ソフトウェアはデジタルなものだと思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。

むしろ、ソフトウェア化することで、よりアナログで使いやすくなるケースは数多く存在します。3つの例を挙げてみたいと思います。

分け隔てのないNOTE

まず、NOTEです。
NOTEには“柔らかい”文章がたくさんありませんか?そして、まるで「プロ」のようなエッセイや小説が無料で読めます。もちろん、課金しないと読めない「プロ」が書いた作品もありますが、「アマチュア」が稼ぐことも可能だし、「プロ」が無料で作品を提供することもできるのがNOTEです。

例えばこんなエッセイにも出会えます。

今週末の日曜日、ユニクロで白T買って泣く|しまだあや(島田彩)|note

今週末の日曜日、私はユニクロで泣く。 いつも行く、イオンの4階に入っているユニクロで。きっと、震えながら白のエアリズムコットンオーバーサイズTシャツ(5分袖)を手に取って、泣く。 何の話か全くわからないと思うけど、今、たった今3時間前に起きたことを、心臓をばくばくさせながら、今日は書く。 …

以前は、アマチュアはアマチュア、プロはプロの場が用意されていました。NOTEは読者の心を捕まえることができれば稼げる仕組みがあるため、プロもアマチュアも利用しており、アマチュアの無料作品であっても先ほど挙げたような素晴らしい文章に出会うことも珍しくありません。稼ぐ仕組みだけではありません。記事を書く入力画面もシンプルで、コンピューターを扱いなれていなくても記事を書いて公開することができるのです。

NOTEはブログのようではありますが、記事を書いてデザインを整えるのはちょっと面倒かもしれません。課金となるとさらにハードルが上がります。

改めて考えてみると、執筆者はインターネットによって多くの読者に作品を届けやすくなったものの、(プログラミングよりははるかに易しいけれど)コンピューターに向かって指示をするという感触は拭えていなかったのかもしれません。NOTE登場前の多くの執筆ツールはHTMLやMarkupなど、人工言語を書く延長線に自然言語を書くUIができていた気がします。それに対し、NOTEはコンピューターに向かってではなく、読者に直接向かうことができる、趣味の物書きとプロの物書きを分け隔てしないプラットフォームだと思うのです。

AI受診相談ユビーは「医療」と「それ以外」を分けない

日本には国民皆保険制度があり、私たちの医療費の7割は健康保険でカバーされます。しかし、どこからが「医療行為」なのかは明確に線引きがされていて、ままずは医師という専門家の「診断」を受けることで医療がスタートします。診断の結果、病名が決まり、治療が始まります。

実は「診断」を受ける際にも苦しみがあります。病院に行って診察をしてもらうのに、移動時間や交通費に加え初診料が必要です。しかも移動中や病院で新型コロナやインフルエンザなどの感染症にかかるリスクも気になります。子供にはもっと感染力の高い病気が多く、子供を持つ親なら子供を連れて病院に行くべきかどうか悩んだことはあるのではないでしょうか。医師の診断を受けにいくかどうかという健康上の判断を、医師ではない私たちが決めないことには始まらないのです。ググれば良いと思っているかもしれませんが、インターネット上の情報には怪しいものや、誤った情報も見受けられたり、正確だが難解な情報も混在していて、躊躇します。

こうして考えると、普通の生活を過ごしている状態と「医療」は連続しているのにもかかわらず、「受診したかどうか」で区別される大きな隔たりがあります。

AI受診相談ユビーは、その隔たりを取り除き、信頼できる医学情報から自分や子供の症状と病気の関連を調べてくれます。なんとなく感じる不調が、シリアスな病気と関連しているか、受診するならどの診療科なのか、というファジーな状態が、デジタルに「医療」か「それ以外」に分断されてきた世界を優しくしていると感じます。

MENOUは忠実に学ぶ

ものづくりの現場で、製品出荷前に行われている検査が未だに人海戦術に頼っていることをご存じでしょうか。しかもそれぞれの製品を構成する何点もの部品も、部品メーカーにとっては「製品」ということになり、同じように外観検査が行われています。最終検査だけでなく工程中にも品質管理のための検査が何重にも行われていて、多くが目視によって行われているのです。

これらの膨大な検査を少しでも省力化するために、コンピューティングが用いられてきました。コンピューターに置き換えることで作業員の疲れを気にせず24時間正確な検査を続けることができるようになりましたが、検査項目を「輝度」や「コントラスト」などといったデジタル値に翻訳してあげる必要があります。さらに、外観検査員とプログラマーとの間でも翻訳作業が必要です。外観検査員、プログラマ、コンピューターという二重の翻訳ロスが発生するのが問題でした。この翻訳作業が必要なため、「なんとなく汚れている」とか「全体的にいびつ」といった現場感覚による検査を自動化するのは至難の業で、不可能だと諦める企業も多数です。なんとか諦めずに多くの試行錯誤の末、満足のいく検査ができたとしても、そのころには製品のモデルチェンジなどで不要となってしまいます。

ディープラーニング技術の登場で「輝度」「コントラスト」などのデジタル値への変換は不要になりましたが、製造現場をあまり知らないAIベンダーとの翻訳作業は本当に大変です。ましてやAIを売りたいベンダーです。甘い言葉と甘い見立てを信じて購入した数千万の画像検査装置が使い物にならないといった惨状を幾度となく見聞きしました。

MENOUが開発したMENOU-TEは、もちろんディープラーニング技術を用いていますが、現場の検査員から直接その検査方法や検査基準を学び取れるという特徴を持ちます。新人の検査員を指導するときのように、「この辺を詳しく見て」「こういう欠陥を探して」「欠陥がこのくらい大きかったらNG」といった思考回路のままにAIモデルを組み立てることができます。喩えて言うと、OK品とNG品の画像を大量に渡して「NG品を検出してね」と乱暴に学習させていたのが従来のディープラーニングであったのに対し、少し丁寧なアプローチです。MENOU-TEを用いることでベンダーに頼ることなく現場の検査技術を反映したAIを作り、少ない画像で学習ができるようになります。

マジックアワー

白か黒か、あえてデジタルに白黒をつけて処理することでシステムの効率化を図ることは多くの場合有効です。ですが、過去に導入されたシステムには当時の状況や技術的な制約から白と黒が分かれています。だからといって、そのままである必要はないと思うのです。白黒の境目をそのままに新しい技術を導入することは、まるで白黒写真を再現するためにフルカラーの信号を1ビットに減らしたり、DXと称して紙の帳票をITツールに置き換えたりするようなものです。今の技術レベルやジョブに合わせて問題解決の解像度も高めたいものです。

このように、白とも黒とも言えない色をなるべく実態のままとらえるサービスは人に優しいのではないかと思います。ソフトウェアは機械を動かすための道具ですが、私たち人間にとって意味のあるものであり続けるには、なるべくアナログな方が良い。デジタルの対義語はアナログではないのです。

余談ですが、このブログのタイトルと「マジックアワー」としたのは昼と夜の間のグラデーションに存在する、彩りある未来をつくっていきたい。そんな夢を表しています。


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