まずはこの動画を見てください。
私も驚きました。自転車に代表されるような「スキル」というのは、シンプルなスキルであっても実に複雑に身に付いているんだな、と。脳の学習はソフト的な面もあれば、ハード的に固定配線(ハードワイヤ)されるものもあることの証左として本当に興味深く見入ってしまいました。この実験を身をもってやり遂げたDestin Sandlinは凄いとしか言いようがありません。
さて、これを一度身に付いた動作は、なかなか忘れることができないことが改めて確認されたわけです。習慣の力は偉大過ぎます。なので良い習慣を身につけるように教育というのが存在するんですが、時代にそぐわない習慣というものもあって、特にビジネスの世界では環境の変化が早いので。ビジネスモデルは移り変わり、それぞれのビジネスの急速な習慣化が求められる一方で「変革」も同時に求められています。
既存事業で付いた癖は、新規事業に取り組もうとしても、なかなか抜けません。計画の精度にこだわったり、会議室にこもったり、顧客ではなく上司への体裁を気にしたり…
新規事業を立ち上げるための「リーンスタートアップ」や「ファーストマイル・ツールキット」など、さまざまな手法は、頭で理解するのはさほど難しくありません。不確実性の高い事業仮説を検証しながら前に進めるのですから、既存事業の数々のお作法と比べたら単純な法則で成り立っています。しかし、実行するのは難しいかもしれません。それは、自転車の操作は単純なものであるにも関わらず、実際に乗れるようになるのには練習が必要なのと似ています。
しかも一度、既存事業の「クセ」が付くと、なかなかそのクセが取れないのです。消費者としての感覚は自然に身に付いているはずなのに、提供側のややこしい論理に縛られている人も同じです。「顧客視点」「顧客中心」というのは実は単純だけれど、変な売り手の論理やクセから抜けられないだけではないでしょうか?
実際、学生と社会人と、双方にイノベーションのトレーニングを施すと、明らかに学生チームの方が学びが早いです。学生に経験がないことがプラスに働き、社会人には会社生活で身に付いてしまった「業務上のクセ」が邪魔になるからです。
動画にもありましたが、脳が若いときは学び直しが効きやすい。でも、歳を取っていたとしても、毎日のトレーニングを大切にすれば、学び直しが可能です。根気強く訓練すれば乗り越えられます。しかも心強いのは、学び直しそのものを体験すると、次の学び直しがよりスムーズにできる上に、学んだもの切り替えもより容易くなるということです。複数の言語を操る人や、複数のプログラミング言語を操る人に尋ねると、3つ目、4つ目の言語を学ぶハードルはどんどん短くなるそうです。もしかしたら「Unlearning」、つまり自分のクセからの「解放」が最も重要な生きるスキルかもしれません。