イノベーションに立ちはだかる3つの谷

イノベーションに関する話をすると、業界によって近いけれど異なる「谷」の話になることが多い。
一つ目の谷は「実用化の谷」
二つ目の谷は「マネタイズの谷」
三つ目の谷は「事業化の谷」
である。

実用化の谷

実用化の谷は、主に研究者や大学が悩んでいる問題である。研究成果が出ているものの、文字通り「実用的」でない、という問題認識である。大学等の研究機関は、「ものすごい」技術を開発しているため、実用的でないという批判はある程度仕方のないことなのだが、実用化を課題に挙げる研究関係者は最近の傾向として多くなっているように感じる。
実用的なものというのは必ずしも高度な技術を必要としない、ということでもあるのだが、どのような技術が実用的なのかというと、それは再現性の高い技術ということになる。研究成果の多くは、「100回実験して、やっとうまく行きました」といった類のものが多く、実用上その信頼性の低さがネックになるケースが多くなる。その技術を実用的にしようと思うと、100回中100回という再現性の高いものにしなくてはならないというハードルが待ち構えている。
このハードルを超えるための努力を誰が行うのか、ということを決める必要があるだろう。ただ単に研究者側が歩み寄るのか、企業側が歩み寄るのかという議論を超え、インセンティブの見える化と役割分担を私たちも行っている。

マネタイズの谷

マネタイズの谷は、主にIT系ベンチャーが抱えている問題である。ソフトも完成し、一定数のユーザがいるものの、有料化して収入につなげることができないという悩みである。ベンチャーに限らず、無料アプリならばダウンロード数を稼げるが、優良にしたとたんにダウンロードが止まってしまったり、フリーミアムにしていると有料ユーザ数が延びないといったことに多くの企業は悩んでおられる。
「使える」サービスから「使われる」サービスへのハードルを越えるための努力が必要になる。つまり、「面白い」という評価を超えて、持続的な価値を提供できるかどうかを考え、それにマッチしたビジネスモデルをデザインする仕事が待っている。スマホアプリでの広告マネタイズが多いのも「面白い」という価値を提供しているものが多いためと言える。「使える」けど面白くないアプリが多い世の中、「面白い」アプリには利用価値が沢山ある。「面白く使える」アプリへと合体させていくような動きを取りたいところである。
「面白い」けれど、使われていないアプリには使われるような場面探しを行う。言い換えると、ユーザが使用する場面の発見が必要になる。その際、後に説明するJOBSメソッド(Jobs-to-be-done)が有効だ。
逆に、使われる必然性があるが、「面白さ」が足りないアプリには、ユーザーの反応を検証しながらゲーミフィケーションを施していく必要があるだろう。

事業化の谷

事業化の谷は、主に企業が抱えている問題である。この三つの谷の中で一番とらえどころがない問題かもしれない。実際に事業化に困っている人たちから話を聞くと、技術が未熟で実用的でないことも多いし、マネタイズができない、という悩みと絡み合っていることも多い。話を何度か聞いていくと(そして何度か聞かないと)、実は既存のビジネスモデルに合わそうとして悩んでいるケースが実に多いことに気づく。ものづくり企業が良いサービスを開発したものの、物販モデルと異なるために、社内のコンセンサスが得られないことは多い。
よくある話として、新しい価値を提供できる製品開発に成功していても、既存の営業部隊に受け入れられない、という例を取り上げてみよう。良い製品があるのに、営業部隊が売りたがらない理由はいくつかある。新しい顧客との接点がない、既存製品を売る方が楽、新しい製品を売ることによるカニバリゼーション、営業体制の再教育が面倒、などが挙げられる。何とか営業部長を説得して売り出したい、と思うのが新規事業担当者の言い分になる。ところが、営業部長の立場に立って考えてみると、このような抵抗は実は一般的なものだということに気づくだろう。新しい顧客を開拓するのは実に骨の折れる仕事だし、既存の営業人員は既存顧客から追加注文を取ることを日々行っているため、とても上手に行えるのだ。わざわざゼロからやりたくもないだろう。さらに、新しい製品が安い製品だったりすると、骨折り損のくたびれ儲けという感も否めない。このような事情を考えると、既存の営業部隊に頼らない方が合理的な判断になる。
このような時は既存の組織に頼らずに実績をつくる他ない。新規事業部隊で顧客開拓を行いながら、「組織的」に売れるための仕組みや基盤をつくっていくのである。こちらで書いたように、オペレーション部隊は横展開が得意なのであって、最初の開拓には向かないことを意識してチーム編成をすれば成功は見える。

これらの3つの谷の本質はそれぞれ、技術的な課題、事業性の課題、組織の課題である。そして前述したように多くの場合にこれらの課題は絡み合って複雑な様相を呈している。一度立ち止まって課題を整理して解決していってはどうだろう。

Written by Shingo Tsuda on 2013-10-08