AirbnbとDOORDASHが上場した。
それぞれ初値ベースで$101B(10兆円以上)と$66B(6兆円以上)の時価総額とされていて、これはさすがに驚愕する。ちなみに“ユニコーン”の定義は$1Bなので、この2社はユニコーンの定義を凌駕し、$10B以上のバリュエーションを持つ企業につけられる“デカコーン”ということになる。
どちらもYCOMBINATOR発のシリコンバレーIT系スタートアップという括りで語られる。
また、Airbnbは部屋の貸し手と借り手を繋ぐ“プラットフォーム型”ビジネスであり、DOORDASHは配達をしたいレストランと届けてほしい消費者を同じようにつなぐ。
不動産や物流資源共有する“シェアリングエコノミー”というラベルも共有し、似た用語で職業や会社、場所に縛られない“ギグエコノミー”だと称されたりもする。
ユニコーン、デカコーン、シリコンバレー、プラットフォーム、シェアリングエコノミー、ここまで挙げてきただけでも数多くの「キーワード」があるが、これらのキーワードでこの2社を理解することはできない。しかもこうしたキーワードで、新しい事業を起こそうとすると痛い目に合うだろう。なぜならこうしたキーワードは事業の一面、しかも学術的な視点から見た特徴や、従来ビジネスと比べると変則的な点を取り上げたものだからだ。
例えば、「ユニコーン」は元々、伝説上の一角馬のように「きっと未上場のまま$1Bのバリュエーションには到達できないだろう。できたらカッコいいけど。」というネーミングが発端とされる。しかし現実には、予想を上回りユニコーンは次々と登場していて、幻想で終わると思われていた評価額の10倍を付ける企業も現れたため新しくデカコーンという造語が必要となった。
AirbnbもDOORDASHもITスタートアップというカテゴリに置かれるのが一般だが、Airbnbにとっては貸し手物件が借り手の期待に沿うように管理し、体験を想像させる情報発信、人々が旅に求めることが何かを把握していないと成立しない。つまり不動産業や観光業という側面は無視できない。DOORDASHは実際の物流を行っている。配達員を安定して確保することも必須であり、プラットフォームとは言うものの、リアルビジネスにかなり近い。
シェアリングエコノミーというのも、後付けの名前なので注意が必要だ。日本では昔から、醤油などの調味料を近所で共有していたように、急に必要になったものや、一定期間しか使わないもの、非常に高価なものの貸し借りは経済的に合理的だというのは誰もが知っていた。これを今の時代に合わせた形で体現しているのが“シェアリングエコノミー”の他ならない。また、企業から見たらフリーランスやアルバイトを中心に業務を回すことは固定費や福利厚生費を抑えるメリットがあり、働く側はややこしい上司やルールに縛られずに生活できるメリットがあるので、ギグエコノミーは職人やクリエイティブな職業を中心にラベルが付けられる前から存在していた。インターネットを活用できる企業によって発掘が進んだという方が正確だろう。
新規事業を起こしたい、スタートアップして成功したい、という方はわかりやすいラベルやキーワードを超えてこの2つの会社を知ってみたらどうだろうか?日本にはユニコーンが足りない、とか経済が低迷しているとか、危機感を持っている読者もぜひ、とお誘いしたい。
キーワードを超えて、と言ってもAirbnbに泊まってみるということを言っているのではない。もちろん楽しめる体験ではあるし、百聞は一見に如かずではあるが消費者としての体験とは異なり、事業を起こすプレイヤーとしての体験が大切だ。これを追体験することは決して容易ではないが、そのチャレンジの歴史と泥臭い試行錯誤の人間模様を知ることで、決して「普通の」スタートアップなどないことはきっと理解できるはずだ。普通のキーワードを追っかけた「置きに行った」新規事業が失敗し、キーワードを学者たちに作らせたチャレンジが成功するということも。
YCOMBINATORからいくつか生い立ちを紹介しているので、代表的な例としてご紹介する。(日本語にさっそく訳してくれた方もいるようで、これもギグですね)
https://blog.ycombinator.com/the-airbnbs/
https://review.foundx.jp/entry/doordash-from-application-to-ipo
AirBNBとDOORDASHの上場をきっかけに、この2社のことを改めて読んだが、感じたことがある。それは、起業家は社長の形をしているがクリエイティブな実験家であり、スタートアップはビジネスの形をしたクリエイティブなチームであり、シードアクセラレーターは投資家の形をしたクリエイティブな塾なのだということを。