子象に付けられた可哀相なくらい太い鎖、 大人の象に付けられた大丈夫かな〜と不安になる様な細い鎖。 こんな光景を想像してください。
一見、逆にするべきじゃないかと思いますが、これは悲しい事に的を射ているのです。子供の頃から鎖に繋がれた大人の象は、鎖が切れないのではなく、鎖を切ろうとしないのだそうです。どんなに力を入れても鎖を切れなかった体験から、鎖は切れないものと思い込んでしまっているのです。
学習性無力感という理論をご存知でしょうか?
心理学者のマーティン・セリグマン氏が1960年代に着想し、その後10年近くの研究を基に発表した理論です。長期にわたり、抵抗や回避の困難なストレスと抑圧の下に置かれると、動物も人も、その状況から「何をしても意味がない」ということを学習し、逃れようとする努力すら行わなくなるというものです。先ほどの象の話は正にこの理論に基づく寓話です。
セリグマン氏はその後ポジティブ心理学を生み出しますが、その動機は正にこの学習性無力感に陥らない予防策を求めての事だったのかもしれません。
学習性無力感。ビジネスの文脈ではどの様にとらえられるでしょうか?例えば以下の様な台詞を聞いた事はありませんか?
- お客さんは欲しいと言っているが、会社のルールではまだ売れない。
- ビジネスパートナーとの契約は出来たが、社内の稟議が終わらない。
- オープンイノベーションを進めろと言われているが、隣の部署と議論が噛み合ない。
- 大胆なアイデアを提案しろと言われたのに、重箱の隅を突きまくられて潰された!
- 今年のビジネスプランコンテストも採用案がなかった。
これは新規事業が欲しいけど、なかなか具体的な活動に進まない会社で聞かれるものです。どんな会社も最初はベンチャービジネスだったはずです。そこで聞こえた台詞は以下の様なものだったはずです。
- 欲しいと言ってくれるお客さんが何よりありがたかった!
- ビジネスパートナーのおかげで一気に売上げが拡大した!
- 足りない部分は他社を巻込んでどんどん補った!
- 可能性があるものは全て試してみた!
- 毎日がビジネスプランコンテストだった!
人も組織も、良くも悪くも、学習します。既存事業を上手く進めるために身につけてきた事が、新規事業を進める上で邪魔になります。
そのために、意識改革が必要だ!となりますが、これは順番が逆かもしれません。新規事業を始める事でこそ、組織の閉塞感が弱まり、意識が変わってきます。
鶏か卵かの話にも聞こえますが、実は新規事業から始めるべきです。なぜなら、人の変化には事業をつくるよりも時間がかかるからです。既存事業を置き換える様な大きなものである必要はありません。
参画しているメンバーがやりがいを感じる事が出来て、周囲からも認知される、そんな新規事業をスタートする事で、意識が変わり、既存事業の底力も上がってきます。
新規事業の効能、もう一度考えてみませんか。