スタートアップにとっての経路依存性とは?

Written by 津田 真吾 on 2021-06-28

どうやったら会社を成長させることができるのか?

今では本やネットの記事にあらゆる情報があふれていて、さまざまな戦略フレームワークやテクニックや事例が簡単に入手できますよね。実際、このブログにはジョブ理論ピッチのテクニック、成長戦略の描き方や事業開発のコツも紹介してきました。この手の知識はあればあるほど成功には近づきますが、知識ではカバーできないことの一つに「経路依存性」というものがあります。

経路依存性とは、簡単に言うと「物事を為す順序」ということになります。

人を増やしてから、開発をするのか?
開発を進めてから人を増やすのか?

ピッチコンテストに出てから、プロダクトをローンチするのか?
ローンチしてからピッチコンテストに出るのか?

資金調達を先に行ってから海外展開するのか?
海外展開で資金調達をするのか?

近い言葉に「優先順位」というものがありますが、ちょっと意味が違います。例えば、「マーケティングと開発の優先順位をつける」というのは、どっちも大事で、どちらにより時間とお金をかけるのか?という問題ですが、「経路依存」というのは、ある一方向に進んでしまうと戻れず、「違う景色」の中で次の意思決定をしないといけないことを指します。いわゆる「タラレバ」です。

さっきの例でいえば、開発を先に進めるとバグも埋め込まれてバグフィックスに向いた人を雇いたくなってしまいます。逆に、人を先に増やす決断をすれば、開発メンバーが豊富になりますが、分業されたアーキテクチャになります。順序が違うと、人数やプロダクトが同じように見えても、その中身は結構違うものになってくるのです。

スタートアップの経営者(社内スタートアップのリーダ含む)は、次の一手として何をするべきか悩んでいます。自覚しているかどうかは人によるけれど、今何をするべきか悩んでいたり、次の一手を最適化したい、成果を最大化したいと願っています。

「経路依存性」という言葉を知らなくても、次の一手に苦労し、色々な人に相談する人がいます。色々な人の話を聞くのは一見悪くない判断のような気がしますが、スタートアップの早期であれば早期であるほど、これはマズい結果となる可能性があるんです。早いステージのスタートアップは、プロダクトが存在していても完成度は低く、顧客もユーザーも多くいません。リソースも少なく、知名度も皆無です。そういう時期に得られるアドバイスは、間違っていません。「開発を進めた方が良い」「メンバーを増やそう」「資金調達を教えよう」「顧客を紹介しよう」など、ないないずくめのスタートアップにとって、指摘されることはは当たっています。話にウソがないだけに、アドバイスを聞いている起業家は納得してしまいます。親切な助言者が多くなると、いわゆる「アドバイスのフォアグラ状態」に陥ってしまいます。

「アドバイスのフォアグラ状態」にあるリーダーは、山積みになった重要課題に直面し、何から手を付けてよいのか硬直してしまいます。概してスタートアップを始めるような人は行動力が高いのですが、重要な課題をたくさん目の前に置かれるとさすがに体が止まってしまうようです。

「今、何をするべきか?」という問いは将棋に喩えると、「次の一手」ということです。一手一手ごとに盤面は変わり、その順序の大切さを忘れてはいけません。特に、大切なのはMVPをいつローンチするのか?そのフィードバックを得てプロダクトに改善を重ねるのと、資金調達や開発チームの増強はどういう順序で行うのか?といった意思決定です。さらには、社員第一号はビジネスサイドなのか技術サイドなのか?といった意思決定も、未来の経路を決定づけているので注意が必要ですね。

この先はポジショントークも含まれていますが、やっぱりコミットしていない人からのアドバイスはある程度割り引いた方が良いと思います。そして「専門家」も、その専門性に偏った助言をする傾向にあるので、そういうバイアスに気を付けた方がよいです。税理士の意見を聞いたがために、スタートアップに時期尚早な会計システムを導入してしまい、売り上げもほとんどないのにもかかわらず、細かな原価計算の集計作業に疲弊してしまった悲劇なども見てしまいました。こういう経路依存性をもたらす意思決定をするときに信頼する相手が“Skin in the Game”=リスクを背負っているかどうか、は非常に大事なファクターになるのではないかと思うんです。アドバイスによる中長期的な影響を共有できるのか、ということです。

さらにポジショントークを超えて暑苦しいかもしれませんが、こうした思いが私たちが立ち上げたシードアクセラレーター(ZENTECH DOJOX-DOJO)に込められています。起業家と一緒にリスクを取り、「アドバイスのフォアグラ状態」を避けることで未来への経路を高めていきたいと思います。