「デジタルの対義語は?」と聞かれたら、何と答えますか?少し考えてみてください。「何言ってるんだ、そんなの アナログ だろ」という答えが返ってきそうですが、最近のDX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈で語られているデジタルって、アナログの対義語としてのデジタルでしょうか?
Wikipediaではデジタルトランスフォーメーションとは「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるという概念」で、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したと書かれていますが、ここには所謂デジタル/アナログ(不連続/連続)の意味は表現されていません。
Wikipediaで原典を辿ろうとしたら、余計に分からなくなってしまった典型なのですが、デジタルトランスフォーメーションの特徴の一つとして挙げられていた以下の言葉は腑に落ちました。
デジタルトランスフォーメーションにより、
情報技術と現実が徐々に融合して結びついていく変化が起こる。
自分が考えた「デジタルの対義語は?」の答えは「 フィジカル 」です。言葉的には肉体的、身体的なものがイメージされるかもしれませんが、自分の意図する所としては、所謂、モノ、物体、実体のあるものという意味です。
ビジネス的な文脈ではデジタルトランスフォーメーションを推進するやり方としいていくつかのステップが示されていますが、最初のステップはどれも「デジタル化」です。フィジカルな実体のあるものをデジタル化してデータとして扱える様にする事から始まります。そして、このステップこそが、最も本質的な差を生み出している。だから、デジタルの対義語はフィジカルという発想に至りました。
そうなると次に出てくるのはIoTです。モノのインターネット化は手段としてのRFIDが出てきた辺りから現実的になってきました。いつの間にか洋服のタグに明らかに回路と分かる模様があったり、日常生活でも目にする機会は増えてきましたが、1999年にはマサチューセッツ工科大学 (MIT) のAuto-IDラボがRFIDを商品に込み込み市場分析を行うという研究プロジェクトを開始していた様で、20年前には構想されていたものになります。
10年前の2010年代には、米ゼネラル・エレクトリック (GE) など米国勢が中心の「インダストリアルインターネット」、ドイツ政府による「インダストリー4.0」というデジタル化政策も出てきていますので、大体10年刻みぐらいでコンセプトのリニューアルが行われているだけなのかもしれません。バズワードに踊らされずに、バズワードの変化の歴史を辿ると各段階で追加されているコンセプト、本質的な違いが見えてきます。
更に最近はボーンデジタルの商品も増えてきていますので、デジタル化するというよりも、デジタルが主流の世界で以下にフィジカルを活かすか?ハイタッチな演出をするか?という発想に切り換える方が有効かもしれません。
コロナの影響で、ただでさえデジタルが幅を利かせていた世界で、更にフィジカルが追いやられてしまいました。デジタルは安価にコピーがかからないという特性があり、広く配信するには便利ですが、質の低いものを大量に生産して大量に消費して、消費者の体験をチープなものにしてしまう弊害もあります。
デジタルの活用は当たり前として、いざという時の本物、貴重なフィジカルの体験をどう活かすかが、今後考えていくべき論点では無いでしょうか。