ラーメンが世界で流行っていることを御存じだろうか?
アメリカに住んでいた2001年頃、シリコンバレーにあったラーメン屋はジャパンタウンにあったかぎりで、主に日本人向けに営業していた。しかし、今では10軒以上はあり、現地のアメリカ人に会えば、「ラーメン食べたか?日本のものと比べてどうか知らないけど、美味しいよ!」と挨拶代わりに勧めてくれる。新横浜ラーメン博物館によれば、2013年2月時点で海外に1000店舗以上存在しているという。
居酒屋も増えている。
今やアメリカの食文化を代表するハンバーガーやコーラ同様に、全世界に当たり前のように普及する時代もそう遠くないと感じている。いや、既にそういう時代になっていると言っても過言ではない。
国内市場の成熟に伴い、日本企業のグローバル化が叫ばれてきた。今まで進出できていない市場を開拓しようという訳だ。グローバル化という言葉には、昔の企業戦士のイメージもあり、無理やり日本から片道切符で外に出て行き、現地化しつつ日本を売り込むという響きがある。
1990年以前に海外とビジネスをするには、日本人といえども外人にも親しみやすく、呼びやすい欧米のファーストネームを名乗る必要があった。実際に、アメリカ駐在の商社マンだった父はTEDという名前の方が有名だった。例えば、「ケンイチ」だからKENというような呼び名が多かったものの、「シュンスケ」なのに、SAMなどと今なら違和感を持つような呼び名を普通に作っては名刺に書いていた。このような話を今しようものなら、化石と呼ばれかねないのでこの辺にしておくが、それほど環境が変わったのだ。
最近では「ツダサン」と初対面から”さん”付けで呼んでくれることも珍しくなくなり、日本を代表する寿司は世界共通の食文化になりつつある。ちなみに私が1970年代後半にアメリカに住んでいた頃、弁当に母の作ってくれたおにぎりを学校で食べていたら、ずいぶんと気持ち悪がられた。どす黒い海苔は食べ物として受け入られなかったのだ。今、寿司を食べるため箸使いが上達した欧米人に私たちのラーメンは断りにくい誘惑に違いない。
先進国に追いつこうとする諸先輩方の血の滲むような努力の甲斐あって、極東の島国でありながら私たちの文化は世界に受け入れられている。文化だけでなく、企業の底力も脅威と見なされている。INDEE Japanが日本企業における社内ベンチャーやイノベーションを支援しているという話を海外の友人に話すと、必ず返ってくる反応がある。
日本のハイテクは凄すぎる。高い品質と目のつけどころはさすがだ。彼らにいったいどんな支援ができるのか?
それに対する私の答えはこうだ。
ウォシュレットを試したことあるか?
日本はスマートフォンという言葉が生まれる前からスマートだったことを知っているか?
写メやケータイメールを発明したのも日本企業だということは知っているか?
研究開発や商品開発にもっと普及のプロセスを織り込まないといけないんだ。
そのためには、もっと自信を持つべきだと私は考えている。
もう一度、グローバル化の行く末であるハンバーガーとコーラを見てみよう。マクドナルドに外国人はいるだろうか?コカコーラに外国人が多いという話もあまり聞いたことがない。しかし、マニュアルに記載されているのは徹底的にマクドナルドの企業文化である合理性だ。スターバックスも同様だ。世界中の店づくりは一貫しており、ほぼ期待通りのコーヒーを味わうことができる。(日本の店舗の方がおもてなし度合が高いような気がするのは贔屓目に見ているからだけでなく、店員と顧客の国民性だからに違いないが)
自信と言っても、「日本のモノは良い」とばかりに傲慢に振る舞おうと言っているのではない。海外で受け入れられないものにはそれなりの理由があるということだ。海外進出を試み、すぐに受け入れられないこともあるだろう。しかし、国内にいても贔屓にしてくれる顧客もいれば、買ってくれない顧客もいる。だからと言って製品や企業を全否定されている訳ではないのだ。
自信を持ち、結果を出すためのポイントは次の3点にあると考えている。
- ミショナリーを大切にする
ミショナリー(Missionary)とは布教をミッションとする宣教師を指す言葉である。その国での最初のファンや導入を支援してくれる最初の人たちはミショナリーである。その国や地域において普及活動をしてくれるミショナリーを見つけることが何よりも大切である。その地域の特性を知りつつ、私たちの製品やサービスの良さを把握している人を大切にして任せよう。つい陥りがちな自前主義は物事を複雑にして、分かりにくく、現地の人には怪しく映る。 - プロセスにこだわらず、形にこだわる
日本人の働き方や仕事観は海外の人とは大きく異なる。プロセスや手順にこだわると、大切なものを見失ってしまうかもしれないし、普及の速度は遅くなる。ミショナリーを大切にするというのと近いが、現地に適したプロセスに任せて自分たちの商品を普及させるのだ。サービスならパッケージ化が重要になる。 - 細かいことにこだわらない
- 日本人の高品質主義は悪く言えば減点主義である。この減点主義に慣れ親しんでいると、英語で苦労するだけで海外進出を慎重に考えてしまったりする。何より、ミショナリーや現地スタッフからのフィードバックが生意気に聞こえたり、否定されている感情を持ち勢いが弱まる。イノベーションの普及フェーズだと捉えると、ものごとが普及するには薄まりながら相手の文化に溶け込むのは必然である。あまり細かい点にこだわらず、多種多彩なやり方を試してみてはどうだろう。
ラーメンに象徴されるように日本文化は世界的な地位を築きつつある。
日本発イノベーションにとって強い追い風である。
この追い風を捉えるために、片道切符的なグローバル化から世界のジャパナイゼーションという見方をしてはどうでしょうか?