれ道が生まれた。

①さらに効率化、コストダウンをすることで戦い続ける戦略

②コストダウン以外の方法で差別化する戦略

①の選択をするならば従来と同様の組織体制で追求すれば良いが、②を選択する場合はどうだろうか。セットメーカーと部品メーカーでは着手に5〜10年の時間差はあったが、結果的にこの②を実現できる体制への変革が、①で成功を収めてきた多くの製造業にとってのハードルになってしまった。

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では何がハードルだったかというと、②に向けた第一弾の組織変革として多くの企業は図2の体制をとったのではないだろうか。つまり今まで開発部門主導で行っていた製品企画を企画およびマーケティング部門が担うという体制にした。そして製品開発のエースおよび営業のエースをこの部門に配属する。一見この流れは合理的な判断に思えるが、②の戦場で戦うためには決して十分ではない。②の戦いは複雑化、多様化する顧客ニーズを捉え、顧客に応じた製品・サービスを提供していく事が求められる。この図2の体制では何より重要な現場感と情報量が少なすぎるのである。多様化したニーズは間接的なマーケット調査や分析からは見えてこない。また図1の体制では営業として代理店を活用していることが多く、ここからの情報を拾い上げるのも容易ではない。では企画部門に配属された営業エースが現場にもっと行けば・・・ということになるのであるが、①において大量にものを動かすマネジメントが求められる営業エースのスキルセットと②における一つ一つに深く入り込む現場情報を収集するスキルセットは異なるため営業エースも苦悩する。ここも大きな盲点となる。

ではどういう形が理想になるかであるが、それはそうした個別対応のビジネスに早期に着手する必要があったITベンダー等の製品開発が必要なソリューションビジネスの体制にヒントを見ることができる。図3がその例である。これは顧客ニーズドリブンでマネジメントを行うときの一つの組織の姿である。営業こそが顧客の真のニーズを把握できるポジションにあり、モノを売るにも新しい製品・サービスを開発するためにも前線に立つ。営業担当者が拾ってきた顧客課題やニーズを開発にフィードバックする仕組みが重要になる。今やこの事実については、当たり前でありトップマネージメントは頭では理解できていることが殆どだと思う。しかし、問題は実態が伴っていないことにある。この組織では営業がリスペクトされていなければならないし、ユーザーニーズに触れる事ができる貴重な機会を持つ営業にこそ技術-営業のバランス感覚を持ったエース人材を投入しなければならない。しかし、日本のメーカーの多くは、頭では分かっていても過去の成功体験による数名のトップセールスおよび大本営的な本社経営体制から抜け出せていない。組織の変革には役割の変更だけでなく、社員のマインドセットから返るつもりで取り組まなければならない。この組織が中途半端な体制のままで、社員が悶々としてていることこそが現在の閉塞感の原因だと言っても過言ではない。

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話をキーエンスに戻すと、顧客のニーズを捕らえ製品開発にフィードバックするというサイクルを高速に回すという現場主導型の経営スタイルが早い段階から実現できている。この体制を実現できたのは、後発参入としての創業期において理想な体制を構築し、旧体制に染まっていない新卒中心の社員に刷り込むことができたという点に理由はあるのは間違いない。
ものが溢れる時代の中でのBtoBビジネスにとって理想的な組織体制を他社に先駆けて実現できていることは間違いない。

次回は新規事業およびスタートアップにおける組織体制について考えてみたい。

Written by Tatsuro Tsushima on 2012-12-23