“共感”
・・・何に取りかかるにも本気になるためにはこれが何よりも重要だと思っている。
おっちゃん達が活動を開始していた”堺・風車の会”は確かに人力飛行機をつくろうとしていたが、津嶋の直観としては何か物足りないものを感じていた。大学生活をすべてかけてここに全力投球するには何かが足らないと思った。これが実はおっちゃん達との初対面の儀式の時に”やります”と腹の底から答えられなかった最大の原因でもあった・・・。
しかし堺・風車の会は、
・大阪堺市の産官学連携チーム
・人力飛行機では珍しい女性パイロット
という2点をキャッチコピーとして、実績のない初出場チームにとって最大の関門である書類審査を突破していた。こういう審査にとって初出場チームにとって重要なのは、今も昔も変わらず
“話題性”
である。当時の司会者は桂三枝(現:六代桂文枝)であり、大阪ど真ん中の読売テレビ主催の番組が、単に本気で飛ぶ飛行機を持むだけでは歓迎されるわけではない。
そうした中、特に女性パイロットというのは、当時も(今も)珍しく非常に話題性のあるネタであることは間違いなかった。ただ多少体重が軽い分有利になるとは言え、機体全体の重量とすれば10%程度の軽量化にすぎず、実際飛行するのに200W前後の高いパワーを出せる体力を身につけるには相当な高負荷トレーニングが必要になる。女性パイロットが、少ないなりの理由ははっきりしていた。
今思い出しても当時の自分にも一つだけ、他人に比べて感度の高いセンサーがあったと思う。小学校時代に剣道で全国優勝を実現するプロセスを通して、図らずして身につけていた”勝負に対する勝ち筋観”である。
競技に出るなら勝ちたい
・・・この時も本能的にそういう目でチームを見ていた。
つまり、当時も勝負にこだわっていた自分にとって、かっこ良く言うと
“大学生活をかけて全力を尽くせば優勝を目指せる”
・・・その可能性を感じなかった。
・・・その可能性を感じなかった。
素直に言い換えると
ミーハーにテニスサークルに入って、
女の子と楽しい大学生活を越える力を感じなかった
女の子と楽しい大学生活を越える力を感じなかった
というのが津嶋の第一印象であった(笑)
しかし、この印象は後々初めての鳥人間コンテストを経験することで大きく変わることになる・・・。
しかし、初めからそんな贅沢も言ってられない。鳥コンにでるためにはその他の選択肢は無いわけだから、腹はまだ決まらないかもしれないけど、
おもしろそうだからとりあえずやってみるか・・・
始めるきっかけなんてその程度のノリである。
始めるきっかけなんてその程度のノリである。
チームの実態に戻ると、実際自分達だけでなく、中小企業のおっちゃんも人力飛行にとってはど素人。思いのあるメンバーが集まっただけで飛ぶ飛行機が作れるほど世の中そんなに甘くない?という中、おっちゃんらしい初対面での
「鳥人間にでたいんやけど、飛行機貸してくれんか?」
という直球アプローチで支援者としてまきこんでいたのが、自分達にとって人力飛行機の師匠となる深田さん(仮称)であった。
深田さんは職業的な飛行機のプロという訳でなく、関西の某鉄道系デパートに勤務しながら独力で自宅の倉庫で人力飛行機を製作し何度も大会に出場していた知る人ぞ知る、いわゆる”人力飛行機オタク”である。
制約の多い環境でゼロからやってきたからこその職人的な厳しさとこだわり
そして一人ですべてを把握しているからこそできる全体観のある指導
は今思うと指導者としては最高の方だったことは間違いない。しかし、当時の自分達にはその指示の恐らく半分も理解することはできず、なんかつっこまれてばかりの毎日・・・。当時、如何に素人だったかという中尾のエピソードを紹介しよう。
当時の深田さんと津嶋と中尾(左から)・・・(^^ゞ
我々が加わった5月に対して大会まではもう2ヶ月程度しか残っていなかったが、完成度は主翼は8割程度、尾翼は影も形もなかった。人手不足で作業は遅れており、このままでは大会までに完成するかどうかも危うい状況だった。
とりあえず当面の目標は、1週間後に大仙公園で催されるイベントで機体展示するので尾翼を作ること。尾翼が無いと展示してもカッコがつかないということらしい。
もちろん飛行機なんて作ったことがないのでおっちゃん代表の中野さん素朴に質問をしてみた。
中尾:「尾翼って1週間ぐらいでできるんですか?」
中野:「そんなもんやったことないワシに聞くんか?聞く相手まちがっとるやろ?おまえはやれるんか?」
中尾:「え?あ、いや・・・分かりませんがたぶん・・・」
中野:「そうか、じゃぁ頑張れ」
中尾:「え?あ、はい、頑張ります」
こちらが質問したつもりがいつの間にか「やります宣言」になってしまい、1週間毎日終電ギリギリまで尾翼作りに精を出すことになった。
何でもやれば出来るもので、1週間で尾翼は完成!無事に展示には間に合った。そう、展示には・・・
やはりシロウトの突貫工事。
完成した尾翼はなんとリブをつける順番を間違えて設計とは違う形に。
普通に図面を見ればこんなミスするはずがないと思うのだが、チェックする人が居ないとこんなものなのかもしれない。大会を2ヶ月前に控えているにも拘わらず、如何に我々がど素人だということが分かっていただけると思う。
この尾翼は金魚のしっぽみたいということでメンバーからは金魚尾翼と呼ばれテストフライトにも使われたが、本番を前に作り直しとなった。こうして中尾が手がけた初作品は大失敗になってしまったが、期限内で完成できたことだけは大きな自信になった。
こうしたギリギリの期限に追いかけられる中での
マニュアルのない試行錯誤の積み重ね
が、実は自分達にとってこの上ない最短時間での人力飛行機学習に繋がっていった。