NUS(シンガポール国立大学)はアジアで最も高い評価を受けている大学です。NUS GRIP(NUS Graduate Research Innovation Programme)は2018年に開始され、NUS大学院の学生や研究者にステップバイステップの指導を提供し、大学の世界的な研究を自分たちのディープテクノロジーのスタートアップに変えるためのディープテック起業家を育成しているプログラムです。
2020年12月16日にそのショーケースとしてLIFT-PFF DAYが開催され18チームが1分間のピッチを行いました。ディープテック分野なので、どのチームも特徴的なテクノロジーをベースにしていますが、アプリケーションの分野は「SCPSCAN : 業務用空調システムの診断ソフトウェア」「FACI-FI : クリエイティブ・アニメーション・ビジネスの民主化」「hiomi : オンライン上の危険から幼い子供たちを守る」と様々でした。
こうした多様性がありながらも、どのピッチもとても分かり易いものでした。各チームのピッチは以下から見られます。
https://www.gripliftoff2020.sg/teams/index.html
ピッチの構成に統一感があるのは、勿論ですが、動画としても作り込まれていて、構成とストーリーテリングの両面で完成度が高いものでした。
当日は全チームがオンラインでのライブの1分ピッチを行ったのですが、その運営自体は動画の完成度と比べるとラフな印象で、音声が出ないといったトラブルも交えつつ、良い意味でライブ感を楽しめるものでした。
私自身の体験としてはこんな感じです。
- ティーザー広告としての1分間ピッチでライブ感とプレゼンターの人柄を感じる。
- そこから興味のあるチームの各ブースへ行くと、完成度の高い動画に出会う。
- 動画を再生するとチャットが自動で立ち上がり、軽い挨拶からコミュニケーションを促される。
- カジュアルな会話から、オンライン面談の予約となる。
- 予約時間に改めて(ここで本当の意味での初対面)となり、既に前提も共有されている中で、改めてプレゼンターや共同創業メンバーの人柄を感じながら、少し突っ込んだ話をし、コンタクト情報を交換し、次のアクションを決める。
この一連の体験は、広い会場を足を棒にして周り、説明を聞こうと思ってブースに立ち寄ると説明員が不在で、代理の人の説明は不十分で・・・という展示会あるあるに比べると非常に心地良いものでした。
改めて心地良さの理由を考えると以下の3つが思い当たります。
- 完成度の高い動画&ブース(webサイト)
- 相手の人柄を感じられるライブでのピッチ
- 周りに気を使わないクローズドな空間での面談(VIPの面談室?)
これまでの展示会は、ある意味、イベントとしての意味合いが強く、ともすると出展している側のお祭りであったような気がします。
毎年参加し続ける事で業界でのポジションを示すという目的もありますし、真剣な商談に繋げるべく努力はしているのですが、それ以上に、会場の設置やロジ周りに多大な労力を割いていたのではないでしょうか。そして、その割に、完成度の高いメッセージを伝える事も、名刺交換だけでない関係性を築く事も出来ていなかったのでは。
コロナ禍で、これまでとは違うやり方を強いられていますが、それによって初めて、これまでのやり方の非合理と、試していなかったやり方の良さに気付けました。これはまさに不幸中の幸いです。
ニューノーマルというと新しい何かに置き換わるようですが、実際はこれまでとこれからのハイブリッド化が進んで行くことが多そうです。リモートワーク で対面のありがたみ、対面でしか出来ないことが浮き彫りになった様に、会場の熱気を味わえる現地での展示会とオンラインでのスマートな展示会が入り混じった姿が数年後には当たり前の姿になっているでしょう。