私は恐らく昔からコミュニケーションという領域に人一番感度が高かったであろうことに30歳前後で気づかせてもらった。そのきっかけはコンサルティングという業界に入り、他人に情報を伝え、さらには行動に移していただくという仕事を生業にし始めたことにあると思う。
“人に新たな行動を促す”というコミュニケーションゴールに至る方法を必死に考え、実践するという試行錯誤を通す中で、自分のコミュニケーションスタイルには多くの実践知と言える暗黙知があり、多くの人々はそれを実践できていないことに気づくことができた。現在は意識するしないに関わらず、常にこの原理原則に従うことができるようになった。その結果、ある条件さえ満たせば、どんな人にも自分の伝えたいことを伝えることができると自信を持って言える。逆にこの条件を満たせなければ、どんな簡単な事も伝えられないと思えるようになった。この原理原則を身につけることは、多くの事を伝えられるようになることだけでなく、伝わらない事を諦められるようになるという実は伝えることと等しく重要な気づきを与えてくれる。今回はこの実践的な原理原則をご紹介したいと思う。
コミュニケーション力をより、日本語のニュアンスで”伝える力”と定義すると、私は下記の3つの要素に分解できると考えている。
まずコンテンツとは、伝えたい内容の力。タイムリーな話題やサプライズネタ、理解を補う情報などはこのコンテンツがもつ力。次にプロセスとは、伝え方の巧妙さ。伝える順番やストーリーなどのスキル的な要素。そして最後に情熱とはそれを伝えたいと思う話し手の内なる力。この3要素の掛け算によって”伝える力”は支配されている。
ここまでは何となく理解していただけると思う。それぞれの一つ一つの要素は、皆様が普段から意識していることそのものではないだろうか。次に考えていただきたいのは、この3つの要素を駆使して何に対応するかということである。
それこそが普段伝わらない感に悩んでいる方々には抜け落ちている事が多い要素であり、コミュニケーションの成否を握っている最大の鍵になる。それは、
である。つまり、
言い換えると、
これこそがコミュニケーションにおける原理原則である。これは人間の五感すべてに当てはまることでもあり、認知科学の分野でも明らかになっていることでもある。人は意識的に見たくないものは見えなくできるし、聞きたくないことは聞こえなくできる。それは視界に入っていても、音として耳に入っていても意識的に情報を取捨選択できことを意味している。これは日常的に誰もが体感している事実であるにも関わらず、なぜかコミュニケーションという領域になったとたんに忘れ去られてしまう。なぜか自分が言ったことは、すべて聞いてもらえていると過剰にポジティブ?!になってしまう。
さらに伝える力の影響力に時間軸をつけると、その場で理解してもらうだけでなく記憶として脳内に留めていただく必要がある。こうなるとさらに”興味”という要素が不可欠になることは、実感としてもご理解いただけるのではないかと思う。
では具体的に何をするか?であるが、前述の”伝える力”の3要素を駆使して、
努力をすることである。会議やプレゼンテーションというシチュエーションで重要な点として、”場づくり”という言葉を使われることは多いと思う。この”場”とは無形なものであり、実体が分かりにくいものではあるが、場をつくるとは私は参加者の”興味をつくる”ということと置き換えることができると考えている。これは一対一でも一対多でも同じである。聞き手に聞くための準備を話し手が促すことである。
日常的なTipsを例で示すと話のうまい方の多くは、”枕詞(まくらことば)”を多用していることに気づくのではないかと思う。例えば、
① **さんって**が好きでしたよね?実は・・・
② 最も重要なポイントを一つ挙げるとしますと・・・
③ もうめちゃくちゃ感動した事があるんだけど・・・
これらはどれも典型的ものであるが、①はコンテンツとして相手の興味のあるテーマを選んでいる、②はプロセスとして興味をひくための工夫をしている、③は情熱の要素に着目した枕詞である。そして、長いストーリーになると、これらを複合的に使って興味を引き続けられなければ、伝えたいことは伝えられていないと思わなければならない。
ここに、初対面同士では伝わりにくく、長く深いつきあいになればなるほど以心伝心ができるようになる本質がある。つまり、コミュニケーションのパフォーマンスを高めるためには聞き手に応じてこれら3つの要素をうまく使い分けていかなければならない事は容易に想像いただけると思う。
コミュニケーションのパフォーマンスを高めるための本質は、”聞き手の興味は何か?”という問いに対する答えを見つけることである。
次回は日常的に良くある様々なシチュエーションにおける具体的な応用例を考えてみたいと思う。